ひとつ解決すると、またひとつ。終わらない課題との戦い
SUBARU BRZ GT300が参戦する「2026年スーパーGT第5戦鈴鹿300kmレース」が、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットで行われた。
結果から言えば、今回もBRZ GT300にとって厳しいレースになった。
ただ、少し不思議なのだ。
予選は3番手。速さはある。しかも、これまでの苦戦を考えれば、鈴鹿での3番手は「ようやく出口が見えてきたか」と思わせるには十分な結果だったからだ。実際、前日の予選ではトップ3に入り、復調の気配を感じさせていた。

ところが、決勝になると話が変わる。速いことはわかっている。でも、速さをレースの結果につなげるところで、どうしても歯車が噛み合わない。
なんとももどかしい。
たとえるなら、速く走るための材料はそろっているのに、いざレースになるとクルマが「今日はそういう走り方はできない」と言ってくるようなものだ。今季のBRZ GT300は、まさにそんな状況に見える。

今季から搭載されたのは、従来のEJ20型に代わる水平対向6気筒のEG33型ツインターボエンジンだ。新しいエンジンによって、これまでの状況を一変させることが期待され、シェイクダウンテストでもチームからは手応えが伝えられていた。しかし、フタを開けてみると、そこには新しい課題が待っていた。
当初はエンジン本体や補器類のトラブルがあり、開発車両が1台しかなく、十分なテスト走行もできないまま実戦投入するという厳しいスタートだった。想定外の故障にも悩まされた。それでも、そこはひとつずつ潰してきた。
現在ではハードパーツ系の課題はほぼ解決し、ノートラブルでレースに臨めるところまで来ている。ところが、故障が減ったと思ったら、今度は別の課題が顔を出した。レーシングカーとしての熟成と、タイヤとのバランスだ。まるで「ひとつクリアしたら、次の問題が自動的に出てくるゲームのようだ。

得意なはずの鈴鹿で、BRZ GT300が迷い始めた
第2戦では山内英輝がポールポジションを獲得。しかもコースレコードを記録し、自身が持つポールポジション獲得回数を17回に伸ばした。速さについては、疑いようがない。ところが決勝になると、タイヤバーストや駆動系のトラブルが発生し、チェッカーを受けることができない。
第4戦では大きくBoPが変更され、「予選の速さ」を犠牲にしてでも「決勝で勝つ」ことを目標にチーム一丸となって戦った。すると今度は、タイヤバースト。まるで「速さを取れば決勝が苦しく、決勝を見据えれば予選が苦しくなる」という、妙に意地の悪い二択を迫られているようだった。

そして迎えた第5戦の鈴鹿。ここはBRZ GT300が得意とする中高速コーナーが連続し、リズミカルに走れるレイアウトだ。コーナリングマシンであるBRZ GT300にとっては、水を得た魚……のはずだった。
ところが、今回のBRZ GT300は、水を得る前に少し魚自身が迷子になっていた。土曜日の公式練習。猛暑の中、2万人を超える観客が詰めかける鈴鹿サーキットで、BRZ GT300はセットアップを開始した。午前9時45分。ピットレーン出口のシグナルがグリーンに変わり、各マシンがコースインしていく。
BRZ GT300は、いつものように山内英輝がコクピットに収まり、まずはマシンバランスを確認する。そして、その直後だった。S字で、BRZ GT300がスピンしている。
幸い大事には至らなかった。しかし、コースイン直後のスピンは珍しい。今思えば、この一瞬のスピンこそ、今回のBRZ GT300が抱えていた問題を象徴していたのかもしれない。
山内はマシンをコースに戻し、セットアップを開始する。しかし、すぐにピットへ戻り、セット変更を進言した。「とてつもなくオーバーステアでリヤがまったくない」と。
その後もセットアップは決まらない。公式練習は赤旗中断が繰り返され、十分な走行時間も確保できなかった。各チームにとって条件は同じだ。しかし、今のBRZ GT300にとっては、たった数周の走行時間でも欲しい、そんな状況だった。

井口卓人も山内も、口をそろえて「バランスが悪い」と言う。「ピーキーだ」とも言う。井口によれば、「バランスが悪くてリズミカルに走れない」という。山内も、「エンジンが変わったことで、コーナーへのアプローチが変わったと思うのですが、これまでと何が変わったのか、それがわからない」と話す。
つまり、ドライバーがクルマの性格をつかみきれない。これでは、いくら腕のいいドライバーでも、ハンドルを切るたびにクルマの答えが変わってしまうようなものだ。それでも予選では3番手のタイムをマークした。
やはり速い。

ただ、ふたりのドライバーから晴れやかな笑顔は出てこない。3番手という結果だけを見れば喜んでいいはずなのに、本人たちはその先にある決勝の難しさを感じ取っていたのだろう。
速さが消えていくBRZ GT300

そして、その予感は現実になった。
日曜日は3万人を超える観客が集まり、酷暑の中レースは始まった。スタート直後に井口は2位の#777アストンマーティンを抜きにかかり、2コーナーからS字、逆バンクまでサイド・バイ・サイドの熱い走りを見せたが、追い抜くまでにはいかず、3位のポジションをキープした。
5周もすると井口のステアリング操作が忙しくなる。修正舵が増えてきているのだ。すると、前のアストンマーティンとの差は広がり始め、後続の#60LM corsaレクサスLC500との差はなくなる。7周目、#60に抜かれ4位にダウン。12周目#18UPGARAGE AMG GT3にも抜かれ5位。14周目#45 PONOS FERRARI 296 EVOが逆バンクで井口のテールをプッシュ。BRZ GT300はたまらずスピンを喫しコースアウト。グラベルに捕まってしまった。
いずれもS字から逆バンク付近の出来事だ。BRZ GT300がもっとも得意とする中速コーナーが連続するところがウィークポイントになっている。
井口は無線で「セクター1が全然走れない。バランスが悪い」と伝えてくる。BRZ GT300はコースオフィシャルのサポートを受けてグラベルを脱出。ピットに戻った。そしてマシンの点検とセットアップの変更を行なった。
何が足りない
セットアップが完了し、タイヤを4本交換。9ラップ遅れで井口はコースに戻る。ニュータイヤを履いたBRZ GT300のラップタイムはトップグループと同等のタイムは計測している。そして担当スティントのミニマム周回数(+6ラップ)をこなし、山内と交代する。この時の山内の心境は複雑だ。レースでの勝負権はなく、目の前にライバルは不在だ。マシンバランスの熟成か?いや、決勝レースでのマシンの熟成か?

そうした環境で走行を続ける山内のタイムは、やはりトップグループに接近するタイムは計測できている。レース終盤、大きなクラッシュが130Rで発生し、セーフティカーが先導。レースはそのまま終了し、BRZ GT300は28位でフィニッシュした。リタイヤマシンを除けば最下位だ。
速さは証明した。でも、レースをまとめる力がまだ足りない。ドライバーは「グリップがあるうちは、走れるんですが、タレ始めるとなにもできない。コースに留めるのが精一杯になる」と。
小澤正弘総監督は「「アクシデント後に変更したセットアップも、まだ、トップ集団と同等のタイムを重ねた訳ではないので、足りないものがだいぶあることはわかりました。それが何なのかを見つけ出さないと予選でいいポジションを獲得しても、ポジションを維持できないことがよく見えました」と語っている。
ちなみに同じダンロップユーザーの#60 LC500は2位を走行中、右フロントタイヤがバーストして予定外ピットインをしている。実は決勝前ウォームアップ走行でも右フロントがバーストしている。ドライバーからは「バイブレーションがでて、すぐに内圧が下がり、1ラップもしないでバーストしました」という。
タイヤに関しては、GT300規定で製造されたマシンには共通の課題がありそうだ。一方#777のGT3マシンはグリップダウンは激しい、というが予選2位から決勝4位でチェッカーを受けていた。
約1ヶ月後に宮城県村田町のスポーツランド菅生で行われる第6戦までに、SUBARU BRZ GT300は「何か」を見つけることができるのだろうか。マシンと対話ができる状況へ熟成を期待したい。
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