SUBARU BRZ GT300が覚醒した。EG33型という新しいウエポンを手にしていながら、結果に結びつかないシーズンになっていた。しかしスーパーGT2026 第6戦SUGO300kmレースで、予選2位、決勝3位の結果を残し、ついに表彰台に立つことができたのだ。
金曜日、チームはいつものようにピット設営を始め、車検にむけての整備を行なっている。台風25号の影響で日本全体が雨雲に覆われているような状況だったが、スポーツランドSUGOのある宮城県村田町は曇り空で、ときどき陽が差している。
午後のチームミーティングに向けてドライバーの二人もSUGO入りした。井口卓人、山内英輝はチームスタッフひとりひとりに声をかけ、共に戦う週末に向けて心をひとつにしていく。みんなの表情は明るい。小澤正弘総監督にこれまでの闘いぶりや結果に繋がらない状況について聞いてみた。

真逆のセットアップにトライ
「前戦の鈴鹿のレースのあと、ダンロップさんの来季のコントロールタイヤのテストがあって、GT300チームは居残りテストをやりました。我々は指定チームではなかったので、レースで使ったタイヤを履いての走行テストができたので、これまで抱えていた課題解決に向けて、セットアップの方向を変え、真逆のことをやってみることにしました」
これまでのセットアップは、ドライバーのコメントをベースに課題解決に取り組んでいた。アンダーステアが強いとか、リヤのグリップが薄いといったコメントに対しジオメトリーの変更やスプリングレートの変更、エアロデバイスの調整といったことを行なっている。言ってみれば適切な対処療法をしてきたわけだ。
小澤総監督が話すセットアップの方向性を変えてみるというのは、そうした対処法ではなく、マシンのキャラクター自体の改良のようだ。ドライバーの井口は「これまでは凄くピーキーでしたけど、鈴鹿のテストの時は素直な動きになったんですよね。だから扱いやすいという印象になりました」という。
確かに、これまでBRZ GT300は1ミリ以下、1度以下の単位でパーツのセットアップを行い、ピンポイントでハマるとコースレコードを記録する速さを見せていた。ただ、エンジンがEJ型からEG型へ、水平対向4気筒ターボから水平対向6気筒ツインターボへと変わったことで、そうしたセットアップでは一発の速さは出せても、決勝レースでいい結果に結びつかないことが続いていた。シンプルに考えれば、エンジンが変わったのだから、マシンも変えようということかもしれない。
それが小澤総監督の言う「真逆のことをやってみた」ということなのだろう。だから山内は「これまでやったことのない、セットアップで未知の領域でしたけど、それが正解だったのがわかりました」と言う。鈴鹿のテストでは扱いやすくなったことに加えて、タイムを出せることもわかったと言うのだ。さらにロングランも大丈夫という手応えを掴んだというのだ。

速いだけじゃない、マシンが素直になった
土曜日、午前中は公式練習がある。前日の雨で路面は濡れているが、スリックでも走行できる状況だ。いつものように山内がBRZ GT300に乗り込み、最初の一周はバランスをチェックする。すると、山内は機嫌良く「バランスがいい、この路面でもずっとグリップしている」と声が明るい。
持ち込みタイヤのマッチングを見るため、ニュータイヤを履いてコースに戻る。するとわずか3周で1分17秒689というタイムを刻む。SUGOのコースレコードは2019年に山内が出した1分16秒834だから、0.8秒落ちまでタイムを出せていることになる。当然、全体1位のタイムで、公式練習ではこのタイムを上回るマシンは出てこなかったのだ。
だから山内は7ラップしただけで、井口にBRZ GT300を委ねる。井口はバランスチェックをし、走行開始すると同様にマシンコンディションが良いことを伝えてくる。井口はさらにマシンのレベルアップポイントを探すために、大胆なセット変更、計測を繰り返した。「やっぱり、前のセットのほうがいいバランスだった。でもリヤを変えてみてください。そっちのほうがいいかもしれません」とチームとやりとりを繰り返し、さらなるベストマッチなバランスを探していた。その結果、セクター3では山内のタイムを上回ることもあり、予選、決勝に向けてのセットアップが煮詰まっていったのだ。
つまり、鈴鹿で試したセットアップの方向性が、このSUGOでも適応できており、マシンのキャラクターを変えてしまうドラスティックな挑戦は正解を導き出したと言えるのだ。そうなれば、あとは各サーキットの路面に合わせ、また持ち込んだタイヤのキャラクターに合わせ、双方の噛み合い具合をBRZ GT300マシンが指揮をすれば良いことになる。言い換えれば、一皮剥けた瞬間が訪れたのだ。

予選2位は喜べないーー山内英輝の表情が物語っていた
午後の予選は気温24度、路面温度26度、コンディションはドライ。曇り空の中、井口がQ1予選を走る。すると、公式練習でトップタイムだった山内のタイムを上回る1分17秒325をマーク。トップにたった。仕上がりの良さをみせたものの、B組予選とあわせると全体4位となった。
Q2の山内は当然、コースレコードを狙ってくるだろう。山内は慎重にタイヤをあたためアタックのタイミングを待つ。3周目ヘッドライトが点灯されアタックの体制に入ったのが分かった。が、前走車が近くアタックを中断。減速してクリアを作る。コースが短いSUGOでクリアを作るのが難しい。ピットアウトのタイミングも中団グループにいたため、なおさら混雑した状況だったのだ。
仕切り直しのタイムアタックで、山内は1分17秒063をマークしトップに立った。コースレコードにはわずかに届かないものの、予選1位だ。だが、予選終了間際に同じダンロップユーザーの60号車にタイムを更新され、予選2位となった。
ピットに戻った山内の顔からは血の気が引け顔面蒼白。怒りを堪えている表情だ。「クリアがうまくとれなかった?」と声をかけると「クリアは関係ありません」とだけ言い、トランスポーターへ引き上げていった。
山内にとっては、予選2位は失敗だったのだ。2位なのに、誰も笑っていない。レースの現場では、順位だけでは測れない「2位」がある。これがレースでもある。その事実を受け入れるのに少し時間が必要だった。

そして決勝 BRZ GT300はトップを走った

翌日の決勝レース。ウォームアップの段階はレインタイヤを履くほど路面は濡れていた。雨は降っていないが、どんより曇った空は路面を乾かさない。あと1時間後にはスタートとなるが、タイヤ選択はどうなる?悩ましい状況だった。
しかし、時間の経過とともにドライアップしていき、グリッドに整列したときには全車がスリックを装着していた。スタートは井口が担当し、難しい路面コンディションで我慢しながらの走行になる。ただその状況は全車イコールだから、序盤はミスを犯さず我慢をする走りになる。
したがって、レースはSC先導でのスタートとなった。井口はトップ60号車についていきながら我慢もする状況。だが、振り向けば3位以下に8秒ほどのリードが築かれている。どうやらトップの2台だけが速いようだ。
25周目クラッシュが発生しFCYとなる。その後SCとなり、後続とのリードは消えた。またトップ60号車には徐々に引き離されていたため、10秒ほどのギャップもあったが、このSCで精算することができた。
オフィシャルによる並べ替えを行い、再スタートになる。すると井口は1秒以内にトップを捉え続けて走行する。36周目に60号車がピットイン。井口はトップにたった。井口はそのままトップを維持し、ギャップを広げるべくタイムを上げる。

そして40周目に山内と交代するため、ピットに戻る。代わった山内は実質4番手でコースに戻り、トップを追走する。気づくとトップは56号車だ。ヨコハマタイヤを履くGT-R GT3の56号車は、なんとタイヤ無交換作戦をとっており、素早いピットワークでトップに浮上していた。2番手に60号車、3位87号車のランボルギーニ、そして山内という順。
山内はすぐさま87号車のランボルギーニGT3を交わして3位に浮上し、2台を追走する。しかし2位の60号車との差は縮まらず、5秒〜8秒の差は大きく変わらない。終盤、トップの56号車がGT500と軽く接触し、コースオフ。そのタイミングで60号車がトップに立ち、山内のターゲットは56号車に代わった。ギャップは4秒弱。最後まで山内は攻め続けたが届かず3位チェッカーとなった。
山内はゴール直後に無線で「みんなゴメン、届かなかった。でもあるよ、絶対やるよ」と。
まだ折り返したばかり、残り3戦。大どんでん返しの26シーズンになるのか。
「あるよ、絶対やるよ」
SUGOはプロローグだったのかもしれない。
みんなが勇気をもらった言葉だった。
一台のレーシングカーが迷い、答えをみつけ、再び走り始めたインサイドストーリー。

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