スズキは2026年9月25日、「技術戦略説明会2026」を開催した。2024年の初開催以来3回目となる技術戦略説明会で、鈴木俊宏社長、技術統括を務める加藤勝弘副社長がそれぞれ登壇。10年先を見据えた技術戦略と、それを裏付ける具体的な技術が発表された。

スズキは2024年に10年ぶりに開催した技術戦略説明会で「エネルギー極少化」という技術哲学と、5本柱からなる「マルチパスウェイ」構想を打ち出した。2025年にはコーポレートスローガン「By Your Side」のもと、「エネルギー極少化」と「本質価値極大化」を掛け合わせた技術群を「Right×Light Mobile Tech」と命名。そして今回、技術戦略でより具体的な数値目標と技術の全体像を提示した。

鈴木社長は冒頭、マルチパスウェイの狙いを「地域が変わった時に、すぐに最適なものを出せる備えである」と説明。実際にスズキは、EV・ハイブリッド・ICE/CNG/FFVを地域の発電構成やインフラ事情に応じて使い分けており、日本・インドを含むマルチ・スズキ体制で「技術は共通に、商品は地域最適に」という方針を貫いている。
インド生産、2030年度に年間400万台体制へ
地域最適戦略の要となるのが、グルガオン(1983年から)、マネサール(2007年から)、ハンサルプール(2017年から)、そして2025年2月に稼働を開始したばかりのカルコダを加えた4拠点によるインド生産網だ。スズキはこの体制をさらに強化し、2030年度以降に年間約400万台の生産能力を目指すとしている。
インドでの取り組みは車両製造だけではなく、牛糞を原料とするバイオガス(CBG)事業では、この1年でブカラ、アグサラ、ビンチバディの3プラントが相次いで稼働を開始。このバイオガス事業は既存のCNG車・CNGインフラをそのまま活用できる点が強みで、2026年7月には日印両政府が「日印CBGイニシアティブ」の立ち上げに合意し、インド全土での1000基導入という国家規模の構想にまで発展している。牛糞から燃料と有機肥料を同時に生み出すこの仕組みは、インドにおける資源循環と経済を同時に支える事業モデルとして注目されている。
開発期間を半減し、生産効率を50%向上
今回スズキが、2030年に向けた開発・生産改革の数値目標として、開発期間を半減し、生産効率を50%向上させることを明らかにした。2020年度比で新型車の開発期間を半分(24ヶ月)に短縮し、開発効率を30%向上。さらにインド・マネサール工場比で生産効率を50%向上させるとしている。

これは、現在では世界標準となりつつある中国の自動車メーカーの開発スピードの早さ、生産効率の高さを念頭に置いたものだ。
鍵となるのは、企画・設計・生産・品質・調達が従来の工程の壁を越えて同時に動き出す「同時進行・並行開発」への転換だ。長年蓄積してきた設計基準や実車評価のノウハウをデジタル空間で活用・深化させることで開発効率を高め、部品の共用モジュールの拡大によって開発から生産までを一体で最適化する。鈴木社長はこれを「単なる効率改善やコスト削減の話ではない」と位置づけ、マルチパスウェイを支える経営基盤強化の核心と説明している。
ただし、この目標はスズキ単独で実現するのは難しく、サプライヤー、サプライチェーン全体で取り組む必要があるのはいうまでもない。
「小・少・軽・短・美」の具体像
加藤勝弘副社長は、Right × Light Mobile Techを構成する個別技術を、創業以来の設計思想「小・少・軽・短・美」に沿って解説した。
EV、ハイブリッドの心臓部となる電池システムについて、スズキは電池パック・熱マネジメント・充放電制御といった中核技術を自社開発・共通化する一方、電池セル自体は日本・インド・ヨーロッパなど地域や用途に応じて最適な調達先から選択する二層構造を採用する。
スズキの思想を象徴しているのがまもなく市場投入される軽EV「e SKY」だ。国内軽EV最小となる電費97Wh/km、車両重量1030kg、急速充電なら50km分の充電がわずか5分、一充電走行距離310kmという性能を掲げている。
この航続距離310kmという数値は、開発初期の試算値は230km程度にとどまっていたが、「内燃エンジン車の軽自動車ユーザーが安心して乗り換えられるのか」という問いから、「1アイテムで1km延ばす×100個」を合言葉に、タイヤ転がり抵抗とサスペンション特性の両立、LED数を減らしつつ見え方を変えない工夫、小型モーターのギヤ比最適化など、部門を越えた小さな改善の積み重ねで80kmもの航続距離の上乗せに成功したという。加藤氏はこれを「一つの画期的な技術ではなく、知恵と工夫の積み重ね」と表現し、チームスズキの開発プロセスそのものが強みだと強調した。

パワートレインのユニット構成では、e SKYに搭載する自社開発の3-in-1のe-アクスルを起点に、次世代の軽・Aセグメント向けを同サイズで6-in-1へと進化させることにしている。B・Cセグメント向けはAセグメント用との比較で体積増をわずか約10%に抑え、大小2仕様で軽自動車からDセグメントまでをカバーする計画だ。4WDシステム「e 4WD」もEV、ハイブリッド共用として開発し、基本設計・部品・生産設備を共通化することで新規投資を抑制する。あわせて地政学リスクの低減と将来のリサイクル性向上を見据え、モーターのレアアース・フリー化にも着手している。
次世代ハイブリッドは、軽自動車向けに従来の12Vより高効率な48V・P2(トランスミッション側面配置)方式の新型ハイブリッドを採用し、エンジン車比でCO2を15%低減させる。小型車向けには発電専用エンジン+モーター駆動のシリーズハイブリッドをベースに外部充電機能を追加し、過大な電池を積まずに残量を気にせず走れる「レンジエクステンダー・ライト」への進化も計画している。
エンジン熱効率50%への挑戦
ハイブリッド用を前提とした発電専用エンジンは、最新エンジン「Z12E型」の技術をベースに、現状40%の熱効率領域をさらに拡大し、最終的に熱効率50%という高い目標を掲げている。冷却損失、排気損失、機械損失、ポンピング損失という4つの損失要因を一つずつ地道に削減するアプローチで、高EGR、希薄燃焼、高圧縮比化、高速燃焼、廃熱回収、超低粘度オイルなど低摩擦化、ミラーサイクルなどの技術を積み上げることにしている。インドなど成長市場向けには、高効率と力強い走りを両立する次世代直噴ターボエンジン「DITC」の開発も並行して進めるとしている。

インド市場では販売の約4割をCNG車が占める実情を踏まえ、新型「ビクトリス」ではCNGボンベを荷室から床下へ移設して100Lの荷室容量の拡大を行ない、同時に従来約60kgだった鉄製ボンベを約20kgの樹脂製とすることで、約40kgの軽量化を実現している。

また現在のガソリン/CNGというバイフューエルからCNG単独走行のモノフューエル化も検討しているという。年間1万km走行あたりガソリン車比でCO2を155kg、燃料代を約2万7000円(約40%)削減できる計算だ。
軽量化
安全要求が年々厳しくなる中、車体を単純に強化すれば重量とコストが増すという従来のトレードオフに対し、スズキは2輪・4輪・船外機の部門を横断した知見の結集で「衝突エネルギーのコントロール」という発想を追求。エンジンを前方配置するなど車両全体のレイアウトを最適化し、乗員との間に十分な変形スペースを確保する「衝突ストロークの最適化」によって、安全基準を満たしながら2030年に向けて100kg(将来的には最大120kg)の軽量化を見込んでいる。

強度が必要な部位には、通常鋼板(270MPa)の5倍以上となる1470MPaの超高張力鋼板を採用し、板厚を薄くしても高い強度を確保するとしている。さらにボルト1本単位でも見直し、M8ボルトの頭部縮小技術を採用し、1本あたり約1gの軽量化を実現している。1台に2000本以上のボルトを使用する自動車にとって、この1gの積み重ねが車両重量、ひいては鉄・アルミ・樹脂・電池材料といった資源使用量そのものの削減に直結するという。
運転支援システムを標準装備化
インドでは2024年に17万7千人が交通事故で死亡しており、人口当たりの死亡率は日本の約6倍。インドで最大シェア(40.6%)を持つスズキは、先進運転支援システム(ADAS)を普及価格帯を含む全車へ標準装備する方針を掲げた。

コスト面での実現手段として、高解像度カメラとAIチップによる段階的統合を進め、フロントレーダーの削除やDMS/OMSカメラのADASシステムへの統合によって、標準レベル以上の安全性能を維持しながら大幅なコスト削減を図る。さらにソフトウェア・ディファインド・ビークル化を視野に入れた次世代電子プラットフォームでは、通信・電源分配・ボディ制御の機能を「Central Zone ECU(CZU)」に統合し、世界最小・最軽量・最廉価クラスを標榜、コストを約30%、重量を約15%低減する計画としている。衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱抑制は標準装備、アダプティブクルーズコントロール(ACC)やレーンキープアシスト(LKA)などはオプション設定する方針だ。
コスト低減、資源循環
内装材料面では、従来異素材の組み合わせだったフロアマットをすべてポリエステルで統一する「Allポリエステル」化を実施し、原材料製造に係るCO2排出量を約70%削減。生産工程で出る端材の再利用や、将来的な水平リサイクルも視野に入れている。
また、軽トラック「スーパーキャリイ」をベースにした移動式CO2回収システム「CARBON CAPTURE CARRY」は、走行中に車両から排出されるCO2を車載装置で回収し、近隣のビニールハウスでの農作物育成(CO2施用)に活用する構想だ。
1日20km走行した場合、排出される約2kgのCO2のうち約1kgを回収できるという。カーボンニュートラル燃料と組み合わせれば、排出量を回収量が上回る「カーボンネガティブ」の実現も視野に入るという。灯油消費削減による農家の経済メリットと環境貢献を同時に狙う、モビリティと農業を接続するユニークなアプローチだ。
今回の技術戦略では、資源とエネルギーを極限まで効率よく使い切るという、スズキの基本コンセプトを守りながら、新たに開発期間半減・開発効率30%向上・生産効率50%向上という究極の低コスト化という新たな目標を掲げていることが注目される。













