トヨタの「いいクルマとは何か?」

雑誌に載らない話vol181

マイナーチェンジしたVitzのスポーツ・パッケージ
マイナーチェンジしたVitzのスポーツ・パッケージ

■トヨタの「いいクルマとは何か?」

先日、ヴィッツののマイナーチェンジがあり、試乗してきました。メインはハイブリッドモデルの追加です。アクアに搭載するシステムをヴィッツにも載せたユーザー&ディーラー垂涎のモデルが誕生したわけです。

セールスマンの多くが、「ヴィッツにハイブリッドが欲しい」と。そりゃあそうですよね。ライバルとされるフィットはハイブリッドをもっているわけですから。ところが、トヨタにとってフィットのリコール旋風は、ごっそりとユーザーを持っていかれるようなことはなかったみたいです。

ここにきてノートe-POWERがバカ売れのようで、日本人のハイブリッド好きを痛感します。デミオはディーゼルで頑張っていて、マツダは独自路線。スズキは先週お伝えしたように、マイルドハイブリッドとダウンサイジングターボという路線で、どちらかというと楽しさを訴求したようなラインアップでした。

▼スイフトの試乗レポートはこちらです。
https://autoprove.net/suzuki/swift/40698/

「トヨタ車がいい」というユーザーにとって、ハイブリッドを選ぶとしたら、プリウスでは値段が高いし、ボディも少し大きい。残るはアクアが孤軍奮闘という状況でした。が、これらのライバル車出現で一気にヴィッツの影が薄くなってました。

■アクアとは違うのか?
搭載したユニットは基本アクアと同じですが、「いいクルマつくろう」のスローガンで進めているTNGA戦略の元、搭載できる技術は順次搭載するというやり方のようで、エンジン本体のヘッドが変更されました。高ターンブル流を発生する燃焼室としていて、それに伴い、ピストンの抵抗を減らす処理をしたものに変更しています。

その結果ハイブリッドユニット自体も適正化する必要があり、制御変更が行なわれましたが、エンジンの燃焼スピードを速めたための適正化という意味合いの変更です。車両重量もアクアとは違うので単純に燃費比較はできませんが、34.4km/Lという素晴らしい燃費を達成しています。

■ハンドリングが・・・
面白いのはスポーティバージョンというモデルが新設定されたことですね。ヴィッツにはかつてRSというモデルがあったのですが、今回ハイブリッドで復活です。「ハイブリッドでもスポーティに走りたい」という人にパッケージとして用意されました。

ざっと、仕様をチェックすると、タイヤサイズが195/50-16サイズで、標準モデルより引き締めたダンパーを装着しています。さらにステアリングギヤ比もノーマルよりもクイックにしていて、それにともなってEPSもチューニングしています。

さて、こう聞くとそこそこの乗り心地と走りを期待するのですが、それがかなりクイックな仕様でびっくり。

標準ヴィッツと比較して、直進の座りがはっきりとしていて良いのですが、そこからハンドルを切り始めると、ノーズがひゅ~んと切ったほうの内側へ向かって切れる。「およよ」と思わずつぶやく。

つまり切った舵角以上に切れる印象。60km/hくらいまでの速度域であれば、その機敏?なハンドリングという理解もできます。が、もっと高い速度域ではクルマが動きすぎて疲れちゃいますね。だからクルマが動きすぎないないように、常に神経をとがらせておくイメージです。

ダンパーは微低速から中速域にかけてよく動いていて、減衰がしっかりできているのですが、タイヤが太いので少し残念な乗り味になってます。ガチガチに硬いアシということではないので、気になるほどでもないのですが、標準モデルのサスペンションがかなりいいセンだけに、このスポーティモデルはもっとよくならないか?というちょっと残念な気分でした。

■いいクルマって何だろう
とどのつまり、何を言いたのか?というと、われわれクルマ好きにとっていいクルマとは走り、乗り心地、見た目、インテリア、エクステリア、オーバーオールな質感、サウンドなどが、自分の五感を刺激するか?というのがポイントだと思うのですよ。

ヴィッツは大衆量販モデルですから、質感や高級感に過度の期待をするのはばかげていますが、クラスを超えるものがあれば素晴らしいです。当然比較する対象はBセグメントのライバル。冒頭のモデルですよね。フィット、デミオ、スイフト、ノート・・・。

一方グローバルで見れば、「ヤリス」とう別名も持っていますから、ルノークリオ(ルーテシア)やプジョー208、フォードフィエスタがライバルで、韓国車がガチ対決というポジションです。

さて、これらの欧州モデルと比較すれば、はっきり言って追いついてません。国産と比較してもスイフトやデミオに軍配があがるでしょう。もちろんモデルライフの違いがあるので、ヴィッツは不利なのでそこを考慮しなければいけませんが、でもディーラーでは同時に販売しているモデルですから、それほど言い訳にもなりません。

したがって飛び道具的なハイブリッドが待ち望まれていたわけです。さきほどチラッと書きましたが、標準モデルのハイブリッドはかなりいい出来栄えです。こちらはライバルたちと勝負できるし、エコというアドバンテージがあるでしょう。ただ、こちらも欧州車には残念ながら追いついていないですね。

で、スポーティモデルの話に戻りますが、いいクルマって何?となると、前述の五感に響くものがあること。ヴィッツのスポーティパッケージのハンドリングは過敏で、違った意味です。

かつて「いいクルマの定義」が人間の自然な感じとリンクすることではなく、思った以上に変化する変化率の大きいものがいいクルマとされていたわけです。

結論としてヴィッツには、この定義が残っています。微小舵の時に動く量と、大舵角になった時に動く量に違いがあり、奥へ行けば行くほど切れて行きます。これはリヤのスタビリティがなければスピンします。ESCがあるので、実際はスピンしませんけど。

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こうした味付けは制御エンジニアとテストドライバーとの調整で仕上がるのですが、走りに拘ったC-HRも同様の味付けです。こうした結果をみると「今の」いいクルマの定義とは異なっているわけです。

というわけで、トヨタは「いいクルマつくろう」のスローガンはとてもいいですけど、本当なのか?造れるのか?クエスチョンマークがつきます。

究極は「エンジニアがどんなクルマを造りたいのか?」ということがはっきりしていないということで、言われたからやるという対処療法的「いいクルマ」をぶち上げていると感じるのです。

各社の雪上試乗会ウラ事情 え?ホント!

■拘り続けるスバルのAWD

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スバルの雪上試乗会があり、参加しました。昨年(2016年)にも同様の試乗会があり、出席したのですが、今回はどんな新しい体験があるのか?を楽しみにして参加してきました。

会場は前回と同様の北海道の新千歳モーターランド。夏場はダートラやモトクロス場として利用されているところで、そこが雪上となり、当然凸凹も大きくアップダウンも激しいコース。

そしてテスト車両は、オールライン揃えた試乗で、それぞれのAWDシステムの違いによるハンドリングや走破性の違いを体験する狙いがあるものでした。ということで、自分センサーを働かせて体験です。

スバルのAWDには、ビスカスLSD付きセンターデフ方式やACT4、DCCD、VTDなど4種類のAWDがあります。基本センターデフを持った機械式のAWDというのがスバルの特徴ですね。これらの違いを体験しようということでしたが、結論から言いますと、「その違いは分からない」でした。

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なぜ違いが分からないか?という要因の一つが、コース設定ですね。

モトクロスでも使うようなオフロードコースであり、乗用車ベースのモデルにはタフなわけです。逆に言えば、こんなタフな場所でもスバルのAWDは走破できるという言い方もでき、自慢にもなります。ですから、スバルのAWDの走破力はレベルの高いものでした。

仮にこれらのAWDのシステムの違いや制御の違いを体験するのであれば、滑りやすい雪面や氷盤路などで、日常域でのテストが良かったのではないか?と思います。このコースはまさに競技をやっているような試乗で、スバルの方も「楽しんじゃってください」と言っているので、性能評価する体験イベントというポジションではなかったのかもしれませんね。

また、唯一の新作として、WRX STIモデル用のDCCDの制御変更が行なわれてました。ハード部品ではデフ内のトルクカムを除去したということです。このDCCDというAWDのシステムはWRX専用のシステムで、他のスバルモデルには装着されていません。つまり、普通のスバル車とは違う、特別なAWDのプロトタイプモデルだったということですね。

こんな内容の試乗会ですが、AutoProveも記事にしていますが、ここまで読まれると分かるように、性能評価は不可能なイベントなわけです。それは出席しているエンジニア自らが「制御の違いまでは分かりませんね。存分に楽しんでください」といっているんです。なんか言い訳っぽい。
▼その試乗レポートはこちらです。
https://autoprove.net/subaru/sti/40343/

■プレゼン上手なマツダの雪上試乗

12月にマツダが同様に雪上試乗会をやりました。
▼その時の記事はこちらです。
https://autoprove.net/mazda/cx-3/39257/

マツダは新型CX-5とGVCの体験、そしてマツダが拘るAWDの考え方などのレクチャー&体験というプログラムで、分かりやすかったですね。

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GVCはこれだけμ(ミュー)の小さい路面でもその効果を感じないジャーナリストがいて、少しがっかりしました。なので、前回「GVCを感じるコツ」というメルマガを発行しました。ここは自分センサーが鈍感だと、どうにもなりません。評価する仕事は不向きですね、きっと。

マツダはプレゼンテーションが上手で、一般人への説明のような技術解説もジャーナリスト向けに行ないます。そのため、「馬鹿にしてるのか?」と憤るベテランもおりますが、GVCを感じられないジャーナリストも複数いますので、メーカーサイドからすれば、丁寧に教えたくなるわけですよ。

ーーマツダのテクニック
マツダは人間にしかできない微妙な操作を、人は無意識のうちに行なっている、ということをよく研究しています。だから、この日、試乗コースで長靴に履き替えて運転することや、アクセルペダルが非常に軽い操作で動くタイプのクルマに試乗したりして、そうした感覚のズレがおこることでクルマが運転しにくくなることを体験させるプログラムもありました。

これを体験すれば、マツダがいかに配慮をし、細かなチューニングをやってきているか?ということが刷り込まれ、ジャーナリストは洗脳されていきます。Webの記事をみても「マツダのAWDは世界一だ」というような見出しの記事も見かけました。

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こんな簡易スパイクを履いた靴でも運転してみる

AWDシステムはサプライヤーが開発したオンデマンド式を採用していて、それをマツダがチューニングしているというもので、日産、スズキ、三菱なども同様のシステムは採用しています。が、「世界一」と書いてしまうジャーナリストもいるのです。悲しいですね。

しかしながら、マツダのAWDの性能がもちろん悪いわけではありません。生活四駆とバカにする人もいますが、そこは逆に勉強不足だと思ってください。かなりのレベルで走破力と安定性はありますから。

それにしてもジャーナリストにそこまで言わせてしまうマツダのプレゼンテーション力って凄くないですか?

■日産の氷上、雪上試乗

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日産もやりました。こちらは女神湖が舞台で、氷上です。白樺湖周辺の一般道(圧雪路)もあったので、十分性能が堪能できました。

メインはセレナのオンデマンド式AWDとリーフ、ノートe-POWERの雪上試乗です。セレナはマツダと同様のJTEKT(ジェイテクト)のオンデマンド式で、マツダ同様、かなり安定方向の制御で、一般道の雪道ではほとんど滑りません。滑りを感じる前にトルク配分を変えて安定方向で動きを改善していました。

セレナというクルマの性格上、非常に正しい方向の制御だと感じましたね。

一方リーフとノートe-POWERはモーター駆動がポイントでした。トルクの立ち上がりがいいので雪上や氷上などμの低いところでは俄然威力を発揮していました。これは内燃機関ではできない走りだと思います。

■ジャガーランドローバー雪上試乗会

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プレミアムモデルの雪上試乗会が長野県のタングラム斑尾スキー場で行なわれました。ここは一般道も雪上です。また特設会場はモーグルなども作られています。会場は夏場は「テニスコート」と書いてあります。地面はフラットですね。そこに積もった雪を造成して特設コースを造ったようです。

もっとも、この試乗会のために作成したのではなく、モータースポーツクラブの看板がでていたので、例年、冬場はそうした使い方をしている場所なのかもしれません。

さて、試乗車はF-PACE、イヴォークコンバーチブル、レンジローバー、レンジローバースポーツ、ディスカバリースポーツが試乗車でありました。

ランドローバーは言わずと知れたオフロードのロールスロイスですから、その走りはイメージしやすいです。

試乗したレンジローバーは1800万円の価格。モーグルコースを走り、エアサスを一番上にまでアップして、コースを試走します。タイヤはなんと、ウインタータイヤでスタッドレスではありません。ピレリブランドのウインターで、チェーン規制はNGなモデル。

しかし、氷路面でないかぎり、問題なく走ります。媒体としては、冬は冬用タイヤ、夏は夏用タイヤを履きましょうと推奨しています。そうした意味でも、このウインタータイヤなかなか使えます。

試乗会後、ディスカバリースポーツをかりてヨコハマまでほぼ一般道を走ってきました。途中、雪が降っている状態が続き、ルート上多くの場所が積雪状態でした。それでもこのタイヤは問題なく走ります。スタッドレスよりはグリップ力が落ちますが、走行不能になるようなことはありませんでした。もちろん、峠越えも数か所越えました。佐久から須玉に抜ける八ヶ岳周辺や甲府から精進湖へ抜ける峠、そして山中湖から大御神村へ抜ける明神峠という狭い山道も走破しました。

この後の予定はタイヤメーカーのスタッドレス試乗会やあとレクサスも試乗会をやるようです。こうした雪上試乗は冬の限定的なタイミングでしか試乗できないので、集中して行なわれます。どうしてもわれわれは拠点が東京、横浜などで、雪対策不要エリアなので、雪国の人に向けた情報が発信できていませんが、このメルマガから裏事情がわかるのではないか?と思います。

COTY
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