マニアック評価vol404
現行ポロシリーズは2014年8月から販売が始まって「ポロGTI」は2015年2月に導入されている。しかしこのときの導入は7速DSGだけで、6速MTの導入はやや遅れて2015年の6月に受注が開始。9月から配車というタイミングでほぼ1年がかりでMT導入までこぎつけたことになる。マニアにはよく知られているが、意外と見落としがちなのがポロGTIのDSGとMTではエンジンのチューニングが異なっていること、そして出力にも差があることだ。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
ちょっと振り返ってみると、「Polo GTI」は先代の1.4LTSIエンジンから1.8LのTSIエンジンに換装されている。「GTI」という名称はそもそも一クラス上のゴルフのスポーツモデルに与えられた起源を持つが、ポロには1998年からラインアップに加わっている。フォルクスワーゲンのクルマは大衆・量販を使命としたクルマ造りのメーカーで、標準車は誰でも運転しやすく、省燃費で使いやすい役割を持っている。しかし、その標準車をスポーティにしたモデルにこのGTIの名称が付けられ、ゴルフ、ポロにそのモデルがある。(一時ルポにもGTIはあった)
そのスポーツモデルのポロGTIの先代は1.4Lガソリンエンジンにターボ+スーパーチャージャーの組み合わせで、180ps/250Nmだったが、今回のモデルから1.8Lに排気量がアップ。過給方式は小型タービンを使ったシングルターボで、192ps/250Nmへと出力がアップしている。これに7速DSGが組み合わされ最大トルクは2000rpmから1250rpmへと引き下げられ、低速から高速まで快適に走れるモデルへとなっている。
さて、今回試乗したポロGTIの6速MTだが、3軸構造のMTということなので、DSGと同じミッションをマニュアル化したものというのが分かる。ただし7速ではシフトパターンを考慮すると6速のほうがベターであり、そして1枚ギヤが少ない分、エンジンチューンが行なわれ、トルクの谷ができない仕上がりになっているわけだ。
具体的に馬力はDSG、MTともに192psだが最大トルクはDSGの250Nmに対し320Nmまで上げられている。そしてピークパワーのレンジもDSGより1100rpm低い4300rpmから6200rpmまでと幅広くなっている。ちなみにゴルフGTIのDSGとMTではエンジンチューンの違いはなく、同じスペックだ。
サスペンションはどちらのモデルにも共通で、「Sport Select」シャシーが標準装備されている。スイッチを押すたびにダンピング特性を「スポーツ」と「ノーマル」に切り替えることができる。
ポロのボディサイズは全長3995㎜×全幅1685㎜×全高1445㎜、ホイールベースは2470㎜でBセグメントというポジションになる。このセグメントのトップモデル、ベンチマークとされるのがこのポロシリーズであり、そのスポーツモデルのライバルはルノー・ルーテシアRS系、プジョー208GTiやフォード・フィエスタST-1(国内未導入)あたりになる。
価格ではポロGTIの7速DSGが334万2000円、6速MTが327万5000円で、ルーテシア・トロフィー6速EDCが329万5000円、プジョー208GTi6速MTが322万円(各社税込み価格)と各社価格面でも競争の激しいカテゴリーになっている。
◆インプレッション
試乗のステージは箱根のワインディング。GTIの伝統的インテリアであるタータンチェックのシートとブラックに統一されたインテリアの運転席に座る。右ハンドルのポロはペダルポジションも特に違和感はない。またこだわりのマニュアルミッションだけにヒール&トゥもしやすいようにペダル高、A、Bペダルの距離が設定されている。シフトレバーのブーツや太目のフラットボトムデザインのステアリングには赤いステッチが印象的に配され、GTIらしさの雰囲気がある。
走り出すとクラッチペダルは軽く、またステアリングも意外と軽い。日常的に買い物に使おうとしても何も問題ない。シフトポジションもわかりやすく、また半クラッチの位置もつかみやすいので操作が楽だ。マニュアルミッションは苦手と言う人に共通する坂道発進では、自動でサイドブレーキが稼働しているので、クラッチミートが遅れてもクルマがバックしてしまう心配はない。
走り出してすぐに感じるのはドイツ車らしい剛性感の高い、包まれているような安心感だ。しっかりしたボディは万が一を想像したときでも、「大丈夫だろう」という想像が自然と働く。このフィールは何で感じるのか?さまざまな要因があるが、そのひとつにステアリングの剛性感だと思う。それは取り付け剛性や操舵感といったものだ。無駄な外乱や横力のインフォメーションを削除し、必要な情報だけをドライバーに伝えていると感じるハンドルに秘密がありそうだ。さらに、ボディ全体の振動の収束なども剛性感を感じる要因だと思う。
エンジンは軽く、吹け上がりも気持ちよくレッドゾーンまで一気に回る。1250rpmで最大トルクを発揮するので、アクセルをわずかに開けただけで滑らかな加速を始めるし、ギヤ選択を間違えたとしてもギクシャクする場面はほぼない。高回転側ではスロットルレスポンスとブレーキタッチ、ステアリング操舵の回頭性などすべてが一体感のある走りを体感でき、スポーツドライブの本質が体に染み込んでくる。ある種の快感のひとつだ。さらに6段のギヤのつながりが素晴らしく良く、低速域でも高回転域でもトルクバンドを外さないつながりの良さはたまらなく気持ちいい。
試乗車の装着タイヤはブリヂストンのポテンザS001でサイズは215/40R17。とても40扁平のタイヤとは思えない乗り心地の良さで、日常使いに全く不満はない。モードの切り替えでダンパーの減衰力が変化するが、スポーツモードをチョイスしても硬いとは感じない。角のない丸みを帯びた入力で引き締まった印象へと変わるだけで、安物感も全く感じない。
ポロGTIはすべてのレベルアップが図られているように感じ、一クラス上のゴルフGTIに試乗しているのか?と錯覚をするほどで、満足感の高いモデルであることは間違いない。前述のライバル車のベンチマークとなる理由もよくわかるが、逆にすべてがまじめなクルマ造りであることも同時に感じるわけで、フォルクスワーゲンらしいスポーツモデルという印象だった。