フォルクスワーゲン 2020年電動化攻勢についてステファン ゾンマー博士に聞く【フランクフルトモーターショー2019】

全固体電池の開発も自社で

そしてe-upやe-Golf、e-tronなどはBEVの第一世代に位置づけられ、サプライヤーからの供給に依存している。この点に関しゾンマー氏は、次世代に関し、センター オブ エクセレンス(Center of Excellence)つまり、垣根を超えた協力関係に基づき、フォルクスワーゲン自身が化学を理解する必要があるとしている。そしてバッテリー生産工程において深い知見を得、独自のスペックが生まれてくる。その知見データを共同開発パートナーとシェアすることで、バッテリーの調達へとつなげていくとしているのだ。

さらにこのCoE(センター オブ エクセレンス)では、ソリッドステートの革命的なバッテリー開発(全固体電池)をQuantumScape(カンタムスケープ)と共同で開発をしている。これもCoEの役割であるとしている。

そして共同生産となるバッテリーは50:50の出資比率の合弁会社を設立し、欧州のボリュームを1/3程度をカバーし、メインとなるのは前述のバッテリーサプライヤーになるというロードマップだ。アジアについても同様の座組みをつくり、同様に1/3程度を生産し、残りをサプライヤーから供給されることを想定している。

また、この取り組みはバッテリー業界全体をサポートしていき、完成した時にはこの共同生産の役目は小さくなっていくと考えているというのだ。まさに包括的な取り組みのスキームを構築していて、そのロードマップに沿って歩んでいることがわかる。

このジョイントベンチャーの相手は、スウェーデンの「ノースボルト」でスタートアップだという。現在はプロトタイプのプラントしか持っていないが、2023年に最初のプラントがスウェーデンで稼働開始し、2024年に次のステップへと駆け上るというロードマップだ。つまり、2025年にはこのベンチャーから欧州におけるフォルクスワーゲン向けバッテリーの1/3のバッテリーが供給される未来図になっているのだ。

こうしてフォルクスワーゲンは、電動化における戦略でバッテリーの開発、調達をすでに開始し、レアメタル削減にも注力、新技術のソリッドステート(全固体電池)も開発、そして得られる知見の使い方、完成後のロードマップも描かれているのがわかる。もちろん、現在のリチムイオン電池の再生、再利用もこのロードマップに含まれているのは言うまでもない。

ID.3を製造するツヴィッカウ工場では、2020年の今年、年間10万台のBEVを生産する計画だ
ID.3を製造するツヴィッカウ工場では、2020年の今年、年間10万台のBEVを生産する計画だ

OSの開発

そして電動化されていく中でゾンマー氏は「VW OS」を作るとしている。簡単に言えばタブレットに4つのタイヤがついたモビリティの誕生により、エンターテイメントスペースにもなり得る訳で、そうした時にOSが必要になるという。だが、そのOSはもっと重要な意味をもっているのだ。

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なんと2020年代半ばには、自動運転によるサービスが開始されるとしているのだ。そのために2020年本社をミュンヘンとウォルフスブルグに「VWAT」を設立し、子会社を北米シリコンバレーに開設する。Volkswagen Autonomy Gmbh(VWAT)はグループの自動運転の知見を集約し、自動運転レベル4以上のCoE(最先端技術研究所)に位置づけられ、市場導入を目指していく。

そして2020年代半ばに商業分野での運用を計画している。そこにはロボ タクシーやロボ バンなどによるMaaSがあり、ロジスティックの物流センターなどでのTaaS(Transport-as-a service)がビジネスベースとして始めることを計画しているのだ。

大丈夫か?ニッポン

つまり、BEV戦略は商業分野からビジネスを発生させ、そこには電動車両生産だけでなく、バッテリー、自動運転、そしてオペレーションシステムの領域を駆使して収益を上げていく構想になっている。これはゾンマー氏がZFのCEO時代に商用分野に強かったことも影響しているのかもしれない。

MEBに代表されるようにEVプラットフォームはさまざまところで活用されていく
MEBに代表されるようにEVプラットフォームはさまざまところで活用されていく

そして2025年ごろには収益の部分でも、これまでの自動車を生産して販売するビジネスモデルによる収益と、EV化による収益は逆転すると予測しているのだ。つまり、MaaSやCO2クレジット、そしてID.3で代表されるMEBプラットームがサードパーティやカーメーカーへ販売されるからだ。もちろん、ゾンマー氏も正確に予測することはできないが、と前置きしながらもフォルクスワーゲンはソフトを中心としたモビリティカンパーニーへと変身しつつあることを話してくれた訳だ。

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さて、振り返って国内を見渡してみると、ここまでのロードマップをメディアに公表しているメーカーはない。もちろん、さまざまな角度から検討されていると思うが、MaaSやCASEに対応することで、従来の収益に匹敵する売り上げにはならないことは見えている。そのため、各社とも、新しい収益確保手段を模索しつつ、より環境に配慮したICEをつかった環境車を開発しているという状況だと感じる。そして、今回のインタビューでは、利用するクルマは、目の前の未来で変化することがわかった。

世界の自動車産業の姿が本当に変わっていくのはもう目前なのだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>

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