自動運転技術のリーディングカンパニーであるアメリカのWaymo(本社:米カリフォルニア州)は、2026年8月19日、完全自動運転による累計3.2億kmを超える走行データをもとに導き出した「AI開発における主要な10の学び」をオンボードソフトウェア担当のシュリカンス・ティルマライ副社長が解説した。

Waymoのミッションは「世界で最も信頼されるドライバーになること」で、各国において自動運転タクシーの実現を目指している。世界では交通事故により年間5000万人が負傷し、135万人が命を落としているとされ、その多くはスピード違反や運転中の携帯電話使用、疲労、飲酒運転といった人為的ミスに起因する。
Waymoは、こうした事故を減らすと同時に、高齢者や障がいのある人を含めた移動手段の拡大を、自動運転技術によって実現しようとしている。

Waymoの自動運転技術への取り組みは2013年の深層畳み込みネットワーク導入に始まり、2015年世界で初めてアメリカの公道で、完全自動運転の実証実験を開始し、2018年には世界初の完全自動運転配車サービスを実現している。
そして2022年の第5世代Driverによる都市への展開を拡大し、2023年以降はVLM(視覚言語モデル)やLLMの一般的な世界知識を組み合わせた「Waymo Foundation Model」の開発へと進んでいる。今回公開された10の学びは、この十数年にわたる開発を紹介している。
センサー統合と高精度マップは不可欠
自動運転技術で議論の的となってきた2つの論点について、Waymoは明確な結論を示している。

第一に「マルチモーダルセンサーは不可欠」という点だ。カメラのみで完全自動運転を実現できるという主張が業界で交わされてきたが、3.2億kmの走行実績が示したのは、カメラ単独では高精度の検知が難しいという事実だった。
LiDARはmm単位の精度で3次元構造を捉え、カメラは道路標識や信号の色といった意味情報を読み取り、レーダーは雨や霧、塵といった視界不良時にも障害物を検知する。3つのセンサーが互いの弱点を補完し合うことで、単一センサーでは実現できない冗長性と信頼性を確保できるとしている。

第二に、高精度(HD)マップは強力な事前知識手段として欠かせないという点だ。HDマップは車載コンピュータにとって”記憶”のような役割を果たし、視界不良時や複雑な交差点での認識の曖昧さを解消することができる。これにより車両側のリアルタイム処理能力を、急な迂回や臨時の一時停止標識といった動的な事象に集中させることができる。そして高精度マップ自体もAIによって自動更新され、変化に対して堅牢な仕組みが構築されている。

モデルは「少数精鋭」に向かい、認知、判断のブラックボックス化は拒否
自動運転AI開発の初期段階では、歩行者検知用、車両追跡用、信号認識用といった具合に、役割ごとに特化した小規模モジュールを並べる手法が主流だった。

しかしWaymoは、モデル数を絞り込み、より大規模で汎用的な基盤モデルへ統合する方針へと転換してきた。データ自身に「何が重要か」を判断させることで、モデルはより高度で複雑な推論能力を獲得できるという。効率的な「Teacher-Student(教師→学生のような学習)モデル」によってオンボードの計算処理をスケーリングしつつ、この統合はあくまで効率化が目的であり、意思決定プロセス全体を単一のブラックボックスに集約することを意味しない。
実際、Waymoは独立した車載検証レイヤーを設け、AIが提案するすべての走行軌道を安全性の制約、車両の運動学的制限、道路交通法、安全運転の習慣に照らして常時チェックする体制としている。生成AIやE2E型アーキテクチャの可能性を追求しながらも、安全性の担保においては説明の可能性を犠牲にしないという姿勢が貫かれている。
シミュレーションと別視点での評価
公道走行だけではすべてのシナリオを網羅できない。そこでWaymoが重視するのが大規模な「クローズドループシミュレーション」だ。録画データを再生するだけのオープンループ方式とは異なり、クローズドループでは自車の急ハンドルや急ブレーキに対して周囲の車両やシミュレーション上のエージェントが実際に反応する。この相互作用によって、合流や狭い道での割り込みといった複雑なインタラクティブ・シナリオの連鎖反応が検証できる。

さらにWaymoは「AI Critic(AI批評家)」と呼ばれる独立した評価システムを構築している。これは、走行の上手さやブレーキの心地良さまで含めた運転行動を継続的に監視・採点する仕組みで、堅牢な評価システムが存在しなければドライバーAIは自らの走行を甘く評価してしまうリスクを抱えるという。オンボードでの安全レイヤーと、オフボードでの世界水準の評価システムによるストレステストを組み合わせることで、捉えがたいエッジケースを事前に特定し、的を絞った改善を可能にしている。

視覚言語モデル(Geminiをベースに訓練)も推論パートナーとして重要な役割を担う。事故現場での警察官の手信号など、一般的な学習データの範囲を超える状況においても、VLMが意味的な「ヒント」を提供する。ただしVLM単体は処理速度の面でリアルタイム車両制御には不向きであるため、Waymoは高速な直感的処理(ファスト思考)と深い推論(スロー思考)を組み合わせた「Thinking Fast and Slow」アーキテクチャを採用している。
安全性を裏付けるリアル・データと「ガバナンスの質」
Waymoが強調するのは、AIの有効性は最終的に「それを評価するガバナンスの質」によって決まるという点だ。単にAIドライバーを開発するだけでなく、運転・シミュレーション・評価のすべてを安全ガバナンスの枠組みの中に位置づけることで、初めて実用化への準備が整うと主張する。
その裏付けとなるのが実走行データである。米国のサービス提供都市における人間の平均的な運転手との比較では、重症以上の結果を伴う重篤な衝突が94%、エアバッグ作動を伴う深刻な衝突が82%、負傷を伴う衝突が82%、それぞれ減少したという実績が示されている。また保険大手スイス・リーとの共同研究では、完全自動運転での走行100万マイルあたり、物的損害に関する保険請求が88%、人身傷害に関する保険請求が92%減少したことも報告されている。
Waymoはこれらの学びを支える最後の原則として「完全自動運転の実走行経験に代わるものはない」ことを強調する。運転支援システム(レベル2)の性能を段階的に引き上げるだけでは、レベル4の拡大には不十分であり、車内に人間が乗っていない状態での走行という妥協のない経験によってのみ、真の成熟度が鍛え上げられるという考え方である。

日本交通・GOとの提携し、東京で実証実験
日本国内では、Waymoはすでに東京最大のタクシー事業者である日本交通の配車アプリを展開するGOと戦略的提携を締結し、自動運転車両の東京導入を進めている。2025年に最初のWaymo車両が日本に到着して以降、日本交通のスタッフが同乗して技術を監視する形で、港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区など都内複数区での実証実験を継続している。
この提携では、Waymoが日本の道路環境への技術適応と検証を担い、日本交通が車両の運行・メンテナンスを担当するという役割分担がなされている。
Waymoは現在、米国内の人口密度の高い10都市以上、1400平方kmを超えるエリアで週50万回以上の乗車サービスを提供しており、ロンドンや東京を含む世界主要20都市以上への展開を目指している。また自動車メーカーとの協業においては、ジャガーへの技術統合に加え、トヨタとの重点的な協業についても検討を開始することで合意しており、車両開発の専門知識を活用しながら自動運転技術のコア開発に注力する方針だ。
ふたつの技術トレンド
Waymoは今回公開した10の学びについて、大規模運用の中で得られた知見の「ほんの一部」にすぎないとしている。何十億kmという走行規模を見据える同社にとって、安全性とは成果ではなく、厳格な現実世界での経験そのものから生まれるものだという姿勢が、今回の発表全体を貫いている。

こうしたWaymoの思想に対して、もうひとつの潮流を生み出しているのがテスラや中国の自動運転技術企業の「E2E」技術だ。これはナビゲーション on オートパイロット(NOA)と呼ばれ、AIをフル活用する自動運転技術だ。
テスラはセンサーはカメラのみで、一般的なマップを使用しながら公道走行によりAIのトレーニングを行ない、AIが人間と同様の認知、判断、操作を行なうというレベル2+から発展させた自動運転技術を実現しつつある。
中国の自動運転技術企業は、テスラほど極端ではなく、カメラ、レーダー、LiDARと道路マップを使用してAIによる自動運転を行なう「E2E」技術をハイスピードで進化させている。
こうしたAIを中心にした自動運転技術はタクシーだけではなく個人所有車にも幅広く適合させることを目指しているが、Waymoは自動運転タクシーにターゲットを絞り、高精度マップと多くのセンサー、そしてAIを取り込みながら完全自動運転を目指すという違いがある。
Waymoの東京での自動運転タクシーのサービス開始時期については、実走行による検証が完了し、国交省から必要な承認が得られ次第開始されるとティルマライ副社長は語っている。













