【深層行動】トヨタとスズキの業務提携の裏側 狙いはインドとアフリカ

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開発・生産プロジェクトの提携内容とは

2018年5月25日、トヨタとスズキは具体的な協業の内容を発表した。「開発・生産等に関する共同プロジェクト」に関し、両社の協議開始に合意したという内容だが、これにより両社の協業は正式にスタートしたと見てよいだろう。
※参考:トヨタとスズキ、開発・生産等に関する共同プロジェクトの協議開始に合意

トヨタ・キルロスカ自動車が2005年にインドで発表した「イノーバ」

具体的には、次の3点に集約される。
1:スズキが主体となって開発する小型超高効率パワートレーンに対し、デンソーとトヨタが技術支援を行なう。
2:スズキが開発した車両をトヨタ・キルロスカ自動車株式会社(以下、TKM)で生産し、トヨタ・スズキの両ブランドでインド国内において販売する。
3:上記TKM 生産モデルを含むスズキの開発車両を、トヨタ・スズキ両社がインドからアフリカ市場向け等に供給し、それぞれの販売網を活用して販売するとともに物流・サービス領域の協業を進める。

スズキの小型超高効率パワートレーンとは新開発のエンジンで、トヨタの高い熱効率を実現したダイナミックフォース・エンジンの技術や、デンソーのエンジン制御技術、ハイブリッド関連技術が投入されると想定されている。

トヨタ・キルロスカ自動車でスズキが開発した車両を生産し、トヨタ、スズキの両ブランドをインド国内で販売する点は興味深い。トヨタは1997年に地元のキルロスカ・グループと合弁でトヨタ・キルロスカ・モーター(TKM)を設立し、現地生産を開始している。インド市場では高価格帯のクルマを販売しているのだ。しかしトヨタのインドでのシェアは4%程度しかなく、50%近いシェアを持つスズキはもちろん、ヒュンダイ(韓国)、マヒンドラ(インド)、タタ(インド)に大きく水を開けられている。トヨタにとってインドという大市場でポジションは危ういのだ。

広大な敷地に建設された最新設備を備えるクジャラート工場

一方、スズキは以前からのグルガオン工場、マネサール工場がフル操業を続け、2017年1月からは最新設備を誇るクジャラート工場が稼働を開始している。さらに2019年の稼働を目指して、グジャラート第2工場、エンジン・トランスミッション工場の建設も計画しており、第2工場完成時にはインドの生産能力は200万台となる見込みで、拡大を続けるインド市場の需要に手を打っている。

2017年3月~2018年3月のインドでの販売状況

つまりスズキにとってトヨタ・キルロスカ・モーターでの生産台数は、それほど多くは期待できないが、増産に寄与することは間違いない。一方トヨタにとっては、インドでの車種ラインアップの拡大を図ることができるのだ。

クジャラート工場で生産される世界戦略車「バレーノ」は日本にも輸入。左から鈴木俊宏、駐日インド大使、鈴木修会長

さらにクジャラート工場に隣接するサプライヤーパークに、新たに東芝とデンソーとの合弁によるインド初の自動車用リチウムイオン電池工場が建設される。

実はインド政府は「国家電気自動車計画(NMEM)」を打ち出し、電動車の普及を推進している。2030年には内燃エンジン車の販売を禁止し、ハイブリッド、PHEVなど電気駆動車だけにするという構想を打ち出しており、それに対応するために、電気駆動車に必要なリチウムイオン電池の現地生産も大きなポイントになるわけだ。

狙いはアフリカへの進出

インドで最大のシェアを持つスズキは、低価格の電気駆動化の実現は急務であり大きな課題だ。高価なクルマでは、ハイブリッド、PHEVを採用するのに大きな問題はないが、低価格の小型車に搭載するのはコスト的に厳しい。

提携はインド国内にとどまらず、スズキのインドでの生産車やトヨタ・キルロスカ・モーターで生産した低価格車をアフリカに輸出、販売する計画も盛り込まれている。インドは地理的に、東南アジア、ヨーロッパ、アフリカに輸出する拠点としては最適とされ、その地理的なメリットを生かして、最後の大市場と言われるアフリカに橋頭堡を築こうという構想だ。

このように考えると、トヨタ、スズキの協業はWIN WINといえる内容で、よく練り込まれていると言えよう。

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