【深層行動】トヨタとスズキの業務提携の裏側 狙いはインドとアフリカ

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トヨタとスズキの業務提携を発表したのは2016年10月だった。トヨタとスズキのこの新たな関係が生まれた背景には、やはりスズキからのトヨタに対するラブコールがあったと見るべきだろう。そして2018年5月、この提携がいよいよ具体化した。

2016年にトヨタ、スズキが業務提携の交渉に合意し、記者会見に望む豊田章男社長(左)と鈴木修会長

GMの破綻からフォルクスワーゲンと提携したスズキ

スズキは軽自動車を中心に、価格競争力の高いクルマをつくることを一貫して追求してきたが、先進技術の開発に課題を抱え、危機感を持っている。一方のトヨタは、環境や安全、情報等に関する技術開発に取り組んでいるが、欧米各社よりも仲間づくり、標準づくりの面で遅れているという認識があったとされている。

もちろんこれも間違いではないが、根本的には業界のカリスマの一人であるスズキの鈴木修会長の、将来の生き残りのための漠然とした不安が、いざという時に頼る大樹を求めた結果だ。スズキは、かつては当時世界ナンバーワンの自動車メーカーであったGMと資本提携し、良好な関係を築いてきたが、2008年にGMの経営破綻により、スズキはGMの所有した自社株を買い取った。

スズキが生産したシボレー・ブランドの「MW」

スズキは心強く、頼りになる新たなパートナーとしてフォルクスワーゲンを選び、2009年末に包括的業務資本提携を締結した。フォルクスワーゲンはスズキの軽自動車技術を高く評価しており、さらにインドでのスズキの存在感の大きさ重視し、将来的にはスズキをフォルクスワーゲン・グループに組み込む構想だったと言われている。そのためフォルクスワーゲンはスズキの株式の19.89%を取得した。

しかし鈴木修会長は、頼りになるパートナーを求める一方で、パートナーとは対等な関係で、自主独立を堅持するという考えのため、フォルクスワーゲンとの関係は順調に進展しなかった。

2011年にスズキは、ヨーロッパで販売するクルマに、フォルクスワーゲン製ではなくフィアット社のディーゼル・エンジンを搭載したことで、両社は対立するに至った。スズキはフォルクスワーゲンに対し一方的に提携関係の解消を求め、国際仲裁裁判所に提訴。最終的にフォルクスワーゲンはスズキの株式を手放し、スズキはフォルクスワーゲンからの賠償金請求に対して和解金を支払うことで決着した。

日本の自動車メーカーのカリスマの一人、スズキの鈴木修会長

スズキの抱える不安とは

このようにスズキと鈴木修会長は、頼りになるパートナーを求める一方で、パートナーと対等であることを守るというポリシーは強固だ。鈴木修会長はフォルクスワーゲンとの決別の後、最終的なパートナーとして選んだのがトヨタだった。トヨタはダイハツを子会社にしており、新たにスズキを傘下に組み込む必然性はないので、スズキにとっては理想的な提携相手と考えられた。

スズキとトヨタの提携について世評では、スズキはトヨタの環境技術を求めたとされているが、これは必ずしも正しいとは言えない。鈴木修会長は自社の次世代技術に対して不安を感じていたとされるが、スズキは自社でマイルドハイブリッド、ハイブリッドの技術を開発し、さらにディーゼル・エンジン、ダウンサイジング・ターボエンジンなども自力開発しており、決して技術的に遅れているわけではないからだ。

スズキの持つ不安とは、自社だけではハードルが高すぎると考えていることがあり、純粋な電気自動車の製造、コネクティビティ(通信技術)、そして自動運転などに関することだ。しかしこれらの分野はトヨタとて一社でカバーするのは困難と見ており、スズキがトヨタ・アライアンス・グループに加わることは双方にとってメリットがあるのだ。

その象徴が、スズキの「EV C.A.スピリット」への参画だ。EVを企画・開発する「EV C.A.スピリット」は、トヨタ、デンソー、マツダに加え、スズキ、スバルも加わり、EV開発費の分担、リチウムイオン・バッテリーの共通ユニット化によりコスト低減を追求することができる展望が開けた。

そしてトヨタ、スズキの次なる課題は、グローバル規模での協業を模索することだ。

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