2024年10月末に日本の自動車メーカーの2024年上期の決算が出揃った。依然として円安が継続し、為替差益が収益を押し上げる一方で、主力市場のアメリカでは販売競争が激化し、中国、アジア地域では中国の自動車メーカーの攻勢を受けてシェア、販売台数を低下させていることなどから、日本の自動車メーカー7社のうち5社で最終的な利益が減益となっている。
日本の自動車メーカーの収益悪化
売り上げでは、トヨタをはじめ、ホンダ、マツダ、スバルが円安による押し上げ効果もあって、売上高は過去最高を更新し5社で増収とはなっている。
一方で、大市場のアメリカでは販売競争の激化で、販売奨励金の費用が増大しており、利益率を低下させている、もうひとつの大市場である中国でも、現地メーカーの新エネルギー車(EVとPHEV=NEV)との競争に遅れを取り、シェア、販売台数の低下傾向は止まっていない。
また、東南アジアでは、タイのEV化政策により、中国製の新エネルギー車が急伸しており、中国自動車メーカーはタイ工場の建設を急いでいる。その結果、日本車の牙城であったタイでの日本車のシェアが低下し始めている現状だ。
こうした背景から、最終的な利益では、トヨタ自動車が前年の同期と比べて26.4%減って1兆9071億円、ホンダが19.7%減少して4946億円、日産自動車に至っては93.5%減少し192億円となり、マツダが67.3%減、アジア市場への依存度が高い三菱自動車工が43.8%の減益になっている。
なお、世界最大の市場の中国では、日本勢ばかりではなく、ドイツメーカー勢も軒並み販売台数が低減しており、逆に中国現地メーカーが急速にシェアを拡大している現状がある。
日本の自動車メーカで調子を維持できているのは、日本、インド、ヨーロッパで販売台数が増えたスズキと、アメリカで収益率の高い車種を販売しているスバルだけが増益となっている。
危機を迎えた日産
こうした状況の中で、最も大きな危機を迎えているのが日産だ。販売台数の減少と大幅減収という背景により危機的状況は、2024年第1四半期ですでに明確になり、この時点で売上高3%増の2兆9984億円の一方、営業利益99%減のわずか10億円、純利益73%減の286億円という衝撃的な減益であったのだ。だが、上期の決算では売上高は前年並みで、 営業利益は前年比90%減となっており、営業利益率は0.5%に過ぎない。
この原因は、アメリカ市場での販売の頭打ちと販売奨励金の増大により、収益が確保できず、同時に中国市場での14.3%減という減速、さらにタイ市場での販売台数低減などが重なっている。
つまり日産の中期経営計画は大幅な見直しが求められ、9000人の人員削減と生産能力の20%縮小を決定した。9000人という数字は全従業員の7%にあたり、当面は従業員の削減と同時に、工場の操業を2直稼働から1直稼働としたり、生産ラインのスピードを落とし、生産台数を抑制することになるが、今後は生産ラインの削減も必要になるかもしれない。
つまり生産台数を絞り、過剰在庫をなくし、人員削減により固定人件費や工場の稼働コストを抑制し、収益を確保しようという訳だ。
しかし、アメリカ市場での採算の悪さは2018年の前・西川廣人CEOの時代からクローズアップされており、それから6年を経過しても改善されるどころか悪化している。また当時は収益を揚げていた中国市場でも大幅に販売が減速し、タイ市場でもブレーキが掛かるなど、きわめて厳しい状況が加わってきているのだ。
このため、当面は新型車の開発などより、財務状況を改善することに集中せざるをえないのである。
ドイツメーカーの混乱
日本の自動車メーカーだけに逆風が吹いているわけではなく、ヨーロッパ最大のドイツ自動車産業も困難な局面を迎えている。メディアではフォルクスワーゲンの人員削減や工場閉鎖だけが取り上げられているが、BMWの第3四半期は販売台数が13%減、売上高は15.7%減、利益は61%減だ。
BMWの抱える問題は中国での販売不振の要因が大きい。BMWであっても、中国ではSDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)ではないことと、PHEVの車種の少なさなどにより痛手を被っている。
メルセデス・ベンツグループの2024年7月~9月期決算で純利益は前年同期比54%減になっている。Sクラス、Gクラス、マイバッハなどラグジュアリーカーの重要市場である中国で販売が低迷し、中国事業の売上高が17%減少しているのだ。
中国市場で大きなシェを誇っていたフォルクスワーゲンも中国で大きく後退している。さらにドイツでの経済的な問題も重なり、他のドイツメーカーに比べて工場数が圧倒的多いフォルクスワーゲンは、工場の削減や人員削減が迫られているのである。
国民のクルマであるフォルクスワーゲンの経営危機は、ドイツ国民に大きなショックを与えている状況だ。
ドイツの自動車メーカーが苦しんでいるのは、中国市場での販売減少という問題だけではなく、ドイツ国内の経済問題も大きくのしかかっている。
ロシアのウクライナ侵攻以来、ガス、電気料金が高騰し、電気料金はそれ以前の3倍にもなっている。またガソリン価格も値上げが続いている。
そして政治的には、メルケル時代とは異なり、現在の中道、ショルツ政権は不安定で効果的な経済政策が打ち出せず、混乱を極めている。
自動車関連では、2023年に右派政党により合成燃料を使用する内燃エンジン車の存続を認める決定や、2024年に入って突然のEV補助金の打ち切りなど混乱が続き、ショルツ首相の指導力は失われつつある。エンジン車維持を掲げる極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」、中道右派のキリスト教民主社会同盟が次期政権を握る可能性が大きくなっている。
こうした政策的な混乱、エネルギー価格の高騰、さらにインフレーションの進行などが重なり、ドイツ国内での自動車販売も減少するなど、自動車メーカーにとってはきわめて厳しい状況を迎えている。
自動車メーカーだけにとどまらず、メガ・サプライヤーも連鎖的に危機を迎え、最大手のボッシュは世界で5500人の人員削減を打ち出しており、ZF、コンチネンタル、フォルシアなども軒並み人員削減の計画を発表している。
なお、ヨーロッパではドイツ以外でも、激しいインフレーション、エネルギー価格の上昇が続いており、自動車販売は厳しい環境にある。
メディアの多くがヨーロッパでのEV販売の減速を取り上げ、見直されていると伝えているが、その背景にはEVかハイブリッドか、エンジン車かといった問題ではなく、圧倒的に経済的な不安定さ、インフレーションが原因と見るべきだろう。
アメリカの自動車産業も大混乱?
アメリカでは、トランプ大統領が再就任することで、大きな混乱が予想される。シェールガスや石油、天然ガスの採掘が加速され、環境保護局が手動する環境政策にブレーキが掛かり、最悪の場合はカリフォルニア州など11州が進めるゼロ・エミッション政策の行方も不透明だ。
また、トランプ氏は現時点ではメキシコから輸入される自動車関税を25%にすると主張している。もしこれが実現すれば、メキシコ工場を稼働させているトヨタ、日産、マツダは大打撃を受けることになる。
このように概観すると、当面の間は日本の自動車メーカーだけでなく、世界の主要自動車メーカーには厳しい逆風が吹き続けることが予想される。