激化する日本の自動車販売

日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会は2019年9月5日に、月例の乗用車の車名別販売台数と軽四輪車の車名別新車販売速報を発表。販売データを取りまとめる両協会連合会はすでに2019年1月〜6月、つまり半期の販売実績を発表しており、7月、8月の販売データも発表したことで、いよいよ2019年の後半期を迎えている。

シエンタ
シエンタ

トヨタの販売戦略の大転換

9月5日に発表された8月の販売データでは、乗用車1位にはトヨタの「シエンタ」が躍り出た。8月はお盆休みもあり、例年販売台数は低調な月なのだが、2019年に限っては10月1日からの消費税増税が控えており、増税前の駆け込み需要が注目されていたが、それほど大きくないようだ。

2019年の乗用車販売では、4月以降7月まではトヨタ・プリウスがトップを維持。8月に限っては、いつもは4〜5位のシェンタがトップに立ち、プリウスが僅差で2位となった。

2019年の前半では1月〜3月は日産ノートのe-POWERが原動力になって、トップの座につき話題を集めた。しかし4月以降は再びプリウスがトップに返り咲いている。それはトヨタの販売体制の大改革の結果といえるだろう。

激化する日本の自動車販売

トヨタは、これまでトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店という販売系列があり、それぞれの販売店系列が得意分野の顧客をカバーし、販売店の競合を回避してきた。もちろんプリウス、C-HR、アクアなどトヨタにとって重要な車種は全販売店系列で取り扱う例もあったが、基本は4つの販売系列が独自の車種ラインアップを展開していた。

例えば人気の高いLサイズミニバンのアルファードはトヨペット店、クルマとしては共通だが前後のデザインが異なるヴェルファイアはネッツ店といった具合に、販売店系列によりクルマの名称を変えて販売している。このように4販売系列を展開し、競合を避けながらそれぞれが販売の拡大を目指すことで、国内においてはトヨタは強大な販売力を誇ってきた。

地域軸への見直し

しかし2018年11月に、トヨタは100年に一度と言われる大変革の時代に、より地域に根ざした、新たなモビリティサービスを提供することができる販売ネットワークの改革を発表した。2019年1月から「チャネル(販売店系列)軸」から「地域軸」に見直し、どの店舗でも地域のユーザーの求めるあらゆるニーズに対応するため、2022〜2025年を目途に、全販売店で、全車種併売化を実施するとしたのだ。

そしてこの取り組みのモデルケースとして、2019年4月から東京のメーカー直営販売店4社を統合し、新会社を「トヨタモビリティ東京」としてスタートを切っている。

全国では4チャネルは存続するものの、基本的に「ひとつのトヨタ」として、全店舗での全車種販売を開始する方針だ。全国の販売系列の垣根をなくし、どの店舗でもすべてのトヨタ車を購入できるようにするとともに、今後はクルマや移動に関するあらゆるサービス、つまりカーシェアリングや、サブスクリプション、MaaS時代へ適合させる戦略なのだ。だが、販売店の多くは地場資本の企業であり、これまでの販売系列ごとの車種展開という、いわば護送船団方式から、テリトリー、垣根のない熾烈な販売競争を行なう事態を迎えることになる。

仁義なき戦い

そして2019年6月にトヨタは、これまで2022〜2025年を目途に、全店舗が全車種を販売するという方針を、2020年5月に前倒しすることを決定した。さらに7月には、全国のトヨタの補修部品・用品を販売するトヨタ部品共販店33社と、タクティー(アフター用品販売のジェームスのフランチャイズを展開)を統合した新会社を設立することも発表した。地域ごとのテリトリー制の部品共販も垣根をなくし、全国統一の部品、用品販売会社にするというのだ。

プリウス
プリウス

このように最強といわれたトヨタの販売体制が大幅に変わろうとしている。プリウスは従来から4販売系列で併売され、販売面で成功してきたが、今後の全店舗・全車種販売のまさにモデルケース的な車種であり、全国6000店といわれる全店舗が競い合って最重要車種としてプリウスの販売拡大を行なうのは当然なのである。

そして8月にトップに立ったシエンタも従来から4販売系列併売車種なのだ。今後、全国の店舗が全車種を取り扱うとはいえ、従来から4販売系列での併売車種はトヨタの重点モデルでもあり、それらの全店舗取扱車種が、今後も販売のトップの座を争うことは間違いないだろう。

左図が1月〜6月の累計販売台数ランキング、右図が8月の販売ランキング
左図が1月〜6月の累計販売台数ランキング、右図が8月の販売ランキング

ホンダ、マツダ、スバル、スズキの現状

トヨタでは、プリウス、シエンタ以外にアクア、ルーミー、カローラも販売上位に付けている。日産は、ノート、セレナの2車種がトヨタ車の間に割って入り上位にいる。ただし日産の国内販売の上位は、ノート、セレナ、軽自動車のディズという3車種に絞られている。

ホンダは、フリード、フィットの順で、2車種ともにかろうじてトップ10に滑り込めるといったポジションだ。ヴェゼル、ステップワゴンは20位圏内に。軽自動車ではN-BOXが絶対的No1となっているが、小型車カテゴリーでは次期型フィットに期待をかけるという状況だ。

マツダ3を投入したマツダは、7月が3668台で23位、8月が3916台で16位。まだ供給が十分ではなくタマ不足状態だがヒット作とは言えない状態だ。またメイン車種ともいえるCX-5が2000台レベルで、30位付近というのも苦しいところだ。

スバルは、インプレッサが15位〜20位あたり。最も新しいモデルののフォレスターが25位〜30位というポジションだ。アメリカでは絶好調のスバルだが、日本ではインプレッサ、フォレスターの販売をもう少し底上げしたいところだろう。

スズキは、小型車の分野で年間販売10万台を超えており、ソリオ、スイフト、クロスビーなどで、競合車種が少ない分野でポジションを確保している。

混戦が続く軽自動車

8月の軽自動車販売で1位はホンダのN-BOXだった。N-BOXは2017年、2018年と2年連続販売トップの座を守り続け、近年では最強モデルとなっている。1月〜7月の累計販売でももちろんトップだ。しかし、N-BOXと同じ軽自動車スーパーハイトワゴンでは、ダイハツが新たに投入した新型タント、スズキのスペーシアも健闘している。

軽自動車でトップを守るN-BOX
軽自動車でトップを守るN-BOX

また日産/三菱の新型ハイトワゴンも好調で、スーパーハイトワゴン・モデルと肩を並べる勢いがある。日産/三菱は年内には新型スーパーハイトワゴンを送り出し、N-BOX、タント、スペーシアに挑む。その一方で、ホンダは8月にハイトワゴンの新型N-WGNを発売した。このN-WGNが、同じハイトワゴンの日産デイズと比べてどれほどの販売台数になるかは興味深い。

8月の軽自動車販売ランキング。右端から3列目が1月〜8月の累計販売台数
8月の軽自動車販売ランキング。右端から3列目が1月〜8月の累計販売台数

8月の販売台数では、1位のホンダのN-BOXに続いて、2位がダイハツ タント:1万6838台(前年同月比173.3%)、3位が日産デイズ:1万3432台(前年同月比134.4%)、4位がスズキ スペーシア:1万674台(前年同月比97.3%)、5位がダイハツ ムーヴ:8802台(前年同月比110.5%)、6位がホンダの新型N-WGN:6958台(前年同月比188.1%)。以下7位がスズキ ワゴンR、8位がダイハツ ミラ、9位がスズキ アルト、10位が三菱 eKと続いている。

一番人気はスーパーハイトワゴン

いずれにしても全乗用車販売の40%に迫る軽自動車では、カテゴリー別に見るとやはり全高が最も高いスーパーハイトワゴンが主流になっている。かつては子育て世代向けのモデルと位置づけられていたが、現在では小型車からのダウンサイジング・ユーザー層も多く、幅広い世代に支持されているのが特長だ。

このスーパーハイトワゴンは、スライドドアを備えているのがアピールポイントで、全高の違い以上に、スイングドアを持つハイトワゴンとの差別点になっている。かつてのミニバン・ブームで認知されたスライドドアは、現在では軽自動車スーパーハイトワゴンにとっては必須の装備となっているわけだ。

駐車スペースが狭く、隣に駐車したクルマとの距離が取りにくいといった日本ならではの実情と、高齢者や子供が乗り降りしやすいなどの利便性が評価されているのだ。もちろんスライドドアは、通常のスイングドアに比べて重量が重く、ボディ構造的にも不利な点があるが、実用性、利便性などの理由で高い評価を受けている。

このスーパーハイトワゴンで、トップのN-BOX、新プラットフォームを採用して大幅にレベルアップした新型タント、2017年発売ながら好調のスズキ スペーシア、そして年内に発売が予定されている新型デイズ・ルークスの戦いも当分継続されるだろう。

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