2014年3月27日、トヨタ・レーシングは2014年シーズンのFIA世界耐久選手権(WEC)を戦う新型ハイブリッド・レーシングカー「TS040 ハイブリッド」を南フランスのポールリカール・サーキットで初披露し、ドライバー編成の変更も合わせて発表した。
ポールリカール・サーキットで発表されたTS040ハイブリッドは、自然吸気の520psのV型8気筒3.7Lガソリンエンジンを搭載し、ハイブリッド・パワーによる480psが加えられ、システム総合出力1000psが4輪駆動で路面へ伝達するという、世界で最も進化し、かつ高出力のハイブリッド・レーシングカーとなった。この1000psという出力は、ライバルのアウディ、ポルシェを大幅に上回るハイパワーだ。
新たなトヨタ・ハイブリッドシステム・レーシング(THS-R)は、特に燃料消費量を規制するWEC新技術規則に合わせて開発されている。動力系統や空力、ドライビングスタイルも多岐にわたって見直され、燃料消費量は2013年シーズンのTS030に比べて25%の削減を目標としている。今シーズンは流量計により燃料の消費量がモニターされ、レース中に3ラップの平均燃料消費量が規定を上回った場合には、ペナルティが科せられる。1ラップあたりの燃料消費量は、各チームの申告したハイブリッド使用率によって決まるが、トヨタレーシングはル・マンで1ラップあたり6MJ(メガジュール)のハイブリッドシステムを採用することに決定した。
また、油脂類に関するチームのオフィシャルパートナーであるトタル社(フランス)との共同作業により、トヨタレーシングは、さらなる効率とパフォーマンスを追求している。
新たな車両規則により、トヨタレーシングはより多くのハイブリッド・パワーを得ることとなった。減速時には、前後アクスルに搭載したモーターを兼ねる発電機(モータージェネレーター・ユニット:略称MGU)と従来型ブレーキの組合せにより減速するとともに、MGUにより回生されたエネルギーはインバーターを介して日清紡製のスーパーキャパシターに蓄電される。一方、加速時には、回生エネルギーが逆方向に移動し、前後のMGUから合計で480psのパワーアシストが得られる。(フロント用MGUとインバータはAISIN AW製、リヤ用MGUとインバーターはDENSO製)
4輪駆動のハイブリッドパワーは、自然吸気V型8気筒エンジンと組み合わされ、このどちらも新世代の市販車向け技術を開発しているトヨタ自動車東富士技術研究所のモータースポーツユニット開発部で生み出された。
TS040ハイブリッドの車体の設計・開発・製造および参戦活動の全てをドイツ・ケルンのトヨタモータースポーツ有限会社(TMG)が行なっている。TS030ハイブリッドの進化版となるTS040ハイブリッドは、車両規則変更に合わせて全幅が10cm縮められるとともに、一連の安全装備が備え付けられている。
TS040ハイブリッドの車体デザインについては、特に空力的な面で多くの改良が行われ、空気抵抗の低減は燃費向上に寄与している。また2013年シーズンに比べて5cm細くなるタイヤにより低下する路面グリップを補うべく、ダウンフォースも増加させているという。
TMGが持つ最新鋭の風洞による大規模な開発により、空力効率の高いデザインがなされた。また、最新の複合素材を用いた設計および製造工程により、シャシーは非常に軽量なものとなっている。
さらに、TMGにおける集中的なシミュレーションとコンピュータ解析によりTS040ハイブリッドのデザインは最適化され、実際のコースデータと高性能なコンピュータの計算を元に各要素のテストが行われている。このような最新解析&シミュレーション技術により、コースでの実走テストよりもさらに効率的な開発が可能となり、TMGのエンジニはより長い時間をかけてTS040ハイブリッドのシャシーやレイアウトなど全ての面で最適化を進めることができたという。
TS040ハイブリッドは今年1月21日にフランスのポールリカール・サーキットで実走テストを開始し、その後ヨーロッパ内で12日間、計1万8000kmにおよぶテストを行なった。ポールリカール・サーキットでのWEC合同テストの後、チームは開幕戦のシルバーストーン6時間レース(4月20日)へ向けてさらに1回のテストを予定しているが、この開幕戦で、トヨタ・レーシングはライバルのアウディ、ポルシェと初めてレースを戦うこととなる。
ドライバーの編成は昨シーズンから若干変更となり、7号車がアレックス・ブルツ、ステファン・サラザンと中嶋一貴、8号車がアンソニー・デビッドソンとニコラス・ラピエール、セバスチャン・ブエミというチーム編成となっている。
村田久武ハイブリッド・プロジェクト・リーダー 兼モモータースポーツユニット開発部部長:我々のトヨタ・ハイブリッド・システム・レーシング(THS-R)は、規則変更に伴い、大幅に強化された。新規則では大幅な燃費向上を迫られたが、戦闘力維持のためには、我々はもちろん、エンジンパワーを維持していきたい。燃料消費を抑えるために出力を抑えることは、あり得ない。我々はさまざまな可能性を検討したが、最適な解決方法はハイブリッドシステムの性能向上をしながら、エンジン排気量を上げて熱効率を更に改善することだった。我々はエネルギー回生でのハイブリッドシステムを6MJ以上とするのは、重量増によってラップタイプへの影響を受けるというマイナス面があると考えた。減速時のエネルギー量を、全てリヤのみで回生するのは十分ではない。このため、規則によってハイブリッドの使用が前/後どちらか1軸に限定される以前の、2007年から2011年まで開発を進めていた4輪回生・力行のハイブリッドシステム概念に還った。我々は今や、1000psもの強力なパワーを手に入れ、かつ、システムは目標重量に収めることもできた。これがライバル相手にどんな戦いを見せてくれるのか楽しみだ。