SUPER GT 2026シーズンも後半戦に入った。調子を取り戻しつつあるSUBARU BRZ GT300は、前戦のSUGOで予選2位、決勝3位という結果を残した。新しいEG33型エンジンを武器に戦うチームにとって、ようやく手応えが見えてきたところだ。
その勢いのまま、次の表彰台を目指して大分県日田市のオートポリスに乗り込んだ。
金曜日は晴れ。10月中旬のオートポリスには秋風が吹き、気温は22度前後。湿度も低く、過ごしやすい気候だった。ただ、太陽の下に出ると日差しは強く、暑さを感じるほど。山間のサーキットらしい、秋の爽やかさと日差しの強さが同居する一日だった。ピットでは、チームスタッフがいつもの手順で設営を進めていく。


今回の第7戦「AUTOPOLIS GT 3Hours RACE」は、GTAによる熊本地震の復興支援大会として開催された。観客100名を招待したほか、義援金を募る活動も行われた。国内でも屈指の集客力を持つモータースポーツが、レースの開催を通じて復興支援にも取り組んでいた。
レースを前に、小澤正弘総監督はオートポリスの路面について、こう説明してくれた。「オートポリスは路面が特殊で難しいレースになると思います。尖ったサーフェスに砂が乗って、タイヤへの攻撃性が高いのに、滑りやすいという厄介な路面です。そうしたこともあり、ダンロップさんも協力的な供給を約束してくれました」

タイヤへの負荷が大きい一方で、グリップを得にくい。ドライバーだけでなく、セットアップを担当するエンジニアにとっても悩ましい路面である。さらに、BRZ GT300にはもうひとつ課題があった。
前戦SUGOで結果を出したセットアップは、これまでとは異なる方向性で作り上げたものだった。言い換えれば、過去のデータをそのまま当てはめられるわけではない。SUGOで得た手応えが、オートポリスでも通用するのか。チームにとっては、その確認も重要なテーマになっていたはずだ。
公式練習で探る、マシンとタイヤの組み合わせ
土曜日の朝、公式練習が始まった。
チームはソフトとハード、2種類のタイヤを持ち込み、セットアップを進めていく。まずは山内英輝がコックピットに収まり、マシンのバランスを確認する。走り出すと、路面改修された区間はグリップが高いと伝えてくる。一方、それ以外の路面ではグリップが薄い。路面の状態が均一ではないため、マシン全体のバランスを合わせ込むのも簡単ではない。チームはセットアップを試しながら、タイヤとのマッチングも確認していった。

そこで見えてきたのは、ソフトタイヤのグリップの高さだった。山内はソフトを履いてセットアップを煮詰めると、全体トップとなる1分44秒178をマークした。ただし、速いからといって、すべてが解決したわけではない。
山内は「アンダーが強いけどグリップがあるので、トラクションはかけられるのですが、グリップを失う瞬間も少しあるんです」と話す。井口卓人もアンダーステアが強いという認識は同じだったが、「破綻する瞬間がある」という表現でマシンの挙動を伝えてきた。
グリップがある間は速い。しかし、そこから外れた瞬間にマシンの挙動が乱れる。ドライバーが安心して攻め続けるには、まだ調整が必要な状態だった。
一方、ハードタイヤはグリップが薄い状態が続いた。耐久性を考えればハードを使いたくなるが、グリップが不足すればラップタイムを稼げない。ソフトを選べば速さは期待できるものの、どこまで持つのかがわからない。耐久性を優先するか、それともグリップを優先するか。簡単に答えが出る問題ではなかった。
公式練習でトップタイムを記録したBRZ GT300だが、マシンとタイヤのバランスには改善の余地が残っていた。チームはFCY訓練やサーキットサファリの時間も使い、セットアップの熟成を続けていた。

山内英輝が18回目のポールポジションを獲得

午後の公式予選。Q1のA組を井口卓人が走る。A組、B組それぞれの上位9台がQ2に進出できる。井口はピットアウトのタイミングを遅らせ、ほかのマシンとの間隔を確保してからアタックに入った。
その3周目、1分44秒122をマーク。午前中に山内が記録したタイムを上回り、A組トップでQ2進出を決めた。Q2に向けて、通常なら井口のコメントを参考にセットアップを微調整するところだ。しかし今回は、山内がセット変更を行わない判断をしている。後で聞くと、その理由は明確だった。
「午前中のFPでいろいろ試したんですけど、基本のセットから変更すると、変化はあるんですが、望んでいる方向に変化しないんです。その迷路に入っちゃうので、卓ちゃんのセットのままがいいという判断をしました」
セットアップを変更すれば、何かしらの変化は生まれる。だが、それが望んだ方向に向かうとは限らないというわけだ。あれこれ手を加えた結果、かえって答えが見えなくなることもある。今回は、チームが提案した基本セットを信じることにしたわけだ。
山内はコースインをやや遅らせ、クリアな状況を作ってQ2予選のアタックに入った。すると、セクター1、2、3のすべてで全体ベストを記録。1分42秒677というタイムを叩き出し、ポールポジションを獲得した。
2番手の#2は1分43秒061。BRZ GT300だけが1分42秒台に入る見事なアタックだった。山内は自身が持つ現役最多ポールポジション獲得記録を18回に更新した。記録を伸ばしたことも大きいが、タイヤとマシンのバランスに悩んでいたチームにとって、この速さは決勝に向けた自信にもなったはずだ。
山内はアタックを振り返り、こう話した。
「グリップが抜けないように丁寧にアタックしました。感覚を研ぎ澄ませてグリップを全身で感じ取って。Q1を終わってからGT500の予選があったので、路面にラバーが乗っていたこともあって、朝よりグリップが良かったです」
コメントは冷静だったが、井口と山内がふたりそろって喜ぶ姿を見るのは久しぶりだった気がする。今季のチームは、苦しい時間を過ごしてきた。新たな武器として投入したEG33型エンジンの性能を十分に発揮できず、マシントラブルにも悩まされた。タイヤのバーストもあり、セットアップがタイヤに過大な負荷をかけているのではないかと、基本に立ち返って検証を続けてきた。
それがSUGOで予選2位、決勝3位という結果につながり、オートポリスではポールポジションを獲得した。しかも、予選では他を圧倒する速さを見せたのだ。
ピットには明るい空気が戻っていた。「明日もやったる!」という雰囲気が感じられる。苦労を重ねてきたチームだからこそ、予選で結果を出した喜びも大きかったのだろう。

決勝はソフトタイヤでスタート
予選ではソフトタイヤを選択していた。決勝でもソフトでスタートし、短いスティントで早めにピットインする作戦が考えられる。第2、第3スティントでハードを使う可能性もあるが、問題はそれぞれのタイヤがどこまで持つかだった
小澤総監督は慎重だった。
「ソフトもハードも耐久性のデータがわからないので、最初のスティント次第ですかね」
つまり、実際に走ってみなければ判断できない。グリップが落ち始める周回数を見極め、次にどちらのタイヤを投入するか決める。ライバルの動きやセーフティカーの導入も考慮しなければならない。予選であれだけの速さを見せたBRZ GT300だが、決勝ではタイヤの状態を確認しながら戦うことになる。チームにとっては、速さを発揮することと同じくらい、タイヤをどう使うかが重要なレースだった。
いよいよ決勝レースがスタートする。
序盤は首位をキープ。しかし、グリップが落ち始める。
スタートドライバーは山内英輝。タイヤのライフが読みにくいこともあり、最初のスティントはソフトがどこまで持つのかを見極めることにしたのだろう。つづくスティントも山内が担当し、最後のスティントを井口に託す作戦となった。
ポールポジションのBRZ GT300がGT300クラスの集団を率いてフォーメーションラップに入る。2周のフォーメーションを終え、スタートが切られた。山内はきれいにホールショットを決め、2番手を寄せ付けずに首位をキープした。序盤は0.4〜0.5秒のリードを保って走行する。
ところが、ほどなく山内から無線が入った。
「一気にグリップダウンした」と。
ピットからは「周りと似たような落ち方なので頑張って」と檄が飛ぶ。BRZ GT300だけが急激にグリップを失っているわけではなさそうだ。ライバルも同じような状況なら、まだ勝負はできる。実際、2番手の#2も簡単には接近してこない。GT500クラスのマシンが絡むと、むしろ差が1秒ほどに広がる場面もあった。3番手の#52も、ほぼ同じ車間距離を保っている。
ただし、#2と#52はいずれもブリヂストンタイヤを装着するライバルだ。タイヤの消耗が進んだときに、どちらが粘れるか。そこも気になるところだった。
17周目あたりから、同じダンロップを履く#60のタイムが落ち始める。山内のラップタイムも1分50秒台に落ちていた。そして第2ヘアピンで、#2に首位を奪われる。さらに#52にも先行され、BRZ GT300は3位に後退した。
山内からは「これでいっぱいいっぱい」と、これ以上ペースを上げられないことを伝える無線が入る。一方、首位に立った#2は1分48秒台を記録していた。山内との差は2秒近い。こうなると、ブロックして順位を守るのも難しい。タイヤのグリップが落ち、マシンを速く走らせる余地がなくなっていた。それでも山内は30周以上を走り、最初のスティントをこなしていた。問題は、この先である。
ハードタイヤはグリップが薄く、投入にはためらいがある。チームは32周目に最初のピットインを行い、給油とタイヤ交換を済ませると、予定通りにドライバー交代をせず山内を再びコースへ送り出した。選んだのはソフトタイヤだった。
この時点で総合17位。すでに1回目のピット作業を終えたマシンのなかでは9番手につけていた。しかし、レースはタイヤの消耗だけでなく、ピットインのタイミングによっても展開が変わり始めていた。
セーフティカーで変わる戦況。判断の難しいピット戦略
じつは、21周目に他車のアクシデントによってセーフティカー(SC)が導入されていた。
SC導入中はピットレーンがクローズされるが、閉鎖直前にピットへ入った#777は、このタイミングを活かす展開となった。さらに#5、#4、#32なども早めのピットインでアンダーカットを狙い、SC明けには上位グループを形成していた。
BRZ GT300にとって、このタイミングは難しい判断を迫られる場面だった。21周目はまだソフトタイヤのライフを探っている最中であり、次のスティントにどちらのタイヤを投入するかも決まっていない。万が一、ここでピットに入れたとしても、残りのレースをどう組み立てるかという問題が生じる。ソフトを選べば、グリップがどこまで持つかわからないままだ。ハードを選べば、グリップ不足に悩まされる可能性もあった。
したがって、BRZ GT300は、このSCのタイミングではピットインせず、レースを続けることになった。山内は32周目にピットに入りソフトタイヤに交換という展開になっていたのだ。
しかし、交換したそのソフトタイヤも期待どおりのグリップを発揮しない。走行を続けるうちに、山内から確認の無線が入った。
「これソフトだよね?」
思わず確認したくなるほど、グリップが薄かったのだろう。
気温が下がり、レコードラインにはラバーが乗っている。通常ならグリップが改善してもおかしくない条件だ。しかし、実際にはタイヤと路面の組み合わせがうまくかみ合っていないようだった。予選ではあれほどの速さを見せたタイヤが、決勝では思うように働かない。チームにとっては、タイヤ選択とセットアップの難しさを改めて突きつけられる状況だった。
その後、FCYから再びSCが導入される場面があったが、ここでもBRZ GT300はピットインを見送った。SC中にピットオープンとなった場合、タイヤ交換と給油はできるものの、ドライバー交代はできないルールだ。だから、チームはSC明けのピットインの判断をしたわけだ。
そして53周目、2度目のピットイン。ここで井口卓人に交代した。
ライバルが給油に時間を取られたこともあり、BRZ GT300は4位でコースに復帰した。順位だけを見れば、まだ十分に戦える位置だ。しかし、ここからレースはさらに厳しくなる。
井口卓人を苦しめたグリップ不足
井口がコースに戻ってから10周ほどすると、無線でリヤのグリップがないことを伝えてきた。こうなると、トップを目指すことよりも、いかに順位を落とさずに走り切るかという戦いになる。井口はポジションを守ろうとするが、ラップタイムは下降線をたどる。やがてリヤだけでなく、フロントのグリップも失われていった。
ターンインした瞬間にカウンターステアを当て、滑り出すマシンを立て直す井口。その操作を見ていると、ラリードライバー、いや、D1ドライバーの井口卓人になっていたのだ。
当然、ライバルに対して十分なペースを保つことは難しい。ポジションは徐々に下がっていく。残り周回数を考えれば、まだ30周ほどある。井口は滑るマシンを抑え込みながら、後続をできるだけ抑えようと粘り続けた。しかし、順位は次第に下がっていく。それでも井口はマシンをコース上にとどめ、走行を続けた。
そして83周目。一気に5台に抜かれ、13位まで後退した。
これだけ順位が変われば、接触やコースオフがあったのかと思いたくなる。しかし、井口はコース内を走り続けている。つまり、BRZ GT300はコース上でマシンの挙動を抑えることに苦労していたのだ。井口はステアリングを操作しながら、なんとかマシンをコントロールする。その隙を突くように、ライバルたちが次々と前へ出ていったのだ。
86周目、15位。後続との差は約19秒。なんとかポイントを持ち帰れそうな位置で踏みとどまっていた。残りは5周。あとは走り切るだけ、というところまで来ていた。
しかし、最終ラップに#56に抜かれ、BRZ GT300は16位でチェッカーを受けた。
ところが、10位でゴールした#777にペナルティが科され、2周減算となったため、BRZ GT300は順位をひとつ上げて15位に繰り上がった。獲得ポイントはポールと合わせて2ポイント。ポールポジションからスタートしたレースとしては、厳しい結果となった。
予選で見せた速さを、決勝につなげるために
レース後、小澤総監督は悔しさを滲ませた。
「路面とタイヤ、マシンのセットアップの合わせ込みがうまくできず、ドライバーには辛い展開になってしまった。応援してくれるファンのみなさんには申し訳ない気持ちです」
そして、次戦のもてぎに向けては、こう続けた。
「もてぎはSUGOのように、データがあるので、ここでは優勝するつもりで挑みますので、応援よろしくお願いします」
今回、タイヤのグリップ、ライフにおいて厳しいレースを経験した。予選ではダンロップ勢が速さを見せたものの、決勝では3時間を走り切るうえで、タイヤのグリップをどう維持するかが大きな課題になったわけだ。オートポリス特有の路面、気温の変化、マシンとのマッチング。そうした要素が複雑に絡み合い、予選での速さを決勝の結果につなげることができなかったとも言える。
BRZ GT300にとっても、新しいEG33型エンジンに合わせたセットアップの熟成は続いている。マシンとタイヤ、そして路面。この3つをどう合わせ込むか。今回のレースは、その難しさを改めて突きつけられる結果となった。
それでも、予選で見せた速さは確かなものだった。次戦のもてぎでは、SUGOと同様データを生かせるセットアップができるという。オートポリスで見つかった課題をどう克服するのか。残るレースでの巻き返しに期待したい。
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