魅力的なクルマとは何だ?性能か?デザインか?いろいろあるが「自分に似合う」、という要素もじつは大切な魅力のひとつではないだろうか。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
【編集部のひと言】Skyactiv GEN1.5へ向け邁進中のマツダ、ブランド価値向上にも抜かりない。
ロードスターのファストバックスタイルクーペ「ロードスターRF」がデビューした。2016年ニューヨークでワールドプレミアされ、8月のオートモービルカウンシルで国内発表し、注目されていたモデルだ。
RFはロードスターの派生モデルだが、担う役目はロードスターとは異なる要素を持っている。ロードスターはクルマ好きの多くから支持され、そのドライバビリティの高さも含めファンの心を鷲づかみしているモデルだ。
だが、RFはクルマの性能やデザインだけでなく、オーナーのライフスタイルに似合う、溶け込むモデルという役目を担っているのだ。
何が言いたのか。マツダは以前から「クルマが人生を豊かにする」という表現を使っている。AutoProveはこのロードスターRF がマツダのブランドアイコンに位置付けられていることに注目した。
「マツダのクルマというのは、ここに魅力、特徴が集約されている」あるいは、「こういうクルマがマツダのクルマなのだ!」という主張があり、そうした役目を背負っているのがロードスターRFだと理解したのだ。
■デザイン細部に宿る魅力
ルックスは名称の由来、RF=リトラクタブル ファストバックスタイルで、ハードトップのルーフが電動で開閉する。デティールだけみればロードスターベースでオープンルーフがキャンバスかハードトップか、という違いにしか思えない、というのは早計だ。
ルーフの格納では、Cピラーはそのまま残り、丸裸のオープンカーとはならない。RFの背後にクルマをつけるとドライバーや助手席は覗けない。オープンスタイルでありながら、タルガトップのようになり、プライバシーもあるルックスだ。
電動ルーフ、その開閉には匠の技が仕込まれ、格納には「ほぞ仕口」の世界を金属で再現している瞬間を目にする。作り込まれたリトラクタブルの滑らかな電動ルーフの動き。もちろんスイッチ一つで開閉し、13秒のスピードで全開する。またルーフを閉じた時の室内は静かで、とてもオープンモデルとは思えない静粛さを手に入れることができる。
そこには所有する歓び、精緻な動きをする気持ちよさなど、工芸品の領域に飛び込む世界観も持っている証だ。
走り出せばロードスターの名前のとおり、スポーツカーに相応しい走りができる。ハンドルはロードスターよりもずっしりとした操舵感があり、EPS(電動パワーステアリング)のチューニングも変更している。サスペンションも専用に再チューニングされているという。こうしたことからもブランドアイコンとして、「マツダブランドを表現するモデルとは何か?」ということが研究され、造りこまれているモデルだと感じる。
■独自の世界観の中での選択
「人生を豊かにする」、「ライフスタイルにマッチする」、こうした言葉が開発陣から飛び出す。
クルマ選びにおいて、クルマファーストでチョイスするのが一般的だと思う。見た目のデザイン、走行性能、燃費性能、価格などでクルマ購入を検討する。だが、そこに「自分に似合うのか?」という選択肢を持ったとき、どんなに走行性能が良くても、デザインが良くても、物足りなさを感じるだろう。
ロードスターRFは、自分に似合うか、似合わないか?そうしたセンスからクルマ選びをした時に強味がある、というのがこのクルマの特徴であり魅力だ。ややもすると、消去法でクルマを選び、妥協点を探す、ということがあるかもしれない。しかし、RFは「これもいい」、「あれもいい」というものを目指しているプロダクトなのだ。
走行性能はロードスターという名が示す通り、太鼓判が押され文句ない。そしてお気に入りのルックス。ショーウインドウに映り込む自分の姿。精緻な動きの気持ちよさが味わえるルーフ開閉。自然と所有欲が顔をもたげる。
「持ち物が人を作る」という言葉がある。作家ヘミングウエイはパーカーの万年筆をこよなく愛し、数々の名作を生み出してきた。おそらく、最初は書きやすいペンを探していたのだろう。何十本と試しては期待と失望を繰り返したに違いない。たどり着いたペンはパーカー製の万年筆だった。そこには彼の中での機能とデザインの両立があり、独自の世界観の中で、なくてはならない武器になったのだろう。
わずかな時間ではあるが、その世界観の中で試乗、テストドライブをしてきた。徐々に沸き起こる所有欲や世界観を感じる自分センサーの起動、独特の空気を全身全霊で感じ取る余裕がなければ、評価が難しいモデルだとわかった。テクニカルな詳解は近日中に公開するので、少しお待ちいただきたい。
ロードスターRFは、クルマ選びにおける気の利いた発想ともいえる提案であり、いろいろ挑戦する今のマツダらしい新たなモデルの誕生といえよう。したがって、ロードスターRFの写真を見て、動画を見て、興味がもてたら、ぜひ自分に似合うのか?一考してみるといいだろう。