メルセデス・ベンツ初のCセグメントSUVのGLA(X156型)クラスは2013年4月の上海モーターショーにコンセプトモデルとして出展され、9月のフランクフルト・モーターショーでワールドプレミア、そして2013年末にヨーロッパでの販売が開始された。
◆ポジショニング
今回試乗したGLA 250 4MATIC Sportsはオンロード・スポーツ・ハッチバックといっても良いデザインで、搭載するエンジンは2.0L直噴ターボの4WDである。
GLAは、既存のBクラス、Aクラス、CLAクラスと共通のFFプラットフォームを使用したバリエーションで、このセグメントの拡大路線はさらに続くようだ。GLAは、デザイン的にはAクラスとよく似ているが、よりダイナミックさを強調したボディパネルで、前後フェンダーのガード風のエクステンションやフロント、リヤのスキッドガード風の処理によりSUVデザインを採り入れている。しかし、全体としてはSUV要素の強いデザインではなくスポーティなハッチバックに見える。
メルセデス・ベンツの説明ではGLAはSUVだとしているが、クルマのテイストとしてはクロスオーバー、それもかなり都市型のクロスオーバーとして特化されているように感じる。SUVとしてのアイコンは、十分に高い最低地上高、大径タイヤ、見晴らしの良いコマンドポジションのドライビング・ポジションなどが挙げられるが、GLAに関してはタイヤ外径以外は該当しないからだ。
それにも関わらずSUVとするのは、4MATICモデルの駆動性能は本格的なSUVに引けを取らず、デザインだけのクロスオーバーではないということを訴求したいということのようだ。もちろんこれは実際にオフロードを走ることを想定しているというより、プレミアム性の表現の一つだといえる。
GLAは、BMW X1、アウディQ3のライバルになるが、この3車と比べても最もGLAは都会的であり、クーペ的だといえる。簡単に言えば、GLAの最低地上高は250 4MATICが150mm(Sports は140m)で、X1は190mm、Q3は170mm(S Lineは150mm)。
SUVは地上高の高さが存在理由であることを考えれば、GLAのポジショニングは明らかだ。もっともメルセデスのFF一族は最低地上高が全般に低く、A、Bクラスは120mm以下だから、それに比べればGLAは高められているとは言えるのだが・・・。
とはいえ、低い地上高はメリットもあり、GLAクラスは最も全高が高い「Off-Road」グレードでも全高1535mm、それ以外は1505mm以下なので立体駐車場も問題なく使用できるメリットがある。
試乗車のGLA 250 4MATIC Sportsのタイヤは235/50R18サイズのヨコハマC.ドライブ(ヨーロッパ専用タイヤ)が装着されていた。このタイヤサイズの外径は693mmで、通常の乗用車レベルから言えば大径タイプになっているが、タイヤの性格はドライ、ウエットでのオールラウンドのハイパフォーマンス・タイプで、オンロード指向である。
◆インプレッション
GLAの着座位置は、Aクラスよりは高いが通常のSUVと比較すれば低いポジションとなり、SUV、クロスオーバー的な見通しの良いポジションではない。シートに座ってみるとけっこうタイトで、ドライバー重視のスポーティなクーペ的なポジションであることが実感できる。
リヤ席のスペースも、Cセグメントとしてはやや狭い感じだ。エクステリアを見ても、キャビンのガラスセクションの面積が狭く、サイドウインドウは狭く感じる。またドライバーの視界は、Aピラーが寝ていること、Cピラーがクーペ的な太いデザインになっているため、斜め前方、斜め後方の視界、特に斜め後方は見通しが悪い。ただしリヤビューカメラは装備されている。
室内の仕上げ、質感はプレミアムCセグメントにふさわしいレベルにある。このあたりは後発だけにライバルを十分研究した結果だろう。機能性では、リヤゲートは電動式で任意の位置で停止もできる。その一方で、ボンネットはダンパーなし。これは衝突時のポップアップ・フードを組み込んでいるためらしい。
また、リヤのラゲッジスペースは、このクラスとしては平均的な広さだ。フロアボードを開けると、通常のモデルでは小物入れがあるが、試乗車はオプションのハイエンドオーディオ(ハーマン・カルドン製サラウンドオーディオ)が装備されているため、このボード下のスペースはアンプが占領していた。
GLA 250系の搭載エンジンは2.0Lの270M型のピエゾ/スプレーガイド直噴ターボで、211ps、350Nmというセグメントではトップレベルのパワー、トルクを発生。エンジン特性はあまり回転を上げる必要のないトルク重視型で、扱い易くパワフルだ。
実用上は1500rpmも回っていれば十分というフレキシブルさを持ち、スロットルを踏み込めば力強い加速が得られる。トランスミッションは7G-DCTで、7速に入るのは80km/hあたりから。DCTだが変速はATのように滑らかでシームレス。逆に言えばDCTらしいクイックさやダイレクト感は控えめといった感じだ。これもA、Bクラスから一貫した特徴となっている。
試乗したのはGLA 250 4MATIC Sportsのため、サスペンションはスポーツ・サスペンションで、標準モデルより10mmローダウンされている。そのため最低地上高は140mmで、一般的なセダンの車高と同等だ。走りは、スポーツ仕様にふさわしくダンパーがオーバーダンピング気味な印象だが、ストローク感もありロードホールディングも良好で、当然ながらSUV的な腰高感もないので、ワインディングではスポーツモデルそのものといった感じだ。
ちなみに、2014年秋発売予定の「GLA 250 4MATIC Off-Road」は最低地上高が180mm(標準モデル+30mm)となるだけでなく、サスペンションはコンフォート仕様で、最も乗り心地重視となっているという。
走りのフィーリングは、ボディ、プラットフォームのどっしりとした剛性感、正確な操舵感などはいっそう洗練されており、系列モデルのA、Bクラスより1ランク上のように感じた。これは、やはりシリーズモデルでも後発モデルのほうが細部の作り込み、熟成が行なわれているということなのだろう。
4MATICのシステムは横置きエンジンをベースにしたオンデマンド式で、電子制御多板クラッチはリヤ・デファレンシャルの直前にレイアウトされている。オンロードでは前輪の駆動比率が高く、前輪のスリップが検知されると後輪に駆動トルクを伝達するというのが基本だ。が、走行時には前後のトルク配分は運転状況に合わせ自動的に配分され、前後のトルク配分による安定制御も行なわれる。このためワインディングでもドライビングをアシストする役割も担っている。
また、雪上や砂利道など滑り易い路面ではオフロード・モードを選ぶと、ギヤの選択、スロットル・レスポンスを穏やかにするモードに切り替わり、同時にブレーキ制御LSDも作動する。
試乗会のデモンストレーションではオフロードコースで急坂の登り、モーグル走行で対角2輪がリフトする状況でも駆動力が確保され、走り抜けることができるが、車体のフロアを打たないように車速の調整は慎重さが必要だ。またオフロードでの急坂の下りでの低速自動車速コントロール機能のダウンヒル・スピードレギュレーション(DSR)も装備されており、4MATICは滑り易い路面での機能はフル装備している。ただその分だけ価格は高めで、250 4MATICはCセグメントにして500万円クラスとなる。
いずれにしてもGLAの4MATICはオフロード走行のためというよりは、滑りやすい路面やオンロードのスポーツ走行でのアシストというポジショニングが妥当だろう。そもそもGLAのパッケージングや走りのコンセプトは、オンロード重視で、その強い存在感やスポーティな走りはコンパクト・クロスオーバーにおける新たな提案といえるし、A、Bシリーズ共通の若い世代向けの新たな価値観の提案といった方向性か色濃く感じられる。
日本では2014年5月末に発売されたが、現時点での発売はGLAシリーズの2.0L直噴ターボエンジンを搭載した「250 4MATIC」、「250 4MATIC Sports」の2グレードのみの販売で、最量販モデルと想定されるFF駆動の180(1.6L直噴ターボ)、250 4MATIC のOff-Roadグレード、スーパーパフォーマンスモデルのGLA 45 AMG 4MATICは今秋以降の発売予定となっている。