2013年5月に発表されたEクラスに試乗してきた。今回のトピックはエクステリアデザインの変更とエンジン換装、そしてアクティブセーフティなどの安全機能性能向上というポイントがあった。
メルセデス・ベンツ日本の資料は「新型Eクラス」として発表されているが、いわゆるW212型のビッグマイナーチェンジである。ただし、2000箇所にも及ぶ変更が行われ、また、エンジンも変わり、エクステリアデザインも大きく変更したことから、まさに新型と呼ぶに相応しいモデルチェンジと言える。
モデルラインアップではE250系には2.0Lの直列4気筒(M274型)ターボを搭載。E300、350系にはこれまでの3.5L、V型6気筒(M276型)自然吸気エンジンを、そしてE400のハイブリッドにはM276型にモーターを組み合わせたパワーユニットが搭載されている。また、E350BlueTECの3.0Lディーゼルターボも制御の見直しが行われ、トルクアップとともに燃費も大幅に向上している。そして上級モデルにE550の5.0L、V型8気筒ターボ(M278型)があり、トップグレードにはE63AMGの5.5L、V型8気筒ツインターボ(M157型)がラインアップする。また、いずれもメルセデス・ベンツが開発した7速ATを組み合わせている。
E250系に搭載する2.0Lターボは希薄燃焼(リーンバーン)運転をするエンジンで、環境対応のコンベンショナル路線の新型エンジンと言える。ピエゾインジェクターによるスプレーガイドタイプ、マルチ点火、大量EGRなどを備え成層希薄燃焼を行なうのが特徴だ。燃費は15.5km/L、211ps/350Nmというスペックで、BMWにはすでにリーンバーン運転をする2.0L・4気筒ターボがあり、約1年遅れでこのタイプを投入してきたことになる。
この2.0Lターボというパワーユニットはプレミアムモデルに搭載する流れが多くなり、BMWのほかにもフォード・エコブーストを搭載するジャガーXJ、XF、レンジローバーイヴォーク、また、GMのエコテックエンジンをキャデラックATSに積んでいる。もちろんアウディにはTFSI2.0Lターボがあり、多くのモデルに搭載済みだ。ちなみにCクラスには同じ直噴4気筒(M271型)ターボを搭載するが排気量が1.8Lで、またA250 SPORTに搭載するエンジンは同じ2.0Lターボなのだが型式270M20型で、EクラスにはM274型が搭載されており型式が異なっている。
Eクラスの2.0Lターボエンジンの350Nmというトルクには当然不満はなく、低速から扱いやすい。馬力という点ではGMのエコテックがもっともパワーを出していて276ps、BMW328iは245ps、ジャガーXJが240psでありメルセデスの211psはやや控えめなスペックだ。
さて、この2.0Lターボのフィールだが、7速ATとのマッチングが良く滑らかで静かだ。多段化するトランスミッションは、このようなダウンサイジングしたエンジンの特性を最大限に引き出すために必要不可欠なアイテムとなっている。そのため、Eクラスらしい静粛性、メルセデス・ベンツらしい乗り心地も確保されており、E250の595万円はコストパフォーマンスに優れたモデルと言えるだろう。なお、今回のMCでフロントマスクに装着される大型のスリーポインテッドスターは、このE250には装着されず、E250アバンギャルドからの装備となる。
Eクラス初となるハイブリッドモデル、E400ハイブリッドは、60度V6型3.5Lエンジンにモーターを組み合わせたモデルで、搭載するエンジンは従来からあるNAエンジンだ。低負荷時にはリーンバーン運転を行い、出力は306ps/370Nmというスペックの環境対応エンジンである。それにモジュール化されたハイブリッドシステムを組み合わせ、モーターの出力は20kw(約27ps)、トルクは250Nm という出力で、合計で610Nm という大トルクになっている。バッテリーはリチウムイオンを搭載しているが、ゴルフのキャディバッグ3本を積めるガソリンモデルと同レベルのトランクスペースは確保されている(ステーションワゴンにハイブリッドの設定ナシ)。なおこのE400ハイブリッドはアメリカ、中国、日本向けとされ、ヨーロッパ市場ではディーゼル・ハイブリッドとなっている。
ハイブリッドモデルの7G-tronic(7速AT)は、AMGモデルと同じようにトルクコンバーターを持たず、湿式多板クラッチを採用している。そのためエンジン、モーターが一切の駆動をしないで走行を続けるセーリング走行を可能にしている。
これらのスペック、技術から分かるように、ハイブリッド=燃費スペシャルという国産車のパターンではなく、走行性能を重視しパワーの補完をしながら省燃費となる上級モデルという意味を持っている。したがって試乗をしても、エネルギーフローに興味を持ち、燃費を気にしながら走行する気分にはならず、本来の姿である滑らかな走行、パワフルな走行を自然に味わうことができつつ、省燃費であるエグゼクティブなモデルという印象だった。
そして、もうひとつ大きな変貌を遂げたのは安全装備の充実である。これまでのレーダーセーフティパッケージの進化版と説明しているが、ステレオカメラとマルチモードレーダーセンサーの追加により、さまざまなシーンで安全性が高まっている。これらの総称として「インテリジェントドライブ」としている。
これまでのレーダーセンサーでは識別できなかった物体を検知できるようになったことが、最大のトピックで、具体的には人を捉える精度の向上や飛び出しに対する衝突回避、軽減の精度向上などである。ちなみに、短距離レーダーが従来の24GHzから25GHzへ変更され、レーダー干渉していた特定地域での自動リセットが無くなっている。
これまでのレーダーでは、人を検知することが難しかった。つまり人体は水分が多いため、そもそもレーダー波を反射せず障害物として認識されなかったのだ。そのため、「ぶつからない」のはクルマや鉄板の構造物などレーダーを反射しやすい金属製の物体であった。今回、そのレーダーに加えステレオカメラを装備することで物体を3次元の映像で捉え、人のカタチを判別できるようになったのだ。
さて実際の走行では、最初にディストリニック・プラスを体験させてもらった。これは先行車を認識して速度に応じた車間距離を維持。その車間距離は任意の無段階で設定が可能だ。先行車が停止した場合は自車も停止する。再発進はアクセルを少し踏むか、ディストロニック・プラスを設定するレバーを引くかすれば、再スタートする。また、先行車を蛇行させるテストも行ったが、先行車同様に自動でハンドル操作が行なわれ自車も蛇行できた。これらの制御はステレオカメラによる映像解析と77GHz、25GHzのレーダーがそれぞれ検知を行なっている。
これら2種類のレーダーとステレオカメラは飛び出しにも対応する。飛び出した人やモノに対し、警告が行われ、ドライバーのブレーキが弱い場合はBASプラス機能が働き、ブレーキ踏力をアシストする。また、ドライバーが警告に反応しない場合は、PRE SAFEブレーキ機能で緊急自動ブレーキが作動し、停止あるいは衝突被害を大幅に軽減する。
PRE SAFEブレーキは同時にシートベルトの巻上げや助手席のシートポジション修正も瞬時に行ない、乗員の安全に寄与する機能もある。乗員の保護という部分ではリヤCPAという機能も加わった。
このリヤCPAとは、自車が停止しているとき、後方からの車輌の接近速度、車間距離により衝突の危険を感知した場合、自車のリヤコンビネーションランプが素早く点滅し後方車に警告。と同時に自車も自動的にブレーキ圧を高め追突された際に起こる玉突きなどの二次被害を軽減する機能が働く。さらに状況次第で、シートベルトやネックアクティブヘッドレストも作動させ、むち打ち症状の危険を低減することができる。
その他にも、アクティブレーンキープアシストやアクティブブラインドスポットアシスト、アクティブハイビームアシストプラス、アクティブパーキングアシストの機能もこのインテリジェントドライブには含まれている。機能としてレーンキープアシストは車線逸脱の危険を検知した際、ステアリングに振動を加えドライバーに警告し、それでも回避されない場合はブレーキをかけて車線内に戻す働きをする。ブラインドスポットアシストも同様に、車線変更の際、後斜めにいる車輌に衝突しそうな場合に、ドライバーへの警告、そしてブレーキにより車線内に戻す働きをする。ハイビームはステレオカメラによって、先行車や対向車にハイビームがあたらないように照射範囲を制御し、視界を確保する。
そしてパーキングアシストは、縦列、並列ともにサポートが可能で、ドライバーはシフトチェンジ(前進、後進)とアクセル操作だけで駐車できる。この機能が働いている状態ではアクセルを思いっきり踏み込んでも、制御され、クルマは反応せず、ペダル踏み間違い事故防止に役立つ。自動で切り返しも行なうので、狭い場所での駐車でも問題なく停めることが可能になる。
これらのアクティブセーフティは間もなく発売されるSクラスに装備される機能だが、Eクラスに先行して装備され、デビューしたことになる。
これら大きな変更を行なった「新型Eクラス」はエクステリアも大幅に変更している。とりわけフロント周りのデザインは刷新され、存在感の強い顔に変わっている。ルームミラーに映れば道を譲りたくなる威圧感あるフェイスへと変わり、これまでの大人しい印象からややアグレッシブなモデルへと印象は変わった。そして、Eクラスに相応しい上質なインテリア、走行性能、静粛性もあり、揺るぎないエグゼクティブなプレミアムセダン/ステーションワゴンと言えるだろう。