ZF レースカーBMW M235 Racingに8速ATを搭載

雑誌に載らない話vol98

ZF 8速AT BMW M235i Racing
BMW M235iレーシングに搭載され、耐久レースに出場。パドルかセレクターで変速操作を行う

2014年9月22日、ZF社は耐久レースでドライバーの性能への要求を満足させる8速ATを開発。これまでは不可能だと思われたトルコン+ステップギヤ式ATのレース用トランスミッションをBMW M235i Racingに搭載したと発表した。

BMW M235i Racingは、プライベートチームやBMWモータースポーツ・ジュニア・プログラム向けに開発されたレーシングカーだ。搭載される8速ATは市販車に搭載されている8HP型。このATは現行のBMW各シリーズをはじめ、数100万台におよぶ量産車に採用されている実績があり、レーシングカーへの搭載にあたり、わずかな改造が行なわれている程度だという。なお8HPは2014年6月、世界で最も厳しい耐久レースのひとつである、ニュルブルクリンク24時間レースにも出場し完走している。

ZF社はBMWからの要求で、エントリーレベルのレーシング車両に、パドルシフト操作が可能で、信頼性の高いトランスミッションを供給することになったが、その開発にあたりZF社は、新しいレースカー用のトランスミッションを一から開発するのではなく、既存の8速AT(8HP)をベースとして行なうという方針を採用した。

ZF 8HP  BMW 235iレーシング
市販モデルにも多数搭載されている8速AT(8HP型)

「人間が知覚できないレベルのレスポンスタイム、そして極めて高い信頼性を備えた8HPは、すでに世界各地で量産実績があり、今の時代の乗用車向けATのベンチマークだという評価を得ています」と、ZFのアプリケーション・エンジニアでありベテランのレーシングドライバーでもある、ロベルト・シュメルツァーは述べている。開発チームがこの開発にかけた時間はわずか6カ月程度だという。

「最初に、BMWでシミュレーションとドライビングテストを徹底的に行なったところ、8HPのメカニズム、油圧システム、エレクトロニクスは、レース中に生じる非常に大きな縦、横の加速力にも対応できることが分かりました」とシュメルツァーは語る。「ただし、トランスミッション制御ユニットの調整は行ないました」とも付け加える。

公道を走る乗用車向け製品の開発とは大きく異なり、レース用8HPトランスミッションを扱うZFのエンジニアは運動性能だけに特化し、ソフトウェアのプログラムにより、各ギヤチェンジはも最高レベルの速さで行なわれるようにしている。当然ながら市販車向け8HPのようなコンフォートモードやエコモードへの切り替えなども不要としている。自動変速モードもなしで、BMW M235i Racingは、ステアリングホイールのパドルまたはセレクターレバーでドライバーが自ら操作した時しかギヤチェンジが行なわれない。そして「回転数が6000 rpmをわずかに下回れば、ドライバー操作によってシフトダウンができる様にプログラムされています」とシュメルツァーは語る。

ZFのレース用ATは、マニュアル・トランスミッションよりも安全性に優れている。ギヤのミスシフトがないため、エンジンやトランスミッションにダメージを与えたり、駆動輪をロックさせたりすることがないのだ。従来のMTで8HPのシフトスピードを実現しようとすると、トランスミッションの寿命が短くなると想定される。

また8HPは、クラッチやシフトノブによるギヤチェンジ操作がないので、両手をハンドルに置いた状態でドライビングに集中でき、レース中の激しい駆け引きやベストタイムを競う中でのドライバーの負担が軽減される。「このカテゴリーのドライバーはプロのレーサーではないことが多いので、ドライビングに集中できることは非常に重要なのです。耐久レースでは、ドライバーは最低でも4時間は集中力を持続させなければなりませんから」とシュメルツァーは語る。

ZF 8HP  BMW 235iレーシング
ニュルブルクリンクで開催されるVLN耐久レースに出場したBMW 235iレーシング

BMW社は「BMW M235i Racingカップ」の名称で、プライベートチーム向けに独自のシリーズを立ち上げた。これに加えて、才能ある若手ドライバーの育成を目的としたBMWモータースポーツ・ジュニア・プログラムも実施されている。このプログラムの一環として、4人の若手ドライバーで構成されるチームが235i Racing に乗り、VLN耐久レースに2回とニュルブルクリンク24時間レースに参加した。

24時間レースでは8HPは、そのポテンシャルを十分に発揮し、レース距離3800kmでATのトラブルは皆無だったと、BMWのワークスドライバー兼チーム顧問のディルク・アドルフ氏は語っている。

ZF社ではこれまでもレース用トランスミッションの最適化に取り組んできたが、「1年後を目途に、生産台数が少ないメーカーの高級ロードスポーツカーや、量産車ベースのカスタマー向けレース車両にも8HPを提供していく計画です」と、ZFレースエンジニアリング社の開発エンジニア、ペーター・ライポルト氏は語っている。

 

ZF AG公式サイト

COTY
ページのトップに戻る