【ハノーバー商用車ショー(IAA CV)2018 見聞録】
Automobile Study
前回、商用車の間でも電動化、自動運転、コネクテッドの波は押し寄せていて、実用化レベルは乗用車よりも先になる技術も多くあるだろうというレポートをしている。今回はその具体的な動きは何か?気になるTier1(ティア ワン)、BOSCH、ZF、Valeo、そしてEVバスで旋風を起こしているBYDのプレスカンファレンスで何を語ったのかをお伝えしよう。
Tier1に共通する課題は、環境、人、そして道路に関する課題というのが、各社共通の認識で、それらの課題に対し、どのようなソリューションを提供してくのか?というのがポイントになる。また、それらの課題の捉え方も各社の思考があるわけで、さまざまな角度からアプローチが始まっている。その結果、環境汚染がなくなり、交通事故はゼロ、そして働きやすく、安心、安全な世界になるというのが理想の形でもあるわけだ。
BOSCH ボッシュ
さて、Tier1のナンバー1であるBOSCHのプレゼンテーションは、モビリティソリューション事業統括部門長のロルフ・ブーランダー氏が行なった。
現在、輸送大型車輌の中心はディーゼルエンジンである。これは北米を除き世界中で共通。2025年の時点でボッシュは、80~90%がディーゼルであり、2030年で新車の4台に1台(中国では約3台に1台)が電動化されているだろうと予測している。さらに、再生エネルギーによる電力、合成燃料などの代替燃料を生産するという選択肢はもはや排除できないとブーランダー氏は言っている。
そうした中でのe-モビリティでは、電動化されたポートフォリオの準備をしている。興味深いのはトレーラーに組み込むことのできる後付けe-モビリティで、トラックヘッドなしでトレーラー部が自分で移動できるようになるものだ。また、40トントラック向けの燃料電池パワートレーン開発では、アメリカのスタートアップ企業、Nikola Motor Companyと提携して開発している。一方、中国ではエンジンメーカーのWeichai Power(イ柴動力)と戦略的パートナーシップも結んでおり、開発は加速している。
自動運転ではハブステーション間でのドライバーのいない自動化された移動を想定している。これは日本でも共通している、ドライバー不足の問題解決に役立つとしてる。アメリカでは、すでに5万人のドライバー不足が起こっているとも言われているのだ。
また隊列走行については、法律、技術、インフラがより厳格な要件を満たさなくては実現が難しく、EUの主要な実験研究プロジェクトを進めているところだ、という説明だった。
ネットワークに関して、今日、欧州とアメリカのすべての新車はすでにネットワーク化ができているので、高速道路から玄関までネットワーク化された物流管理ソリューションを実現するとしている。もちろん、新規事業開拓のためのテレマティクスプラットフォームをトラックメーカーに提供していくとしている。
Valeo ヴァレオ
ValeoのプレゼンテーションはBOSCHやZFなどと異なり、より具体的なポートフォリオ、ソリューションの説明が中心だった。なかでも輸送におけるラストマイル、つまり、都市内での移動で要求される事故、エミッション、効率などに対応するソリューションの訴求が中心だった。
目新しいところではアウディA8に搭載したLiDAR(SCALAスカラ)の次期モデルで、ミラー回転式ではなくソリッドステート式のマルチビーム固定式LiDAR(ライダー)を展示していた。このLiDARにはセルフクリーニング機能があり、どのような気象条件でも動作を円滑にするための機能ということになる。
また、ドライバーを監視するモニタリングシステムも公開していた。ドライバーの瞳孔、目の位置、頭の動きなどを監視し、それまでの走行データと照らし合わせることで、必要に応じて警告するといったものだ。
Valeoの戦略の中心となるのは、大きく分けて2つでCO2削減と自動運転。それぞれに求められるソリューションを提供するというスタンスでのプレゼンテーションだった。
ZF ゼット エフ
ZFのイノベーションは「see think act」の用語で説明され、乗用、商用に限らず、データの検知、アルゴリズム、そして動かすというプロセス全体を取りまとめることができるのがZFの強味と言える部分だ。
そしてZFはBOSCH同様、物流全体を俯瞰したプレゼンテーションで、新CEOとなったウルフ=へニング・シャイダー氏(Wolf Henning Scheider)がプレゼンテーションを行なった。
ZFは「Smart Logistics」というアプローチで説明している。キーとなるポイントは、物流のパフォーマンスとクリーン化であり、排出ガスのクリーンと都市部の交通渋滞などを和らげていくということだ。
そのためには3つのコア技術があるという。ひとつはラストマイルに革命を起こすことで、電動化と自動化された宅配、また、限られたエリア、工場の敷地や建設現場、採掘現場、埠頭、空港、大規模農業エリアなどでの無人自動運転であると。そして、2つ目として、大型トラックを含むすべての商用車に電気駆動ソリューションを提供していくことだという。
また、既存のプラットフォーム、つまり都市バスの電化を促進することは、実用的で、理にかなったもので、いわゆるsmart logisticsというわけだ。賢く、クリーンであるべきだと。そのための具体的なソリューションも展示されており、CeTraxは既存のアクスルにボルトオンできるシステムだ。またAxTrax AVEはリヤアクスルにモーターが搭載され、低床化が可能で、トローリーでもBEVでもそしてハイブリッドにも対応できるというものだ。
そして3つ目に、これは車両の内と外で、自律走行機能とインテリジェントなコネクティビティで牽引していくことだ。ZFでは具体的に「Innovation Van」というコンセプトモデルがあり、このイノベーション・バンは電動化され、宅配業務を効率的にクリーンに、そして正確に集配できる。そしてポイントとなるのが、ユーザーと繋がることで希望通りに宅配できる仕組みを作るというわけだ。もちろん、このシステムには高度なAIが組み込まれているのは言うまでもないが。
一方で、5年~7年後に100万台規模に成長するとみられている小型自動運転モビリティもロジスティックス(物流)には欠かせないポートフォリオになったとしている。ZFの「e.Go moverイー ゴー ムーバー)」は世界中の都市間での問題の多くを解決または排除することができるソリューションだと位置付けている。
これまで説明してきた革命的な技術開発には、Eモビリティと自動運転の分野に今後5年間で120億ユーロの投資もするということで、将来のモビリティに対する確かな自信を感じさせるプレゼンテーションでもあった。
ここで触れたInnovation Vanやe.GO mover、そしてコネクテッドの展望などについてはインタビューができたので、別記事で紹介する。
BYD ビー ワイ ディー(比亜迪股份有限公司)
こうしたシステムサプライヤーの提供技術を受けつつ、トラック、バスメーカーも未来のロジスティックスに力を入れているのは言うまでもないが、注目は中国のBYDだ。日本でも京都でBYDの電気バス(K9型)が走行しているが、そのプレゼンテーションは刺激的な言葉が多かった。
2013年に最初のe-BUSを発売したが、現在欧州では600台走行し、世界中では3万5000台を超えるe-BUSが走行している。プレゼンテーションはその多くが実績の説明だっただが、かなり刺激を受けるものだった。
2017年4月にハンガリーに生産工場を稼働させ、オランダには12mの連接バスを納車している。またフランスにも工場を計画しておりe-BUSの最終組み立て工場を予定しているという。そして英国ではWデッカーのe-BUS受注があり、また、イングランド、スコットランド、ウェールズ地方からの受注もあり、併せて英国国内では、2018年7月末までに228台の受注があったという。
BYDはすでに欧州で20%のシェアを持ち、特に北欧、スカンジナビアでは2018年に100台以上の受注を受けたという。また南欧州でもその人気は高まり、ポルトガルでも初の受注があり、8つの都市で12mのバスの受注や、イタリアで60台のe-BUSが走行しているという。
またドイツに対しては、電気バスの革命が始まったばかりだという、上から目線のプレゼンテーションも興味深い。
このように公共交通での電動化は加速しており、2020年東京オリンピックでの都バスは、FCVバスを、100台以上の走行というのを目標にしているが、1台1億円のFCVに対してBYDのバスは6500万円程度と言われている。どちらも水素ステーションや充電設備が必要であり、設備投資はかなり必要となるためなのか、都バスは「ディーゼル」という選択肢となった。
しかしながら、路線バスは走行場所が決まっているため、EV化はしやすいはずだ。現在のところディーゼルを中心に、FCVを導入という東京都だが、世界中から来る観光客に、ディーゼルバスはどのように映るのだろうか。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>