2014年5月21日~23日にパシフィコ横浜で開催された「人とクルマのテクノロジー展」の様々なフォーラムやシンポジウム、各社が出展したブースから気になったものを紹介しよう。
■コンティネンタル
コンティネンタルは、最近の同社のドライバー支援システムの開発・事業戦略「ビジョン・ゼロ(交通事故ゼロ)」の説明会を開催した。
説明会では、シャシー&セーフティ部門の最高責任者・兼取締役のフランク・ヨーダン氏が、改めてドライバー支援システムの開発・実用化から自動運転までのロードマップを説明した。そして、2016年以降に登場する高度ドライバー支援システムの実現により、自動運転への新たな次元が展開すると述べた。さらに2016年頃には世界各国の安全基準要件としてドライバー支援システムの義務化が推進されることも、システムの普及を加速させる要因となると見ている。
コンティネンタルは、すでにドライバー支援システムに関する製品をフルラインアップしているが、合わせて高度ドライバー支援システムを実現するための製品もラインアップしている。360度サラウンドビューカメラ、高機能リヤカメラ、ドアミラーを不要にするサイドミラーカメラなどがそれに相当する。
またコンティネンタルは高度ドライバー支援システム、自動運転のためにに不可欠な存在として、インターネットとクルマとの連携を位置付けている。つまり、ビッグデータを格納したサーバー→クラウド→車両で交通情報を受信することが安全性を高める上で重要で、クルマはインターネットの一部となると断言している。このため、コンティネンタルは、シスコ、IBMなどとビッグデータ構築のための業務提携を始動させているのだ。
続いて、コンティネンタル・ジャパンのクリストフ・ハゲドーン社長が同社が2013年に世界の市場で行なったドライバー意識調査「モビリティ・スタディ2013」の結果を発表した。これは、ドイツ、中国、アメリカ、日本の各1000名のドライバーアンケートや各国有識者のインタビュー、さらに南米やフランス、インドのドライバーインタビューによる定性的調査の要素を加えてまとめた、運転に関する意識調査だ。
日本人ドライバーは各国の中で最も運転中に、特に市街地や混雑した道路でストレスを受けており、従ってドライバー支援システムや将来の自動運転に対する期待度が最も高いという興味深い結果が得られたという。
ハゲドーン社長は「日本のドライバーのニーズはこの先数年、ドライバー支援システム発展の可能性と完全に一致しています」と語った。日本のドライバーの84%が先進ドライバー支援システムが役立つと考え、緊急自動ブレーキ、歩行者検知システム、ESCなどの技術に対する認知、理解もされているという。そして、先進的なドライバー支援システムが受け入れられれば、将来的な自動運転も受け入れられるという見方を示している。
コンティネンタルのブースでは、日本初公開となったのがマウス・ドライビングシステムだ。正式名称は「エルゴノミック多機能コントロールシステム」で、農業用車両、建設用車両、特殊車両のためにすでに実用化されているものだ。ディスプレイ画面を見ながらマウスとジョイスティックで自動運転も含めて設定できるもので、高度ドライバー支援システムや自動運転では、こうした操作デバイスも十分想定される。
また2016年にはヨーロッパの小型車で採用が始まる48V式スターター/ジェネレーターによるマイルドハイブリッドシステムも展示された。
コンティネンタルは、2014年9月頃には自動運転実験車を日本で初披露すると発表した。同社はアメリカではすでに公道実験のためのナンバープレートを取得し、公道で走行を繰り返しているが、もしかしたら日本でも・・・。
■ZF
ZFのブースは「人とクルマのテクノロジー展」が開催されている3日間すべてブースで技術プレゼンテーションが行なわれ、同時に学術講演会での講演も行なわれた。今回の技術プレゼンテーションでは、まずハイブリッドシステムの紹介があった。同社は、ドイツ車のハイブリッドシステムのリーダーであり、同社の特徴としてトランスミッションとモーター、クラッチをモジュラー化し、各自動車メーカーに供給している。
2009年にはエンジン後端に設置したモーター/ジェネレーターによるマイルドハブリッドをメルセデスとBMWに供給することからスタートし、2012年からは8速AT内部にモーター、クラッチを設置したハイブリッドシステムをメルセデス、BMW、アウディ、レンジローバーに供給している。
ZFがハイブリッドシステムを8速ATに組み込み、自動車メーカーはそのキャリブレーションを担当するという分業により迅速に実現している。
最新のタイプとしては、北米仕様のフォルクスワーゲン・ジェッタ用、つまりFFトランスミッション用のハイブリッドシステムを供給している。この場合はVW社の7速DSGに極めて薄くコンパクトに設計したハイブリッドユニットを組み込んでいる。
2015年からは8速ATにプラグインハイブリッドを組み込んだ、より強力なハイブリッドを市場に出すという。このシステムはモーターがより強力になっているため、8速ATのモーターのハウジング部が30mm延長されている。一方ポルシェ918 Eスパイダー用の縦置きPDKトランスミッション用のプラグインハイブリッドシステムは市販化された。このシステムはさらに大型SUVにも搭載されるという。
日本初公開となったのが「エレクトリック・ツイストビーム」だ。ツイストビーム式リヤサスペンションということは小型車向けで、EV、ハイブリッド車用の駆動モーターを備えたツイストビームの提案となっている。特徴は左右独立の2モーター式にしていることで、最高出力80kWのモーター×2を使用。これはシングルモーター+左右のドライブシャフト方式より軽量で、しかも左右の駆動力を自在に制御できるメリットもある。減速比を大きくしてモータを小型軽量し、インホイールモーター式よりはるかに軽量にまとめている。
なお展示されたツイストビームには、なんと繊維強化プラスチック製のコイルスプリングが装着されていた。このプラスチック製コイルスプリングもすでに実用化の段階にあるという。ZFはすでに樹脂製リーフスプリングを採用した軽量リヤサスペンションの提案も行なっているが、スプリングの樹脂化の実用化は近いといえる。
■シェフラー
シェフタラーのパーツが多く使用されているフォード製の1.0Lエコブースト・エンジンのカットモデルが展示された。また、このエンジンに使用されている最新世代のベルトドライブinオイルも展示。
ベルトそのものはコンチテック製だが、シェフラーはアイドラー、テンショナー類を供給しているのだ。この油冷式のコッグドベルトは30万kmの寿命を持ち、現在の主流であるチェーンドライブにとって代わる存在だ。
■ボッシュ
多岐にわたるボッシュ製品の展示の中で、2016年にキックオフする48Vシステムが注目される。ボッシュは、ベルトドライブだけではなく、トランスミッション搭載、クランクシャフト直結にモーター/ジェネレーターを配置するなど様々なマイルド・ハイブリッドのバリエーションの展開を想定し、汎用性を高めている。
また、ドイツ・ツーリングカーレース(DTM)標準で、2014年から日本のGT500レースでも採用して部品となっているボッシュ製のECU/データロガーシステムも展示された。
■ティッセンクルップ
ティッセンクルップが推進するマンガンボロン鋼を含有する最高1.9GPaに達するホットプレス用鋼板のBピラー、冷間プレス用の1.0GPa級のDP鋼板を出展。また電動ステアリングでは、メルセデスの上級クラス、BMWの一部に採用されているベルト駆動式ラックアシストEPSも展示された。
■神戸製鋼所
新日鉄住金とほぼ同時に開発された、冷間プレスが可能な1.2GPa級の超々高張力鋼板を展示。このため、日産の新型スカイラインは1.2GPaの冷間プレス用鋼板は2社から供給されている。また、レクサスISのバンパーフレームに採用されている、ビームとクラッシュボックスの電磁コイルを使用した一体プレス接合製品も出展されていた。
■東レ
素材メーカーも多数出展しているが、東レはオールカーボン製のモノコックによるEVロードスター「TEEWAVE AR1」を出展し、カーボン(CFRP)の各種の成形法をアピール。RTMに加え、より成形時間が短い熱可塑CFRP、熱硬化CFRPなどをプレゼンテーションしている。
■JATCO
新開発の横置き搭載用のCVTにハイブリッドモジュールを組み込んだ「CVT8」を出展。このハイブリッドシステムは日産とJATCOの共同開発によるもので、世界初の乾式多板クラッチを2セット採用したハイブリッド+CVTトランスミッションで、モーターによる駆動、回生、エンジン走行を自在に制御できる。
■明電舎
開発中のEV、ハイブリッド用の新型モーター/インバーター一体型ユニット、100kWという大出力モーターを制御するインバーターを出展。いずれも次世代のEVに採用されると予想される。
■デンソー
点火プラグでは「気流誘導・高着火スパークプラグ」が出展された。現在のエンジンは大量EGR、高タンブル流、さらにリーンバーンなどにより低中負荷域では点火プラグにより着火性能が厳しくなっているが、この新開発の点火プラグは接地電極により、影響を受ける混合気の流れのよどみを解消するため、電極の側部に気流誘導板を追加し、電極の放電部に混合気流を流すことで着火性能を高めるというものだ。
■ヴァレオ
ヴァレオ社はこれまでにレーザースキャナーの専門メーカーであるドイツのIBEO社と提携し、レーザースキャナーを使用したドライバー支援システムを開発・提案しているが、次世代センサーとして2次元レーザースキャナーが出展された。このセンサーを活用することで、高性能なクルーズコントロール、衝突回避・軽減自動ブレーキや、無人の自動パーキングシステムなどが可能になる。
もちろん従来からある短距離向きのレーザーレーダーとは異なり、より大出力で、認識距離は200m以上、左右方向は150度という性能を備え、しかもガードレール、歩行者、自転車、車両、建造物、樹木などを認識することができる。つまりカメラとミリ波レーダーの両方の特性を持っているのだ。なおレーザー光は、反射ミラーを回転させることで広い角度に照射できるようになっている。
またヴァレオは、近日中に日本車にも採用される新開発のクーラント流量制御バルブ、水冷エアコンコンデンサー、電動スーパーチャージャーなども展示された。
■【自動車安全シンポジウム】
「自動車安全シンポジウム」では日本、欧州、北米で抱える問題を提起し、国際協力できるものは、それぞれが協力しあうことが必要であるという観点から、パネルディスカッションが行なわれた。出席者は国土交通省自動車局から久保田秀暢氏、日本自動車工業会から高橋信彦氏、日本自動車研究所から永井正夫氏、当Webでもコラムを持つ国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏、米国の国土交通省に相当する立場からは、ナサニエル・ベース氏、欧州からはジョナサン・レンダース氏、そしてNHK解説委員の室山哲也氏の司会で開催された。
テーマとしては事故が起こった時の衝撃緩和技術と、事故を起こさないための技術というテーマに対し、それぞれの立場から意見が出され、自動車の車両安全対策と国際基準調和について討論された。
特に自動運転に対しては無人運転と高度運転支援技術があり、現在、国を代表する側としては無人運転を考えておらす、また事故が起きた時の責任の所在が明確でないため、遠い先の技術であるとしている。そして高度運転支援技術ではドライバーの責任であるという確認があった。そして全員が国際調和の重要性を訴え終了した。
■【車体の最新技術フォーラム】
前年に続き2回目となる「車体の最新技術」フォーラム」が開催された。今回は、「レクサスISの車体技術」(トヨタ:匂坂享史氏、久田幸平氏)、新型スカイラインの車体技術(日産:工藤大輔氏、勝倉誠人氏、「新型レヴォーグの車体技術」(富士重:白昌鎬氏、小野江孝裕氏)と話題のクルマを対象にした3講演が行なわれた。
レクサスISでは、話題のレーザースクリュー溶接の概要とメリット、それ以外にルーフのレーザーはんだ溶接、ボディの接着接合、バンパーレインフォースの電磁コイルを使用したプレス接合などが紹介された。
スカイラインのボディでは、1.2GPaの超々高張力鋼板を冷間プレスで成形するにあたり、開発されたプレス技術や溶接技術、その他に、アルミ材を使用した軽量化、生産時でのボディアウターパネルの隙間縮小技術などが紹介された。
新型レヴォーグは、プラットフォームを完全モジュール化したこと、プラットフォームは従来より板厚をアップして剛性を高め、さらに低重心化させたこと、アッパーボディは軽量化を行なったことなどが紹介された。
さらに振動騒音の低減、ハンドリング性能、対歩行者保護性能の向上などボディを中心とした全般的な性能向上、生産時の片面スポット溶接技術が紹介された。