この記事は2020年9月4日に有料配信したものを無料公開したものです。
スバルの新型レヴォーグは大きな注目を浴びている。この新型に投入された新技術は多種多様ですべての詳細情報が公表されているわけではない。今回は、新開発のCB18型エンジンにフォーカスを当ててみた。
新開発の水平対向4気筒リーンバーンエンジンの企画
スバルは約5年ほど前に、新世代のエンジンの開発に着手している。社会のトレンドを見据え、高い環境性能を狙い、同時にスバルとしての走りを支えるエンジンとして企画されている。
この新型エンジンは、従来のFB16型の後継エンジンとして、まったく白紙からの開発となったが、掲げられた目標はレギュラーガソリンで300Nmのトルクを確保しつつ、最高熱効率を40%程度にするというきわめて厳しいものであった。
もちろん他社ではすでにアトキンソン(ミラー)サイクルなどにより、最高熱効率は43%といったレベルが実現しているが、できるだけ小さい、つまりダウンサイジング・コンセプトの中で最大トルク300Nmという出力を狙うためには単純なミラーサイクルや、低摩擦化、冷却損失の低減だけでは達成不可能だ。熱効率を向上させるためには希薄燃焼(リーンバーン)と、トルクを生み出すためにはターボ過給が必須となった。
こうした開発目標の下で、従来の1.6Lでは最大トルクが目標に達しないため、新たに1800ccの排気量が決定し、希薄燃焼、ターボ過給を組み合わせて採用されることになった。
CB18型エンジンの基本スペック
CB18型は水平対向4気筒+ターボという新開発エンジンのスペックは、排気量1795cc、ボア・ストロークは80.6mm×88.0mmで、ボアピッチ(ボア間隔)は98.6mm。クランクシャフト長は315.9mmで、従来のFB16型よりエンジン全長が44mm短縮されているのが注目点だ。
従来のFB16型のボア・ストロークは超ロングストロークの78.8mm×82.0mmでボア・ストローク比は1.04であったが、CB18型のそれは1.09で、よりボア・ストローク比を増大。そまたFB型のボアピッチはEJ型系と同一の110mmであったが、これを大幅に切り詰めている。
エンジン全長を短縮するためにクランクシャフトのウェブ厚さが従来の2/3となり、極薄のクランクウェブになっている。薄さと強度を両立させるために最新の高周波焼き入れ法を採用しているという。このようにクランクウェブの厚さ、つまり重量を低減できるのは、2次振動の少ない水平対向エンジンならではの特長だ。
エンジン全長を短縮したことで、衝突安全におけるクラッシュストロークを増大させる役割もあるが、もうひとつは近い将来にトランスミッションとエンジンの間に円筒型モーターを装備するハイブリッド化への配慮もあると考えられる。現在のリニアトロニックCVTのトルコン部のスペース+44mmの厚さを考えると十分高出力なモーターを配置できるからだ。
CB18型エンジンは圧縮比10.4で、最高出力177ps/5200-5600rpm、最大トルク300Nm/1600-3600rpmで、最大トルクの特性はディーゼルエンジンとほぼ同じようになっている。最高許容回転数は6200rpmで、きわめて低速型エンジンになっており、動弁部のフリクションなどは大幅に低下されていることが推測できる。
従来のFB16型ターボとの比較では、最高出力は+7ps、最大トルクはより低回転で+50Nmと性能向上が図られている。
CB18型エンジンは超小型のハネウェル・ギャレット製シングルスクロール・ターボ、吸排気カムシャフトの連続可変タイミング(AVCS)、水冷式EGR、シリンダーヘッド/シリンダーブロックの2系統冷却、可変容量オイルポンプを装備している。
吸排気AVCSの採用で、部分的にはミラーサイクル運転も行なうと思われる。また2系統冷却は冷却損失を大幅に低減させるためである。2系統冷却は、通常はシリンダーヘッド部の燃焼室周辺のみに冷却水を流し、シリンダー部はできるだけ高温を維持し、高負荷時だけシリンダー部にも冷却水を流す方式だ。
注目点はシリンダーヘッド一体型の排気マニホールドを採用し、排ガスエネルギーをよりダイレクトにターボに導くようにしていることだ。水平対向エンジンでシリンダーヘッド一体型の排気マニホールドは、6気筒のEG33型(前期型)以来の採用となる。
また超小型ターボは、アイドリング回転数をわずかに上回る回転数から過給が得られるようなサイズとし、電子制御を採用し希薄燃焼を実現する手段としても使用されている。
リーンバーンの実現
最高熱効率を高めるためには希薄燃焼が必須である。そのためには、低負荷域では多量の空気(通常の燃焼の約2倍の空気量)が供給され、一方で負荷が高まるのにあわせて滑らかに理想空燃比での燃焼ができなければならない。
まず、CB18型では他社も含めて主流の燃焼室側面からの直噴インジェクターの配置から燃焼室中央部、点火プラグのすぐ近くから噴射するように変更されている。これは、希薄燃焼の時に、点火プラグ周辺だけに着火可能な少量の濃い目の燃料を噴射し、その火炎を希薄な空燃比の燃焼室で燃焼させるためには必須のレイアウトだ。
そしてこの中央配置の直噴インジェクターは350barと高圧の直噴システムを新採用し、着火とメイン噴射の2段噴射としている。
CB18型は、負荷率40%以下で2400pm以下という範囲で空燃比30、つまり普通の燃焼時の2倍の空気を押し込んで燃焼させている。
このような軽負荷、かつ低回転時に迅速に確実に空気を送り込むために超小型ターボが作動している。同じ希薄燃焼を実現しているマツダのスカイアクティブXエンジンは、空気を送り込むためにスーパーチャージャーを使用するが、スバルの場合は超小型ターボにその役割を与えているわけだ。
このようなリーンバーン時にはスロットルバルブは全開で、ターボが過剰な空気を送り込んでおり、希薄燃焼と同時にポンピングロスも最小化されている。
スバルはこうした希薄燃焼と高トルクを両立させるために、スカイアクティブXのような低温燃焼を実現するための大量のEGRを使用せず、限定的な使用となっている。スカイアクティブXは希薄燃焼と大量のEGRガスを使用することで低温燃焼を行ない、NOxの発生を抑えている。そのため通常の3元触媒のみで済ませることができている。
CB18型はそれほど低温燃焼とはしていないため、希薄燃焼から普通の燃焼に移行する段階で発生するNOxの対策としてNOX吸蔵触媒を装備している。
また高圧縮比のスカイアクティブXは、高負荷ゾーンに入るとミラーサイクル運転となるが、高トルクを狙うCB18型は高負荷域でミラーサイクルにならないように10.4という圧縮比を設定している。
空燃比30といった希薄燃焼を実現するため、スカイアクティブXは希薄燃焼時には点火プラグで着火し、高圧縮比の状態で燃焼室内が圧縮自己着火を発生させて燃焼を行なっているが、CB18型は点火プラグで着火後は強い吸気タンブル流で燃焼を促進させていることも特長だ。
スバルは従来、TGV(タンブル・ジェネレート・バルブ)という吸気ポート部に開閉バルブを設置していたがCB18型はそれを廃止し、吸気ポート形状により強いタンブル流を発生させる方式にしている。その手段は高速の吸気流をポート部で絞り、吸気ポートの燃焼室入り口部で強い剥離流を発生させているものと考えられる。
トヨタは強タンブル流とするために、吸気ポートにレーザークラッドバルブシート加工を施して突起物のような形状によって発生させているが、スバルではポート形状の最適化によって発生させていると説明している。
そして希薄燃焼から普通燃焼に移行する段階では、吸入空気量、バルブタイミング、燃焼噴射量を最適制御することで、滑らかに燃焼が移行することが実現している。
ちなみに希薄燃焼を2番目に採用した1.8LのCB18型と、世界初の量産希薄燃焼を実現したマツダの2.0LのスカイアクティブXとの比較は次のようになる。
なお世界に先駆けて希薄燃焼を実現したスカイアクティブXエンジンも、この新型CB18型も最高熱効率は公表されていないが、40%前後になっているのは間違いないだろう。
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