プジョー本社は2021年7月6日、2022年のFIA世界耐久選手権(WEC)での出場を目指し、最新世代のル・マン仕様のハイパーカー「9X8」を発表しました。
「9X8」はハイブリッド・パワーユニットを搭載し、4輪駆動システムを搭載。超高性能・高効率なロードカーとレーシングカーの双方で環境問題取り組むことができるパフォーマンスを実現するという、プジョーの「ネオ・パフォーマンス」戦略に合致したマシンです。
ブランドを強調するプロトタイプ・レーシングカー
「9X8」は、プジョー・スポールのエンジニアリングチームとプジョー・デザインの共同作業により生まれました。流れるようなライン、リヤウイングのないデザイン、そして力強いブランド・アイデンティティを盛り込み、9X8はプロトタイプ・レーシングカーの新時代を象徴するデザインとしています。その革新的なテクノロジーとネコ科の動物のような美しさは、紛れもないプジョーのクルマであることを示しています。
車名の「9X8」の「9」は、ブランドのアイコンとなった「プジョー905」(1990年~1993年)と「プジョー908」(2007年~2011年)という、近年の耐久レーシングカーに採用されているネーミングを継承。
「X」は、プジョーハイパーカーの4輪駆動技術とハイブリッド・パワートレインを意味し、モーターレーシングの世界におけるブランドの電動化戦略を体現しています。また「8」は、208、2008、308、3008、5008、そして、このハイパーカーを製作したエンジニアやデザイナーの手によるPSE(PEUGEOT SPORT ENGINEERED)の名を冠した最初のクルマとなった508PSEなど、プジョーの現在のモデル名すべてに使われているサフィックス(接尾語)です。
「9X8」は、1992年と1993年にル・マン24時間レースで勝利を飾ったプジョー905と、2009年にフランスのクラシックレースで優勝したプジョー908の後継マシンであり、プジョー・ブランドの最新のプロトタイプです。
この「9X8」は、ブランド主導のプロジェクトで、ネオ・パフォーマンスというビジョンをベースにしています。ネオ・パフォーマンスのビジョンとは、プレミアム・スポーツの血統と、卓越したスタイリング、効率性、そして将来のロードカーに引き継ぐことのできる技術的な知見を組み合わせたものを意味します。
革新的なエアロダイナミクスとデザイン
革新的な「9X8」のフォルムとエアロダイナミクスは、プジョー・スポールのテクニカル・ダイレクター、オリビエ・ジャンソニの下で働くエンジニアと、プジョー・デザイン・ダイレクターのマティアス・ホッサンが率いるデザインチームの協力により生まれました。
デザイン・ダイレクターであるマティアス・ホッサンは、「9X8はあくまでプジョーであるゆえに、オリジナルのスケッチは、今にも飛びかかろうとする大きな猫を描いたものです。全体的なラインはブランドのスタイリングキューを表現しており、そのスリークでレーシングカー的で、かつエレガントなフォルムは感情とダイナミズムに刺激を与えることができます」と語っています。
9X8のフロントとリヤのライティング・シグネチャーは、3本の爪のようなストロークで構成され、プジョーのロードカー同様のトレードマークです。また、ブランドの新しいライオンヘッド・ロゴは、マシンのフロントとサイドにバックライトで表示されます。
エクステリアでは、彫刻的なホイール・デザインが、シャープな構造のサイドの面とよくバランスされています。ウィングベントによってタイヤの上部は露出しており、完璧にインテグレートされたサイドミラーによって空気の流れが妨げられることなくマシンの上を通過できるようになっています。
リヤエンドのデザインは、ブランドの特長であるライオンの爪痕状のライティングが採用され、リヤライトはワイドなディフューザーを挟むように配置。その上には「We didn’t want a rear wing」と書かれています。
プロトタイプ・レーシングカーのリヤウイングは、1967年にル・マン24時間レースに参戦したシャパラル2Fが初めて採用したものですが、あえてウイングを装備しないマシンは今回が初めてです。
ハイパーカーのレギュレーションは、性能の向上を平準化するために策定されています。「9X8」のエアロダイナミクスを最適化するために、自由に、常識にとらわれない方法を探求。
レギュレーションでは、調整が可能な空力デバイスは1つだけと規定されており、リヤウイングについては規定されていないものの、プジョー・スポールはシミュレーションにより、リヤウイングがなくても高いパフォーマンスが可能であることが判明したのです。その原理は現時点では秘密とされています。
ボディとコックピット内のセレニウム・グレーとクリプトナイト・アシッド・グリーン/イエローのコントラストは、508と508SWで導入されたあたらしいPEUGEOT SPORT ENGINEERED(508 PSE/508 SW PSE)のカラー基調をそのまま採用しています。
コックピットには、これまでレーシングカーは単に機能性を追求し、ブランドのアイデンティティは存在していませんでした。しかし、デザインチームはあえてコクピットにブランド・アイデンティティを導入し、市販モデルと同じコンセプトのi-Cockpitを組み合わせたことで、9X8のコックピットは独自の雰囲気生み出し、車載カメラで撮影してもそれがプジョーのマシンであることが一目でわかるようになっています。
このマシンの設計は、FIAとACO(ル・マン・レース主催団体)が策定した、主要カテゴリーであるLMP1の後継となるLMH(ル・マン・ハイパーカー)のレギュレーションに基づいています。このクラスは、エアロダイナミクスに関するあたらしい技術規則が適用され、自由度が増しています。そのため革新的なマシンを生み出すことができるようになり、デザインチームの貢献度もより高まり、エンジニアとデザイナーは、これを最大限に利用しまったく新しいジャンルのハイパーカーを生み出したのです。
ハイブリッド・パワートレーン
2020年9月に、プジョーが耐久レースの新クラス「ル・マン・ハイパーカー」への参戦を発表して以来、パリ近郊のベルサイユにあるファクトリーでは、「9X8」の開発が開始され、ハイブリッドの500KW(680ps:ル・マン・ハイパーカーの制限出力)を発生するパワートレーン、2.6Lツインターボ90度V6エンジンは、4月からベンチで耐久試験を行なっています。
フロントに搭載される出力200kWのモーター・ジェネレーター・ユニットと7速シーケンシャル・ギアボックス、そしてバッテリーなどは、ベンチテストの検証を行なっています。このパワフルな高電圧(900V)高出力密度のバッテリーは、プジョー・スポールとトタルエナジーズの子会社であるサフト(Saft)が共同開発したものです。
ステランティスのモータースポーツ・ダイレクターのジャン-マルク・フィノは、「われわれが必要とするエネルギー・マネジメントについての目標は、完璧な信頼性と完璧なコントロールです。ル・マン24時間レースは、ピットインの回数で勝敗が決まる、もはや24時間のスプリントレースになっています。新型ハイパーカーの優れたエネルギー効率は、ロードカーの世界でもまもなく採用されると考えています。パワートレーンからエアロダイナミクスに至るまで、あらゆる面で超高効率であることは9X8のパッケージングそのものを意味するといえます」と語っています。
空力的、メカ的、電子的な効率性に加えて、耐久レースの世界での技術的専門知識も求められます。ル・マン24時間レースは、レース中に走行する5400kmの距離は、F1のフルシーズンの走行距離に近いため、効率性と信頼性の両方がきわめて重要となります。
プジョーのリンダ・ジャクソンCEOは、「プジョーが耐久レースに参加するのは、スポーツとしての側面だけではありません。耐久レースは、われわれに極限の実験室を提供してくれる場であり、だからこそ、ル・マンとの結びつきが強いのです。レーストラックでの結果よりも重要なのは、24時間という極限状態の中で、わたしたちの技術や研究成果を証明する機会を与えてくれることです。ル・マンは、われわれが現在開発しているロードカーの燃料消費量、ひいてはCO2排出量を削減するためのハイブリッドシステムや技術を検証するための競争的な環境を提供してくれます。プジョー・スポールのチームは、自分たちの研究が市販車に反映されているのを見て、誇りに思っています。わたしたちの顧客にとって、ル・マンはわたしたちのクルマの品質を証明する実験室なのです」と語っています。
なお2022年のFIA世界耐久選手権シリーズには、2台のプジョー9X8が参戦する予定です。ドライバーは、ポール・ディ・レスタ選手、ロイック・デュバル選手、ミッケル・イェンセン選手、ケビン・マグヌッセン選手、グスタボ・メネゼス選手、ジェームス・ロシター選手、ジャン=エリック・ベルニュ選手を決定しています。
2021年の現時点ではメーカーチームではトヨタがル・マン・ハイパーカー「GR010ハイブリッド」で参戦していますが、2022年シーズンはプジョーが参戦し、2023年からはポルシェ、フェラーリなどメーカーチームが参戦予定となっており、WECシリーズは一気にヒートアップすると予想されています。