トヨタ、ホンダの決算発表会で見えてくる近未来の課題

2019年5月8日にトヨタ、ホンダの2018年度決算の発表が行なわれた。トヨタは2部構成で、第2部には例年通り豊田章男社長が出席し、今後の戦略を語った。ホンダは従来は社長の出席はなかったが、今回は八郷隆弘社長が出席する異例の発表会となり、八郷社長は2025年に向けてホンダが取り組む構造改革と商品戦略を語った。

トヨタの決算発表会
トヨタの決算発表会

トヨタ:初の売上高30兆円突破

10連休という大型連休明けの5月上旬は多くの企業の決算発表が行なわれる。トヨタ、ホンダは5月8日に決算記者発表と投資家向け戦略説明を行なった。

トヨタの2019年3月期におけるグローバルの自動車の連結販売台数は、前年比0.1%増の897万7000台と発表した。日本での販売台数は1.3%減の222万6000台となったが、トヨタ/レクサス・ブランドの販売シェアは45.9%、軽自動車を含む販売シェア(ダイハツ、日野ブランド含む)は43.6%だった。一方、海外ではアジア、特に中国(168万4000台)とヨーロッパで販売台数が増加したことにより、0.6%増の675万1000台となっている。なお、グループでのグローバル総販売台数は前年より16万2000台増加し、1060万3000台となった。

トヨタ 決算発表会 課題

そして、売上高は2.9%増の30兆2256億円、営業利益は同2.8%増の2兆4675億円。税引前純利益は12.8%減の2兆2854億円、純利益は同24.5%減の1兆8828億円となっている。トヨタとして、日本企業として初の売上高30兆円突破は大きなニュースにもなっている。また営業利益も微増し、営業利益率は前年と同様の8.2%で、依然として高い水準を保っている。

トヨタ 決算発表会 課題

しかし営業利益という観点で見ると、日本市場では222万6000台を販売し、営業利益率は10.2%に達しており、グローバルでトップの利益率だ。それについで、中国を含むアジアで168万4000台を販売し、営業利益率は8.2%。なお、中国は輸入車関税の引き下げなどの効果でレクサス・ブランドの販売価格も引き下げられ、結果的に販売の好調につながっている。ただ、トヨタも自覚しているように、中国では年間販売台数が400万台に達するメーカーもあり、こと中国市場ではまだまだ「周回遅れ」というのが現状だ。

トヨタ 決算発表会 課題

トヨタにとって最大の市場であるアメリカでは274万5000台で、前年より微減しているが販売台数はグローバル市場で圧倒的にトップとなる。ところが営業利益率はなんと1.3%と最も低いレベルにある。ヨーロッパ市場はC-HRハイブリッドなどの販売が好調で99万4000台へと販売を伸ばしているが、営業利益率は3.7%だ。

決算発表を行なう、経理・調達担当の白柳正義執行役員(左)と小林耕士OFO兼副社長
決算発表を行なう、経理・調達担当の白柳正義執行役員(左)と小林耕士OFO兼副社長

トヨタの課題

つまり、トヨタにとってアメリカ市場は課題が大きいことがわかる。現在では販売奨励金の車種ごとに対応した見直しを行なっているが、カムリ、カローラなどの従来の主力車種から、今現在の主流になっているライトトラック、SUVラインアップの車種構成の切り替えの道半ばといえる。トヨタは2025年ころまでにアメリカ市場での営業利益率を8%程度にまで引き上げたいとしているが、これはかなりハードルの高い目標だろう。

なお2020年決算の見通しは販売台数は微増の900万台(グループ総販売台数は1074万台)としており、売上高は1%減の30兆円、純利益は19%増の2兆2500億円を見込んでいる。しかし、豊田章男社長は自動車製造メーカーからモビリティカンパニーへとトヨタをモデルチェンジするという方針を掲げており、そのモデルチェンジはまだ途上にある。その一方で、モビリティカンパニーへ変革するための基盤は、TPS(トヨタ生産システム)による競争力の強化、世界中に張り巡らされた販売拠点1万6000店、世界各地での生産を支えるサプライチェーンなど、グローバル・ネットワークの存在だとしている。

トヨタの戦略を語る豊田章男社長
トヨタの戦略を語る豊田章男社長

確かにこれらは新興のIT企業などには構築不可能なシステムで、これがトヨタの強みであることは間違いない。CASEなどに取り組むためには、トヨタもパートナー企業との連携が必須となっているが、IT企業やMaaS企業から見てトヨタがパートナーとして選ばれる理由にもなっている。ただ、MaaSなど様々な新分野への取り組みはいずれも端緒についたばかりで、今後どのような進展となるかは誰にも見通すことはできていない。

そのためもあって豊田社長は危機感を抱き、いかに早く新たな企業価値を作り上げるのかをを課題に上げている。

ホンダ:構造改革の道半ば

ホンダは八郷隆弘社長が出席するという異例の決算発表会を行なったが、それは2025年に向けてのホンダの自動車メーカーとしての構造改革に対する決意表明でもあった。

2025年に向けた事業戦略を語る八郷隆弘社長
2025年に向けた事業戦略を語る八郷隆弘社長

ホンダは2018年度で4輪車は前年比2.4%増の532万3000台を販売した。日本市場では好調のN-BOXに加え、N-VAN、CR-Vの投入などにより微増となり、販売台数は74万9000台となった。アメリカ市場は新型車のインサイト、アキュラRDX、SUVのパスポートなどを投入したが、アコード、シビックなどのセダン市場の縮小の影響を受け、前年比1.6%減の161万2000台となっている。

決算発表会に出席した八郷隆弘社長(左)、倉石誠司副社長(中)、竹内弘平専務
決算発表会に出席した八郷隆弘社長(左)、倉石誠司副社長(中)、竹内弘平専務

中国は市場全体は微減傾向にあったが、ホンダはシビックが好調で、さらに新型車を投入したことで微増し、146万7000台を販売した。多くのメーカーが中国では販売減少傾向にある中で、ホンダは成功したといえる。

ホンダ 決算発表会 課題

売上高は15兆8886億円で、前年比3.4%の増加となっているが、営業利益は12.9%減の7263億円で、営業利益率は前年の5.4%から4.6%へと低下した。その要因は第2四半期以降の4輪生産体制の見直し、イギリス工場の閉鎖関連の費用がかさんでいることで悪化しているとしている。

ホンダ 決算発表会 課題

また、2020年度の見通しは、4輪車の販売台数は3.1%減の516万台、売上高は微減の15兆7000億円、営業利益は6%増の7700億円、営業利益率は4.9%に改善するとしている。

八郷社長は、事業方針としてこれまでに発表したイギリス工場の閉鎖、日本、タイ、トルコ、ブラジル工場の生産ラインの見直しなどにより2022年には100%の工場稼働率とする対策に加え、新たにグローバルでの生産関連コストを2025年までに2018年比で10%削減することを発表した。

ホンダ 決算発表会 課題

そのために地域専用モデルを強化すると同時に、グローバル・モデルの各バリエーション数(仕様違いモデル)を1/3に削減すること、各地域専用モデルも車種の集約を進めるということだ。またアメリカの工場でも生産するモデル数の増加、フレキシブル生産体制の導入などにより、投資額が増え、その一方で生産効率が低下していることにも手を打ち、モデルの派生数を削減し、生産体制をシンプル化させる方針だ。

ホンダ 決算発表会 課題

電動化を加速

その上で、改めてホンダ・アーキテクチャー、つまり本格的なモジュラー・プラットフォームを20202年からグローバルモデルに導入する。これはプラットフォーム部、前後シャシーなどをモジュラー化するもので、その結果として量産モデルの開発工数を2025年までに30%低減するとしている。言い替えれば、ホンダはモジュラー・プラットフォームの本格的な取り組みが遅れ、それを一気に挽回しようということだ。

ホンダ 決算発表会 課題

一方、商品戦略としては2030年には販売台数の2/3を電動化し、ハイブリッド/プラグインハイブリッドを50〜55%、電気自動車を10〜15%を目指している。それは企業平均燃費(CAFE)にはハイブリッドを重点投入し、アメリカ、中国のゼロエミッション規制に対しては電気自動車で対応するという戦略だ。アメリカではEV用にGMと次世代バッテリーを共同開発し、中国では現地合弁会社と量産EVを開発するとしている。

そしてハイブリッドシステムとして、これまで中型車以上に採用してきた2モーター方式のi-MMDを、今後はコンパクトモデルにも小型ユニット化して適用し、全ハイブリッドモデルをi-MMD方式とすることが明らかにされた。そのためコンパクトモデルの象徴であり、グローバルモデルであるフィットも従来のi-DCDの代わりにi-MMDを採用し、2019年秋の東京モーターショーで発表する計画だ。

ホンダ 決算発表会 課題

全ハイブリッドモデルをi-MMDに統合することで、2022年には2018年比でこのハイブリッドシステムのコストを25%低減できるという。

このように、ホンダはかつての世界6極体制、現地ニーズに合わせた商品開発という拡大戦略を見直し、グローバルモデルや地域専用モデルの派生モデル、仕様違いモデルの削減、本格的なモジュラー・プラットフォームの開発、ハイブリッド・モデルのシステムの統合化などにより、販売台数は現状維持をしながら企業としての基盤の強化を図る計画を打ち出し、生き残りを図る戦略だ。

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