2026年4月24日に発表したSUBARUの全日本ラリー参戦マシンである「SUBARU Boxer Rally spec.Z」が5月8日(金)から始まった全日本ラリー選手権「YUHO Rally飛鳥 supported by トヨタユナイテッド奈良」(奈良県天理市)に実戦投入された。



新井敏弘が語る“攻めながらの開発” BRZ Spec Z、飛鳥ラリーで総合5位完走
まずはマシン詳細をみると4WD形式はセンターデフがなく、直結タイプでつながりトランスファーで前後にトルクを配分している。レイアウトはエンジンの後ろにSADEF(サデフ)製シーケンシャルシフトを搭載し、直後にトランスファー、そしてピールというレイアウトだ。そしてフロントデフはエンジンの直下にレイアウトする2段構造になっている。

ピールはサイドブレーキを引いた時にリヤトルクを切り離すディスコネクト機構のことで、駆動力はゼロになる仕組み。また採用したサデフのシーケンシャル・トランスミッションやピール構造はラリー2マシンでは一般的に採用している部品であり、信頼性は十分実証されているものだ。
そしてユニットをできるだけ後方に搭載し、フロントミッドシップ・レイアウトにしているわけ。車両の改造は全日本ラリー独自のJP4規定で製造されているが、車体のフレームやモノコックの改造が認められていないため、車載には苦労したというが、FRベースだったからこそ、搭載できたとも言えるわけだ。ちなにみJP4車両規定はFIAラリー2と競争できるレベルに加工できるように作られた車両規則だ。
サスペンションはWRX S4で熟成を重ねた四輪ストラット形式としており、フロントはサスアームを延長し、リヤはWRX S4のレイアウトをそのまま踏襲してジオメトリーを新たにつくっている。ちなみにダンパーはKYB製を採用している。


このBRZ spec Zを発表した段階では、テスト走行もままならず50kmほどのテストに過ぎなかった。そのため、ぶっつけ本番に近い状態で第3戦の飛鳥ラリーに投入している。
ラリー2超えの速さも披露 BRZ Spec Z、波乱の初日を乗り切る
競技が始まる直前にドライバーの新井敏弘に話を聞くと「BRZになって凄くクイックに動くようになって、それは軽量で、重心高も低く、ホイールベースも短くなり、トレッドも狭くなったのでだいぶ走りやすくなりました。でもテストが十分にできていないので、データを取るためにも完走を目指しますが、ある程度は限界性能をみないとラリーにならないので、攻めの攻撃をしつつ状態を見るイメージです」

こうして競技は始まり、最初のSSではライバルとのいい勝負になっている場面があった。「SS1のスタートから中間のラジオポイントまではラリー2より速いタイムをマークしてましたが、後半の登りに入って離されてしまいました」と嶋村監督は話す。

しかし、SS2以降はグッとペースダウンしており、その理由は「右のドライブシャフトが折れて3輪走行になってしまいました。フラフラしてあぶない状態で走ることになり、さらにパンクもあってタイムロスしています」と新井。
そしてDay1最後のSSを終えてサービスパークに戻り45分のメンテナンス時間を経てパルクフェルメへ移動させるが、その場面では緊迫した場面があった。
嶋村監督は「まず、右のドライブシャフトが折れてそれは交換しましたが、エイジングを考慮し防御的に左側も交換します。それとパワーが落ちているというので、データロガーを検証して修復といった作業になります。最悪はこのままデイ・リタイヤを選択して、修理をしっかり行って明日に備えるというのも選択肢です」と報道陣に説明していた。
結果的には45分のサービスタイムで修復でき、パワーダウンの問題も解決できたので、リタイヤを選択せずDay2を迎えることができたのだ。
“戦えるシャシー”を確認 BRZ Spec Z、試練のデビュー戦を総合5位完走
そして2日目は大きなトラブルはないものの、やはりタイムは伸びない。「昨日の検証でターボの過給圧漏れが少しあったので、その対策をしてピットアウトさせたのですが、最初は問題なかったのですが徐々にパワーダウンしているようで原因はわからないです」と嶋村監督。


新井からも「デフとかがすごい熱を持っていて全体に熱害がでている。車内も暑いしその辺りは対策しないとですね」とコメントがあり、熱によるパワーダウンなのかもしれない。
ラリーはそのまま最終SSまで続き、最後のSSでは高速スピンを喫するアクシデントがあったようだ。それでも周囲にヒットすることなく、立て直し無事にフィニッシュしている。


結果は総合5位で完走した。山田大輔モータスポーツ車両企画室技術グループは「テストでは出ないトラブルが本番では出るので、気付けない反省も含めて宿題がいっぱいできました。根が深く時間がかかりそうな課題も出てきたので、難しいですが可能な限り早く仕上げていくようにします」とコメントしている。

競技後の新井も「本格的な林道を走ったことと、これだけの距離を走ったことがなかったので、いろいろデータを取ることはできました。ボディ、シャシーの基本性能は勝負できるレベルにあると感じましたけど、エンジンはまだ難しいです。相手がレースエンジンなので、量産ベースだとあそこまでのレスポンスは無理なので、そのあたりを改善できていければと思っています」という。課題はあるものの、解決できる可能性があるものであり、新井もそのあたりに手応えを感じているようだった。
特にギヤ比が合わない件ではピークパワーは3800rpm〜5000rpmあたりで、4速、5速はピークを外れてしまうというのだ。そのため今回は2速、3速でしか使えなかったので、各ギヤのステップを変更したり、ファイナルギヤを変更したりといった対策が必要そうだ。また新井は高回転側のパワーより低回転のターボの立ち上がりレスポンスをよくしたいとも言っており、タービンサイズも再検討していくことになりそうだ。

コ・ドライバーの安藤祐一は「2つのいいことがあって、ひとつは長い距離が走れて、同じ道を2回走ることで判ることもありました。それともうひとつは、全てのギャラリーの前を走ることができ、セレモニアル・フィニッシュができたことも良かったです」とにこやかな表情だった。

そして長年新井のコ・ドライバーを勤めていたSUBARUの小坂ボディ設計エンジニアは、立場が変ってモータースポーツ車両企画室の一員としてラリー飛鳥に来場していた。競技を最後まで見た印象を聞いてみると「車両の挙動をみると、手足のように動かせていないので、セットアップの煮詰めが必要ですね。あとはハード部品の熱管理をしないという印象でした」という。一方で新井の表情から「ずいぶん手応えを感じているんじゃないですかね。穏やかな顔しているし、満足しているようにも見えましたよ」とさすが長年のパートナーで表情からもドライバー心理がわかっているようだった。
こうして、ラリー飛鳥でデビューしたBRZ Spec Zは5位フィニッシュを果たし、今後の活躍にむけての期待が大きく膨らむ結果を見せてくれたと思う。次戦は6月中旬に行われる第4戦久万高原ラリーで、約1ヶ月間があるので、それまでのアップデートに期待したい。
チームワークと安全意識 若手メカニックが得た経験
SUBARUはモータースポーツの現場にディーラーメカニックを参加させる取り組みを行っている。今回も5名の選ばれた精鋭ディーラーメカニックが参加しており、参加してみての印象を聞いてみた。

富士スバルから参加した橋本さんは「初めましてでスタートしたのですが、チームワークがとても大事だと感じました。それとメカニック同士のコミュニケーションも非常に大事だということを思いました」
そしてもうひとり同じ富士スバルから参加した江戸綾さんは「店舗ではベテランメカニックほど、変な自信がついて、帽子を被らないとか腕まくりをして作業する、ジャッキアップポイントを守らないとかがあるんですが、ラリー競技に参加してみると、切羽詰まった中で、基本を守りながら作業できるか、それは自分との戦いなんだと感じました」と。さらに「店舗に来るお客様にはモータースポーツファンの方が大変多いので、その現場でメカをやってきたことをお伝えして、信頼につながるようにもしていきたいと思います」とコメントしていた。
静岡スバルの石井さんは「初めましてで作業している中で、声にださないと誰が何をやっているのかわからないので、コミュニケーションが大事だと思いました。店舗だと思い込みもあって、『こうやっているだろうな』とか『そうするだろうな』といった思い込みで作業していることに気づかされました」
奈良スバルの田中さんは「チームワークが大事で、それは相手の怪我や自分の身を守ることにもつながることで、何日か経つと忘れてしまうので、ルーチンに戻った時にここで学んだことを思い出して作業したいと思います」とそれぞれがいい経験をし、多くの学びがあったと口々にコメントしていたことが印象的だった。













