2015年8月20日、アウディ・ジャパンは9年振りのフルモデルチェンジを受け、3世代目となったオールニューの「TT」(タイプ8S)を発表し、発売を開始した。
TTはアウディのアイコン的な機種として位置付けられており、1998年に登場した初代はカリフォルニア・デザインセンターから生まれた出自によりデザイン・アイコンとされている。2006年にモデルチェンジを受けて登場した2代目は、アルミ・スペースフレーム/スチールのハイブリッドボディの採用や、動力性能の向上によりスポーツモデルとしてのアイコンと位置付けられた。
今回登場した第3世代のTTは、高強度のスチール製プラットフォームとアルミ製アッパーボディを組み合わせた新構造で、さらに多くの最新技術を盛り込み、アウディの先進性を象徴するアイコンとされている。
新型TTは2014年のジュネーブショーでベールを脱ぎ、ヨーロッパ市場では2014年7月から発売が開始されている。
エンジンのラインアップは、2.0L・TDI、2.0L・TFSIの2機種、1.8L・TFSIと4種類がラインアップされているが、日本市場に導入するのは、2.0L・直噴ターボエンジン(2.0 TFSI)を搭載したTTクーペ、TTロードスター、ハイパフォーマンスモデルのTTSだ。
TTクーペには、前輪駆動とクワトロ(フルタイム4輪駆動システム)の2タイプの駆動方式を設定。また、TTロードスターとTTSはすべてクワトロとなる。
■エクステリア&インテリア
新型TTのデザインは、左右に張り出したくっきりとしたホイールアーチ、なだらかなアーチ型のルーフライン、TTのロゴを刻んだアルミ製フィラーキャップなど初代からのデザイン要素を受け継いでいる。その一方でデザイン表現は一変し、シャープに浮き上がるショルダーラインはボディ全周に配置され、水平な広がりを感じさせる。さらにボディサイドの面はキャラクターライン下でインバースし、わずかな曲面を持つものの下方へ垂直に延長されてクリアな印象に変わっている。
フロントのシングルフレームはエッジを持ったシャープな形状となり、4シルバーリングスはR8と同様にグリル内ではなくボンネット先端に配置されている。角ばってシャープなフロントグリルと、マトリクスLEDヘッドライト周囲の直角に交差するLEDポジションライトのデザインは、新型TTのデザインシンボルとなっている。
ヘッドライトはマトリクスLEDを採用し、カメラで認識した対象物に合わせて自動的に最適な照射を行なうことができる。またマトリクスLEDとの組み合わせで、流れるように点灯するダイナミクスターンシグナルも装備されている。
リヤはディフューザー左右に各2本の丸形テールパイプをレイアウトし、速度により自動的に上下するリトラクタブルスポイラーなどスポーツカーにふさわしい装備も備える。
インテリアは、本格的なスポーツカーにふさわしくドライバー中心のレイアウト、デザインで、インスツルメントパネルは飛行機の翼の形状がイメージされている。さらに丸形の5個のエアアウトレットはジェットエンジンを原型としたデザインで、エアコンのコントロールスイッチはエアアウトレットの中心部に配置するという斬新なデザインとなっている。
しかしインテリア最大のハイライトは、メーター、カラーディスプレイが一体となった「バーチャルコックピット」だろう。高解像度の12.3インチサイズの大型液晶ディスプレイがメーターパネル部に装備され、タコメーター、速度計、ドライバー用の各種表示や車両情報、マルチメディ用の表示が統合されている。
ディスプレイは1440×540ピクセルで、4コア・1GHzの性能を持つNVIDIA製の高速グラフィックプロセッサーを装備し、3Dグラフィックも鮮明に表示できる能力を持つ最先端のディスプレイ・システムだ。
ナビ、車両情報、音楽、ラジオ、動画などを統合したMMI(マルチメディア・インフォメーション・システ)は、バーチャルコックピットと融合したことで、さらに先進的なシステムに進化している。
ドライバーはメーターパネル部から目を離すことなくインフォテイメントやナビを視認することができ、センターコンソールにあるMMI用のコントローラーはタッチパッド一体型で、指でなぞることで文字入力や画面のスクロール、ズームなどができる。つまりドライバーは前方を見たままあらゆる操作ができるようになっているのだ。
また、アウディ・コネクトも標準装備し、インターネットと常時接続され、Googlアース、ストリートビューなど、さまざまなインターネット情報が表示できる。もちろん車内はWiFiスポットとなり、最大8個のモバイル端末が接続できる。さらにアウディ・コネクトナビゲーターを使用するとコールセンターのオペレーターと会話しながら、施設検索や予約などのサービスを受けることもできるようになっている。
シートのデザインも一新された。ヘッドレスト一体型となり、サポート性も一段と向上。また左右シートで5kgの軽量化も行なわれている。なおTTSとオプションのSライン装備車のシートは、よりサイドサポートを高めた「Sスポーツ」シートが装備される。リヤシートは6歳から12歳の子供であればチャイルドシートなしで安全性を確保したヨーロッパ新基準を採用。
リヤのラゲッジ容量は305L、リヤシートを畳むと712Lの容量が確保され、日常使用でも十分なユーティリティを備えている。
■エンジン&トランスミッション
新型TTに搭載されるのは2種類の2.0L・TFSIエンジンだ。従来型の2.0 TFSIを大幅に手直しし、同じ2.0Lのクワトロとの比較でパワーは211psから230psに、トルクは350Nmから370Nmに、そしてJC08燃費は13.0km/Lから14.7㎞/Lに改善している。なおスタート&ストップ、減速エネルギー回生システムも装備している。
TTSに搭載される高出力版の2.0 TFSIは286ps、380Nmを発生する。従来型に対してパワーは14ps、トルクは30Nmアップ。燃費は11.8km/Lから14.9㎞/Lに向上している。過給圧はベースの2.0 TFSIが0.8barであるのに対し、TTS用は1.2barと高められている。この他に、ピストン、コンロッド、バルブシート、バルブスプリング、ベアリングなどは専用品を採用。シリンダーヘッドもアルミシリカ製でこれも専用品だ。
新型TTのエンジンはMQBプラットフォームの採用に合わせ、前方吸気レイアウトで12度の後傾角を付けて搭載されている。シリンダーヘッドは排気マニホールド一体型となり、燃料噴射はマニホールド噴射と直噴を組み合わせたデュアル噴射システムを採用。吸排気可変バルブタイミング機構と排気側に可変バルブリフト機構も備え、高出力と燃費性能を両立させている。シリンダーブロックは高強度の薄肉鋳鉄製。軽量化も追求され、アルミ製ボルト、軽量なポリマー製オイルパンなどを採用し、エンジン重量は140㎏になっている。
トランスミッションは全車が6速湿式Sトロニック(DCT)を採用。クワトロを装備するTTSは0-100km/h加速が4.7秒、最高速は250㎞/h(リミッター付)だ。
全モデルに搭載される6速Sトロニックは、ドライブセレクトで「エフィシェンシー」を選択すると、アクセルオフ時にはエンジンを駆動系から切り離し、フリーホイールシステムが作動する。一方、ホイールスピンしながら急発進できるローンチコントロールを装備している。
クワトロは、第5世代の電子制御油圧多版クラッチシステム(ハルデックス製)を採用。プレビュー制御により後輪へ最適な駆動力を配分する。さらに新型TTからドライブセレクトと連動し前後輪へアクティブにトルク配分を行なうことができる。またブレーキ制御によるトルクベクタリングとも統合制御され、いかなる状況でもドライバーの意志通りにコーナリングできる。<次ぺージに>
■ボディ
新型TTは新たにMQBプラットフォームを採用し、高張力鋼板で補強した上でアルミ材製のアッパーボディを組み合わせた複合構造とし、アウディ・スペースフレーム(ASF)を採用していた従来型とはボディ構造が大きく変化している。
フロントとフロア部の主要部はホットプレスによる超高張力鋼板製で、重量比で1/4を占めている。アッパーボディはアルミ鋳造、押し出し材、パネル材で構成し、アウターパネルはすべてアルミ製となっている。その結果、ねじり剛性を高めながら大幅な軽量化も実現している。
ボディサイズは、全長4180㎜、全幅1830㎜で従来型より10㎜縮小する一方で。ホイールベースは40㎜延長され2505㎜になっている。したがって前後のオーバーハングが短縮されている。
この2505㎜というホイールベースは、MQBプラットフォームの中で最も短い設定だが、MQBモジュールの各種コンポーネンツが採用できるため軽量化が実現し、同時に重心も10㎜低下している。
新型TTはハンガリー工場で製造されるが、3020ヶ所のスポット溶接、1113ヶ所のリベット接合、44ヶ所のセルフピアス・パンチリベット接合、128ヶ所のボルト結合、199ヶ所のクリンチ(圧力)接合、全長1.9mのアーク溶接、4.9mのレーザー溶接が採用されている。さらに接着剤の使用部位は全長76mに及んでおり、リベットと接着剤が多用されていることがわかる。
■シャシー
フロント・サスペンションはストラット式、リヤは4リンク式で、いずれもMQBモジュラーユニットで、リヤはモジュラーパフォーマンス・サスペンションとしている。フロントはクロスメンバー、アッパーマウントがアルミ製、リヤはハブキャリアがアルミ製だ。
運転モードの切り換えができるドライブセレクトが装備され、コンフォート、オート、ダイナミック、エフィシェンシー、インディビデュアルの5モードの切り替えが可能。モードに応じて、アクセルレスポンス、変速ポイント、クワトロの制御、エアコン制御などが変更される。なおTTSはダンパーに磁性流体式を採用し、モードに応じてダンパーの制御も変化するようになっている。
ESPはスポーツモードを備え、システムの介入が遅くなり、スイッチを長押しするとESPはオフとなる。なおこのESPはクルマの挙動を安定化させるだけではなく、走行状況に合わせLSD機能、トルクベクタリング機能を備え、アンダーステアを弱め意のままの走りを実現する。
ブレーキはフロントに大径ディスクを備え、TTSは軽量で強力な制動力を発生するアルミ製対向ピストン式キャリパーを装備する。またパーキングブレーキは今回から電動式を採用している。
ホイールは、FFモデルは17インチ、クワトロモデルは18インチ、オプションで19インチが設定されている。タイヤは245/45R17、245/40R18。
電動パワーステアリングは今回から舵角が大きくなるとクイックになるプログレッシブ・ステアリングを採用している。駐車時など低速・大舵角での取り回しを向上。もちろん車速に応じてアシスト量も変化する。また、ドライバーの疲労を検知すると警報したり、アクティブレーンアシスト、パーキングアシストなどでの自動操舵などの機能も備えている。
■TTロードスター
TTクーペは2+2だが、ロードスターは2シーターで、シート後部には強固なスチール製のロールオーバー・バーが装備される。パワートレーンは2.0 TFSIと6速Sトロニック、クワトロの組み合わせとなっている。
新開発の電動ソフトトップはクーペより20㎜低いシルエットとなり、デザイン的にも独自の魅力を持っている。ソフトトップの骨格はマグネシウムやアルミ材を使用して軽量化。ソフトトップの総重量は従来型より3㎏軽量化され39㎏に仕上がっている。また空力的にも大幅に洗練され、Cd値=0.30を達成している。
電動ソフトトップは50㎞/h以下で開閉でき、開閉時間は約10秒。幌の内張りにはフリースが張られるなど5層構造(厚さ15㎜)で、トップを閉じた時の遮音、遮熱性は大幅に高められている。
トップを開けて、リヤのガラス製ウインドディフレクターを使用すると風の巻き込みはわずかで、ヒーターとシートヒーターを使用すれば冬でもオープンが楽しめる。
なおボディ構造もクーペとは大きく異なり、サイドシルからリヤホイールハウスまでが補強されている。補強材もアルミ製で、特にサイドシルとAピラーを結合する部分、サイドシルとリヤセクションを結合する部分には大型のアルミ鋳造材を採用。またサイドシルは溶接箇所を持たないハイドロフォームで成形されたアルミ押し出し材にスチール製の補強材をかぶせた構造としている。Aピラーも専用部品で内部には強固なスチールパイプの補強材を採用し表面はアルミ材が使用されている。
アウディTT クーペ/ロードスター諸元表
アウディ TTS クーペ諸元表