2016年12月15日に発表した新型CX-5は、さまざま進化と深化を遂げ全方位でクルマに対する向き合い方を研究してきた。こうしたことは日本車としては珍しく、単にフルモデルチェンジをしたというニュースだけにとどまらない内容となっている。
■ポジションチェンジ
フルモデルチェンジにあたり、CX-5はドライバーだけではなく乗員みんなで運転を楽しむことを謳っている。もちろん、ドライバーは操る楽しさ、意のままに動く楽しさ、走る喜びとともに、所有する歓びがあることはもちろんだ。そのために、何をしなければならないか?という基本に立ち返った探求がされている。
それはデザイン、操安性能、NVH、環境性能、インテリアなどの分野ごとに深化しているが、その前段としてブランドに磨きをかけることを基礎としていることに注目したい。
マツダはかねてから「クルマで人生を幸せにする」というスローガンを掲げ移動の道具ではない愛のあるカーライフを標榜している。
2012年にCX-5はスカイアクティブの構想の下、フルスカイアクティブ・モデルとして登場し、世界120か国で140万台以上の販売実績を上げるマツダの基幹車種に成長している。そして、次なるステップは乗員みんなで楽しむクルマをテーマに開発が進められた。つまり、機械的な、性能的なレベルアップを図るのはもちろんだが、心を豊かにするためには、とか、一緒にいることでの満足感を高めるには、といった工業性能ではない感性性能に魅力に磨きをかけることに挑戦した最初のモデルと見ることができるだろう。
例えば、ボディに移り込む景色や差し込む光でクルマが素敵に見える、綺麗だと感じ心が動く。そうしたクルマにするには、ボディデザインもさることながら、塗装、色によってもその魅力が表現できると考えているのだ。
ということで、マツダの開発意欲を踏まえたうえで、工業製品としての魅力のアップ、深化についてお伝えしよう。
■エクステリア
マツダのデザインはスカイアクティブの新商品群となって確立された。それは、今回のCX-5のフルモデルチェンジで顕著に感じる。それはプレミアムモデルが用いる手法だが、誰がみてもそのクルマだと分かるデザインであり、メーカーすらイメージできるというデザインであり、デザインそのものがブランドアイデンティティであるということだ。
CX-5は新型になってもCX-5であり、他モデルと見間違うことはない。それはメルセデスでもBMWでもアウディでもそうだ。そして先代モデルと現行モデルでは明らかに異なるデザインであるにも関わらず、ドラスティックなデザイン変更は行なわれないという共通性がある。
マツダに限らず日本車の宿命として大衆・量販モデルというポジションでグローバルを戦っている。台数を売ることで利益を出す白物家電的工業製品という一面を持っているからだ。だが、マツダはそこからの脱却を目指しているのだろう。その原動力がスカイアクティブと魂動デザインだと考える。
新型CX-5のデザインは「Refind Toughness=洗練された力強さ」をキーワードに掲げ熟成した骨格、品格のあるフォルム、仕立てのいい質感を軸に作り上げている。
先代と比較してAピラーを35mm後退させロングノーズにしている。SUVでありながらロングノーズはスタイリッシュに映り、リズムある先代からスピードへと表現を変更している。それは美しい映り込みを作り込んだフォルムであり、随所にある局面によるボリューム感や彫りの深いディテールにより艶が増し精悍な印象を与えている。
ブランド表現で重要なフロントフェイスは、薄型化したヘッドライトに左右への広がりを見せるシグネチャーウイングによって低くワイドな表現を強化している。中央に配されるマツダのロゴマークも立体感が強まり、高級感へとつなげている。
CX-5はデザインだけでなく、塗装にも注力した。新色のソウルレッド・クリスタルメタリックは、従来のソウルレッド・プレミアムメタリックと比較して彩度で約2割、深みを5割増しにしたことで、より瑞々しく艶やかな透明感を表現している。
技術的にはクリア層、透過層、反射層の3層構造としながら、赤色をよりピュアに発色させるための工夫がされている。それはこれまで以上に薄く、小さくした高輝度アルミフレークに加え、そのアルミフレークのサイズを均一化することで、より緻密に光の反射をコントロールして、ハイライトの鮮やかさとシャドー部の深みを際立たせているのだ。
こうした塗装による艶やかさでクルマは高級に見え、印象も良くなる。こうしたことは技術者であれば知っていることだろうが、実際に挑戦したモデルというのはなかなか聞かない。一般的にプレミアムモデルにとって重要なポイントにも「塗装」「仕上げ」という項目が上がるように、意外と塗装に対しては敏感な人が多いのが富裕層の特徴かもしれない。
こうした塗装品質はベース素材による影響も出る場合がある。つまり鉄板と樹脂に塗装した場合は、見え方に若干の違いが生じることがあるが、これは世界のプレミアムモデルでも抱えている問題である。また、樹脂の伸縮による隙間の違いもあり、悩ましいところだ。CX-5ではこのあたりの問題を実にうまく処理していることに感心する。
■インテリア
インテリアもずいぶんと大人っぽくなった。ステアリングのセンターからインスツルメントパネルの加飾や左右の空調レバーまでを一直線にデザインし、「アウディもこんな感じかもしれない」と、いつの間にかプレミアムモデルと比較している自分に気づかされた。<次ページへ>
見た目だけでなく触感にもこだわりを見せている。インパネやドアトリムといった人の手が直接触れるものは滑らかな感触となるように厚みを持たせ、そして素材の工法、色、シボ、艶、ステッチの通り方を統一している。
センターコンソールは先代より幅を大きく、高さを上げ運転席、助手席共に包まれ感のあるコクピットにしているのも大きな変更点だ。例えばレンジローバーイヴォークのようなセンターコンソールの存在感もCX-5がプレミアムモデルの領域に踏み込んでいることを感じる。
ちなみにボディサイズは先代とほぼ変更なく全長4545mm、全幅1840mm、全高1690mm、ホイールベース2700mmで全長が5mm伸び、全高では15mm下がっているだけだが、シルエットはずいぶんと流線形になった印象を受ける。
シートにも強いこだわりがある。フロントシートは特に、ドイラバーの脊椎を自然で理想的なS字カーブになるように工夫がある。シート座面には新たに高減衰ウレタンを使用し、フィードバックとしての振動を伝えつつ、不快につながる振動は絶縁して乗り心地をよくしている。
またシートバックは体圧を分散できるサスペンションマットを採用し、フィット性とサポート性を持たせている。さらにシートバックの剛性を部位ごとに最適化し身体の揺れや頭部の移動を抑制している。つまり、シートもサスペンションの一部である思想が盛り込まれているわけだ。
機能系のインテリア装備では、アクティブ・ドライビング・ディスプレイがある。これはヘッドアップディスプレイがボードに表示するタイプからウインドウに映すタイプに変更されている。メーターよりも上部で視線移動をより小さくし、焦点調整の負荷も少なくて済む。
■パワートレーン
スカイアクティブ-Dのクリーンディーゼル2.2と直噴ガソリンスカイアクティブ-Gの2.5と2.0の3種類がラインアップする。ディーゼルではEGRの精緻なコントロールにより、アクセルレスポンスを改善したもので、サウンドにもダイナミックダンパーを装着し、そして周波数のコントロールでディーゼルのノック音を小さくするナチュラル・サウンド周波数コントロールが搭載されている。
車外で聞くとディーゼルとわかったエンジンも今回の改良で、さらに音が静かになりガソリンエンジンとの区別がますますわからないレベルになっている。
トランスミッションでは6速ATが従来と同様搭載されているが、ガソリン用には車速やアクセル開度、エンジン回転数などから、操作の意図を読み取る新しいフィードフォワード制御へと変更している。従来のタイマー式で起きたコーナリング中やコーナー立ち上がりでの不要な変速がなくなり、より滑らかな変速になる工夫がある。
ディーゼル用のトランスミッションでは低剛性のロックアップダンパーを採用している。大トルクに対応できるようにドライブシャフトの剛性を確保しつつ、ロックアップダンパーのストロークを延ばしてねじり剛性を最適化した。
オンデマンド式のi-Active AWDはパワーテイクオフとリヤデファレンシャルの軸受け部をローラーベアリングからボールベアリング化し、高剛性が要求される部位には2列に配したタンデムボールベアリングを採用している。これにより先代モデル比30%の抵抗を低減でき、実用燃費で2%向上させている。
■シャシー
スカイアクティブ ヴィークルダイナミクスの第1弾技術であるG-ベクタリングコントロール(GVC)を搭載した。スカイアクティブ ビークルダイナミクスはマツダが標榜する人馬一体を実現するための新世代車両運動制御技術の総称で、その第1弾というわけだ。
これはアクセルとステアリング操舵からの信号を受けてエンジントルクを制御し、横方向と前後方向の加速度を統合的にコントロールする技術で、ドライバーは直進で座りの良さや安定感を享受でき、カーブではGのループにより体への負担が少ないコーナリングが可能となる新技術だ。
またステアリングラック・ギヤをサブフレームにリジットマウントすることでダイレクト感や正確なフィードバックが得られるように改良もされている。
そしてフロントストラットでは、減衰の最適化が図れるようにダンパーのピストン径を大きくし、またダンパー内にリバウンドスプリングの採用、サブフレームとボディとの結合部には液封ブッシュを採用するなど、正確なフィードバックと不快な振動、挙動の安定など狙ったシャシーチューニングがされている。
■ボディ
高級車ではNVHに対する対策が必須で、CX-5も従来モデルからの見直しを計り、穴、隙間を徹底的に追及しているという。ボディそのものは高剛性発泡充填剤やパネルの板厚や結合部の形状の見直しなどを0.1mm単位で行なうなど、ねじり剛性を15.5%向上させたという。
材料に関しても超高張力鋼板の比率を3%拡大し、Aピラーは1180MPa級の超高張力鋼板を採用。サイドシルやBピラーにもあらたに980MPa級を採用。そして前後のバンパーレインフォースには世界最高硬度の1800MPa級のホットスタンプを先代に引き続き採用している。
こうした高剛性ボディによって優れた操安性、乗り心地へとつながるがNVHへの対策もぬかりない。粗い路面での低周波のロードノイズ低減のために、車体の全領域の振動現象を解析し、各部位の振動を抑制するという対策をしている。例えば、路面から伝達される振動を最小にするためにスタビライザーの中空化やフロントストラットへのダイナミックダンパーの設定などで共振現象を綿密にコントロールし、入力を低減している。
そしてBピラー下部のボディパネルの板間隙にはシール材を塗布して隙間をなくす対策を取っている。新型CX-5では生産上の限界まで隙間を小さくすることで、外部からの音の侵入を防いでいるという。
■安全性能
高級車に欠くことのできない近年のアイテムは自動運転系の装備類だ。マツダのi Active senseは従来のミリ波レーダーに加えてカメラを取り入れ、停車時から100km/hまで追従走行する機能を持たせた。また、歩行者検知機能もあるアドバンスト・スマート・シティ・ブレーキは車両検知作動速度を約4~30km/hから4~80km/hへと拡大。歩行者検知は約10km/hから80km/hで作動する。
夜間の視界確保ではアダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)を装備し、照射範囲を自動でコントロールするグレアフリー(防眩)ハイビームと広範囲で照射できるワイド配光ロービーム、光軸の上下を自動で切り替えるハイウエイモードを装備し、夜間のドライバー認知支援をサポートする機能を搭載した。
■まとめ
こうして改良、改善された部位を細かく見ていくと、欧州のプレミアムモデルに引けをとらない装備が備わり、また取り組む姿勢や考え方といったソフト面でも大衆・量販モデルの領域を超えていることが分かる。ブランドアイデンティティを高め、関わる社員の意識も高かまり、そして商品もグレードアップしていくマツダの新商品群は、その変化率が高く加速度的にプレミアムに変化していることを感じ取れるものだった。
それは、スペックで表現できる性能だけでなく、数値に置き換えられない魅力の向上だ。所有する満足感であったり、眺めたり、触ったりすることでの幸福感で、そうしたポイントに注力し磨き続けるのが今後のマツダの新商品郡だと感じる。まだまだ、磨き足りないところがあるかもしれないが、それは楽しみの部分という見方もできるだろう。次なる評価は試乗してみてのインプレッションだ。
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