御神体 チーターオブジェ
生産部門としては、この御神体を作り込むことができれば、デザイン部門からのどんな要求にも応えることができるはずだと考え、御神体活動に着手したという。つまり、プレスラインや曲面を表現する土台となる金型成型技術を磨くことで、製品になったときも、そのプレスライン、曲面はデザイン時を再現できるようになるということだ。
そこで開発されたのが、「魂動削り」「魂動磨き」「魂動砥石」だ。マツダはプレス成型技術を「魂動奥義」と位置付けている。
魂を動かし、生命感を表現しているのが魂動デザインで、その再現にはこうした生産部門の取り組みがあったわけだ。そこには、5ミクロンの精度で砥石をつくり、人の手による、つまり職人により、光の映り込みをコントロールする高品位加工技術で削られ、磨き挙げられていくのだ。また、工作機械でも従来の走査線切削という技法では、研磨機が形状の凸凹を横切るために、切削負荷の変動が大きく、加工精度のばらつきが大きかったという。
そうした切削機も面沿い加工を採用し、位置精度を向上させたことにより、ばらつきは79%削減でき、かつ高速で送り出す速度も1.4倍に上がったという。さらに評価曲線も以前は15ミクロンであったものが5ミクロンの単位で評価できる品質へと高品位化できたと説明する。
感性を数値化する
とてもマツダらしいと感じるのが、モデルベース開発(MBD)を駆使した車両開発があるが、今回の生産部門でも驚かされたのは、感性の数値化だ。人が感じるものを数値化して再現していく技法でMBDを使いこなすマツダらしさだと思った。
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デザイン上とても重要なボディカラーがあるが、そのカラー表現においてマツダの「ソウルレッド」は印象的だ。誰が見ても「綺麗」と口ずさむ赤だが、そのカラーデザイナーの感性を塗膜構造へと落とし込んでいるので、何度でも再現することができている。
暗黙知から形式知への変換を行ない、デザイン意図を数値化して光学特性へと落とし込む。その光学特性をベースに塗膜構造設計に反映するという手法なのだという。なんだか複雑怪奇な説明ではあるが、イメージは伝わる。
もう少し具体的に説明するとデザイナーが「宝石のように透明感がある」といえば、光の波長と透過率の関係をグラフにし、光学特性化をする。そのデータを元に、いくつものサンプルを作りデザイナーの感性を再現した製品になったのか?をサンプル製作で検証し、合致したデータをアルミ形状や着色顔料を制御した塗膜構造へ落とし込むという工程を経ている。もちろん、この塗膜構造ができれば量産化は可能になる。さらに言えば、このカラーデザイナーの感性を数値化することを繰り返すと、サンプルさえ作らずともイメージが合致したものが製造できるようになる。これがMBDを使いこなすマツダの技術力でもある。
そして塗布工程も数値化しており、もはや数値化することが楽しくなっているのではないか?とすら感じてくる。その塗布工程では、匠の塗布速度と量のパラメータを数値化し、これを塗布ロボットに反映する。さらに、塗布装置自体も新開発し匠塗装の機械量産化を実現しているのだ。
したがって、マツダに納品する塗料と全く同じものを入手しても「ソウルレッド」の再現は難しく、職人であれば再現することが可能かもしれないが、量産は不可能なはずだとマツダの開発者は自慢気に話す。
マツダのモノづくりの最後の工程、それは「評価」だ。「魂動プレス」はミクロレベルのこだわりを持って造形し、その造形を際立たせるカラーを量産化して完成している。そして完成したものを評価するために共通のものさしが必要になると考え、「ゼブラ灯」という統一光源を作り、プロセスごとに管理することで、デザインから工場まで一気通貫の検証を行なっているのだ。
イメージが変わったマツダブランド
マツダのイメージは大きく変わりつつある。もはやロータリーエンジンを作っていたことすら知らない世代が現れ、革新的変化は成功しているように映る。その変化はいつから始まり、何を変えてきたのか? 「スカイアクティブ」はひとつのキーになるが、生産技術の進化も大きく革新させた原動力のひとつであることもわかった。
そして全てのモノづくりの基盤になっているのが、「考え方」と「数値化」であると思う。そして製作工程ではモデルベース開発を駆使し、「精度の高いものの量産」を実現させたというのが今のマツダのクルマだと思う。
次回はより具体的に生産工程におけるマツダの技術をお伝えしよう。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>