マニアック評価vol303
F55型のMINI、つまり初の5ドアモデルが登場し、ようやく試乗する機会が訪れた。これまでMINIファミリーにはSUVテイストを採り入れたクロスオーバーが5ドアボディであったが、本流MINIでは初の5ドアモデルである。
そもそもBMCのオールドミニの時代から2ドア、BMW MINIになってからはリヤハッチを加えた3ドアが基本だ。改めて言うまでもなく、日本市場では伝統的に3ドアボディは敬遠されるが、MINIだけは3ドアが受け入れられてきた。これは、MINIという強い個性、存在意義がオーナーに理解されていたからだし、実際に日本は世界でも有数のMINIファンが多い国でもある。
しかし、そうはいってもMINIの可能性をもっと拡大するために5ドアボディのラインアップは必然だったといる。もちろん現行モデルは企画当初からF56/F55型というラインアップが設定されていた。5ドアのF55型は、先に導入されたF56型より全長が165mm長く、ホイールベースも70mm延長されている。全高も+15mmとわずかに高くなっている。
しかし実車を見ると、ホイールベースや全長が長くなっていることに気付かない。それだけ巧みなデザイン処理が行なわれているのだ。テールゲートの角度を少し寝かせ、リヤのオーバーハングも伸ばすことで、クルマ全体の印象は3ドアと近似したプロポーションとしているのだ。
3ドアのMINIでもボディサイズの割には室内のスペースはタイトに感じるが、それは今回登場した5ドアでも同じだ。リヤシートへのアクセスはリヤドアのありがたさを実感できるが、シートに座ると足元スペース、頭周りのスペースは大人にはミニマムという感じだ。ドア･ウインドウも小さく、頭周りの閉塞感が強いからだろう。一方、フロントシートでのスペース感はこれまでの3ドアモデルと変化はない。全長4000mm、全幅1725mmとBセグメントのサイズだが、広さを追求せず、キャビン内でタイトさを感じさせるのも、MINIのコンセプトの一つといえる。
しかし、リヤの容量が拡大されたラゲッジスペースと、リヤ･ドアの存在は日常でのシーンではやはり3ドア・モデルより使い勝手がよいことはいうまでもない。
5ドアモデルのラインアップは、クーパーとクーパーSの2モデルで、3ドア・モデルと同様にクーパーが1.5L・3気筒直噴ターボ、クーパーSは2.0L・4気筒直噴ターボ。当然だがパワーも136ps、192psとかなり違うが、試乗車は3気筒エンジンのクーパーとなった。もちろん6速ATとの組み合わせだ。
走りは、ホイールベースが延長され、3ドア･モデルよい少しピッチングは抑えられているが、基本的に3ドア･モデルと同じフィーリングだ。試乗車にはドライブモードセレクトが装備され、グリーン、ミッド、スポーツの3段切り替えができ、乗り心地、ステアリングの操舵力、エンジンのレスポンスが変化する。スポーツ=最高のゴーカートフィーリングはさすがに、スロットルが早開きとなり、レスポンスも高まるが、乗り心地としては路面でポンポンと跳ねる感じで、普通のクルマなら演出のやり過ぎと感じるが、MINIではこれもありだという他はない。ある意味で、この乗り味もMINIブランドといえるかも知れない。
エンジンの動力性能は、市街地でも高速道路でも3気筒のクーパーでも十分すぎるほど活発だ。ターボを感じさせないレスポンス、低速からの強力なトルク、回転の滑らかさなど、この最新のBMWエンジンの資質は文句なし。
走り、乗り味も含め、3ドアも5ドアもMINIであることを直感的に感じさせてくれる。ということは、MINIファンは、MINIオリジナルに対するこだわり派は3ドア･モデルを、日常での使い勝手を考えれば5ドア・モデルという選択になるだろう。5ドアは実用狙いとか、ファミリーユースというような思い込みは不要で、5ドア･モデルもれっきとしたMINIなのだと思う。価格的には多くのオプションをフル装備すると400万円クラスとなる。しかし今現在のMINIファンにとっては価格より先に、3ドアか5ドアかという悩ましいテーマの答えを見つけ出す必要がある。
