M282型ルノーと共同開発した1.3LエンジンをAクラスに搭載
メルセデス・ベンツCクラスに搭載された1.5LのM264型エンジンがメルセデス・ベンツの最小排気量エンジンではない。実は新型AクラスのA180に搭載されている横置きFF用のM282型エンジンは1331ccで、さらに排気量が小さい。
もっともAクラスのラインアップで日本未導入のA220、A250などには2.0LのM260型エンジンを搭載している。このM260型はCクラスに搭載されているM264型と同一シリーズのモジュラーエンジンで、排気量の違いだけでなくM264型は縦置きFR用、M260型は横置きFF用という作り分けがされている。ちなみにM260型のFR用の高性能仕様は2.0Lで300ps/400Nmを発生する。
A180に搭載されるM282型エンジンは、ルノー・日産・三菱アライアンスとダイムラー社が共同開発したエンジンというユニークな素性を持っている。メルセデス・ベンツではこのエンジンはM282型と呼ばれるが、ルノーでは「エナジーTCe」シリーズと名付けられ、エナジーTCe115(115ps)、エナジーTCe130(130ps)、エナジーTCe140(140ps)、エナジーTCe160などがラインアップされ、今後の主力エンジンとなる。現時点ではルノー・セニック/グランセニック、カジャーに搭載されている。
4気筒エンジンの気筒休止システム
ルノーはこのエンジンをヨーロッパだけでなく中国でも生産する。一方のダイムラーはこのM282型エンジンはチューリンゲン工場(MDCパワーGmbH)で生産している。このMDCパワー工場は、なんと三菱との合弁時代にスマートForfour、スマートFortwoを製造していたところで、現在はエンジン製造ラインで、これまでの主力4気筒エンジンのM270型などを製造している工場だ。
この1.3LのM282型エンジンは、250Barの高圧直噴システム、10.6という高圧縮比、シリンダー休止システム、電動ターボ過給圧制御、低フリクション技術など最新の設計だ。シリンダー休止システムは、1250〜3800rpmの回転数域で低負荷走行の場合、2番と3番シリンダーの吸排気バルブが閉じて休止状態になり、1番、4番シリンダーのみで走行するようになっている。
当然ながら2気筒での負荷が大きくなりスロットルはオープン状態のためポンピング損失が低減できるのだ。またメルセデス・ベンツにとって4気筒エンジンでの気筒休止システムの採用は初となる。
排気量1332cc、ボア×ストロークは72.2×81.4mm、ボアピッチ85.0mmで、圧縮比は10.6。ソレノイド・インジェクターは燃焼室中央に配置されるスプレーガイド式を採用。小型ターボを装備している。排ガス対策は最新スペックを採用し、ガソリン粒子フィルターも備えている。
デルタ・シリンダーヘッドとは何だ?
このエンジンは「デルタ・シリンダーヘッド」というユニークな設計だ。シリンダーヘッドは燃焼室の上屋だが、現在の市販エンジンではカム、バルブ&バルブ駆動システム、吸排気ポートを一体化した長方形の形状が常識だ。では、デルタ・シリンダーヘッドとは何だ?
このデルタ・シリンダーヘッドはまさに新発想の設計で、バルブ挟み角を狭角に配置し、高圧直噴インジェクターを燃焼室中央に直立配置。そして内側にハイドロリック・ラッシュアジャスターを配置しロッカーアームにより吸排気バルブを駆動する。そのため吸排気のカムシャフトはバルブの頂点より内側のロッカーアーム上に配置されている。
つまり内側支点のロッカーアーム、狭いバルブ挟み角とすることでコンパクトにまとめ、その一方で通常の吸気ポート、排気ポートがないのだ。そのためこのエンジンを前方から見ると3角形、つまりデルタ型となっているのだ。
この3角形のシリンダーヘッドに別体の吸気ポート+マニホールドと一体型排気ポート+マニホールドを組み合わせるというユニークな構造になっている。
現在のダウンサイジング・ターボエンジンは、シリンダーヘッド側の排気ポートが集合タイプとなり、その排気出口に直接ターボを取り付ける方法が主流になっている。そのため排気ポート+排気マニホールドが一体化された別ユニットとした、このデルタ・シリンダーヘッドは合理的な設計といえるし、整備サービス性も高いはずだ。
またこのエンジンはアルミ製クランクケースでライナーレス構造としているのも画期的だ。通常のアルミ製エンジンはシリンダー内側に鋳鉄製のシリンダーライナーを使用しているが、プレミアムメーカーのV8エンジンなどは鋳鉄ライナーを使用しないオールアルミ製だ。鋳鉄ライナーがなければ軽量化でき、さらにピストンとシリンダー部の熱膨張率が同一のため摩擦抵抗の低減にもなる。
しかしアルミ製のシリンダーでは潤滑性能が十分確保できないので、シリンダーのアルミ壁面に加工処理をする必要がある。昔の技術では、ニッケル・シリコン処理をして微小な凹凸面を作って潤滑性能を確保していたが、これはきわめて生産性が悪く、高コストになる。
そこでこのM282型エンジンはナノスライドと呼ぶ加工を行なっている。アルミ製シリンダーボアに鉄をプラズマ溶射する技術だ。実はこの加工法は日産GT-RのVR38型エンジンでも採用されている。アルミの表面に鉄の薄い被膜ができ、その被膜は微小な凹凸があるためオイルが保持でき、潤滑性能が十分確保できるのだ。
このようにM282型エンジン、ルノー・エナジーTCe130シリーズは、量産されるベースエンジンでありながら最新のテクノロジー、独自のアイディアを実現したユニークなエンジンとなっている。