メルセデス・ベンツ 復活した直6エンジンを考察 その結果V6が消滅!

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2017年11月末にメルセデス・ベンツは第3世代となるEセグメントの新型ラグジュアリー4ドア・クーペ「CLS」を発表し、2017年末のロサンゼルス・モーターショーでワールド・プレミアした。Eクラスをベースにしたこのニューモデルは、2017年7月にSクラス(S450/500)用に追加された直列6気筒エンジン「M256」型を搭載している。

メルセデス・ベンツ M256型直列6気筒エンジン

新6気筒は新世代モジュラーエンジン

新型CLSはCLS450 4MATIC、AMG CLS 53 4MATIC+の2車種だが、両モデルともに直列6気筒のM256 を搭載している。M256は、2017年に発表されたシュツットガルト・ウンターチュルクハイム工場で生産される新開発のガソリンエンジンで、ターボチャージャーと電動コンプレッサーを備えている。

CLS450 4MATIC(左)とAMG CLS 53 4MATIC+
CLS450 4MATIC(左)とAMG CLS 53 4MATIC+

CLS450 4MATIC用のエンジンは367ps/500Nmを発生。0-100km/h加速は4.8秒と発表されている。またAMG CLS E53はさらに高出力の435ps/520Nmのパワー、トルクを発生する。

AMG CLS 53 4MATIC+のエンジンルーム
AMG CLS 53 4MATIC+のエンジンルーム

M256は、60度V型6気筒のM276の後継エンジンとされ、4気筒(OM654)、6気筒のディーゼルエンジン(OM656)と、4気筒(M254)、6気筒のガソリンエンジン(M256)を含む新モジュラーエンジンだ。そのため、これらのエンジンは各シリンダーの容積(約500cm3)とボアピッチは共通化されている。なお4気筒シリーズの「M264」は2018年にデビューする新型Aクラスに搭載される予定で、2.0Lで299ps/400Nmを発生するという。

メルセデス・ベンツ M256型直列6気筒エンジンとM276型V6エンジンの比較
新型M256と従来型のM276型V6との諸元比較

M256のエンジンの基本は、シリンダー間隔(90mm)とボア(83mm)の全長方向に非常にコンパクトな設計で、わずか7mmのウェブ幅のため、このエンジンは、排気量を増大させるためには、ストロークを増加させることによってのみ可能になっている。シリンダー壁面はナノスライドと呼ぶ鏡面処理を採用している。

M256の排気量は2999ccで、ボア×ストロークは83mm×92.4mmというロングストローク・タイプで、シリンダーのボア間隔は90mm。 圧縮比は10.5だ。チェーン駆動のDOHC4バルブのシリンダーヘッドを備えている。吸排気カムは連続可変バルブタイミング「カムトロニック」を装備。また燃料噴射はピエゾ・インジェクターによる直噴を採用している。

メルセデス・ベンツ M264型2.0L直列4気筒エンジンの諸元表
2.0L 4気筒のM264の諸元表

エンジンにはターボチャージャーとボルグワーナー製の電動コンプレッサーによるツインチャージ・システムを装備し、エンジンの応答性を向上させている。電動コンプレッサーは、0.3秒以内に70,000rpmの加速が可能で急速に過給圧を得ることができる。

ターボチャージャー直後には三元触媒が配置される。 さらに車両の床下にはパティキュレートフィルター(PF)が標準装備されている。つまりM256は粒子フィルターを備えた最初のガソリンエンジンとなる。

メルセデス・ベンツ M256型直列6気筒エンジン

またM256は補機ベルトを廃止し、エンジン全長を極限まで短縮。その代わりに三菱電機製の48Vモーターをトランスミッションとエンジン間に配置し、48V電源で電動エアコン、電動ウォーターポンプを駆動するシステムとしている。

もちろん48VのISG(integrated starter generator)は、その名の通りスターターモーター、発電機+減速回生、駆動アシストの役割も担っている。このISGの駆動アシスト力は最大で22ps/250Nm。またエンジン、トランスミッション側のクラッチを切ることで無動力のセーリング走行も可能になっている。

このようにM256型エンジンはマイルドハイブリッドであり、CLSは電動車とカテゴライズされる。

メルセデス・ベンツ M256型直列6気筒エンジン

直列6気筒エンジンはBMWとメルセデス・ベンツに

直列6気筒エンジンにこだわるのはBMWをおいて他にはない。1930年代に端を発したB78型エンジンから2000年代に入っても途切れることなく直6エンジンを生産しているが、もちろん時代によりそのコンセプトは変化している。かつての高回転型の高出力エンジンから、ロングストロークの低回転型の過給エンジンへと移り変わっているのだ。

BMW M58型エンジン
BMW M58型ツインパワーターボ・エンジン

BMWの最新の直列6気筒モジュラーエンジンである「B58型」は、排気量2979 ccで、ボア×ストロークは82 mm×94.6 mmで、メルセデス・ベンツのM256型と同様のロングストローク・エンジンだ。メルセデス・ベンツと異なるのは、ダブルVanos(吸排気連続可変バルブタイミング)に加えて連続可変リフト機構「バルブトロニック」を装備していることだ。

またこのB58型はアルミ・クローズドデッキ・シリンダーを採用し、エンジン剛性を確保。そのため低回転大トルク型とはいえ、最高許容回転数は7000rpmに設定されている。

このエンジンの圧縮比は11.0と高く、それでいて従来型のN55型の直6エンジンよりツインスクロール型ターボの過給圧は20%も高められているという。ただ、1気筒あたりの容積が500ccとなっているのはメルセデス・ベンツと同じで、このモジュラー設計により、4気筒版やディーゼル版と多くのエンジンパーツを共通化している。

BMW B58型エンジン
BMW B58型エンジン

このB58型エンジンのラインアップは、326ps、340ps、360psという3仕様が設定されている。優れた燃費と排ガスを訴求しながらも高出力のスポーツ性の高いエンジンに仕上げているのが特長といえるだろう。

BMWは一時のトレンドに流されず、V型6気筒は採用せず、直列6気筒を守ったのは、いわばブランドのアイデンティティを守るためであったといえるが、最新の技術的な要件をきっちり取り込んで、現在のトップレベルのエンジンとしている。

一方、メルセデス・ベンツは1920年代から直列6気筒ガソリンエンジンをラインアップしてきたが、1997年以降はV型6気筒エンジンの生産を開始し、直6エンジンは1999年で生産を中止している。つまり直6を廃止してV6エンジンに置き換えたのだ。

その理由はいくつかあるが、一番の狙いは、より大排気量のV8エンジンとV6エンジンをモジュラー化することと、エンジンパッケージのコンパクト化、特に前後長を短縮することだろう。メルセデス・ベンツは典型的なプレミアムカーメーカーであり、V12気筒、V8気筒、そしてV6気筒というV型のシリーズ化は自然な流れである。

また、大きなマーケットであるアメリカ市場でもV型エンジンの位置付けは直列エンジンより上である。

一方、生産面では、V型エンジンをシリーズ化したほうがエンジンの加工や部品の共通化に好都合であった。V12気筒はごく少量の生産数のため、生産基数の多いV8、V6のモジュール化は必須であったといえる。

直6エンジンが消え、V6エンジンに代わったのは衝突安全性を高めるためという都市伝説もあるが、それは必ずしも正確ではない。全長の短いV6はパッケージ的に有利で、さまざまな車種に搭載できることが第一で、衝突時の衝撃吸収ストロークを確保するのは直列6気筒エンジンでもそれほど困難ではない。

実際、BMWの直列6気筒エンジンの場合は、5番、6番シリンダー部はフロント・バルクヘッドより後方に位置しており、エンジンルーム内のスペースは4気筒エンジン搭載の場合とほとんど違いがないのだ。

V6エンジンを消滅させる理由

では、そのメルセデス・ベンツがV6エンジンの代わりに改めて直列6気筒エンジンを採用したのはなぜなのか?

メルセデス・ベンツは、新しい直6エンジンは「よりパワフルで、より高効率、よりクリーン」だとしている。もちろんそうなのだが、もう一つ大きな理由としてダウンサイジングの流れを無視することはできないからだ。

今後はV8エンジンでさえ排気量を小さくしていくが、今後の量産モデルの主流、生産基数では4気筒、6気筒がメインとなる。ならば生産数の多い4気筒、6気筒をモジュラー化したほうが合理的だという判断があるからだ。エンジンの製造、加工ではV型と直列エンジンは大きく異る。今後の製造プロセスの合理化を図るためには生産数の多い直列エンジンで統一することが望ましいわけだ。

直6エンジンであれば直4エンジンと共通の生産ラインを構築することができる。またシリンダーヘッドを2個持つV型より直列エンジンのほうがコストも低減することができる。

そして最新のターボ+電動スーパーチャージャーの組み合わせで、従来のV6を上回る出力も実現でき、実際にCLS450は367ps/500Nm、AMG CLS E53では435ps/520Nmと十分すぎるパワー、トルクを達成している。

魅力たっぷりの直列6気筒エンジン

直列6気筒エンジンは、V12気筒と同様に等間隔燃焼により発生する振動が完全バランスするエンジンだ。エンジンは燃焼するとクランクシャフトに反作用が発生するが、直列6気筒はエンジンの振動の面から見て、カウンターウエイトやバランスシャフトを使用しなくても一次振動、二次振動および偶力振動を完全に打ち消すことができる構成で、振動の少ない滑らかな回転が期待できる。

直列4気筒エンジンは二次振動が発生するため、振動を抑え、滑らかにするためにはバランスシャフトが必要で、プレミアム・クラスの4気筒エンジンはバランスシャフトを採用している。

V型6気筒エンジンは、バンク角90度と60度、180度と3種類があるが、180度、つまり水平対向6気筒は完全バランスのエンジンとなる。60度は等間隔燃焼、90度のV型の場合は不等間隔燃焼となる。また60度V6エンジンの場合は直列3気筒と同様に、一次、ニ次振動はバランスするがエンジン全体が回転するような偶力振動が発生する。

このように考えると、エンジンの資質としては完全バランス、等間隔燃焼の直列6気筒エンジンは、プレミアムカーにはふさわしいエンジン型式ということができる。

もちろんアメリカ市場ではV型エンジンがプレミアムとされ、アメリカの自動車メーカーがV型エンジンを廃止する可能性は小さいが、グローバル規模で見ると直列6気筒エンジンは、BMWとメルセデス・ベンツだけの貴重な資産となると考えて良いだろう。

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