アウディは2022年3月17日、インゴルシュタット本社でラグジュアリー・クラスの近未来の電動駆動モデル「A6 アバント e-tron コンセプト」を発表した。アウディは約1年前の2021年4月開催の上海モーターショーで「A6 Sportback」の電気自動車コンセプトモデルを発表しており、この「A6 アバント e-tron コンセプト」も基幹モデルのA6シリーズのBEV版として市販を前提に開発されたモデルで、先進的な駆動テクノロジーとアウディを象徴する伝統的なアバントのデザインを融合させたモデルとなっている。
モデル概要
2021年に発表された「A6 e-tron コンセプト」と同様に、「A6 アバント」も最新のPPEプラットフォームをベースにした電気駆動システム、つまりBEVを採用している。なおこの「A6 アバント e-tron コンセプト」は、先行した「A6 e-tron コンセプト」と共通のボディ・サイズとなっている。
Eセグメント、つまりラグジュアリークラスに属するこのコンセプトカーのボディサイズは全長4.96m、全幅1.96m、全高1.44mで、現行のA6/A7と同等だ。そして、そのデザイン表現にはアウディの現在のデザイン言語を採用している。クローズド・シングルフレーム・グリル、横幅一杯に広がるリヤ・ライトストリップなどのデザイン要素は、アウディの電気自動車「e-tron」シリーズで統一されているのだ。
エクステリア全体のデザインは、スポーツバックと同様、簡潔さを追求している。そのボディラインとエレガントなプロポーションは、近い将来の市販モデルに近いもので、アウディ・ブランドの電動ラグジュアリー・クラスのダイナミックさ、エレガントさを示唆している。
アウディ社の技術開発担当取締役のオリバー・ホフマン氏は、「私たちは、A6 アバント e-tron コンセプトにより、新しいPPEテクノロジー・プラットフォームをベースにした将来の市販モデルの具体的な姿をプレゼンテーションしています。私たちは、45年間のサクセスストーリーを誇るアバントをただ単に電動化しただけではありません。何よりも必要なのは高度なテクノロジーを採用しつつ人々に感動を与えることです。特にこれにはパワフルな800Vのテクノロジー、急速充電270kWへの対応、WLTPに基づく一充電走行距離・最大700kmの航続距離などを意味しています」と語っている。
A6のエンブレムが示すように、このコンセプトカーは、ラグジュアリー・クラスであることは明確だ。1968年に登場したこのモデル・ファミリーは(1994年まではアウディ 100という名称)は、世界最大のボリュームセグメントにおけるアウディを代表するクルマの1台で、1977年以来シリーズには常に革新的でエモーショナルなステーションワゴンを再解釈したアバント・モデルが設定してきた。
ダイナミックなラインと優れた多用途性を備えたアバントは、従来とは違う新しいカテゴリーを生み出し、その後、競合他社は次々のこのコンセプトに追従するモデルを発表している。
今回、PPEテクノロジーを採用することで長距離走行ができる実用性を備えながら、ダイナミックなドライビングパフォーマンスを実現している。近い時期に市販されるA6 e-tronは、最大700㎞(WLTP基準)の一充電走行距離を誇るはずであり、さらにシリーズで最もパワフルなモデルは、0-100km/hをわずか4秒未満で加速することができる。
さらにこの「A6 アバント e-tron コンセプト」は800Vの高電圧システムを持ち、最大270kWでの高出力急速充電に対応しており、こうした急速充電ステーションではわずか10分間充電するだけで、約300kmを走行することができるようになっている。
最新のe-tronデザイン
「A6 アバント e-tron コンセプト」のダイナミックなプロポーション、エレガントなライン、そしてブランドの特徴となっているリヤエンドのデザインを見れば、このクルマが風洞実験室から生み出されていることが直感できる。
エアロダイナミクス性能は、ラグジュアリー・クラスにおけるアウディの特長のひとつであり歴史的な実績だ。第3世代の1982年型アウディ100(C3型)が達成したCd値(空気抵抗係数)0.30は、その当時のすべてのクルマの中で最高の数値であり、現在でも自動車史における伝説となっている。
「A6 アバント e-tron コンセプト」は機能とフォルムを完璧に融合させ、先行している「A6 e-toron スポーツバック コンセプト」のCd値=0.22であるのに対し、アバントのCd値は、それをさらに0.02上回る驚異的な空力性能を実現している。これにより電力消費量を低減し航続距離を伸ばすことが可能になっているのだ。同時に、風洞実験室でファインチューニングされたことにより、エレガントで細部に至るまで調和の取れた有機的なデザインとしてまとめられている。
22インチの大径ホイール、短いオーバーハング、フラットなキャビンスペース、そしてダイナミックなルーフラインは、スポーツカーを連想させるほどダイナミックなプロポーションだ。明確なエッジ処理が存在しないデザインにより、凸面と凹面がスムーズにつながり、ボディパネル全体にソフトな陰影が生み出される。そのため側面から見ると、あたかも一つの大きな塊から削り出したように見えるのだ。
緩やかなスロープを描くリヤサイド・ウィンドゥのデザインと傾斜したDピラーは、アバントの典型的な特徴で、Dピラーはショルダーラインから上方へと立ち上がり、流れるようなラインを描きながらリヤエンドへとつながっている。そして印象的なクワトロ・ブリスターは、ボディの幅広さを強調すると同時に、ボディサイドに有機的な曲面を形成している。
前後のホイールアーチは、彫刻的なデザインのロワ・ロッカーパネルで連結されている。このロッカーパネルは、この位置にバッテリーが搭載されていることを示しており、アウディ・ブランドの電気自動車 e-tron を象徴するデザイン要素となっている。また、e-tronシリーズ共通で、Aピラーの基部にはカメラを使用したバーチャルエクステリアミラーが装着されている。
フロントから見ると、アウディ・ブランドの電気自動車であることが瞬時的に認知できる。ドライブトレーン、バッテリー、ブレーキを冷却するためのエアインテークを左右に備えた、大型のクローズド・シングルフレーム・グリルを備え、フラットなヘッドライトベゼルは、フロントエンドの側面まで伸び、水平基調のボディラインを強調している。
風洞実験室生まれの空力効果は、リヤエンドを見るとわかる。アッパーリヤエンドは、空気の流れを切り裂くようなデザインが採用され、カラートリムを備えたリヤスポイラーは、「A6 アバント e-tron コンセプト」の水平基調のシルエットを視覚的に強調している。
下部セクションでは、大型リヤディフューザーのエアアウトレットが、バンパー部と統合された形状になっている。カラートリムを採用したこのコンポーネントは、風の流れを整えながら、エアフローを車両の下へと導き、空気抵抗が低減し、リフトが最小化されている。
ショーモデルのスポーティなシルエットは、ネプチューンバレーと呼ばれる温かみのあるグレーの色合いによって強調されている。このボディカラーは、日陰ではモダンで控えめな外観を特徴となっているが、太陽の下では顔料の効果が最大限に発揮され、光の当たり方によってさまざまに色合いが変化する柔らかいゴールドカラーとなり見る者を魅了する。
フラットな形状のヘッドライトとテールライトはスリムでだ。デジタル・マトリクスLEDとデジタルOLEDテクノロジーにより、少ない表面積でも最大の明るさと幅広い機能を実現している。また、新たにライトによる光の演出をオーナーがカスタマイズできる機能も持っている。
ボディの側面には、小型で高解像度の3台のLEDプロジェクターが装着され、ドアを開くと地面が光のステージとなる。このシーンではダイナミックな光の効果とともに乗員に母国語で挨拶が行なわれる。またこの小型の高解像度プロジェクターは、地面に警告マークも投影し、ドアを開こうとしているシーンでは、後方から近づいてくるバイクに警告を表示できるようになっている。
さらに、車両の4隅にも、4つの高解像度LEDプロジェクターが目立たないように組み込まれ、ターンシグナルを地面に投影。これらのプロジェクション機能は、必要に応じてさまざまな市場や認証条件に対応するように変更することも可能だ。
デジタルマトリクスLEDフロントヘッドライトは、動画を投影する機能も備えている。たとえば、「A6 アバント e-tron コンセプト」を、目の前が壁になっている駐車スペースに止めて充電する場合、ドライバーと乗員は壁に投影されたビデオゲームを楽しむことができる。それぞれのゲームの仮想風景は、インストルメントパネルの小さなディスプレイではなく、XXL形式で壁に投影されるのだ。
このコンセプトカーのリヤエンドには、連続したライトストリップとして、新世代のデジタルOLEDエレメントが採用され、ディスプレイのように機能する。また、デジタル・ライトシグネチャーやダイナミックライティング・ディスプレイを、オーナーの好みに合わせてほぼ無制限にカスタマイズすることも可能だ。
テールライトの新機能の1つは、ボディ形状に合わせたデジタルOLEDエレメントの3次元アーキテクチャーで、夜間にボディ全体のデザインが映えるようなライティング・デザインが可能になっている。これにより、2次元の光のショーを演出できるだけでなく、より印象的な3D空間効果を体験することができる。
PPEプラットフォームと800Vテクノロジー
ポルシェと共同開発したPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリックの略)プラットフォームは電気自動車専用に設計されており、このメリットを最大限に活用することがポイントだ。「A6 アバント e-tron コンセプト」や将来登場するPPEをベースにした車両は、前後アクスル間に約容量100kWhのバッテリーを搭載しており、SUVからセダン、アバントに自由に適合させることができるポテンシャルを備えている。
PPE開発の共同プロジェクトの拠点はアウディ(インゴルシュタット)とポルシェ(ヴァイザッハ)の両方に置かれた。アウディは、両社のモデルを含む3機種の車両プロジェクトのうち、2つを主導しており、残りのプロジェクトをポルシェが主導し、各開発担当者は、週2日間は相手方企業で仕事をシステムを採用している。
アウディとポルシェは、新開発される電気自動車アーキテクチャーにより、パッケージ、ホイールベース、室内スペースといった各面における電気自動車の利点を最大限に追求する。またこのアーキテクチャーは高い柔軟性を備えており、ハイフロアモデル(SUV)にもローフロアモデル(セダン)にも適用することが可能だという。
いうまでもなく、PPE車両のバッテリーサイズとホイールベースはフレキシブルで可変で、さまざまなセグメントの車両に採用することができる。長いホイールベースと短いオーバーハングは、PPEプラットフォームの車両すべてに共通する要素だが、大径ホイールと組み合わせることによって、デザイン、プロポーションの面でスポーティなスタイルを作り出すことができるのも特長といえる。
PPEモデルはBEVならではのロング・ホイールベースにより、乗員コンパートメントには、広々としたスペースが生み出され、大きなメリットとなっている。さらに、技術面から見ると電気自動車はトランスミッションのトンネルを必要としないため、内燃エンジン搭載車よりも広いスペースを生み出すことができるのだ。
もちろんセンタートンネルなしであってもクワトロ・ドライブを選択することが可能となっている。PPEモデルは、フロントおよびリヤアクスルにそれぞれ1基の電気モーターを搭載したクワトロ・バージョンが用意され、モーターを制御することによりドライビング・ダイナミクスとエネルギー効率のバランスを取りながら、オンデマンドの4輪駆動システムを実現する。なおこのe-tronファミリーには、エネルギー消費量と航続距離を最適化したエントリー・バージョンも用意され、この仕様では1基の電気モーターがリヤアクスルを駆動するようになっている。
クワトロ・モデルは前後2基の電気モーターで、350kW(476ps)のシステム出力と800Nmのトルクを発生することができる。
サスペンションは、フロントには電気自動車用に設計された5リンク式サスペンションが、リヤにはマルチリンク・サスペンションが採用されている。さらに、このコンセプトカーは、アダプティブダンパーを備えた、アウディ・エアサスペンションも装備している
「A6 アバント e-tron コンセプト」、および将来登場するPPEモデルの技術的なハイライトは、800Vの高電圧充電テクノロジーだ。e-tron GT クワトロと同様、急速充電ステーションを利用すれば、最大270kWの高出力で短時間で充電することが可能だ。
このように長い航続距離を実現した上に、PPEテクノロジーにより従来の内燃エンジン搭載モデルが燃料を補給する場合と同じくらいの時間で、バッテリーを充電することが可能になっている。300km以上を走行可能なレベルまでバッテリーを充電するのに必要な時間はわずか10分間で、25分以内でバッテリー容量を5%から80%まで充電することができるのだ。
駆動システムと出力により異なるが、A6 e-tronファミリーの一充電航続距離は700kmを超え、内燃エンジン搭載モデルに匹敵しており、市街地走行から休暇を利用したロングドライブに至るまで、あらゆる用途に最適なユニバーサルカーに仕上がっている。
これまPPEは、ポルシェ タイカン、アウディ e-tron GTというスーパーカー・カテゴリーが採用しきたが、いよいよ基幹モデルであり量産モデルのA6シリーズにPPEを投入することでBEV戦略は一気に拡大することになるという点で、注目すべきモデルである。