2017年8月31日、ホンダの新型N-BOXが発表されました。じつは私の長いホンダ人生の中で、最後に担当した機種がN-シリーズでした。「軽」と言えばスズキ、ダイハツという2強の中で、どうすれば「ホンダの軽」というブランドが作れるのか? みんなでいろいろと考えたのを思い出します。
■N-BOXブランドとマーケット
現行のN-BOXはモデル末期にもかかわらず、この7月まで17か月連続販売台数トップ(全国軽自動車協会連合会調べ)を取るほどの大ヒット車に育ち、「ホンダの軽」ブランドを作ることができました。
軽自動車は、近頃かなり高額のクルマもありますが、一般的には廉価です。しかし、その開発、製造コストは登録車(普通車)に較べてそれほど安いわけではありません。というのも部品は5ナンバー以上の登録車と同じように、タイヤは4つ、ドアも、ボディも、部品のサイズが小さいだけで、ほぼおなじ数です。テストなどもほぼ同じようにやります。
廉価を可能にしているのは、販売台数(償却台数)です。つまり、軽自動車は数がたくさん売れることが大切なのです。
N-BOX発売以前のホンダの軽自動車ラインアップは少なく、トータルの販売台数は少なかったのです。事業性を考えると、部品の共用化は当たり前として、車種を増やして全体の販売台数増を考えないといけません。
そのため、新たに軽自動車を企画する段階でN-BOX、N-ONE、N-WGNと「N-シリーズ」化されたのです。
しかし、シリーズとして最近の販売台数を見るとN-BOXは好調ですが、N-ONEとN-WGNは好調とは言えません。N-ONEで1000台/月ちょっと。N-WGNで5000〜6000台/月。N-SLASHが1000台/月程度です。2016年のトータル乗用販売台数は約30万台とちょっと寂しいです。
ホンダにとってN-シリーズのモデルチェンジは、今回のN-BOXよりもN-ONE、N-WGN、さらにN-SLASHを今後どうするか、どう販売台数を引き上げるか、という事が課題になります。あるいはこんなに車種数は要らないかもしれません。
■新型N-BOXのデザイン
パッと見て、新型N-BOXは旧型と似ているように感じられると思いますが、詳しくデザインの新旧比較をしてみましょう。
まず、フロントの顔は、はっきりとした逆台形グリルを採用し、より一般的なミニバン的な顔になりました。また、バンパー面(顔)はほぼ平らになり「軽自動車」を感じやすくなってしまいました。
ボンネットが歩行者保護対策でサイド見切りになった結果と思われますが、見切り線が後ろまで通り(ドア線)、初代のグラフィカルな処理はなくなりました。
後ろ部分をサイドビューで見るとバンパーからルーフまでの角度とカーブがより垂直に立って、一般的なミニバンぽくなりました。テールライトは大きくなり、また外側に張り出して、リヤビューが幅広く見えるようになりましたが特徴的ではなくなりました。
一方で、フロント・ピラーモールは目立つ部品ですが、その断面とツヤが不揃いで造りが「雑」な感じもしました。
このように、新型のデザインはより一般的なミニバンぽくなり、デザイン鮮度という意味では後退したように感じます。つまり、初代はブランド作りを意識して、ダイハツ、スズキの典型的な「軽自動車」デザインから離れ、新しい乗用車を目指してきめ細かくデザインされましたが、新型はより競合車に近づいたようです。
すでにN-BOXブランドが確立した2代目としては、ユーザー層を広げるために、より馴染みやすいデザインを考えたのかもしれません。
■性能、機能
その走りは「シルキー」と言えるほどスムーズなものになりました。より静かに、乗り心地良く、ロールも少なく、「軽自動車スーパーハイトワゴン」という背の高いクルマの乗り心地を超えたと思います。
「軽自動車」はボディ外寸の枠があるために、有効室内長を稼ぐにはフロント席の設計値をできるだけ前にしますが、そのためにはアクセルペダルも前に行く必要があります。
アクセルペダルは大昔のミニのように、フロントタイヤを左方向に逃げて前に持っていくと、運転しづらく踏み間違えの要因ともなりかねません。アクセルペダルの左右方向はドライバーにだいたい正対しておくとなると、その前方にはタイヤやエンジンルームがあり、ミリ単位の工夫が必要になります。
新型は、結果的に15mmアクセルペダルを前方に移動することができて、より実質的な室内長は長く(広く)なり前後のシート間隔は+25mmとなりました。ちなみに、このアクセルペダル位置は各メーカーの機密(秘匿)事項になっていますが、内緒で開発者に聞いたところ、N-BOXは「軽自動車」NO.1をキープしているということでした。
新型N-BOXは、ボディからエンジンなどほぼ全てを新作した結果、-80kgと軽量化されましたが、燃費は27km/Lと少し向上しただけです。これは、JC08モード燃費は見直されるという事を視野に入れて、現在の燃費計測時のイナーシャウエイト(等価重量のクラス分け)のことはあまり気にせず、ユーザーの立場で実際に街中を走った時の燃費を大切にしたということでした。
■使い勝手
室内が広くなり、助手席が大きくスライドし、またウォークスルーもできるようになって、室内の使い勝手が大きく向上しました。こうなるとダイハツ・タントのようにセンターピラーをなくしたくもなりますが、ボディの強度、剛性を考えると大きく補強が必要になり重量増につながります。
ダイハツの次期タントは、最近の各メーカー軽量化の嵐の中、センターピラーをどうしてくるのか?これは興味あるところです。
また、普段良く見るメーターやナビなどは、位置と大きさを工夫することで、いずれも視認性は格段に向上し、フロントピラーの太さやルームミラー位置なども工夫して、フロント視界は非常にスッキリとしました。
また、収納関係では助手席の前のインパネトレーが深くなりモノ落ちの心配が少なくなりました。ただ、毎日使うエンジンスタートボタンは、ドライバーから半分ほどしか見えず、また少し押しにくく感じました。
このように新型N-BOXは、ブランドが確立した2代目ということもあり、デザイン的にはより馴染みやすく一般化し、性能や使い勝手は大幅向上したクルマとなりました。実際に市場に出てからのユーザーの反応が楽しみですが、これに続く後のN-シリーズがどうなるのかも楽しみです。