プジョーのCセグメントハッチバック「308」と、最上級の「508」に待望のクリーンディーゼル・モデル「BlueHDi」が追加された。もちろん、プジョー・ジャポンとしては初のディーゼル・モデルとなるが、同時にシトロエンにも「C4 FEEL BlueHDi」が導入されている。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
■ディーゼル大国から来たBlueHDi
プジョー・シトロエン・ジャポンとしては初のディーゼル・モデルだが、本国ではもともと以前からディーゼル・エンジン車が圧倒的に主流だ。プジョーは1922年にすでにディーゼル・モデルを生産しており、戦後は1958年に403ディーゼルを送り出し高い評価を受けるなど乗用車用のディーゼルエンジンでは長い歴史を持っている。レースでも2007年~2011年のル・マンカーのプジョー908には5.5L・V12気筒700psのディーゼル・エンジンが搭載されるなど、ディーゼル・エンジンに対するこだわりは強い。
それに加えて、フランス人のディーゼル・エンジン好きもあって、ガソリン・エンジンよりディーゼル・エンジンの方が主流だ。もちろん年間走行距離が多いユーザーにはディーゼルは燃費が良いといった経済的なメリットもあるが、それにも増して分厚い低速トルクの特性は扱いやすく、動力性能も気持ち良いといったディーゼルならではの価値が重視されているのだ。
これまで日本に導入されなかったのは、市場規模と日本のディーゼル排ガス規制に適合させるコストがアンバランスと判断されていたわけだが、ヨーロッパでのユーロ6適合とほぼ同時期に日本のポスト新長期規制にも適合させることで、日本導入が実現したのだ。
そんなわけで、改めて308、508の BlueHDiモデルに乗ってみた。プジョー308は5ドアとワゴンのSWの両方のアリュール・グレードに1.6LのBlueHDiエンジンが設定され、GTグレードには2.0L BlueHDiが搭載される。
またプジョー508は2.0LのBlueHDiのみの設定で、セダンGTとSWGTに搭載されている。なお308は、ガソリンエンジンの1.2Lピュアテック・エンジンは従来通りラインアップされ、BlueHDiとの2本立てとなるが、一方508はBlueHDiエンジンモデルに絞り込まれ、ガソリン・モデルはフェードアウトすることになる。
BlueHDi(アドブルー・ハイプレッシャー直噴の意味)の排ガス対策テクノロジーは、2000barの高圧直噴と、エンジンのターボ直下に酸化触媒を配置し、その後方にSRC(尿素還元触媒)とDPFを一体化したユニットを配置したPSA特許のシステムだ。酸化触媒、SCRをよりエンジンに近く配置することで、触媒の活性を早めることができるという効率の良さが最大の特徴だ。尿素水タンクはトランクスペースの下面に配置され、トランク・ルームにある補給口から約1万kmごとに尿素水を補給する。またDPFは300km~1000kmで溜まった煤の粒子を燃焼させて自動再生する。
JC08モード燃費は308アリュール BlueHDiが21.0k/L、308GT BlueHDiが20.1km/L、508GT BlueHDiが18.0km/Lで、重量税、取得税は100%減税、自動車税は75%減税扱いとなる。
■308 BlueHDi 試乗インプレッション
まずは1.6Lの308 アリュール BlueHDiだ。このクルマの価格は299万円で、Cセグメントの中でもトップレベルの質感を備えたクリーンディーゼル・モデルとしてはコスト・バリューは抜群だ。
エンジンを始動し、アイドリング状態で車外に出ると、エンジンルームからはディーゼルらしい音が聞こえるものの、走り出すと滑らかで、ディーゼルらしさは霧散してしまう。可変ジオメトリーターボとエンジン特性のチューニングも抜群で、アクセルの踏み込みは少なくても力強いトルクで気持ちよく加速する。
エンジンの滑らかさ、吹け上がりレスポンス、アクセルオフでの回転落ちの素直さなどはトップレベルだ。とにかく300Nmのトルク、120psのパワーは308をスポーティに走らせるのも、ゆったりと巡航するにも十分といえる。エンジン特性は、2.0LのBlueHDiよりさらに低速型となっているので、6速ATのマニュアルモードでも早めに早めにシフトアップするのが得策だ。室内もCセグメントでトップレベルの静かさだと思う。
またスポーティさを引き出すためには「スポーツ」ボタンを押すと、ステアリングの操舵フィール、エンジン・レスポンス、シフトタイミングがよりスポーツ走行向けになり、同時に加速時には「ボ、ボ、ボ」というV8エンジンのようなサウンドが響いてくる。これはスピーカー出力によるサウンド演出なのだが、アクセルペダルの踏み込む量に応じてサウンドが変化し、聞こえてくるサウンドも絶妙だ。こういう点でも、実用ディーゼルではなく、エモーショナルな走りにこだわるブランドの思想を示している。
308 アリュール BlueHDiはガソリン・モデルに比べ50kgほど重いが、ハンドリング、安定性、乗り心地などは専用にチューニングされているため、レベルの高い、気持ちよい走りは少しもスポイルされていない。
2.0Lディーゼルを搭載する308 GT BlueHDiはガソリン・モデルより180kg重くなる。しかし180ps/400Nmとエンジンの力強さもひとクラス上になる。そして1.6 BlueHDiより中速以上での伸びもある。1.6Lは3500rpmあたりがパワーピークで4000rpmまで引っ張ると詰まり感が出てくるが、2.0Lは4000rpmあたりでもまだ余裕が感じられる。
だから、2.0Lの加速フィーリングはより強力で伸びがよいのだ。308 GT BlueHDiももちろん、スポーツ・モードがあり、加速に応じたV8サウンドを楽しむことができる。よりシャープなアクセル・レスポンス、しっかりとした操舵フィーリングで、まさにGTカー的なドライビングを楽しめることが実感できる。
一方、100km/hでの巡航は1500rpmに過ぎず、しかもエンジン特性はそこからモリモリとトルクが高まるゾーンになり、巡航での余裕、変速不要のトルク感はやはりディーゼルならではのドライビング・プレジャーだ。
GTグレードはタイヤも225/45R18と、アリュールより2ランク上のサイズだが、乗り心地、ハンドリングの正確さやリニアさ、安定性などのトータルのバランスの良さのレベルは高く、180kgプラスの車両重量を感じさせないのには驚かされる。改めて308というクルマのポテンシャルの高さを感じさせられた。
■508SW GT BlueHDi試乗インプレッション
プジョーの最上級ラグジュアリーモデル、508は2011年の日本導入以来5年を経過しているが、もちろん日本では1.6Lガソリン・ターボモデルのみのが発売された。しかし、本国、ヨーロッパでは、大別して1.6L、2.0L、2.2L、ハイブリッドとディーゼルがラインアップされており、各排気量でも様々な仕様が存在していた。
今回登場したのは508 GT BlueHDi、つまりスポーティ仕様のディーゼル・モデルで、2.0Lエンジンを搭載。しかも、従来までの508はフロントがストラット式サスペンションであったが、このGTはダブルウイッシュボーンなのだ。本国ではもともと標準のストラット式と、スポーティモデル用のダブルウイッシュボーンの2本立てだった。
508は、時系列的に308が採用している新世代プラットフォーム「EMP2」ではなく、インテリアも以前のデザインだ。しかし、トップレンジのクルマだけに上質で落ち着いた佇まいだと感じられる。
試乗したのは508SWだ。走り出すと、30km/h~40km/hでの市街地の荒れた路面では、少しゴツゴツした落ち着きのない乗り心地だった。それもそのはずで、以前の508は215/60 R16、215/55 R17といったサイズだが、このGTは235/45R18サイズのタイヤで、さすがにこれはちょっとやり過ぎ感がある。
ところがスピードが上がるほどしっとりとした乗り心地になり、室内の静粛性も高まってくる。ステアリングの操舵フィーリングも気持ちよく、ラグジュアリーモデルにふさわしい走りのフィーリングになるのだ。
車重1650~1700kgの508に搭載される2.0Lディーゼルは308GTと同じだが、400Nmというトルクは車重をものともせず加速は爽快で、長時間のドライブなどではもっと真価が発揮されるだろうと思った。