2020年を乗り越えられるか 自動車メーカー各社の第1四半期を分析 

新型コロナウイルスの猛威は、中国やベトナムなど東南アジアの一部の国、そしてヨーロッパ諸国での感染は収束傾向にあるが、アメリカ、南米、アフリカ、インドなどは今でも感染が拡大している。そのため世界的なレベルでは、まだまだ長い戦いを覚悟すべき状況にある。

グローバルの自動車販売動向

主要都市を早期にロックダウンした中国は、1月下旬から3月の経済活動は完全に停止した。だが、4月以降は急速に経済が回復しつつある。その一方で、他の国では都市や工場のロックダウン、移動の禁止などによる経済的な影響に加え、感染が完全に収束したわけではないし、第2波の予兆も見られ、現在でも経済活動にはブレーキがかかっている。

そのため、世界の航空会社や観光業界などは空前のダメージを受けている。では自動車メーカーはどのような状況か? 自動車のグローバル マーケットは地域によって様々だ。世界最大の市場である中国は、4月以降は前年を10%以上も上回る活況となっており、世界の中でも例外的な状況で、主要自動車メーカーは中国市場頼りの傾向が強まっている。

ヨーロッパ諸国は、ロックダウンが解除され、工場の操業も再開されたものの、まだフル操業ではなく、販売活動も徐々に復旧しつつあるレベル。各国とも販売面では前年比で−10%〜−15%という状況が続いている。さらに第2波の感染拡大の懸念もあり、市場は回復傾向にあるとはいい難い。

アメリカは、5月が−30%、6月が−24.4%、7月が−12%と、徐々に上向いているとはいえ回復のペースは遅い。全米でもまだまだ感染拡大が継続しているから当然といえよう。工場は今でも限定的な生産ペースが続いているのだ。

インドネシアは、4月は90.7%減、6月は79%減と大幅に販売は低迷している。そして4月〜5月の生産が-90%という状態であったインドは、販売面では6月になって-50%程度まで持ち直してはいるが、感染の終息がまったく見えない状況のため、こうした低調は当然継続するだろう。

日本は、5月の販売は−45%、6月の販売は−23%、7月が−13.7%とスローペースながら回復基調にある。しかし、7月後半から8月にかけての感染者数の増加により、今後の見通しは楽観を許さない状況となった。

フォルクスワーゲン:後半の攻勢が頼り

フォルクスワーゲングループは7月30日に第2四半期(4〜6月)の決算を発表した。アウディやポルシェ、セアト、シュコダなどを含めたグループ全体の売上高は410億7600万ユーロ(約5兆0945億円)で、前年同期比で37%減となっている。

この第2四半期の最終損益は約1993億円の赤字となっている。赤字の原因は、新型コロナウイルスの感染拡大による工場の生産休止や、ロックダウンによるディーラーの営業休止の影響を受けていることはいうまでもない。

しかし中国を筆頭に、回復傾向が見られ、多くのニューモデルの投入も予定されており、2020年の後半に期待が持てるとしている。

フォルクスワーゲン グループにとっては、いち早く、しかも前年を大きく上回る販売動向にある中国市場は好材料といえるだろう。

ルノー:空前の赤字

周知のように各自動車メーカーの2020年3月決算の内容は、新型コロナウイルスによる影響で、中国では1月〜3月、他の諸国では3月前後分しか盛り込まれていない状況での決算であった。

ジャン・ドミニク・スナール会長と、7月に着任したルカ・デメオCEO

新型コロナウイルスの世界規模での影響が反映され始めるのは4月〜6月の第1四半期の決算からで、それだけに各自動車メーカーの第1四半期の決算内容が注目されるわけだ。

ルノー/日産/三菱アライアンス各社の決算内容は、予測されていたとはいえ衝撃的だった。まずルノーは、日産の凋落の影響をまともに受けた上に、主力のヨーロッパ、南米での販売が減少したことで、さらに大幅なリストラ費用を盛り込んだことで大幅な赤字となっている。

ルノーは1〜6月期分の決算で、純損益は72億9000万ユーロ(約9000億円)の赤字となり、このうち日産による赤字が48億ユーロを占めている。さらに自社の減損処理やリストラ費用で42億9000万ユーロを計上したのだ。この大幅な赤字額は過去最高額となっている。一方で、ルノーの1〜6月の販売台数は約35%減で、この数字はある程度予想されたレベルであり、業界平均のレベルといえる。

なおルノーは、これまで財務担当のクロチルド・デルボCFOが暫定CEOを務めていたが、ようやく7月にルカ・デメオ氏がCEOに着任し、ルノーの本格的な再建が開始されることになる。

ルカ・デメオCEOはかつて、ルノー、トヨタ・ヨーロッパ、フィアット、フォルクスワーゲン・グループの要職(直近はセアトのCEO)を経てきた経歴を持ち、有能な経営マネジメント能力が評価されている。今後のリストラへの取り組み、アライアンス戦略での手腕が注目されている。

日産:危機はさらに深まる

十分に予想されていたとはいえ、日産の危機はより深刻化している。すでに2019年度から大幅な販売台数の低下に悩まされていたが、新型コロナウイルスの影響により、販売台数の減少はさらに深刻化している。

第1四半期の決算を発表するアシュワニ・グプタCOO(手前)、内田誠CEO、スティーブン・マーCFO(奥)

4〜6月期の決算で売上高は前年同期比50.5%減の1兆1741億円、営業損益は1539億円の赤字だった。同時に発表した21年3月期の通期予想は6700億円の最終赤字になるとしている。

4〜6月期の世界販売台数は前年同期比47.7%減少の64万3000台だ。新型コロナウイルスの影響の大きいアメリカでは、GMは4〜6月期の販売台数は前年同期比34%減、トヨタ自動車は34.6%減、ホンダは27.9%減など各メーカーも軒並み減少しているが、日産は前年同期比49.5%減で、減少幅は他社よりも大きい。

日産は新型コロナウイルスの問題以上に、アメリカでのブランド力の低下、販売力の低下が課題であり、アメリカでの販売低下の歯止めのひとつとされる新型SUV「ローグ」の投入は2020年秋まで待つ必要がある。

アメリカ市場の現状

日産は内田CEOのもとで再建計画に着手している。再建計画では世界の生産台数の縮小、ヨーロッパ市場の大幅な縮小、アメリカ市場、日本市場の再建がテーマで、安定しているのは中国市場のみといった状態である。

再建計画により生産規模を縮小し、21年3月期の世界販売の見通しは前年同期比16.3%減の412万5000台。つまりほぼマツダ1社分に相当する販売規模の縮小を見込んでいる。しかしこの予想も新型コロナウイルスの第2波でさらなる販売低下が続けば計画は崩壊する。

その間、確実に手持ち資金が確減少しており、現状のままでは2021年前半には手持ち資金に関する不安が強まる可能性がある。

戦略転換を行なう三菱

三菱の4〜6月期の販売台数は前年同期比53%減の13万9000台。営業損益は533億円の赤字に転落した。そして、2020年度の業績見通しで売上高は、1兆4800億円(前期比35%減)、営業損益は前期128億円の黒字に比べ1400億円の赤字となり、減損損失の計上などで最終損益は3600億円の赤字になると発表した。

三菱の新たな中期経営計画の概要

三菱はこの危機を乗り越えるために中期経営計画「Small but Beautiful」を発表している。岐阜県のパジェロ製造工場の閉鎖、ヨーロッパへの新型車投入の凍結など、固定費削減のリストラ策を盛り込む。つまりヨーロッパ市場からの事実上の撤退を行ない、今後は主力の東南アジアへ経営資源を集中する計画だ。

三菱は、従来、東南アジア以外にヨーロッパ、中国、アメリカの各市場も重視するグローバルでの市場バランスを重視した拡大戦略を採用してきた。しかし、アメリカ、ヨーロッパ、日本での事業は赤字であり、販売台数はある程度伸びたものの収益を確保できる構造とは程遠かった。

特にヨーロッパ、アメリカでは現地工場を持っていないために価格競争力が弱いのも致命的で、ヨーロッパでは世界販売台数の20%を販売し、東南アジアに次ぐ市場とされていたが、今後は段階的に撤退する方向となった。

三菱の新車投入計画

今後は主力の東南アジア市場以外では、中国、アメリカでSUV、PHEVを武器にして収益の改善を図るという戦略としている。

マツダ:赤字900億円の通期予想で経営計画は先延ばし

マツダの4月〜6月の第1四半期の売上高は前年同期比55.6%減、営業損益は452億円の赤字、純損益は667億円の損失と発表された。

グローバルでの販売台数は前期比31%減の24.4万台、出荷台数は前期比63%減の11.4万台となっている。ただ出荷を控えたことで国内外の在庫は適正レベルだ。

マツダの第1四半期の業績

地域別の販売は、中国が市場の回復に合わせ13%増の6.1万台、ヨーロッパが58%減の2.8万台、日本は34%減の2.6万台、アメリカが19%減の8.1万台となっている。

2021年3月期の通期の業績予想は、売上高が前期比16.9%減、営業損益が400億円の赤字、純損益が900億円の損失としている。グローバルでの販売台数の見通しは8.3%減。地域別では、中国が前期比23%増、ヨーロッパは26%減、アメリカが3%減、日本が9%減という見通しとなっている。

トヨタと共同で立ち上げるアメリカのアラバマ新工場は、新型コロナウイルスの影響で工事が遅れており、年内に完成できるかどうか不明となっているのも不安材料だ。

今後はコスト改善や固定費などの削減などによって収益を改善するとしているが、研究開発費なども削減され、先行技術開発は2年間凍結される。注目の次世代ラージ商品向けのFR車用の設備投資は絞り込んで段階的に実施するなど緊縮財政とし、全体では中期経営計画を1年先延ばしすることになった。

もちろん2021年3月期通期の業績予想も今後は生産、販売が徐々に回復することが前提となっているため、日本や各国の新型コロナウイルスの第2波の状況によって予断を許さない状況となっている。

ホンダ:通期予想は2000億円の黒字

ホンダの第1四半期の決算は、売上高は2兆1237億7500万円で前年同期比46.9%減、営業利益は1137億円の赤字となっている。ホンダによれば新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響は約4400億円と試算している。

第1四半期の業績を発表する倉石誠司副社長

4輪の販売では第1四半期は79万2000台で、前年同期に比べ40.0%減だ。しかしアメリカでは29%減に抑えるなど、他メーカーを上回り、中国では生産停止が響いて販売車両不足であったため4.9%減となったものの、今後は大幅な伸びを見込み、今後は前年度を上回ると予想している。

同時に発表した2020年度通期の業績予想では、営業利益2000億円の黒字を確保するとし、税引き前利益では3650億円を予定している。もちろん前年度期と比べれば約4200億円の減益となるが、新型コロナウイルスの影響、販売台数の減少を考えれば大いに評価すべき見通しといえる。

新型コロナウイルス感染拡大中のアメリカでの業績

もちろんその背景には、アメリカ市場における販売力と、中国市場でのさらなる伸びによることはいうまでもない。

トヨタ:通期で5000億円の黒字を予想

トヨタは恒例の第1四半期、第3四半期の決算会見は、今後取りやめ、決算の発表だけにするなど新たな業務改革方針を発表した。そして注目の第1四半期の決算は営業利益が前年同期比98%減の139億円となったと発表した。

第1四半期の販売台数

連結グローバル販売台数は50%減の115万8000台。特に主力のアメリカ市場が62%減と大きく落ち込んでおり、その落ち込みはホンダと比べるとかなり大きい。

ヨーロッパも49%減と大幅な減少。日本はニューモデルの投入と、全チャンネル全モデル販売による販売競争激化により、販売台数は31%減とやや落ち込みが小さかった。一方で中国ではなんと48万2000台(14%増)と、この期では過去最高となっている。他社に比べ武漢近郊に工場がなかったことも幸いし、中国市場の大幅伸張の波に乗ることができたわけだ。

営業利益は販売減少により8100億円の減益となっている。地域別では日本とアジアが黒字を確保したものの、アメリカとヨーロッパ、中東などその他の地域は赤字となっている。売上高は40%減の4兆6007億円、純利益)は74%減の1588億円。

トヨタの2020年度通期見通し

注目の通期見通しは連結グローバル販売見通しで、5月時点より20万台プラスして前期比20%減の720万台に上方修正。さらに5月段階では未定としていた純利益(当期利益)は7300億円(前期比64%減)の予想を新たに発表した。売上高と営業利益5000億円については5月時点の予想を据え置いている。

この通期見通しは、今後新型コロナウイルスの第2波の大幅な拡大がないことが前提で、トヨタにとってもまだ今後の見通しは明るくなっているわけではない。

スバル:通期予想は黒字を想定

スバルの第1四半期の決算は、売上高が前年同期比45%減の4569億円、営業利益は1079億円の減少で157億円の損失となり、最終損益は77億円の赤字を計上した。

もちろんその理由は世界販売台数が前年同期比49%減の13万3000台と低減したこと、工場での生産が大幅に減速したことだ。海外販売台数は前年同期比50.1%減、国内販売台数は44.3%減となっている。スバルの主力市場であるアメリカでは50.1%減となっているので、収益が大幅ダウンしたのは当然といえる。そして世界生産台数は同64.8%減の9万2000台となっている。

スバルが予想するアメリカ市場での販売

しかし、スバルは2021年3月期の見込みは、世界販売台数は13%減の90万台とし、売上高が13%減の2兆9000億円、営業利益は62%減の800億円、最終益は前期比61%減の600億円と見込み、黒字を実現すると発表している。

スズキ:インドの感染拡大が継続し通期見通しは発表不可能

スズキは第1四半期の連結決算は、営業利益が前年同期比98%減の13億円と大幅な減益であることを発表した。

スズキの第1四半期の業績の推移

第1四半期の4輪車のグローバル販売は64%減の26万3000台となった。新型コロナの感染拡大が深刻なインド市場は、都市封鎖により4月の販売がゼロとなり、4月〜6月の3ヶ月で82%減の6万6000台となっている。日本市場は37%減、ヨーロッパは52%減となっている。

売上高は53%減の4253億円、純利益は96%減の18億円で、実質的な営業利益は赤字となっている。もちろん世界規模での新型コロナウイルスの感染拡大の影響であり、緊縮財政によるコストダウンを進めている。

グローバルでの生産と販売実績

他社とは異なりインド市場に大きく依存するスズキは、現時点でも2021年度の通期予想の発表は見送らざるを得ない状況にある。生産も段階的に再開され、一時よりは販売台数は回復傾向にあるものの、インドの新型コロナ感染者は最近でも1日5万人規模で拡大中で、感染終息の目処はまったく見えていない。そのため現時点で通期の見通しを発表することは不可能という状態なのだ。

GMとフォード

GMの4月〜6月の第2四半期決算は、新型コロナウイルス感染拡大による工場や販売店の封鎖が響き、前年同期の黒字から赤字に転落した。ただし赤字額は予想より少ないとされている。

第2四半期決算の損益は7億5800万ドル(802億円)の赤字だ。販売店での売上げは4月に前年比65%減まで落ち込んだものの、5月と6月は20%の減少にとどまるなど好転の兆しがある。

現在は販売店の在庫拡大に向けピックアップトラックやSUVの生産工場はフル稼働させており、依然として利益率の高いピックアップトラックの売り上げが堅調となっている。

一方、フォードの4月〜6月の第2四半期決算は純利益が11億ドルと黒字を記録した。ただしその中にはフォルクスワーゲンによるフォードの自動運転技術部門への出資が含まれ、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた工場閉鎖の損失を補った結果だ。

営業損益はは19億ドル(2010億円)の赤字となっている。そして通期見通しにおいても赤字になるとの予想を発表している。

GM、フォードともに、アメリカでの新型コロナウイルス感染拡大の勢いが衰えないため、苦戦状態が続くと見られるが、いずれも手元資金の余裕がじゅうぶん確保されている点で安心感がある。

このように概観すると、各自動車メーカーの4月〜6月の決算は、史上でも例がない横並びの赤字か、よくてもぎりぎり黒字という苦しい状況にあることがわかる。2020年後半に向けての展望は、アメリカ、南米、インドなどで新型コロナウイルスの感染が拡大し続けるか、終息の方向に向かうのかで大きく変わる。

そのため、各自動車メーカーともに感染を制圧し活況を見せる中国市場への依存度がいっそう高まる気配が濃厚になっている。

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