トヨタ「スープラ」とBMW「Z4」兄弟車の誕生 共同開発の背景を探る

共同開発の始まり

A90型スープラの開発を担当するGR開発統括部の多田哲哉氏は、スポーツカー共同開発の責任者として直ちにミュンヘンに飛んだ。これがA90型の企画・開発のキックオフとなった。

スープラのデザイン・ベースになった「FT-1」
スープラのデザイン・ベースになった「FT-1」

この協業のスタートに合わせてトヨタではデザイン・スタディが開始され、スポーツカー・デザインとしてまとめられたのがコンセプトカー「FT-1」だ。「FT-1」は2014年のニューヨーク国際モーターショーでベールを脱いだ。このFT-1はトヨタ・カリフォルニア・デザインセンター(CALTY)でデザインされ、直列6気筒ターボエンジンを搭載したFRスポーツクーペだった。パッケージングは2+2とされ、ホイールベースは2740mmで、2+2のシート配置が可能だったが、実際のA90型は大幅にホイールベースを短縮したため2座席に変更されることになる。

FT-1

チーフエンジニアの多田哲哉氏は、86のスバルとの共同開発でトヨタ側のチーフエンジニアを担当経験している。トヨタは商品企画、FR駆動、低重心の水平対向エンジンの搭載、4座席のスポーツクーペといった仕様やデザインを担当し、ハードウェアの開発はスバルが担当したが、スバルは2.0Lターボエンジンの搭載を主張したり、商品性での目指す方向の相違など、そもそも開発の企業文化が違う2社の間では課題は少なくなかったが、最終的には折り合いが付き、FRのスポーツクーペとして実現している。

86/BRZは自然吸気の2.0Lエンジンを搭載しているが、ハンドリング性能ではポルシェ・ケイマンを超えるレベルになったとスバル側の実験ドライバーも認識するほどで、両社は納得の仕上がりだと確信していた。

しかし、スープラの共同開発はまた新たな世界の扉を広げなければならず、スバルとの協業の経験はそれほど意味を持たなかった。一方で、BMWとの協業では、巨大企業であるトヨタと、クルマづくりに関してはプライドが高いプレミアム・カーメーカーとの共同開発であり、歴史的にも例を見ない組み合わせでの協業が行なわれることになった。

多田チーフエンジニアは、当初の企画会議でBMW側にケイマンを超えるようなスポーツカーを想定していると語ったというが、当然ながらBMW側は言葉を失った。しかし、その後の長い企画・検討の議論を経て最終的には、ピュアスポーツカーというにふさわしい俊敏なハンドリング、傑出した運動性能を追求することは共有された。

ボディとエンジン

スポーツカーの走りのイメージを具現化するため、クルマの基本諸元から検討された。もちろんベースとなるのはBMWの最新世代のCLAR(クラスターアーキテクチャー)プラットフォームだが、このモジュラープラットフォームはホイールベースやトレッド幅を自在に変更できるため、スープラ/Z4に最適化したショートホイールベース、ワイドトレッドの骨格が実現した。

これまでのZ4のホイールベースは2495mm、トレッドは1510/1535mmだが、新型Z4はホイールベース2470mm、トレッドは1595mm(全幅1864mm)で、トレッド幅が異様にワイドになっている。ちなみにポルシェ・ケイマンのホイールベースは2475mm、全幅1800mmで、Z4/スープラの方がよりワイドである。現在ではきわめて短いホイールベースで、ワイドトレッドな諸元を持っており、コーナリング・マシンを目指していることは明確である。

またZ4はコンバーチブル・ボディ、スープラはクーペボディと2種類のボディが設定されるため、オープントップ走行でも十分なボディ剛性が得られるようにフロア、サイドシルの大断面化が行なわれており、スープラのクーペボディでは静的なねじり剛性は86の2.5倍。トヨタ車として空前のボディねじり剛性が実現しているという。

シャシー部分では、サスペンション、サブフレームの取り付け剛性も最大限に重視されている。操縦性能を高めるために必須のポイントである。ボディ、フレームなどの設計、作り方はトヨタの常識とは大きく違っていたという。

Z4のインテリア
Z4のインテリア

サスペンションは、フロントがダブルジョイント式ストラット、リヤは新開発の5リンク式で、アルミ製リンクが多用されている。ステアリングは可変ギヤ式スポーツ・ステアリングが標準装備される。これはギヤ比も操舵アシスト特性も可変式となっている。なお、シャシーや装備は、スポーツライン、Mスポーツ・パッケージ、Mパフォーマンスの3種類があり、M40iには専用の可変ダンパー付きで、10mmローダウンされたMスポーツ・サスペンション、Mスポーツ電子制御デフ、Mスポーツ・ブレーキと高性能タイヤが装備される。Mスポーツ・デフは左右輪のトルク配分を可変制御でき、ハンドリングとトラクション性能を両立させている。

搭載エンジンはBMWの最新仕様の3.0L 直列6気筒エンジン(B58B30型Mパフォーマンス仕様)で、345ps/500Nm(アメリカ仕様は387ps)を発生する。バルブトロニック、ダブルVANOS(吸排気可変バルブタイミング)、シリンダーヘッド一体型の水冷エキゾースト・マニホールド、350Barの高圧直噴、ツインスクロールターボという最新仕様で、ガソリン粒子フィルターも備え、最新のユーロ6d-TEMP規制をクリアしている。

直列6気筒直噴ターボのB58B型エンジン
直列6気筒直噴ターボのB58B型エンジン

この直6エンジンはZ4の最もハイパワーモデルであるM40iに搭載される。トヨタにとってはスープラの伝統を守るためには直列6気筒エンジンは必須の存在で、自社では直6を製造していないので、このBMWの最新の高出力、ハイレスポンスの直6エンジンがスープラのシンボルということになる。

BMWはこの3.0L 直6エンジン以外に、2.0L 4気筒のB48B20型ツインパワーターボ・エンジンもラインアップし、Z4 sDrive30i、Z4 sDrive20iに搭載される、この4気筒エンジンも最新世代で、30iと20iは出力違いで、30i用は258ps/400Nm、20i用は192ps/320Nmだ。

トランスミッションは全モデルがZF製8速ATで、スポーツカー用にクイックな変速、ダイレクトな変速感が得られるように開発されている。

0-100km/h加速は、M40iが4.6秒、sDrive30iが5.4秒、sDrive20iが6.6秒と公表されている。

COTY
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