新世代カローラ・シリーズのトップバッター、「カローラ スポーツ」が2018年6月28日から発売された。プロトタイプ試乗会が行なわれた時点では詳細な情報はなく、車名もカローラ・ハッチバックという仮称で呼ばれていたが、ようやく「カローラ スポーツ」という正式車名であることと、新生カローラ・シリーズの全体像も明らかになってきた。
カローラ・ブランドと新世代カローラ
カローラは1966年に登場してから52年が経過し、かつては日本市場で販売台数トップの座を守り続けるベストセラーカーとなった。またトヨタの主力車として時代を経るにつれ世界各地の工場で生産され、世界でも有数のグローバルカーに成長している。
現在では世界の16拠点で生産され、154ヶ国で販売されるているが、グローバルカーの宿命で現地向けの仕様が採り入れられ、地域ごとにカローラのポジショニングもそれぞれの方向に進み始めた。例えば豪州仕様、中国仕様、アメリカ仕様、東南アジア仕様、南アフリカ仕様など細分化した仕様になっていたため、カローラではあるが、カローラとは違うというモデルになっていた。
一方で、本籍地の日本市場では販売台数が減少し、カローラ・ブランドの存在感は薄れ、オーナー層の高齢化が進んで行った。
10代目(2006年)からは、海外用のカローラがCセグメントであるのに対し、日本仕様はひとクラス下のBセグメント用のプラットフォームを採用し、全幅を1695mmと5ナンバーサイズに抑え、セダンはアクシオ、ワゴンはフィールダーというサブネームを付け、カローラを愛用するユーザー向けのクルマとしていた。
海外市場のカローラを大別すると、ヨーロッパ、アメリカ、中国はグローバルCセグメント仕様があり、これにアジア市場向けの専用Cセグメント・プラットフォーム、それと日本市場向けのBセグメントモデルを加え、大きな分類では、CサイズとBサイズの2種類。より細かく分類すると欧米・中国向けCサイズ仕様とアジア市場専用のCサイズ、そして日本専用Bサイズ仕様という3種類の作り分けすることなっていた。
そして今回、新プラットフォームのTNGAをカローラに採用するのを契機に、地域ごとの造り分けを止め、改めてグローバル・モデルとして再編することを決めた。また日本は従来の5ナンバー路線ではオーナー層のさらなる高齢化を避けられないため、ブランド・イメージの再構築を行ない、Cセグメントのカローラを前面に打ち出すことにしたわけだ。つまりトヨタを支える大きな柱であるカローラ・ブランドの再興と、より若い世代を引きつける魅力を高めることが必要と考えたのだ。
こうした戦略はホンダのグローバルモデルのシビックとよく似ている。ホンダは日本国内で失われたシビック・ブランドを、グローバル・モデルを導入することで再興させるという戦略だ。もちろんカローラ・シリーズもシビックと同様に、世界の工場で一斉にTNGA生産用の生産設備に切り替えるなど、ブランド再構築に合わせて投資も相当な額になっているはずだ。
また、カローラはTNGAの採用に伴い、新たなコンポーネンツを採用し、高効率と走りの性能を高めている。アメリカ市場には新開発の2.0Lのダイナミックフォース・エンジンと発進ギヤ付きCVTの投入、アメリカ、ヨーロッパ、日本には自動レブマッチング式6速MTなどを新投入する。
ボディは、ハッチバック、セダン、ワゴンの3バリエーションがあり、これらは販売地域に合わせて選択される。例えばアメリカはセダンとハッチバック、ヨーロッパはオーリス名でハッチバックとワゴン、カローラ名でセダンといった具合で、日本向けはまずカローラ スポーツ(ハッチバック)が最初で、おそらく2019年にはセダン、ワゴンが追加ラインアップされるはずだ。
カローラ スポーツの実像
日本でまず新生カローラのトップバッターとして新型カローラ スポーツが登場したが、カローラ・ブランド戦略やその背景を知らないと、なかなかカローラ スポーツというニューモデルを理解しにくいのも事実だ。
日本ではこれまで全幅1695mmと5ナンバーサイズ・セダンのカローラ・アクシオと、ワゴンのカローラ・フィールダーがラインアップされていた。さらにグローバルCセグメント・サイズのハッチバックは、オーリスの車名で欧州で販売されていた。ただし、日本ではオーリスがカローラ・ファミリーであるとは考えられておらず、車名として幅広く認知されていなかったし、販売も不振だった。
新登場のカローラ スポーツは、このオーリスの実質的な後継モデルだが、ブランド的には新規投入の新車種となる。セダンやワゴンより先に、まずハッチバクのカローラ スポーツを投入したのはその車名からもわかるように、より若々しいカローラのイメージリーダーという役割を担っているのだ。
コネクテッド技術搭載と走りの追求
そのため、カローラ スポーツは「次の50年に向けて、カローラを若い人達に」という言葉が開発の合言葉になっている。それを実現するために、コネクテッド(常時ネット接続)とクルマ本来の楽しさである、斬新なデザインと走りのレベルを高めることだったという。
走りについては、「ずーっと走っていたくなる気持ち良い走り」がテーマだ。日本ではこれまでのカローラは既存ユーザー向けの緩い、鈍いテイストの走りだったが、グローバルで通用する走りに明確に方向転換したわけだ。
また本音としてはグローバル戦略モデルのカローラをTNGAの採用により、Cセグメントのリーダーとして君臨するフォルクスワーゲンのゴルフ7に匹敵する走りのレべルに高めるという狙いもある。そのために開発時には世界の5大陸で100万kmのテスト走行を行なったというから、近年のモデルとしては異例の入念な熟成を行なっている。
TNGA-Cは、プリウスで初採用され、その後C-HRで改良を受けているが、新型カローラに採用するにあたって、さらにスムーズな乗り心地を実現するための新開発ダンパーの採用、新機構としてトルクベクタリング、連続可変ダンパー、iMT(レブマッチング)、パワーステアリングの改良(戻り制御+剛性向上)、大幅な静粛性の向上を目指している。
ダンパーのベース仕様は、新構造と新開発のダンパー・オイルを使用したKYB製で、0.05m/秒以下といった超微低速域での滑らかな動きと、横力が加わった時のリニアな摩擦によって発生する減衰力を引き出す「プロスムース」を採用している。
また超高応答のリニア・ソレノイドを使用した連続可変ダンパー「リニアソレノイド式AVS」が上級グレードのG”Z”にオプション設定されている。こうしたアクティブ制御ダンパーも今やグローバルCセグメントのクルマには欠かせなくなってきている。
こうした新コンポーネンツの投入も、新型カローラをCセグメントのグローバル・レベルに引き上げようとする意欲が感じられる。ちなみに電動パワーステアリングの戻り制御は、以前アメリカ仕様のカローラに採用されていたが、手応えが不自然で評判は芳しくなかった。だが今回は改めて挑戦し、より自然な手応えにした自信作だという。
またステアリングの剛性の向上も、TNGA-Cのスタート時点からのテーマで、ステアリングラックギヤをサブフレームにダイレクト結合する手法が採用されているが、今回はシャフトを含めた剛性向上を図っている。曖昧で、手応え感の薄かったこれまでの日本仕様のステアリングフィールとは180度違う世界を追求したわけだ。
走りのイメージは、サスペンション・ストロークを重視したゴルフ7よりフラット感のあるボディ、一体感のある滑らかなステアリング・フィール、そして優れた静粛性を目指したという。
新型カローラ スポーツはさらに、安全装備として最新のトヨタ・セーフティセンスを採用し、コンチネンタル製の自転車の検知や夜間での歩行者の検知機能を加えた高感度カメラを装備している。また、このクラスでは日本で初となるDCM(通信モジュール)を標準装備したコネクテッドカーという新たなアピールポイントも掲げている。
ただし、トヨタに限らず日本車はアメリカ市場ではインターネットの常時接続、コネクテッドカーになっているが、日本初導入のコネクテッドカーはトヨタのサーバーとの常時接続に限られ、そのメリットは主としてオペレーターとの会話と、Lineアプリをした情報のやりとりに限定されている。またスマートフォンのAndroid Auto、Apple Carplayも使用できないなど、過渡的なコネクテッドカーと考えるべきだろう。なおオペレーターセンターは全国5ヶ所に設置されているという。もちろんサーバーと常時接続で、オペレーターとも会話できるため、緊急SOSコールに対応している。
カローラ スポーツが搭載するエンジンは1.8L(2ZR-FXE型)ハイブリッド、1.2L直噴ターボ(8NR-FTS)で、従来のオーリスに搭載されているユニットを継承している。これまでオーリスに搭載されてきた1.5LのNAエンジン(1NZ-FE型)は搭載されない。アメリカで設定されている新開発の2.0Lダイナミックフォース・エンジン、発進ギヤ付きCVTなどの最新ユニット搭載は今のところ未定だ。
新型カローラ スポーツは、トヨタの新たな挑戦的な要素が各種盛り込まれており、グローバル基準の走りを目指している点などを考えると、単なるニューモデルというより、トヨタの次世代のクルマの姿を象徴する戦略的なクルマだと位置づけることができる。
ライバルは、ゴルフ7、フォード・フォーカス、日本車ではシビック、アクセラ、インプレッサなどと競合するが、スポーティで若々しいカローラのイメージが定着できるか興味深い。