トヨタ 豊田章男社長の本気はEVだった?!

雑誌に載らない話vol172
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2016年11月17日、トヨタは「EV 開発を担う社内ベンチャーを発足」というプレスリリースを発表した。このプレスリリースがちょっと奇異なところは「社内ベンチャーを発足」という部分だ。これが「EV開発をスタート」というのであれば十分納得できるのだが。また面白いことに、このニュースは新聞を始めマスメディアはほとんど取り扱っていない。

■電気自動車にシフト?

このプレスリリースは、「トヨタは、電気自動車の開発を担う新たな社内ベンチャーを立ちあげる。新ベンチャーは、豊田自動織機、アイシン精機、デンソー、トヨタの各社から1名ずつ、計4名が参加する直轄組織として、2016 年12月に発足する」

「EVの開発にあたっては、トヨタグループ内の技術ノウハウ、リソーセスを活用するとともに、小さな組織で従来とは全く異なる仕事の進め方をすることによって、プロジェクトのスピードアップを図り、商品の早期投入を目指す」という内容だ。

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テスラと提携し、テスラの技術を投入して実現したRAV4 EV(2012年)カリフォルニア州のみで販売

トヨタは排ガスのゼロ化、つまりゼロ・エミッションと化石エネルギー消費の低減については適時・適地・適車の考えのもと、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、EV など全方位で開発を進める戦略としていた。ただ実態としてはハイブリッド車に最も力を注いできたのも事実で、プラグインハブリッドも、あくまでTHSⅡの延長線上にあり、欧州勢のPHEVとはコンセプトが異なっていた。

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RAV4 EVのインテリア

さらにEVは航続距離が短いので、都市部におけるコミューター、小型モビリティに最適と位置付け、次世代車としては疑問符を付けていた。

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その一方、燃料電池車をゼロ・エミッションで、しかも航続距離、水素充填時間などの面で、従来のガソリン車と同等で使い勝手がよい、としてトヨタは「究極のエコカー」と位置付け、重点的に開発を進めてきたのがこれまでの経緯だ。

しかし、水素スタンドのインフラの課題、本格的な量産技術が未確立という大きなハードルが依然として存在する。燃料電池車の心臓部の燃料スタック(発電部)、水素タンクはハンドメイドで、従ってコストが高く、水素スタンドの拡充も政府の支援なしには不可能だ。

グローバルの展開を考えると、各国の水素生産や水素供給インフラは特定の国を除き展望が得られず、また量産化によるコスト低減の望みも現時点では明確ではなく、トヨタの次世代車とするには無理があるのだ。

このような状況で、これまでのトヨタの戦略を俯瞰すると、「国や地域ごとにエネルギー課題やインフラ整備状況が異なる上、ゼロ・エミッション車普及に向けた規制強化が各国で急速に進み、多様なインフラに対応する品揃えが必要になってきている。さらに現状を踏まえると、FCV とともにゼロ・エミッション達成の選択肢となるEV についても、早期に商品投入が可能となる体制を整えていく」ことが早急に求められていると認識したわけである。

豊田章男社長は、「この数年は、将来に向けての種まきを強化する年と位置付ける」という。いずれにしてもEVがようやく戦略の中の重要課題として位置付けられたのである。

■豊田社長直轄のプロジェクト

そして2016年11月30日、トヨタはEV戦略に関するプレスリリースの第2弾を発表した。内容は「役員の担当変更、人事異動」だ。具体的には、豊田章男社長:EV事業企画室(統括)、加藤光久副社長:未来創生センター(統括)、EV事業企画室(統括)、寺師茂樹副社長:戦略副社長会事務局(事務局長)、EV事業企画室(統括)、コーポレート戦略部(統括)となっている。

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なんと豊田章男社長が自らEV事業企画室の統括を担当し、次世代戦略を担当する加藤光久副社長、同じく戦略担当の寺師茂樹副社長もEV事業企画室の統括を担当する。まさに社長を含むトップ3による直轄事業と位置付けていることが分かる。そして最近のトヨタの開発体制と同様に、トヨタのエンジニアに加え、サプライヤーも開発チームに加わる。

豊田自動織機は、モーターを制御するインバーター、DC-DCコンバーター、パワーコントロールユニット(PCU)、アイシン精機は駆動系、デンソーはECU、パワーコントロールユニット、モーター、バッテリーモニターシステム、DC-DCコンバーターなどを担当する。つまりトヨタが以前のように個別にサプライヤーに発注するのではなく、サプライヤーが各自の技術を持ち寄って開発をも担当するという方式になるのだ。

ただ、現時点では電気自動車の最重要部品であるバッテリーに関しては、まだ明らかにされていない。トヨタとパナソニックの合弁会社のプライムアースEVエナジー社は、これまでニッケル水素バッテリーの開発・製造に特化してきた結果、リチウムイオン・バッテリーの開発・製造については大きな課題となっている。

■ トヨタの電気自動車

トヨタの電気自動車との関わりで大きなトピックは、なんといってもテスラとの提携だろう。この両社の提携は2010年にスタートし、2012年にRAV4をベースにした電気自動車「RAV4 EV」をアメリカで発売した。

もっともこの提携事業には裏がある。トヨタとGMの合弁事業として1983年から運営されてきた自動車生産会社NUMMI(ニューユナイテッドモーターマニファクチャリング Inc)は、2009年のGMの破産により合弁事業は解消され、NUMMIは新生GMには引き継がれずトヨタも閉鎖を発表した。工場が閉鎖されれば雇用の問題が発生するなど、社会・政治問題となりかけたため、トヨタは約38億円でNUMMIをベンチャー企業のテスラ社に売却した。

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2012年に価格360万円で100台限定で販売された「eQ」

と同時にトヨタはテスラ社に45億円を出資して、両社によるEV事業を開始したのだ。これはどう見てもテスラ社がうまくやったというほかはない。ただし、トヨタもテスラ社の株式は後に高騰した段階で売却しているので一方的に損をしたわけではない。

テスラのバッテリーとモーターを使用したRAV4 EVは、価格5万ドル(約500万円)でカリフォルニア州で販売されたが、生産台数も2500台程度と販売台数も多くなかった。このRAV4 EVは容量41.8kWhのリチウムイオン・バッテリーを搭載し、出力は115kWだった。そして2014年にはトヨタとテスラの提携事業は解消された。

■必然のEV化シフト

これ以外に、トヨタはEVの位置付けに合致したEVとして「eQ」、パーソナルモビリティとして2013年に三輪車の「i-ROAD」を発表している。eQは超コンパクトカー、iQをベースにしたEVで容量12kWhのリチウムイオン・バッテリーを搭載していた。価格は360万円で、100台のみの限定販売であった。

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リチウムイオン・バッテリーを搭載した電動3輪車「i-ROAD」

このように見ると、トヨタは2012年から2013年前後には電気自動車にかなりの重点を置いて取り組んでいたことが感じられるが、結論的にEVの普及にはまだ課題が多いという判断に達した。

そして結果的に燃料電池車「MIRAI」の開発に全力を注いだのだが、一方でアメリカのZEV規制、中国での電動車政策、ヨーロッパでのディーゼルからPHEV、EVへのシフトと、グローバルでのクルマを取り巻く環境は大きく変化しつつある。

この流れの中で、今までのハイブリッドはもはやZEV規制にも対応できず、燃料電池車は量産が難しい上に水素インフラを待つ必要があり、トヨタにとってももはや電気自動車の本格的な開発はまったなしの状況となったわけだ。したがって、今回の決断はある意味で必然ということができるだろう。

COTY
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