トヨタ マツダ SUBARUが電動化に適合する新たなエンジン開発を宣言

トヨタ、マツダ、SUBARUの3社は2024年5月28日、「マルチパスウェイ・ワークショップ」と称するイベントを開催し、電動化に適合する新たなエンジン開発を3社そろって宣言した。

新たなエンジンは、モーターやバッテリーなどの電動ユニットとの最適な組み合わせを目指し、小型化によるクルマのパッケージ革新に加え、多様なカーボンニュートラル燃料(CN燃料)にも対応する内燃エンジンでカーボンニュートラルを目指すという。

勢揃いした左からSUBARUの大崎篤社長、トヨタの佐藤恒治社長、マツダの毛籠勝弘社長

もちろん3社の開発体制は3社3様で、全体の旗振り役を務めるトヨタは、PHEV用に新たに開発中の1.5Lエンジンと2.0Lの4気筒エンジンのプロトタイプを初公開。「エンジン リボーン」と声高く宣言した。これは大幅に縮小していたエンジンの開発体制に対して、新たなエンジン開発にGOがかけられたことを意味している。

トヨタの中嶋裕樹CTO

そしてトヨタは明言を避けたものの、この新エンジンは次世代ハイブリッド、PHEVモデルに搭載する計画だ。次世代型PHEVは従来よりバッテリー搭載量を増大させ、EV走行距離は最大200km程度を想定している。

マツダの廣瀬一郎CTO

一方、マツダは、2024年2月にロータリーエンジン開発部署「RE開発グループ」を発足させ、次世代のロータリーエンジンの研究、開発をスタートしている。ここでは、すでに発売したMX-30 ロータリー EVと同様に発電専用のシリーズ式ブリッドの研究開発を行ない、特にロータリーエンジンの特長である燃料の多様性に着目し、バイオ燃料、合成燃料であるe-フュエルに対する適合性を追求している。

スバルの藤貫哲郎CTO

スバルは、すでに新世代の水平対向4気筒エンジンの開発を終える段階で、2024年秋の量産開始の準備段階にあることを公表している。スバルは最大の市場であるアメリカに適合させるより、CO2排出量の少ないPHEV、日本市場を含めたハイブリッド・モデルを展開する計画だ。

PHEV,ハイブリッドのシステムを構成するユニットは、トヨタの縦置きエンジン用のハイブリッド・ユニットをベースとした縦置きの2モーターハイブリッド・トランスミッションを採用。このハイブリッド・ユニットは北本工場(旧・汎用エンジン工場)で、本格的な量産体制を整え、新開発の水平対向エンジンは大泉工場で生産を担当する。

スバルは2モーター式ハイブリッドトランスミッションを前提に高効率エンジンを開発しているが、エンジンは駆動も担当する位置づけである。

■トヨタの次世代エンジン
新開発エンジンは、電動モーターと組み合わせるコンパクト、高効率、高出力としている。高効率であることは言うまでもないが、コンパクト化、高出力化もターゲットになっていることが興味深い。

新開発1.5Lエンジン

1.5Lエンジンは3気筒ではなく4気筒を選択した。これは従来のような高トルクを追求するロングストロークではなく、4気筒化によりピストン・ストロークを短縮するためだという。またストロークの短縮、4気筒化により、既存の3気筒エンジンに比べ体積で10%、全高で10%縮小させている。この全高を低めることで車両のボンネット高さをより低くすることができるからだ。こうした新しい空力ボディと新エンジンの組み合わせにより燃費は12%改善するという。

また新開発1.5Lエンジンにはターボ仕様もあり、この場合は北米仕様の2.5L自然吸気エンジンと比べてより大きなコンパクト効果が得られる。

新開発の2.0Lターボエンジンは、従来の北米用の2.4Lターボに比べ、性能は同等でよりコンパクトになり、体積で10%、全高で10%低減できる。

また、新開発エンジンは今後適用されるユーロ7(2028年から実施予定)などに代表される、極めて厳格な排気ガス規制に適合させることが狙いだ。従来エンジンはこの排ガス新規格に適合させるためにはより大型の触媒が必要になり、高コストになるとともに出力もダウンせざるを得ないとされていた。しかし新開発エンジンは新排ガス規制でも出力はダウンしないという。

現行プリウスに搭載した状態での新エンジンと従来エンジンの全高比較

北米仕様の2.5Lエンジンは新排ガス規制の対応を行なえば出力が30%ダウンすることが想定されているが、新型1.5Lターボの場合は従来の2.5L エンジン同等の性能を得られるという。同様に新開発の2.0Lターボは排ガス規制に適合させても従来の2.4Lターボと同等の出力が得られるという。

新開発の2.0Lターボエンジン。スポーツ用を意識してかカムカバーは赤色に

なお、新開発の2.0Lエンジンは1.5Lエンジンと同様のコンセプトで開発されているが、仕様により大型ピックアップトラック用として、あるいはスポーツカー用エンジンとしても適合できるとしている。ちなみに2.0Lのターボエンジンは400ps程度の出力を目指すとしている。

新開発の1.5L、1.5Lターボ、2.0Lターボはいずれも大出力の駆動モーターとの組み合わせで使用されることになっているため、エンジンとしては絶対出力を抑え、大幅な低回転化などにより部品の軽量化も実現している。

なお、エンジンの制御面に目を向けると、従来のロングストローク・エンジンは、吸気によるタンブル(縦形渦)流を利用して均一な混合気を生成していた。特にEGR(排ガス再循環)を使用する場合はこの強いタンブル流が必須となっていた。

今回の新開発1.5L、2.0Lエンジンはショートストローク化によりタンブル流が期待できない。この点について、新たな手法を採用しているということで、おそらくGT500レースやWECレースで採用されているプレチャンバー式燃焼を採用しているのではと想像できる。プレチャンバー式は、局所的な濃い混合気に着火し高圧縮により短時間で燃焼室内の希薄混合気を燃焼させる技術だ。

燃焼室は狭いバルブ挟み角によるペントルーフ形で、高圧縮化しコンパクト燃焼室による高速燃焼を追求しており、さらに吸排気バルブの駆動は電動の連続可変カムシャフトを採用しているため、広範囲のアトキンソン・サイクル運転を行なうと推測される。

これらのエンジンの登場時期は2027年頃と予想され、次世代TNGAプラットフォームとの組み合わせになると考えられる。

■マツダのロータリーエンジン
マツダはすでにMX-30 ロータリーEVで新開発のロータリーエンジン「8C」型を搭載している。この830ccのシングルローターの8C型は発電専用エンジンで、横置きモーターとエンジンを同軸に配置したコンパクトなレイアウトになっている。

展示されたよりコンパクト化を追求したシングル・ロータリーエンジン

従来のロータリーとの相違点は、直噴化、EGRの採用、サイドハウジング部のアルミ化などにより、軽量化、熱効率向上を図っている。細部では、燃焼室の気密性を確保するアペックスシールは、鋳鉄製シールの幅を2.5mmに拡大し、耐摩耗性を向上。また、ハウジング内部のトロコイド表面のメッキも強化し、耐摩耗性、摩擦抵抗を低減している。サイドハウジングの表面にはアルミを使用し、さらにプラズマ溶射を施し、サイド面の耐摩耗性、摩擦抵抗の低減も図っている。

したがって従来のロータリーエンジンより低摩擦化、耐久性向上などが実現しているが、低速燃焼、冷却損失の大きさ、可変吸排気システムが採用できるなど、ロータリーエンジンの本質的な課題は残されているが、圧倒的にレシプロエンジンよりコンパクトで、搭載性に優れているのが優位点だ。

コンセプトカー用の縦置き2ローターの発電エンジン

したがって今後の研究開発は、コンパクト化のさらなる追求、より効率を高めることと、今後期待される合成燃料やバイオ燃料への適合に焦点が絞られる。

今回展示された試作エンジンはもちろん発電用で、MX-30 ロータリーEV用の8C型よりさらにコンパクト化させた横置き用シングル・ローターエンジンと、東京モビリティショーに出展したコンセプト・スポーツカー「ICONIC SP」用の縦置き2ローターだ。

またこれらの発電用エンジンは、今後のユーロ7に対応するため、高電圧バッテリーの電力を使用した冷間始動時の触媒加熱などを行なうことも想定している。

■SUBARUの水平対向4気筒の高効率エンジン
2024年秋に生産が開始される新世代の水平対向4気筒エンジンの詳細説明は行なわれなかったが、シリーズ・パラレル式ハイブリッドの次世代e-BOXERと呼称され、クロストレック、新型フォレスターに搭載され、24年内に発売する予定だ。

2024年秋発売予定の次世代e-BOXERを搭載するクロストレック・プロトタイプ

ただ、新型フォレスター、クロストレックともにハイブリッドのみでなく、通常のガソリンエンジン車もラインアップされる。

シリーズ・パラレル式ハイブリッドの次世代e-BOXERは、新開発された水平対向4気筒エンジンとトヨタの縦置型2モーターハイブリッド・トランスミッション・ユニットを組み合わせている。

またAWDシステムはリヤに駆動モーターを搭載するeAWDではなく、従来通りプロペラシャフトによる機械式AWDを守るとしている。

新世代の水平対向4気筒エンジンはさらなる希薄燃焼の追求が行われているはずで、大量EGRを採用し、吸気側各シャフトは電動式連続可変タイミング、排気側は油圧式連続可変カムシャフトを装備してアトキンソン・サイクル運転を行なうようになっている。

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