2015年5月13日夜、トヨタとマツダは経営資源の活用、商品・技術の補完など、相互にシナジー効果を発揮しうる継続性のある協力関係の構築に向けた覚書に調印したと発表した。
今後、両社で組織する検討委員会を立ち上げ、環境技術、先進安全技術といった分野をはじめとする、互いの強みを活かせる具体的な業務提携の内容の合意を目指すという。つまり、協業の内容については今後個別に煮詰めていくということだ。
トヨタの豊田章男社長、マツダの小飼雅道社長が出席した記者会見では、トヨタが現在目指している「もっといいクルマ作り」やトヨタ・ニューグローバル・アーキテクチュア(TNGA)と、マツダが推進するブランド・デザイン、スカイアクティブ・テクノロジー、もの作り革新などのポリシーは、クルマ作りの志が共通しており、互いの人材、技術、文化を尊重しながら中長期的に提携し新たな価値を作り出すための協業決定であることが強調された。具体的には技術、商品力向上 ビジネス効率の改善を目指すという。
トヨタとマツダの関係は1990年代に相互の工場の交流を行ない、その後は個別の業務提携プロジェクトとしてこれまでもトヨタのハイブリッドシステム技術のライセンス供与、マツダのメキシコ工場におけるトヨタ・サイオン向けのデミオ・セダンOEM車生産などの業務提携を行なってきた。これを今後はより多方面の業務提携に拡大させるわけだ。
豊田章男社長は2014年7月にマツダを訪問し、三好テストコースでマツダ車のステアリングを握り、テストドライバーと議論したのが提携を進める大きなきっかけになったというエピソードも紹介された。
しかし、現実的にはメキシコ工場でのトヨタ・サイオンのOEM生産が提携の大きな契機になったことは間違いないだろう。マツダは社運を賭けた本格的なグローバルマーケット前提の海外生産拠点として2011年秋にマツダが70%、住友商事が30%を出資し、メキシコのグアナファト州のサラマンカ市にMMVO(Mazda de Mexico Vehicle Operation)を開設している。
稼働当初は年産14万台、2015年度内には23万台にまで生産を拡大する計画で、北米市場にデミオ、アクセラなどを展開するだけではなく、メキシコが自由貿易協定を結んでいる南米にも輸出を想定していたが、メキシコと南米の関税問題が発生し、メキシコ工場から南米への輸出計画は白紙となった。これを救ったのがトヨタで、5万台のサイオン向けOEM社の生産委託を決定し、デリバリーは2015年夏に開始される。
2014年に操業を開始したメキシコ工場は年度内に10万台強のデミオ、アクセラを生産し、2015年度はマツダ車を14万台、サイオン向けに5万台の生産を計画している。
サイオン向けOEM車、デミオ・セダンをベースにしたサイオンiAは夏頃にアメリカで販売が開始される予定となっている。トヨタは、豊田章男社長の就任直後に発生した大規模なリコール問題などのため経営的な打撃を受けたため、「意志ある踊り場」と称し日本国内だけではなく海外の工場の拡張・新設計画を凍結し、既存工場での体質改善、効率化に集中した。その結果、生産の能力が頭打ち状態となっていた。したがってサイオン車のメキシコでの委託生産は、サイオン・ブランドのラインアップ拡充を急ぐトヨタにとっても渡りに船だったのだ。
もうひとつ、マツダにとって大きな不安材料は、アメリカのカリフォルニア州をはじめとするZEV(Zero Emission Vehicle)規制の動向だ。ZEV規制は、排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車を意味し(PHEV、合成ガス車はZEVとして認められる)、企業規模に応じて一定割合はZEV車を販売する義務が生じる。マツダは2018年、またはそれより前倒しでZEV規制を受ける公算が大きいとみられるが、現状のスカイアクティブ技術では対応できないのだ。ZEVに対応できるのはPHEV以上で、このあたりはトヨタとの協業に期待せざるを得ない。
また、それ以外の分野では安全技術&運転支援システム、コネクテッドカー&インフォテイメントなどや、部品の共同購入も協業のメリットは大きいと考えられる。
なお今回の業務提携は資本関係はなく、また、トヨタは必要に応じてマツダ以外とも業務提携は行なうとしており、マツダとは別にBMWとは高級スポーツカー開発の協業はすでに継続されている。