スズキ バレーノ試乗記 ツボを押さえたグローバル・ハッチバック

マニアック評価vol432

1.2 LのK12C型エンジンを搭載する「バレーノ XG」
1.2 LのK12C型エンジンを搭載する「バレーノ XG」

2016年3月9日、スズキの新車種「バレーノ」が発売された。バレーノは、2015年のジュネーブ・モーターショーにコンセプトカー「iK-2」として初披露された。そして9月に開催されたフランクフルト・モーターショーで、量産モデル「バレーノ」のワールドプレミアを行ない、10月からインドで発売が開始されている。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>

■なぜインド製なのか?
バレーノがインドで最初に販売が開始された理由は、インドのマルチ・スズキ・インディアのマネサール工場で生産されるからだ。バレーノ(イタリア語で閃光)という車名は日本では初登場だが、実は3代目カルタス(GA11S型:1995年~2002年)のヨーロッパ仕様モデルの車名として使用されており復活版の車名となる。

これらからわかるように、バレーノはまさにグローバルモデルで、インドで生産・販売され、インドからの輸出モデルとしてヨーロッパ、日本、アジアなどに販売されるのだ。この新型バレーノは新世代のBプラットフォームを採用したグローバル・スタンダードのBセグメント・ハッチバックで、スズキにはすでにBセグメントにはモデル末期とはいえスイフトがある。スイフトとバレーノの関係が分かりにくいが、バレーノはインドではスズキの上級チャンネルのNEXA(ネクサ)で販売されことから分かるように、スイフトより上位機種という位置付けだ。

そのためバレーノのエクステリア・デザインは、最近のアルトやイグニスなど新世代スズキ・デザインとはかなりテイストの異なるテーマ、「リキッドフロー(流体)」を採用し、上質さとスポーティなプロポーションを生み出している。実際のところバレーノのスタイリングは、写真で見るより実物に触れた方がデザインの意図が分かりやすい。

■XG試乗
バレーノのグレードは、K12C型・1.2LデュアルジェットとCVTを組合わせたXGと、新開発のKC10型・1.0L・3気筒・直噴ターボと6速ATを採用するXTの2機種と、いたってシンプルな構成で、今回の試乗では両方に乗ることができた。

バレーノ XG
バレーノ XG

ボディサイズは、全長3995mm、全幅1745mm、全高1470mm、ホイールベース2520mmで、ボディの大きさはまさにグローバルBセグメントを守っている。全幅は1745mmだが、最小回転半径が4.9mと相当に小回りで、市街地でも扱いやすい。

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まず最初に、試乗はNAエンジンのXGから。このクルマの位置付けはエントリー・グレードで、低燃費も狙っている。そのためJC08モード燃費は24.6km/Lを達成している。また、車重が920kgと超軽量化されていることも燃費に貢献している。

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このK12C型デュアルジェット・エンジンはソリオ、イグニスに搭載されているユニットと共通で、扱いやすいエンジンだ。CVTと組み合わされるので、急加速といったシーンではCVT特有の滑り感があり、アクセルの踏み込みより一瞬遅れて加速するフィーリングだが、市街地走行など常用域ではそこまで極端な滑り感はない。

K12C型デュアルジェット・エンジン。1.2L・4気筒で91ps/118Nmを発生
K12C型デュアルジェット・エンジン。1.2L・4気筒で91ps/118Nmを発生

また新しいプラットフォームに搭載されている結果、加速時のエンジン音もノイジーな音がうまく抑え込まれており、長時間乗ってもエンジン音が気になるということはないだろう。

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XGが装着するタイヤはエコピアEP150で、175/65R15サイズというスタンダート・タイヤとスチールホイールの組み合わせだ。路面とのあたりはやや硬めに感じる。また乗り心地も最近のスズキのクルマと共通で硬質なフィーリングで、低速域での荒れた舗装路面では、コトコトと路面の荒れをそのまま伝える感じだ。ただ、もう少し車速が上がると気にならなくなる。

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■XT試乗
次は新開発の1.0L・3気筒のブースタージェットエンジンを搭載するXTに乗り換える。このエンジンは正統派ダウンサイジング・コンセプトなので、自然吸気1.6Lエンジンに相当し、111ps/160Nmを発生している。XGのK12C型は4気筒で1.2L・4気筒(91ps/118Nm)なのにエントリーグレードで、排気量が小さい3気筒のXTが上級グレードとなっているのは、この1.6Lエンジン相当の実力だという理由だ。

新開発のK10C型・1.0L・3気筒直噴ターボを搭載する「バレーノ XT」
新開発のK10C型・1.0L・3気筒直噴ターボを搭載する「バレーノ XT」

3気筒のK10C型の直噴ターボは低中速トルクを重視しており、さらにトルコン容量の大きい6速ATとの組み合わせで、発進トルクは力強い。また加速時の遅れもないので、気持ちよいトルク感のある走りが楽しめる。振動感も気にならず、まさに意のままの加速ができ、スペックを知らなければとても1.0Lの3気筒エンジンとは感じられないはずだ。

ダウンサイジング・コンセプトを採用したK10C型エンジン。ハイオクを使用し111ps/160Nmを発生
ダウンサイジング・コンセプトを採用したK10C型エンジン。ハイオクを使用し111ps/160Nmを発生

エンジン特性は低中速に特化させているので、アクセルを大きく踏み込んで加速していく場合、5000rpm以上引っ張っても詰まり感が生じるので、早めにシフトアップするのが正解だろう。しかし、このエンジンは現状の日本のBセグメントの中では随一の出来栄えといってよいと思う。

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XTは185/55R16サイズのエコピアEP150とアルミホイールの組み合わせだが、乗り心地のフィーリングはXGと似ている。ただ、タイヤサイズはアップしている分だけ踏ん張り感はあり、エンジンのパワーに見合ったサイズといえる。走り、乗り心地の質感をもう一段感引き上げるに、もう少しハイグレード系のタイヤを装着してみたいと正直思った。

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本革シート表皮などセットオプションを装備したXTのインテリア。

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XG、XTとも共通して高速での直進安定性や、クイック過ぎずリニア感のあるハンドリングは、さすがにヨーロッパで走り込んで熟成しただけあって、レベルは高い。特にステアリング系の剛性もかなり高められており、アイドリング時にはエンジンの微振動がわずかに伝わってくる。これは欠点と感じられる一方でステアリング系の剛性が高い証拠でもある。ハンドリングのイメージは、日本車離れしており、ヨーロッパで通用する仕上がりといえる。

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ただ、低中速域での操舵フィーリングでは、特にステアリングを戻す時に復元反力が弱く、しかも操舵の反応が弱く感じた。つまり切り込む時と戻す時のフィーリングが違うのだ。その理由はわからないが、少し惜しまれるところだ。

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走行中のボディのしっかりとした剛性感や安定感のあるステアリング・フィールは、グローバルBセグメントにふさわしい仕上がりといえる。ただ、エンジン音などはよく抑え込まれているのに、ロードノイズだけはやや強めに感じた。

■装備は?
インテリアのデザイン、色使いは地味な印象だが、仕上げそのものはかなりレベルが高く、トータルの質感は悪くない。XTは革巻きステアリング、自発光式メーター、カラー液晶のマルチインフォメーション・ディスプレイなどが装備され、セットオプションで本革張りシート、運転席・助手席シートヒーターが付くなどこのクラスではトップレベルの装備となるのも評価できる。さらにテレスコピック式ステアリング調整や、ヘッドライトの光軸調整ダイヤルなど、ヨーロッパ車と同じような装備になっている点も好ましい。

パッケージングもグローバル基準で、前後席でのスペースは十分ゆとりがある。またトランク容量も320Lが確保され、横積みでゴルフバッグも収納できる。ラゲッジボード下にも隠し収納ができるなど使い勝手も優れている。

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マルチ・スズキ製を示すコーションプレート
前後ドアともペットボトル収納可能
前後ドアともペットボトル収納可能

さらに、XG、XTともにレーダーブレーキサポートⅡ(ミリ波レーダー方式の緊急自動ブレーキ&レーダークルーズ)が標準装着されているのもこのクラスではかなりのアドバンテージといえる。

インド製であることが何かと注目されるバレーノだが、コンセプトや走り、パッケージングなどは、ヨーロッパやオーストラリア市場がメインターゲットであることをうかがわせ、剛性感のあるしっかりとした走り味は、ヨーロッパからの帰国子女といった雰囲気だ。実際、サスペンションのセッティングなどはヨーロッパ仕様と共通で、インド仕様だけが悪路に対応した独自スペックになっているのだという。

XGのメーターパネル
XGのメーターパネル
XTのメータパネル
XTのメータパネル

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XGのエアコン・コントロール
XTのエアコン・コントロール
XTのエアコン・コントロール

また価格はXGの141.5万円、XTの161.8万円は同じBセグメントのフィット、ヴィッツの自然吸気エンジン車とほぼ同等だが、1.0Lターボ/6速ATや装備などはバレーノにアドバンテージがある。さらに考えれば、バレーノはハイトワゴン系の軽自動車とも同レベルの価格であり、これまでの日本車のヒエラルキーを揺るがすクルマと考えることもできる。

スズキ バレーノ 諸元表

スズキ バレーノ 価格表

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