スバルテクニカインターナショナル(STI)からWRXのコンプリートカーがデビューした。ひと言でいうとSTIのコンプリートカーS207のAT版で、ATとは言ってもスポーツリニアトロニックのCVTを搭載しているモデルだ。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
SUBARU WRX S4 tSはWRX S4をベースに、STIが磨き上げたコンプリートカーで2016年10月4日に発表している。これまで、STIのコンプリートカーは常に台数限定で販売されてきたが、今回は販売期間を限定し、台数制限はない。販売は2017年3月12日までとなっている。価格は496万8000円(税込み)。
また同時に、挑戦し続けるニュル24時間レースで2015年、2016年と2年連続クラス優勝したことを記念した特別仕様車「NBR CHALLEGE PACKAGE」も販売し、こちらは529万2000円(税込み)となっている。ちなみにS207はすでに完売している。
さてSTIがつくるコンプリートカーのコンセプトは「Sport,Always!」。スタイリッシュアスリートをキーワードに、上質な走りと最上の安心を融合した究極のアスリートモデルというのを目指している。STIコンプリートカー最高峰のS207はマニュアルモデルだけだったが、そのパフォーマンスを2ペダルでも届けようというのが、今回のWRX S4 tSということになる。もちろん、アイサイトVer.3を搭載したアドバンスドセーフティパッケージも装備されている。
■拘りのハンドリング
STIコンプリートカーの走りの追求においてサスペンション、ボディワーク、吸排気系などに手が入っていることは言うまでもない。さらにシートやステアリングなどインテリアにも当然、走りのアイテムが装備されている。ちなみにボディサイズは全長4635mm×全幅1795mm×全高1475mmで、ホイールベースは2650mmとなっている。
まず、パワーユニットだ。エンジンそのものはノーマルと同じFA20型直噴ターボで300ps/400Nmというスペック。その絶対値こそ変わらないものの、吸排気を変更し通気抵抗を低減したエアクリーナー、マフラーを採用し加速中のトルクを最大10%向上しているという。
またCVT用オイルクーラーも装備し、ラジエターファンの強化でミッションの冷却性能を向上させている。STIによれば、この冷却効果はサーキットで1.7~1.8倍の走行可能周回数になったという。
STIの拘りのひとつにサスペンションもある。乗り心地もよくてスポーツドライブもできるアシの開発だ。ダンパーにビルシュタイン・ダンプマチック2を搭載し、コイルスプリングのばね定数を最適化することで、信頼できるハンドリングとフラットライドを高次元で実現している。
特にハンドルを切った瞬間にクルマが反応する応答時間は、操舵フィールでは重要であり、ベンチマークとする欧州車(おそらくBMW235)に対し、ヨーレート、横G応答時間を約30%向上させている。そのためにステアリングギヤボックスの取り付け剛性をアップし、フレキシブルタワーバー、ドロースティフナーなどのパーツを組み込み、ボディ剛性のバランスを取りながら、リヤグリップとステア操作に対する応答性を向上させている。
また、ロールレートやピッチレートもベンチマーク車に対し約30%向上させることで、ロールのピーク値をコントロールし、またリヤシートも含めたピッチング、つまり操安がよく乗り心地が良い方向でフラット感を作っている。
これらのセッティングはS207と比較し、素早くハンドルを切ったときのロールレートは同等でありながら、荒れた路面での車体の動きが小さいのはこの2ペダルモデルのほうになる。つまり、乗り心地がいいのだ。
■試乗インプレッション
こうしたチューニングされたWRX S4 tSに試乗し、実際のフィーリングと照らし合わせてみた。
拘りのサスペンションでは、路面からの振動をダンパー、ブッシュ、バネが良く動き、微低速、つまりダンパーピストンの動きが小さい入力の時でもフリクションを感じさないダンパーの動きが分かる。ビルシュタイン・ダンプマチック2の威力といった感じだ。
ただ、タイヤサイズが255/35R19(ダンロップ・スポーツマックス)であるため、50km/h以下で路面が悪い場所ではいささか苦しく、乗り心地がいいとは言えない。ある意味日常の常用域であるため、そこを気にするユーザーだと厳しいジャッジをするだろう。18インチを標準として19インチをオプションとするという選択肢はないのだろうか。
だが、速度域が上がり高速になると信じられないほど滑らかに走り、路面に吸い付くようにしっとりと走る。このフィールを味わうとベストサイズのタイヤではないのか?という迷いが生じる。おそらく高速ワインディングでは、すこぶる快適に余裕のある走りが満喫できると思う。
その要因のひとつに、ボディ剛性の高さも影響していると思う。とにかく、ハンドルを握っていてボディのしっかり感、包まれ感があり欧州車と遜色ないレベルであり、そのしっかり感は車速が高くなっても、横Gがかかってもまったく変わらない。ドライバーとしては安心感を持ち続けていられるのだ。
多くのユーザーも経験していると思うが、同じ100km/hでも速く感じるクルマとゆっくりに感じるクルマがあるように、このWRX S4 tSはクルマに余裕があるので、どんどん車速が上がってしまう危険があるのだ。
だから、300ps/400Nmで10%のトルクアップといったところも「もっとパワーが欲しい」と思えるのだ。それほど余裕のあるボディとサスペンションということだと思う。
ただ、ひとつ注文できるのであればサウンドチューニングをもう少し大げさにできないものだろうか。実際にマフラーからの音量をあげるということではなく、欧州車のほとんどがそうであるように、スピーカーによるサウンドチューンだ。S#モードの時だけは、獰猛な音がしてもいいと思った。全体に性能に見合うというより、コンフォートなサウンドという印象だった。
これはセダンという車格も影響していると思うが、静粛性に拘っているのも今度のWRX S4 tSの特徴なのだ。特に100km/h走行時の会話明瞭度を計測するなど、静かさに気を配っているモデルでもある。それだけにS#の時だけは豹変するのが面白いと思った。
■CVTのネガは何か
気になる2ペダルのフィールはどうか。このモデルに興味を引くユーザーであれば、CVTのネガ、つまりリニア感やダイレクト感の乏しさはご存知だと思う。スバルのCVTはそのあたりのチューニングがうまく、一般のユーザーでネガを指摘する声はまずないと思う。それほど上手にセッティングできているのだ。
このWRX S4 tSもメカに詳しいマニアが乗らなければCVTであることが分からないかもしれないと思った。それほどAT的にシフトし、滑らかな加速をする。唯一ダイレクト感が薄いという点があるが、それはシフトチェンジしたときのガツンとしたショックがない、ということに置き換えられると思う。つまり、滑らかなのだ。その相反性能をどう捉えるのか?ということだ。
ブレーキはブレンボ4ポット対向ピストンのキャリパーを採用しているが、ブレーキの安心感も高い。今回は高速のワインディング、サーキット試乗ではないので、ハードブレーキングをする場面がなく、どこまでの性能なのかわからないが、少なくともペダルタッチだけでも安心感が伝わるので、言うことはない。
このブレーキと合わせてVDC制御でアクティブ・トルク・ベクタリングを前後輪に作動する専用制御としている。しかしながら、こちらもこの制御効果を体感できるレベルの試乗コースを走れなったため、インプレッションはない。が、新型インプレッサに採用されている制御を見ても、違和感のない制御でありながら回頭性が上がっていることは容易に想像がつく。
■見た目の印象は大人のアスリート
エクステリアは大型のフロントアンダースポイラーを装備しているが、全体にマッチしたデザインであるため好印象だ。19インチのBBSアルミホイール、チェリーレッドのストライプなどワンポイントの味付けが大人感があって好ましい。これ見よがし的なエクステリアでないのもポイントが高い。ちなみに冒頭で触れたニュルの優勝記念車にはリヤに大型のウイングが装備される。
インテリアは逆にチェリーレッドのパネルがダッシュボードに貼られたり、RECARO製のセミアニリンレザーシートだったりと、見た目のスポーティさで刺激される。CVTのシフトレバーにも小さく「STI」のロゴがあったりして、オーナーとしての満足度は上がるアイテムが目に入り、閉ざされた世界で一人悦に入る環境があると思う。
試乗を終え、STIのアピールポイントをチェックしてみると、主張するスタイリッシュアスリートモデルであることを感じる。STIのコンプリートカーの位置づけとして、スバルのトップグレードにSTIグレードが今後常設されていくことを踏まえると、さらにその上を行くレベルの上質さとスポーティさを追求することになる。まさに今回のWRX S4 tSはその領域のモデルであり、欧州プレミアムモデルとどっちを買うのか迷ってほしい、というのが狙いのモデルだと思う。
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