この記事は2020年8月に有料配信したものを無料配信したものです
スバルは2020年8月20日に、新型レヴォーグのプロトタイプを公表した。この時点では型式認証を取得できておらず、ナンバープレートは取得できないのでプロトタイプという扱いだ。そして 、正式発表は10月15日が予定されている。
プロトタイプの公表により、新型レヴォーグは大きな話題となっているが、盛り込まれた新技術は数多いため、各メディアでの詳細な分析は行なわれていない。そもそもスバル側もすべての詳細情報を発表していないことも背景にあるが、ここでは、発表された情報を元にして多面的にチェックすることにした。
基本コンセプト
レガシィがアメリカ市場をメインターゲットにしたクルマになった結果、レヴォーグは日本市場を重視したツーリングワゴン+GTとされ、スバルにとっては最新技術を盛り込む技術的なフラッグシップ モデルと位置付けられている。
目指す性能は、スポーティで快適なGTカーの走りと高次元の安全性を両立することだが、その根底にはスバルの本音である、ヨーロッパ プレミアムカーと同等の走りや質感を日本市場に適合する価格で提供するという商品戦略がある。
このコンセプト自体は、初代レヴォーグが目指したもので、今回の新型にも継承されている。初代レヴォーグは、現在のスバル グローバル プラットフォーム(SGP)の採用は間に合わなかったが、SGPの開発の知見を採り入れたボディ構造となっていた。
また、初代レヴォーグは、スバル初のダウンサイジング コンセプトのしかもレギュラーガソリン仕様のFB16型1.6Lターボと、ハイパワーのFA20型ターボの2本立てとし、アイサイトは、2017年からアイサイト ツーリングアシストに進化させるなど、スバルの先頭に位置するモデルとなっている。
レヴォーグが想定するパフォーマンスターゲットは、ややサイズは大きいアウディA4アバントだ。
アイサイトの進化
新型レヴォーグで、まず最初の注目点はアイサイトの進化だ。新型レヴォーグは、全車標準となる進化型アイサイトと、より先進的な運転支援システムとして機能を拡張したアイサイトXの2種類が設定されている。標準のアイサイトではなくアイサイトXを選択すると、センターティスプレイなどを含めてプラス38万円だ。
標準装備されるアイサイトは、従来の日立オートモーティブ製のステレオカメラから、スウェーデンの大手サプライヤーのオートリブ社系列のヴィオニア社製ステレオカメラに変更されている。その違いはステレオカメラの見た目から明らかで、カメラ本体は密閉式になっている。
このステレオカメラが前方のメインセンサーとなり、フロント左右に77GHzの中距離ミリ波レーダー、リヤの左右に24GHzの近距離ミリ波レーダー、そして後方中央に遠距離タイプの超音波センサーを備えている。
これまでの日立オートモーティブ製はスバルとスズキに供給しているが、ヴィオニア社製のステレオカメラはメルセデス・ベンツなどに供給した実績がある。
ただ、同じステレオカメラとはいえ、日立製とヴィオニア社製では大きな違いがある。日立製はより遠くの画像を把握するのに対し、ヴィオニア社製はこれまでは近距離・広角の視野を生かしたカメラとなっていた。
スバルは、より広い視野角、従来比で約2倍の視野角を重視し、ヴィオニア社製を選択したのだ。その一方で、従来のような遠方の物体に対する検知能力を確保するために、CMOSイメージセンサーの画素数を、これまでの約120万から約230万に増やし、遠方の物体に対する検知精度を確保している。
そのため、ステレオカメラに内蔵する画像処理半導体は、アメリカのザイリンクス社製のFPGA(Field Programmable Gate Array)タイプのマルチプロセッサシステム・オンチップを選択し、CMOSイメージセンサーはアメリカのオン・セミコンダクター社だ。
ちなみにザイリンクス社製のFPGAは、世界の主要な自動車メーカーや大手サプライヤーの運転支援システム用のカメラで主流となっている。このマルチプロセッサシステム・オンチップは、カメラ、さらにLiDARにも対応できる拡張性を備えている。マルチプロセッサシステム・オンチップと高精細CMOSイメージセンサーを組み合わせ、立体イメージ画像を3次元の点群で検知できるようになっている。
なおザイリンクス社製のマルチプロセッサシステム・オンチップはFPGAという名称の通り、ユーザーが制御プログラムを構築するシステムであり、アイサイトの場合は従来からの画像認識の経験、蓄積を盛り込んだスバル独自のプログラムとなっている。
最新のアイサイトは、ミリ波レーダーとステレオカメラによる画像認識データを融合させたセンサーフュージョン技術だが、ザイリンクス社製のマルチプロセッサシステム・オンチップを選択したことで、近い将来にはLiDARもメインセンサーとして加えることが可能になっている。
新型アイサイトの機能としては、歩行者はもちろん横方向からの自転車も検知でき、広角カメラにより右折時の対向車、右折時の横断歩道を渡る歩行者も検知でき、見通しの効かない交差点などではフロント左右のミリ波レーダーによりクルマを検知できるようになっている。
その他に新機能として緊急時プリクラッシュ操舵支援、エマージェンシー レーンキープアシスト(後方から他車が接近中に車線変更しようとするとするとステアリングが戻される機能)なども追加されている。
こうしたプリクラッシュ性能を高めたために、電動パワーステアリングは従来のシングルピニオン・アシスト式からより大トルクに対応できるデュアルピニオン式に変更した。ただ、今後の自動運転などを想定すればさらに大トルクが発生でき、操舵フィーリングも優れたラックパラレル・アシスト式も候補に上がったはずだ。
また、各種のアシスト機能とアダプティブクルーズコントロール(ツーリングアシスト)でのコントロール性を高めるためにボッシュ製の電動ブースターも合わせて採用されている。
アイサイトX
より先進的な運転支援システムのアイサイトXは、高速道路、自動車専用道路での高度運転支援システムと位置付けられ、日産のアリアのプロパイロット2.0と同様に、車載の高精度3次元マップとGPS+準天頂衛星みちびきを組み合わせた高精度GPS位置情報を組み合わせることで、より多機能な運転支援を実現している。
つまり道路上での車線や道路形状などを把握し、自車の位置を重ね合わせることで、アクティブレーンチェンジアシスト、渋滞時ハンズオフアシスト、渋滞時自動停止+追従、カーブ前速度コントロール、料金所前速度コントロールなどが行なわれる。
もちろん、日産のプロパイロット2.0と同様に、高速道路上では手放し運転は可能だが、スバルはあえて渋滞時(50km/h以下)のみのハンズオフとしている。
またアイサイトXとの組み合わせで、ドライバーモニタリングカメラによりドライバー異常時対応システムも搭載されている。この点も日産プロパイロット2.0と同様に規制に従った装備である。
なおアイサイトXではセットで12.3インチのフルカラー液晶メーターパネルと、ダッシュボード中央の縦型の11.6インチのセンターインフォメーション・ディスプレイが装備される。この11.6インチのディスプレイがすでにアメリカ仕様のレガシィ/アウトバックに採用されているものの流用だ。インフォテイメント、コネクトサービス、スマートフォン連携などはすべてアメリカ市場向けが先行しており、ようやく日本に導入されたという感じだ。
メーター部の12.3インチのフルカラー液晶メーターパネルは主としてアイサイト関連の表示を行なうことができるが、あえていえばヘッドアップディスプレイにチャレンジすべきだったと思う。スバルは、ダッシュボード上のグリーンやブルーに光るLED光により簡単に作動を感知できるというのだが。
アイサイトXは、今後LiDARを追加してレベル3の自動運転に進んでいくのかどうかという点も興味深いところだ。
関連記事:スバル新型レヴォーグの注目すべき技術チェック!エンジン編 2/3