【スーパーGT 2023】SUBARU BRZ GT300 荒天の開幕直前公式テストでセットアップの方向性を掴む

2023年シーズンのスーパーGT公式テストが3月25日(土)、26日(日)に静岡県小山町の富士スピードウェイで行なわれた。あいにく、2日間とも雨に見舞われ、予定していたテストの多くはこなせなかったはずだが、今季GT300のシーリズチャンピオン奪還を目指すSUBARU BRZ GT300はどこまで消化できたのか、早速お伝えしよう。

事前の天気予報で両日共に雨予報であったため、チームのテスト内容も雨用のセッティングを探る計画で準備を進めていた。

小澤総監督は「本当は、第2戦の富士スピードウェイを想定したドライのテストをやりたかったのですが、こればっかりは致し方ないので。逆に雨のテストは狙ってもできるものではないので、チャンスと捉え雨のレースを想定してきっちり詰めておきたいと思っています」ということで、雨用のタイヤセッティング、サスペンションやエアロのマッチング、そしてエンジン制御といった項目でテストをすることになった。

他にも確認項目としては、前回の公式テストでCN燃料(カーボン・ニュートラル)が原因のオイル希釈によるメタル焼き付きが起こり、そこへの対策を入れてきているので、その確認がある。それは燃料噴射をより微粒化し、シリンダー壁面に付着しにくい吹き方をするインジェクターに交換しているのだ。

エアロ関連では岡山ではフロントカウルとリアディフューザー、リアウィングを変更していたが、あとは22年仕様だった。しかし、今回はカナード、リヤフェンダーも23年仕様へ変更し、今季のニューエアロボディが完成した状態での初テストとなった。その空力シミュレーションと実際のデータ乖離も確認事項であるわけだ。

佐々木孝太が参加

さらに、ドライバーではシーズン中のサードドライバーということではないが、リザーブドライバーとするなら、ということで22年にNBRでニュルブルクリンクを走った佐々木孝太がテスト走行に参加している。今季のレーススケジュールにおいて、井口卓人、山内英輝の日程が過密で、国内では86&BRZのワンメイクレース、スーパー耐久、そしてスーパーGTがあり、さらにドイツでも2レースあり、5月には24時間レースを2週続けて参戦。その直後にスーパーGTレースがあるなど、過密なことから、万が一に備えてのことと言う。

と言うわけで、新しい取り組みが山積みされた今回のテストでは、ひとつひとつ課題を整理し解決していくタスクがあった。

左から井口卓人、佐々木孝太、山内英輝

テスト初日。雨。気温11度、路面温度11度とテストとしては厳しい環境だ。ドライバーは井口が担当し雨の中を走行する。走り出してすぐにハイドロプレーンの現象がひどく、ピットに戻り車高の調整などが行なわれる。

今季、目立たない部分の変更になるが、装着が義務付けられているスキッドブロックの形状変更がされている。昨年まではアンダーパネルのフロントとリヤにそれぞれスキッドブロックを装着していたが、今季はフロントからリヤにかけて繋がった形状に統一された。これによりハイドロプレーンの影響がどうなるか?今回の雨中の走行で状況がよく把握できることになる。

テストは10時から走行を開始したが20分過ぎには走行を中断したいほどの雨量で、テストはままならない。空力やジオメトリの確認どころかマシンをコース上に留めておくのに神経を使うといったコンディションだった。

そうした中、エンジン制御の確認作業は行なっていた。これはトルクの出し方をドライの時とは違った制御にしないとグリップの薄いレインタイヤではホイールスピンが激しくなってしまうからだ。余計にコントロールも難しくなってしまうのだ。

午前中のテストの後半、雨量が少し収まり井口によれば300Rを全開で踏んでいける状態にまで路面が回復したという。タイムも1分50秒815をマーク。全体8番手のタイムを記録した。しかしながらブリヂストン勢では1分48秒台を出すチームも数チームあり、タイム差はまだ大きい。

午前のテストの終了間際に佐々木孝太が井口に変わりドライブをした。佐々木はGT300マシンは2020年に他チームからエントリーしていたが、それでも3年ぶりのGT300で、BRZに至っては9年ぶりのドライブになった。

佐々木は「雨もひどいので確認レベルの走行をしてきましたけど、僕がBRZ GT300に乗っていた時はトランスアクスルになっていなかったので、別物だって伝わってきます。ボディ剛性の高さやトラクションの高さは格段にレベルアップしていました。それとエンジンもすごくよくなっていますね。飛躍的な進化を感じました」と確認レベルの走行ながらBRZ GT300のポテンシャルを掴んでいる様子だった。

BRZ GT300で走るのは9年ぶりという佐々木孝太

テスト初日の午後も井口がステアリングを握り、テストを始める。しかし雨は止むことはなく降り続いている。午前よりは多少コンディションが良くなったと無線で伝える井口は1分48秒台を記録するがBS勢は45秒台にまでタイムアップしている。

もっとも井口はタイム計測が主眼ではなく、レインタイヤのマッチング、エンジン制御のテスト、空力の前後バランスなどもみながらのテストなので、組み合わせによってはタイムがまったく伸びない場面もあった。

この辺りを小澤総監督に聞くと「雨だとボトムスピードが下がるのでエンジン回転も下がり、低回転でのトルクコントロールはもう少し詰めたいところです。今季ECUを変更しているので、そうしたこまかなデータが詰めきれていないところもあるので、コンディションは悪いですけど、いいテストにはなっています」ということで、データの蓄積を順調に重ねているということだ。

しかし、そのデータ集めの最中、井口の無線からピットに戻ることが伝えられた。異音が出ているというのだ。マシンはそのままピットボックスに入り、エンジンやミッションなどのデータ解析が行われていく。前回の岡山テストで起きたオイル希釈が頭をよぎる。

結局、初日の午後のセッションは残りの1時間を原因究明に費やし走行時間は終わった。

佐々木孝太(左)と小澤正弘総監督

テスト2日目の朝、小澤総監督に話を聞くと「新しくしたインジェクターのトラブルでした。新しいタイプにしたのですが、そこに不具合がありました。原因追求に時間を取られてしまい、昨日はそのまま終わってしまいましたが今日は、引き続きタイヤテストとエンジン制御の煮詰めをやっていきます」とのこと。

さらにバッドコンディションとなった2日目

2日目のコンディションは前日よりも雨量の多い天気となっている。ドライバーは引き続き井口卓人が担当しているものの、テスト開始からトータル7周したあたりでピットに戻ってきた。コンディションが悪くて走行できないというのだ。

その後は雨の量、コースコンディションを見ながらピットで待機し、少し改善されるとコースインをするという繰り返しになった。午前のテストは2時間あったが、残り30分の時点でコース上には3台のGT300が走行するだけで、どのチームも待機状態となっていた。

午後になるとさらに天気は悪化し、テストを諦め撤収するチームもでてくるほどだが、最終セッションは山内英輝がテストに出てきた。コース上で走行するGT300は61号車山内だけだ。そんな中、山内は与えられたテスト項目のトライを試みる。タイムは2分4秒820。計測の意味がないほどの雨量の中テストを継続する。

テスト開始から5周目、GT500は4台が走行していたが、23号車が100Rで飛び出しガードレールにヒット。赤旗中断となった。その後再開するものの、さすがの山内もまともに走れないと判断し、ピットに戻った。この時点でGT300の走行マシンはゼロとなった。

1時間ほど待機したあと、天候がやや回復したため走行の準備を始める。ブリヂストン勢も走行を再開。昨年のチャンピオン56号車のヨコハマタイヤ勢も走行を始めた。トップタイムは1分48秒404で52号車の埼玉トヨペットGRスープラGTだった。山内は2番手タイムを出し1分48秒580で0.176秒差だった。

今季のBRZ GT300はさまざまなパーツがリニューアルされ、さらにウエットでのテストというコンディションを考慮すると、上位タイムが計測できたことは自信につながる。

マシンを降りた山内は「こんな凄い雨の中でしたけど、アクセルコントロールの感覚がつかめたので、いいテストになりました。マッチングはまだ見れていない部分もあるけど、激しい雨量での走行は良い経験になりました。本当は生きた心地しなかったけど(笑)」と悪コンディションでのドライバビリティの感覚は掴めたというのだから心強い。

小澤総監督はテスト終了後「雨量は多かったですが長い時間テストできたので、セットアップの方向性は見えました。細かいセットアップまではできませんでしたけど、いいテストができたと思います。開幕の岡山に向けては、マシンのセットアップの方向性は決まりましたから、あとはみんなの知恵を集結していい成績を取りたいと思っています」と語った。

開幕まで2週間を切った。4月15日(土)、16日(日)に岡山国際サーキットで300kmレースで今シーズンの幕が切って落とされる。チャンピオン奪還に向けてBRZ GT300はどんな戦いを見せてくれるのだろうか。

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