スバル「アイサイト」搭載車が500万台達成 〜その歴史と未来〜

スバルは2022年8月31日、運転支援システム「アイサイト」搭載車の世界累計販売台数が、2022年6月に500万台を達成したことを発表した。2008年5月に日本で発売して以来、14年1カ月での達成となっている。

アイサイトは、世界で初めてステレオカメラのみで、自動車だけでなく歩行者、2輪車までも検知できるプリクラッシュブレーキや、全車速追従機能付クルーズコントロールなどを実現したシステムで、現在、スバルの世界販売に占めるアイサイト搭載車の比率は約91%となっている。

現在のアイサイトをプレゼンテーションした上級PGM 柴田英司SUBARU Lab所長(左)と、齋藤徹SUBARU Labo副所長

アイサイトの歴史

なお、この記録はスバルが運転支援システムに「アイサイト」という名称を付けてからのもので、実際にはスバルのステレオカメラ式の運転支援システムは1999年に登場している。ステレオカメラをレガシィ・ランカスターにアクティブ・ドライビング・アシスト(ADA)を初搭載。

このADAは車線逸脱警報、車間距離警報、車間距離制御クルーズコントロールなどが可能だった。ただ、システム価格は50万円で、一般的にはほとんど無名であった。2001年にはランカスターの最上級グレード「ランカスター6 ADA」専用装備として仕様向上が図られている。

そして2003年にモデルチェンジしたレガシィ3.0Rにステレオカメラ+ミリ波レーダー(高価な機械式)を組み合わせた新型ADAが搭載され、危険時の緊急減速ブレーキ機能を追加している。ただし、ミリ派レーダーを追加したことでシステム価格は約70万円となっている。その後2006年にはこのADAの代わりに、レーザーレーダーを使用したクルーズコントロール機能のみを持つ「SI-Cruise(SI-クルーズ)」が登場している。

そして2008年にレガシィに搭載されたのが新名称「アイサイト」の運転支援システムだ。日立製のステレオカメラのみを搭載し、制御ソフトを大幅に向上させている。このシステム価格は約20万円と低減された。

周知のように「アイサイトは」、その後2010年に「アイサイト ver2」に進化した。この「アイサイト ver2」で初めて衝突の危険があるときに自動ブレーキがかけられ障害物の寸前で停止できる機能が追加された。この機能は、ボルボがまず最初に国交省の承認を取得し、ほぼ同じタイミングでスバルも承認を得ている。

この「アイサイトver2」は、システム価格を10万円まで圧縮。アイサイトの大々的なキャンペーンを行なわれたことで一躍、安全・運転支援システムのリーダーとなり、その後のスバルのコア技術ともなっている。

ステレオカメラの画像をカラー化し、より物体検出能力を高めた「アイサイトver3」は、2014年に新型のレヴォーグに搭載された。「アイサイトver3」はカメラユニットを小型化し、カメラをCCD(モノクロカメラ)からCMOSカラーカメラにアップグレードさせ、視野角も拡大。プリクラッシュ自動ブレーキの作動範囲は0〜160km/hまで拡大されている。

そして2017年には「アイサイト・ツーリングアシスト」が登場した。追従クルーズコントロール、アクティブレーンキープに新機能の先行車追従操舵機能を組み合わせ、0〜120km/hの範囲で自動運転レベル2相当の運転支援が実現している。

大きく進化した「新世代アイサイト」

現行のシステムは、2020年10月に登場した2代目レヴォーグに初採用された。このシステムは「新世代アイサイト」と名付けられ、同時に3次元高精度地図データ、GPS信号を使用し、高速道路の渋滞走行時に50km/h以下ではハンズフリー運転が可能な「アイサイトX」も設定されている。

新世代アイサイトの一体ユニット

この「新世代アイサイト」からは長年採用していた日立製ステレオカメラではなくスウェーデンのヴィオニア社製の広角ステレオカメラに変更。フロント左右に77GHzの中距離ミリ波レーダー、リヤの左右に24GHzの近距離ミリ波レーダー、そして後方中央に遠距離タイプの超音波センサーを備えている。

ヴィオニア社製ステレオカメラは従来比で約2倍の視野角を持つが、遠方対物の識別に難があるため、従来同等の遠方の物体に対する検知能力を確保するために、CMOSイメージセンサーの画素数を、これまでの約120万から約230万に増やしている。CMOSイメージセンサーはアメリカのオン・セミコンダクター社だ。

またステレオカメラに内蔵する画像処理半導体は、アメリカのザイリンクス社製のFPGA(Field Programmable Gate Array)タイプのマルチプロセッサシステム・オンチップを採用。ザイリンクス社製のFPGAマルチプロセッサシステム・オンチップは、拡張性が高く今後の性能アップグレードをしやすくなっている。ザイリンクス社製のFPGAチップは、他のセンサーも統合するセンサー・フュージョンがやりやすい、自動車メーカー側の、つまりスバルの独自システム・ソフトを搭載できるなどの特徴がある。

ステレオカメラが広角化したことで、横方向からの自転車、右折時の対向車、右折時の横断歩道を渡る歩行者も検知でき、見通しの効かない交差点などではフロント左右のミリ波レーダーによりクルマも検知できるように進化している。

また「アイサイトX」は、従来の支援システムに加え、3次元高精度マップ、GPSによる測位をへ擁することで高速道路において50km/h以下でハンズフリー運転が可能な先進運転支援システムとなり、最も先進的な運転支援システムの一つとなっている。

「アイサイト」の効果の実証実験

「アイサイト」は、道路上での危険を回避できる安全システムであると同時に、ドライバーの運転負荷を低減する運転支援システムでもある。しかし、実際にどれほどドライバーの運転負荷を減らすことができるかという点をデータ的に把握することは難しい。

このほどスバルは一般のドライバーが「アイサイト」を利用することでどのような変化が生じるかを専門業者に依頼して、モニターに選ばれた一般ドライバー(スバル車オーナー・10名)が東京〜御殿場間の高速道路を往復するというリアルワールドで実証実験を行なった。つまり「アイサイト」がある状態と、機能オフにした状態で運転行動がどのように変化するかが検証された。

使用する車両はアウトバック(アイサイトX搭載モデル)。参加ドライバーはアイトラッキング(視線移動の計測器)、車両のCANデータから得た車両操作、ストレスの度合いを測る唾液アミラーゼの測定と、心拍数のモニターなどだ。

結果的には、「アイサイト」作動時には前走車の注視時間が28.7%〜37.8%低減するなど、運転時の視野が拡大すること、総運転操作の操作数の82.7%が低減すること、ドライバー主観でも心理的ストレスが低減することが検証されたという。

「アイサイトX」では先進アダプティブクルーズコントロール機能、料金所前自動減速を始め、自動運転レベル2+のシステムのため、十分予測できた実験結果となっている。

ただ、ドライバーの負荷が大幅に低減できることはメリットでもあるが、負荷が減った分だけドライバーの視野が拡大し、運転操作も大幅に減少すると、ついには散漫になる可能性も否定できない。自動運転レベル2では、ドライバーは常に交通状態を監視し、いつでも自分で運転操作ができる状態でいる義務があるが、先進クルーズコントロールの作動状態では、ドライバーはあたかも操作なしで走行できると錯覚を生じるケースも排除できないのだ。

こうした例は、アメリカでのテスラのオートパイロット作動状態での事故などから想定することができる。この問題をどのように解決するのか、システムのマン-マシン・インターフェースの構築なども含めても今後の課題となっている。

「アイサイト」は何を目指すのか

スバルは2030年に自車による死亡交通事故ゼロを目指すとしており、これが「アイサイト」の普遍的なターゲットとなっている。

今回、「アイサイト」が登場してからの交通事故低減の結果も発表され、死亡交通事故を大幅に低減していることがわかる。

スバルの調査では日本国内の事故件数調査ではアイサイト(ver.3)搭載車の追突事故発生率は0.06%と非常に低くなっており、アメリカIIHSの調査では、アイサイト搭載で負傷を伴う追突事故が85%低減される効果があるとしており、他社の車両より低減率も高くなっている。

したがって、今後はより多くの危険対象物を確実に検知できる「アイサイト」システムのアップグレードにより確実に2030年交通死亡事故ゼロに近づけるという方針だ。

そのためには、より物体検知能力を高めるために、AI(人工知能)技術を「アイサイト」に導入する研究が進められている。「アイサイト」が持っている画像解析で、新たに画像データをAIで処理することで、より物体検知能力を高めようというのだ。

通常の道路上で遭遇することが想定される物体に関しては「アイサイト」は一定の検知能力を備えているが、道路上では通常は想定できない物体の識別、検知に関してはAIの助けを得るということだ。例えば、道路上の落下物、高速道路で突然現れる人間や動物なども検知、識別も可能になるとしている。

スバルはこのステレオカメラ+AIのシステムを、「SUBARU ASURA net(スバル アシュラ ネット)」と名付けている。

もちろん、ステレオカメラというシステムである限り、例えば市街地走行で大型トラックの直後に位置するクルマは前方の信号機を識別不可能であるが、信号機からの電波を検知できればカメラで検知できなくても信号情報を得ることができる。今後はこうした交通に関するインフラITS情報との連携も必須だ。また道路上の他車と運転情報が共有(V2V通信)できれば、追突事故の防止やよりスムーズなクルーズコントロールが実現し、カメラによる画像認識を大幅に補完することが可能だ。

ただ、スバルはこれに関しては各自動車メーカーや行政との協調領域としているが、今後の必須の課題となっている。

もうひとつは、「アイサイト」という運転支援システムの高度化だ。現時点で「アイサイトX」は高速道路上の渋滞走行ではハンズフリーの走行が可能で、自動運転レベル2+のカテゴリーとなっている。

自動運転当システムは、自動で走行するということが目的ではなく、あくまでも人間の運転より安全で事故を未然に回避できる能力を持つということがポイントになる。

SIP「東京臨海部実証実験」でレベル3自動運転を実施したスバル・プロトタイプの前方センサー。5カメラで180度の視野角とし、中央にLiDARを搭載

既にスバルは2021年春に開催されたのSIP「東京臨海部実証実験」では、自動運転プロトタイプを持ち込み、お台場地区で自動運転を実施している。このプロトタイプでは、試作ステレオカメラによる180度の視野角を実現し、さらにマルチカメラによる周囲の把握、前方LiDARの搭載、さらに交通インフラ情報との連携によりレベル3の自動運転を実現している。

自動運転プロトタイプ車のルーフ上のアンテナ。GPSと交通インフラからの信号用アンテナ

ただ、スバルにはADA時代のトラウマがあり、量産化においては高価なLiDARなどの搭載には否定的なため、自動運転レベル3へのステップは当分はなさそうだ。だが、レベル2の運転支援システムであっても、より高性能、高機能化は不可避であり、今後はLiDARだけではなく、より低コストで物体検知能力の高い4次元レーダーなどの普及も想定され、ステレオカメラを基本としながらもより高性能な他のセンサーとの融合は重要になると考えられる。

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