電気自動車は本当にエコカーなのか?急速に加速する電動化への疑問

雑誌に載らない話vol189
世界の自動車の潮流は、今や完全に電動化に向かっている。アメリカのカリフォルニア大気環境保護局(CARB)が着手したZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制に端を発したCO2排出量ゼロを目指す政策は、アメリカ全土に広がろうとしている。そして排出ガスゼロと認められているのは、電気自動車と燃料電池車だけである。

テスラ モデルS サイドビュー

■電気駆動化の背景

アメリカにおけるZEV規制の本来の目的は、ロサンゼルスなど大都市の大気汚染をなくし、クリーンにすることが目的だったが、ヨーロッパでは地球温暖化対策としてのCO2削減が主要なテーマとなり、企業平均燃費規制や、エンジンの燃費・排ガス規制を進めることでCO2排出量を抑える政策が推進されてきた。

CO2排出を少なくするために、熱効率の高いディーゼルターボが主役となっていたことは周知の事実だが、これがフォルクスワーゲンのディーゼルエンジン制御プログラムの不正発覚を機に大きく潮目が変わった。

日産 リーフ フロントビュー

フォルクスワーゲン・グループは、環境戦略として、ディーゼル、天然ガス/メタンガスなどの代替燃料やハイブリッドシステムなどを前提にした展開を構想していた。電気自動車についてはバッテリー価格が大幅に低減する可能性は低いと考え、開発のウエイトは低かった。しかしディーゼルエンジン制御プログラムの不正問題で、こうした戦略は一変され、グループ全体で電動化、電気自動車化を積極的に推進する方針に変更された。

もちろん、世界のクルマのトレンドを変えたのはフォルクスワーゲンの変身だけではない。アメリカや中国を最大のマーケットとする自動車メーカーはプラグインハイブリッド、電気自動車を開発することが最大の課題になっている。

中国も政府の政策により新エネルギー車、つまり電気自動車、プラグインハイブリッド車を今後のクルマのメインストリームと位置付け、カリフォルニアのZEV規制と同様の政策も採用する見通しで、規制をクリアできないと自動車メーカーは罰金や、他メーカーのCO2ゼロのクレジット購入の義務が生じるからだ。

ディーゼルエンジンが重視されたインドでも大気汚染を抑制するために、電動車を今後の主役にする方針も打ち出された。

このように世界的に見て、いくつもの要因が引き金になりCO2削減、大気汚染の抑制の切り札として、クルマの電気駆動化がこの2年ほどで主流となっているわけだ。

■電気自動車は本当にCO2排出ゼロなのか?

電気自動車は、バッテリーに電気を充電し、その電力でモーターを稼働させて走るために、確かに排気ガスは存在しないので、究極のクリーンなエコカーということができる。電気自動車のエネルギー源である電気は社会インフラから供給されており、そのインフラに目を向けない限りはクリーンなエコカーと言えるが、改めて電気という存在を見つめ直す必要があるのも事実だ。

海外からの化石燃料に対する依存度の年度別グラフ

厳密に言えば、Well to Wheel(化石燃料の採掘からクルマが走行するまでのエネルギー消費やCO2排出量を計算する概念)で内燃エンジン車や電気自動車を比較して、どれが本当にエコでCO2排出量が少ないかを考える必要がある。

内燃エンジン車の場合は、Well to Wheelの計算はしやすいが、電気自動車の場合は、使用する電力はどのように発電されているかによって大きく変化する。つまり再生エネルギーである風力発電によるのか、石炭火力発電によるのかでCO2発生量がまったく違ってくるからだ。

資源エネルギー庁のデータによれば、日本の発電は2010年には化石燃料による火力発電が62%、原子力発電が28%だが、東日本大震災以後の2014年には化石燃料による火力発電が88%となっている。そして火力発電の中で依然としてCO2排出量が多い石炭による火力発電が全発電量の31%を占めているのだ。

2014年度 発電電力量に占める再生可能エネルギー比率の国別グラフ

つまり石炭を使用した火力発電で生まれた電気は決してクリーンではなく大量のCO2を発生させており、その電力を使用する電気自動車はゼロ・エミッションどころか、内燃ガソリンエンジン車よりWell to WheelでのCO2発生量は多いことも想定される。言い換えれば、電気自動車そのものはCO2を排出しないが、発電段階ではかなりの量のCO2を排出しているのが現実だ。

この事情は、日本だけではなく世界各国の発電の原料構成を見ると一目瞭然で、原子力発電に特化したフランスを除いて、石炭火力発電の比率は少なくなく、中国やインドなど新興国はさらに石炭発電の比率が高いのが実情だ。現状で石炭発電の比率が高いドイツは国家政策として風力、太陽光発電にシフトし、その比率を高めつつあるが。

そういう意味で、電気は決してクリーンなエネルギー源ではなく、発電のために排出されるCO2排出量は少なくないということは知ってておく必要がある。

テスラのバッテリー工場 ギガ・ファクトリー 大規模太陽光発電 風力発電
テスラのバッテリー工場「ギガ・ファクトリー」。太陽光発電、風力発電のエネルギーで工場を稼働させる

電気自動車のトップメーカーのひとつであり、イーロン・マスク率いるテスラは、今や時価総額でフォードを上回るレベルで、さすがにこの発電における問題は認識している。そのため、テスラは、子会社である電気エネルギー・プロバイダーのソーラーシステム社、バッテリー製造会社のギガ・ファクトリーなどを展開し、太陽光発電、風力発電に特化し、さらにこうした再生エネルギーで発電された電力を貯蔵する蓄電システム「パワーパッケージ」、再生エネルギー発電された電力を使用し、電気自動車に充電できるスマート・グリッド・ハウスなどの構想を打ち上げるなど、抜群の構想力を見せている。

テスラ ソーラーシステム社が展開する蓄電ユニット パワーパック
テスラ、ソーラーシステム社が展開する蓄電ユニット「パワーパック」

どの国にあっても電気は社会的に重要なインフラであり、その国のエネルギー政策が反映される。その一方で電気も経済原則が貫かれており、よりコストがかかる発電に容易に移行できるものではない。世界各国で根強く石炭火力発電が採用されているのは、コスト的に有利だという点も忘れることはできない。

■電気自動車が普及する時代は来るのか?

電気自動車は今後どれほど普及するのか?
これまでさまざまな予測がされているが、2025年時点で数%と見られていたが、最近の潮流を考えると10%程度になると考えることもできる。

コンチネンタル シェフラー PV/LCV向けエンジン生産量から見る省燃費技術のトレンドグラフ

電気自動車の普及のネックとなっているのは、バッテリーの価格が大幅に下がるとは考えにくく、一方で電気自動車の欠点である航続距離の短さをカバーするためにバッテリーの容量を増大させる必要があり、結果的にローコストのクルマには不向きだという点があるだろう。

電気自動車の航続距離はバッテリーの容量に比例するので、テスラのように100kWhといった大容量にすれば航続距離の問題は簡単に解決できるが、その分価格は跳ね上がるのが現実で、この鶏と卵の関係は容易に解決できそうにもない。

また、航続距離を重視した大容量バッテリーを搭載した電気自動車は、当然ながら充電時間が長くなる。さらに急速充電設備を多数設置すれば、高出力の電力が多用されることになり、電力網への負荷が増大することも考えなければならない。

日本を例に取れば、現在の乗用車の保有台数は6500万台とされているが、将来的に5%が電気自動車になると想定すると電気自動車は325万台となる。現在の急速充電設備のインフラ整備の進み具合を考えると将来の外出先の急速充電は、事実上困難と考えなければならない。急速充電は、1台あたり30分は必要で、多数のクルマが急速充電設備にやってくるとパニック状態になることは簡単に予想できる。現在のガソリンスタンドの数以上の充電インフラが近い将来に整うのだろうか?

テスラ 充電スタンドイメージ

もうひとつの電気自動車の問題は、電費(電力エネルギーのバッテリーの単位容量あたりの走行距離)だ。電気自動車のエネルギー効率そのものは極めて高く、内燃エンジン車をはるかに上回るが、実走行における電費には問題がある。

エアコン、特にヒーターは、内燃エンジン車なら冷却水の温度を利用できるが、電気自動車の場合は駆動用に蓄えられた電力をヒーター用に使用せざるを得ない……など、実走行では電装系の電力が必要となるため、モード電費は優れていても実走行での効率はかなり落ちる。これが計測モード走行での航続距離と、実際に走行できる航続距離の差となるのだ。

内燃エンジン車やハイブリッド車で、モード燃費と実燃費の差があることはよく知られているが、電気自動車のモード電費と実走行の電費の差はそれ以上となることが多い。そのため、リアルワールドでは電気自動車のエネルギー効率が飛び抜けて高いとはいえないことも知っておきたい。

このように、電気自動車が大幅に普及する時代を想定すると、まだまだ課題は多く、バラ色の未来と楽観的に考えるのは時期尚早と言わざるを得ない。

COTY
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