新型ロードスター、ND型の発売は2015年6月と発表されており、4月から予約受注が開始される。まさに新型ロードスター正式デビューのカウントダウンが開始されたのだ。ここにたどり着くまで、ほぼ1年間にわたるかつてないほどの時間をかけて段階的に情報が開示されてきた。そこで、ここではこれまでに明らかになった情報をまとめて、全体像を明確にすることにしよう。
まず時系列で総覧すると、2014年4月20日から開幕したニューヨークショーで「ロードスター(MX-5)」のSKYACTIVシャシーを出展した。展示されたシャシーとはエンジン、トランスミッション、プロペラシャフトとパワープラントフレーム(PPF)、前後のサブフレームとサスペンションだった。
新型ロードスターのエクステリア、インテリアが披露されたのは2014年9月4日に開催された「マツダ・ロードスターTHANKS DAY in JAPAN」だ。この日はアメリカのモントレー、スペインのバルセロナでも新型ロードスターの発表が行なわれ、世界同時のワールドプレミアという形になった。また10月2日から開幕したパリショー、11月開催のロサンゼルスショーでも輸出仕様のMX-5が出展されている。
そして2015年1月の東京オートサロンで、ロードスターの発売は6月頃であることが明らかにされ、その後ロードスターの専用WEBでの先行予約受注の告知が行なわれている。また2015年2月5日にはメディア向けに、主としてメカニカルな部分の画像と日本仕様の主要諸元が追加発表されている。
それともうひとつ、新型ロードスターの骨格をベースにした、アルファロメオのスポーツカーがマツダで生産される提携事業は2014年にキャンセルされ、フィアット・クライスラー・オートモビル(FCA)は改めてフィアット・アバルトのブランドでのFRスポーツカーを計画している。
ND型ロードスターはこのように1年越しで情報が逐次発表されてきたわけだが、現時点で明らかになった事実を積み重ねて、新型ロードスターの実像に迫ることにしよう。
■コンセプト
ロードスターは初代から、走りを楽しめること、乗る人だけでなく見る人の気持ちまで明るくオープンにしてくれる、かけがえのないパートナーとしてのクルマという位置付けで、それは4代目となった今回も不変である。ポジショニングとしては、マツダのDNAを体現したライトウェイト・スポーツカーである。
そして4代目はライトウェイト・スポーツカーの原点に立ち戻り、同時に誰が運転してもクルマとの一体感を感じながら、さまざまな道でワクワクできる走りの楽しさを実現することだという。そして原点に戻るための革新、つまりSKYACTIV技術と魂動デザインが投入されているわけだ。
さらに感性工学の考え方をさらに掘り下げ、ドライバーがクルマを楽しむ感覚を徹底追求してライトウェイトスポーツカーとしての理想的な構造を追求し、歴代ロードスターの中でも最もコンパクトなボディサイズで、車両重量は1000kgを実現している。
■デザイン
ロードスターにも魂動デザインが採用されている。ダイナミックな表現である魂動デザインの精神を受け継ぐより進化したデザインだが、これまでの魂動デザインのシンボル的なアイコンは使用されていない。担当デザイナーによれば、スポーツカーに特化した魂動のデザイン表現だという。従来以上にボリューム感を感じさせる曲面を多用し、筋肉質なダイナミズムではなくセクシーな官能性を表している。
デザインとしては、乗る人の姿が引き立つ美しいプロポーション、敏捷さを表現する「魂動」デザインのさらなる進化、静と動の日本の感性を表情豊かに造形したボディ曲面、クルマの内と外の境界を感じさせないインテリアデザイン、左右対称で軸が通りタイトで運転に集中できるコクピットなどを追求しているという。
デザインは、初代ロードスターは正統派ともいえるブリティッシュ・ライトウェイト・スポーツカーをイメージしていたが、4代目はイタリアン・テイストで、アメリカの販売会社でもこれまでになくスムーズに承認されたという。ただし、エンジンはより大きな排気量が要望されたという。
■パッケージング
新型ロードスターの走りのイメージは、日常の走りでは自分の体の一部のようにクルマを自分の意思で動かしている感覚。ワインディングでは運転操作にクルマが忠実に応答することによる軽快感を高めることに絞られた。つまり走りはきびきびとした俊敏な反応を求めるのではなく、リニアリティを重視しているのだ。
このような走りを実現するため、1g単位で部品の重量を見直すグラム作戦の遂行によりNC型に比べ100kg以上の大幅な軽量化を行ない、エンジンはフロントミッドシップレイアウトにより前後50:50の重量配分を実現している。またエンジンをこれまでよりセンターに、かつ低くレイアウトし、アルミ材の使用を拡大し、ソフトトップの軽量化などを実施し、さらなるヨー慣性モーメントの低減と、重心高の低減を実現している。
またドライバーがまっすぐな姿勢で操作できる理想的な位置にペダル類/操作系/視認系機器を配置したドライビングポジションとし、ボンネット高さの低減やAピラーの後方化/薄型化などもパッケージングの特徴となっている。
メイン・コンポーネンツのレイアウトではエンジンは従来より後方にマウントされ、より本格的なフロントミッドシップとなった。トランスミッションはエクステンションハウジングを使用することでさらに後方に移動され、完全に車室内に位置している。このエンジン、トランスミッションのレイアウトに加え、Aピラー位置を後退させることで、コンパクトなボディサイズながらデザイン的にロングノーズに見えるようになっている。
またシート位置は従来より大幅に後方に移動され、リヤ・アクスルの直前に配置されている。つまり重心位置より後方にシートがあることになる。また、ヒップポイントも一段と低くされ、よりスポーツカーライクなドライビングポジションとなっている。
■エンジン&トランスミッション
新型ロードスター用に搭載されるのは1.5LのP5-VPS型、つまりSKYACTIV-G 1.5が日本、ヨーロッパ仕様として採用されている。このエンジンはこれまでは横置き用だが、縦置き用とし、さらにロードスターにふさわしい特性にするために専用チューニングされている。
パワーは131ps/7000rpm、最大トルク150Nm/4800rpmと、これまでのアクセラ用より31psアップされている。ロングタイプの4-2-1排気マニホールドを採用するなど、FF車では不可能なトルク重視のレイアウトを採用し、最高出力回転数もアクセラより1000rpm高められ、スポーツカー用のスペックとなっている。したがってミラーサイクル運転は行なわないと推測できる。
結果的に、4代目ロードスターは最も小さい排気量のエンジンを搭載したわけだが、1.6Lエンジンを搭載した初代ロードスターより出力、トルクともに上回っている。
なお大排気量エンジンの要望が強いアメリカ市場向けは2.0LのPE-VPS型、SKYACTIV-G 2.0が搭載され、パワーは167ps、最大トルクは190Nmとなっている。この仕様は、2016年から開始される世界規模のワンメイクレース「グローバルMX-5カップカー」にも使用される。
トランスミッションは従来型と同様に6速MT、6速ATが設定される。基本ユニットは従来のユニットを継承しているものの、シフトフィーリングなどは大幅に改良されている。またトランスミッション後端部とリヤのデフを結合するパワープラントフレーム(PPF)も従来通り採用している。
■ボディ&シャシー
プラットフォームの基本要素は従来型を踏襲しているが、大幅な改良を加え、車室中央を縦通するハイマウントバックボーンフレームの形状をさらにストレート化、大断面化することにより、軽量化と高剛性を両立。ボディフレームの一部をシャシーのフレームとして活用し、さらにそれらの骨格をトラス形状で結合することにより、軽量で高剛性な構造としている。アッパーボディでは、Aピラーの基部とフロントサイドフレーム、カウルトップ部を高剛性結合することで、ボディフロント部のねじり剛性を大幅に向上させている。
ボディの外板パーツでは、従来のアルミ製ボンネットやトランクリッドに加え、フロントフェンダー、ソフトトップのリンクやヘッダーパネルをアルミ化。また前後のバンパーレインフォースもアルミ製とすることでさらにヨー慣性モーメントの低減に取り組んでいる。
サスペンションはフロントがインホイール型ダブルウィッシュボーン、リヤはマルチリンクと従来通りで、これまでのフロントアッパーアーム、ロアアーム、パワープラントフレーム、リヤハブキャリアに加え、フロントナックルもアルミ化している。これらにより、ばね下重量の低減を行なっているのだ。
ステアリングはマツダ初のデュアル・ピニオン式の電動パワーステアリングを採用し、操舵フィーリングの向上を図っている。
■装備
ロードスターならではの装備、ソフトトップはより軽量化され、ドライバーは着座姿勢のままで片手で開閉できるようになっている。これはシート位置が後退したことも大きく貢献している。
また時代に適合させるために、ついにロードスターもレーダー、カメラを装備したドライバー支援のための先進安全技術「i-ACTIVSENSE」を設定している。また新世代のヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)をベースとしてスマートフォンなど連携し、インターネット接続やコミュニケーションの機能を手軽に安全に利用できるコネクティビティシステム「マツダ コネクト」も設定している。