2016年1月末にマツダが主催する試乗会が鹿児島であった。試乗車は2015-2016日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したロードスターを中心に、多くのマツダ車が準備されていた。Webや自動車雑誌などに掲載される試乗レポートなど、取材はどうやって行なわれ、どんなことをやっているのか? やはありギョーカイ人にしかわからないだろう。そこで、今回はこの鹿児島試乗会で、いったいどんなことをやっているのか? 読者のみなさんにお教えしちゃいます。
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自動車雑誌やカーWebに掲載されている新型車の試乗レポートは、自動車メーカーが主催する媒体・ジャーナリスト向け試乗会で取材したものが多い。あるいは、広報車と呼ばれる試乗車輌を借用して取材するという、概ね2パターンがある。メーカーは自分たちが造ったクルマをアピールしてもらいたいという本音と評価を聞きたいという狙いがあり、反対に雑誌、Web側は新型車をいち早く目にすることができ、試乗もできるので記事が作れる、という双方にメリットがあるわけだ。
では早速、鹿児島試乗会についてお話ししましょう。
空路鹿児島空港に集まったのは自動車専門媒体のスタッフとジャーナリスト。何社集まったのか正確には数えなかったけど延べ30社ぐらいはいただろう。顔見知りの編集者やライターさんたちも多く、和気あいあいムード。だが、今回の試乗会では、前々日、鹿児島に雪が降ったため、メインの試乗コースの「指宿スカイライン」もクローズ!という緊急事態だった。
幸い山の上は走れないけど市街地は問題なくドライ路面だったので、試乗会は開催する運びとなったのだ。そう言えば、試乗会前日に広報部から電話があり「指宿スカイラインが走れなくて、それで、もしかしたらロードスターにチェーン巻くかもしれませんが、試乗会に参加してもらえますか?」と。
「もちろん、参加しますよ。ロードスターはどこを走っても楽しいから、特にワインディング走らなくてもいいです。喜んで参加します」と広報が喜びそうなことを計算もなく言ってたことを覚えている。
鹿児島の空港では、客待ちしているタクシーを見ればリヤだけスタッドレスを履く南国仕様。中にはスパイク履いてるタクシーもいて、近くにいた若い女性広報に「スパイク履いているよ、よく取っておいたなぁ。何十年振りかの雪なんだろうね」と言えば「スパイクタイヤってなんですか?」だと。「マジ?」と思ったら、他の編集者たちも「しらなぁ〜い」という声。
「確かにね。スパイク禁止令はもうずいぶんと昔で、彼女が生まれる前のシロモノかもしれんし」と自分の年齢を思わぬところで顧みることになった。
スタートは空港近くの駐車場から各媒体ごとにロードスターが貸し出され、指宿を目指す。思い思いのルートでスタートし、18:00までにゴールしろよというシンプルな指示。タカハシはラジオ番組の制作スタッフとDJ、ともに女性と3人なので、彼女たちがロードスターに乗り、タカハシは年次改良後のデミオがあったのでそちらに一人で試乗した。
「あれ〜あきらさんロードスター乗らないの?」と昨日の電話で話した広報の女性。
「デミオの年次改良に乗りたくて。来週の説明会に参加できないから」と言えば、
「そういえば、まだ誰も乗ってませんね。世界で最初に年次改良後のデミオに乗るジャーナリストですよ」と言われ、ますます、「ロードスターよりデミオだろ〜」と新しもの好きが頭をもたげる。
「もしもし、ロードスターの試乗会なんぢゃない?」というツッコミはたくさんありました。「ロードスターはどこ走っても楽しいから」とか言ってたのはだれ? というツッコミも広報の女性が言われました。でも「最初に乗る」、「限定の」、「誰よりも先に」などの修飾語に弱いタカハシはデミオを選んでしまいました。
◆一路温泉宿へ
道中は取り立てて事件もなく、インプレッション取材や撮影を済ませ、つまり仕事ね、無事、指宿に到着。名物の砂風呂も体験しすっかり温泉宿を堪能。
その後は夕食ですが、そこがポイントで、メーカーの開発スタッフが同席の食事会。多少のお酒も入るので本音、あるいは本当のことなど口を滑らせることも多く、なかなか面白いことになるパターンが多い。
もちろんお相手は開発している専門家たちだから、まるで素人のような話を聞くことはできないし、ある程度の基礎知識と常識、情報を持っている必要がある。そうでなければ会話は盛り上がらない。メーカー側も自社のことはわかるが他社のことは知らないというのが一般的。だからこうした機会で得た情報はジャーナリスト、専門媒体にとって貴重な財産になっているわけだ。
今宵はロードスターのチーフ・デザイナー山中雅さんと同席となった。デザイン論を語り、そして「クルマのデザインは再現できる生産技術がなければカッコいいクルマにならない」と振れば、「わかってらっしゃる。そこに尽きるんですよ」と、山中さんも嬉しそう。「6ライトの難しさやホットスタンプの成型は難しいですよね」と追い打ちを掛ければ「お主やるな」とニンマリ。
こうした具体的な苦労話やエピソードの他にもマツダが今、注目されている理由のひとつに、一体感が会社全体にあることではないかと思うエピソードがあった。
それはパワートレーン設計の若い女性エンジニアに話を振った時に「エンジニアの開発したいという欲求とお客様の欲しいと思うクルマのベクトルが一致しなければダメなんです」という、まるで経営者のような回答。今、マツダの社員は自分の担当以外の分野も見えていて、一つの目標に向かってばく進してるように映る。
さらにこの食事の席で感じたのは、マツダはユーザーも含め自動車に対する興味の持ち方や知識欲をあおる企画を常に考えてアウトプットしているように思った。
「クルマで人生が幸せになる!」とはロードスター開発主査の山本修弘さんの言葉。というとピンと来ない人もいるだろうが、タカハシは非常に納得できるし共感できる。新車や欲しかったクルマを手にしたときの幸福感、充実感を何度か味わっている人も多いだろう。メンタルやソフトまでもスカイアクティブ・テクノロジーの術中なのかもしれないが、そうした印象が持てることも、こうした試乗会はチャンスであり、貴重な情報収集と経験をさせてもらうことになっているのだ。
残念ながら読者が参加できるものではないが、メーカーはユーザーのために別な形で接点を持つ機会を作っている。ぜひ、知識欲掲げクルマで幸せになろう!
さて、いかがでしたか? どんな取材をしているのか、少しお分かりいただけましたか? 今回は宿泊しての取材会でしたが、一般的には日帰りで箱根周辺での試乗会が多い。一日に数社、数人の人間が参加し実際に試乗して撮影して・・・という流れだ。
そして試乗後に開発者と懇談する時間があり、様々な話が飛び出してくる、というのがこうした取材会なのである。ただし、試乗車の台数には限りがあるわけで試乗会に参加するにはある程度はふるいに掛けられているわけで、だれでも参加できるものではない。
メーカー側が選んだ媒体、人でなければ参加することはできないし、さらに、編集部内でも新人が新型車を担当することは難しい。やはりどの編集部もそれなりのベテランが担当している場合が多いのだ。それはさっきも書いたが、ある程度の専門知識と常識、それと正しい評価ができることが最低条件であり、新人にはハードルが高すぎると言うわけだ。
でもひとたび、この世界に足を踏み入れることができれば、楽しい仕事であることは間違いない。興味のある方は編集部に連絡してみてはどうだろうか。チャンスがあるかも知れませんよ。