エンジンからボディ、シャシーまですべてがゼロから開発されたマツダの新世代商品、その第1弾が2012年6月に発売されたCX-5、第2弾のアテンザは2012年11月に発売されたが、2014年11月に2車の大幅改良が発表され、2015年1月7日から発売が開始された。
CX-5、アテンザともに一般的には少しタイミングが早めのマイナーチェンジということになるが、マツダはこれはマイナーチェンジではないという。マツダの新ブランド戦略により、時期を見て技術やデザインをアップデートし商品力を高く保つことでブランドメッセージを発信し続ける、という狙いだという。ということは不定期だが年次改良と同様のコンセプトで、今回は大幅な改良、といった位置付けになると言ってよいだろう。
もちろん、そのためにマツダ車全体で共通化させたコモンアーキテクチャー、フレキシブル生産体制が採用され、こうしたバックボーンがあってこそ不定期で、改良を加えることができるわけだ。
今回の改良のポイントはCX-5、アテンザともに乗り心地や質感を改善したことと、ドライバー支援システム「i-ACTIVSENSE」を一気に充実させたことだ。具体的には、従来の機能に加え、日本の自動車メーカーとして初となるLEDアレイ方式グレアフリー(防眩)ハイビームの採用、自車の後方、側方から接近する車両も検知する「ブラインドスポット・モニタリング(BSM)」、後退時に接近する車両を検知して警告する「リヤ・クロストラフィック・アラート(RCTA)」機能も加えている。
またマツダ初採用の車線を認識し自動操舵機能を持つ高速走行用の「レーンキープ・アシスト・システム(LAS)」、高速走行時のドライバーの運転状態をチェックし、適度な休憩を促す「ドライバー・アテンション・アラート(DAA)」、後退時の誤発進抑制機能、後退時の衝突回避機能が追加されている。
そして「アダプティブLEDヘッドライト(ALH)」、「ブラインドスポット・モニタリング(BSM)」、「レーンキープ・アシストシステム(LAS)」を標準装備した新グレード「PROACTIVE」を全グレードに約プラス10万円で新設定している。つまり、現時点で存在する全ての種類のドライバー支援システムを選択できるようになったのである。
デザイン的にはCX-5、アテンザともに、魂動デザインをブラッシュアップし、細部に手を加えることで、車格にふさわしい質感を付加している。特にアテンザはフラッグシップらしさを加えている。
◆インプレチェック
ではまずCX-5からレポートしよう。CX-5はフロントグリルやバンパーの形状が変更され、インテリアはリヤシートクッションの座面長が伸ばされている。CX-5に関しては、従来モデルはリヤシートの乗り心地、快適性に弱みを持っていたが、その対策の一環としてリヤシートの改良を図ったわけだ。
しかし、それより大きいのは前後のサスペンションの、特にダンパーやブッシュを改良し、大幅にロードホールディング、乗り心地が改善していることだ。ダンパーのフリクションが小さくなり、小さな路面の凹凸に対してもタイヤの動きがスムーズになっているのだ。もちろん室内騒音のレベルも改善されているが、とりわけ静粛性が際立つとまではいかない。
アテンザは、さらに大掛かりな改良を加えている。エクステリアデザインの洗練だけではなく、なんとインスツルメントパネル、シフトセレクターも含むセンターコンソール、シートも一新されているのだ。エクステリアではフロントグリルのフィンが水平基調になり、さらにL Packageはグリル下辺部から左右の上方に跳ね上がる形状のシグネチャーウイングがLED発光するようになっている。同様にリヤランプもLED化された。
インテリアの大変更は、各パーツのつながりや統一感を重視し、質感を大幅に向上させている。これまでは、ややプラスチック感があったインスツルメントパネルなどもC、Dセグメントにふさわしい質感レベルに高められているのだ。
シートは黒の本革内装、黒のファブリック内装に加え、新たに白の本革内装をピュアホワイトに変更。そして、本革内装仕様はカラーコーディネーションも変更され、これも質感を高める要因の一つとなっている。また全車が電動パーキングブレーキを標準装備したこともあり、センターコンソールも改良されている。そういう意味で、クラスにふさわしい仕上げになったと実感できる。
シャシーもグレードアップを図っている。特にアテンザのダンパーはフリクションの低減だけではなく、新たに非線形特性のダンパーを使用し、小舵角の操舵ではリニアに反応し、また、大きめの路面の凹凸ではマイルドに衝撃を吸収するようにしている。そのため、高速道路での路面の継ぎ目などの入力が穏やかになり、乗り心地の向上、タイヤの接地感の向上を実感することができた。
CX-5、アテンザともに電動パワーステアリングの操舵フィーリングも、従来型に比べ大幅に向上しより滑らかになっている。マツダが掲げる人馬一体により近づいたと言えるだろう。ただしこのように全体のレベルがアップしてくると、今度はステアリング系全体の剛性感が気になり始める。ステアリングコラムやシャフトなども含めたどっしりとした剛性感、安心感が欲しくなってしまう。
CX-5、アテンザともに走行中の振動・騒音も従来より低減されているということだが、首都高速のような路面の舗装が変化する場所では、ザラついた舗装でロードノイズが急に大きくなるなど、舗装路面での感受性ももう少し低く押さえ込みたいと感じた。もちろん平滑な路面では問題ないレベルにあるため、CX-5、アテンザともにC、Dセグメントとして、どういう着地点を目指すのかという目標設定の志、気概が課題になるだろうと思った。
今回の改良に合わせアテンザ・ディーゼルには4WDモデルが新設定された。CX-5の4WDともに、走行状況に合わせて前後駆動トルク配分を最適配分するオンデマンド4WDシステムだが、今回の試乗ではそれを試す機会はなかったので、それはまた別の機会に触れることにしよう。
また日本車では初となるアダプティブLEDヘッドライト(ALH)は昼間の試乗のため、試すことはできなかった。これはハイビームにLED灯を採用し、1灯当たり4セグメントのLEDをカメラで認識した状況、つまり対向車や前走車、街路灯などに合わせで個別に制御することで、対向車や前走車にはビームを減光し、それ以外の場所はハイビーム光を照射できるようになっているというものだ。
LEDユニットはスタンレー電気製、制御はマツダが担当して実現した。輸入車ではLEDマトリックス式、フル・アダプティブ・ハイビームは存在するが、マツダのものは日本の道路事情に合わせて開発されているため、より活用範囲が広いのがメリットとなっている。
<レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>