マニアック評価vol585
現行のCX-5は2017年2月から発売されているが、早くもエンジンを改良したタイプを発表してきた。Skyactiv-Gのガソリン2.0L、2.5L、およびSkyactiv-Dのディーゼル2.2Lの3つ、すべてのエンジンを改良しSkyacitve Generation1.5という位置づけで一部改良を行なった。他にも安全装備の充実や、ユーザー要望の多い装備類の見直しも同時に行なわれている。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
発表からわずか1年ちょっとでの改良モデルになるが、エンジンの改良などでは通常マイナーチェンジ、つまり3年から4年経過したあたりで変更されるのが一般的だ。だが、マツダはそのタイミングが早い。裏を返せば開発速度が速いという見方ができるのだが、その理由としては開発ツールにMBD(モデルベース開発)を駆使していることが挙げられる。
MBDを駆使した開発は、マツダは他の国産メーカーより一歩リードしており、そのため、開発速度が飛躍的にスピードアップし、正確性も増しているのだ。そのため、車両は常に最新に更新され続けるという認識がいいかもしれない。ちなみに、今回の商品改良では、見た目の変更は一切なく、外観からは区別することはできない。
さて、今回はそのエンジン改良されたモデルの試乗ができたのでレポートするが、そのレポートの前にどんな改良だったのかを先にお伝えしよう。
■気筒休止エンジンとは
まず、ディーゼルエンジンではCX-8に搭載しているエンジンをCX-5にも搭載した。このエンジンはもともとのSkyactiv-Dを改良し、排気量の変更はなく、燃焼と過給を進化させたエンジンだ。というのは、インジェクターなどを進化させ、急速多段燃焼コンセプトで造られたエンジンなのだ。このエンジンをCX-5にも搭載したというのが今回のポイントで、出力も170ps/420Nmから190ps/450Nmへとアップしている。こちらのエンジン詳細はCX-8発売の時に説明しているので、こちらを参考にしてほしい。
※参考:マツダCX-8 マツダのフラッグシップ新型CX-8は7人乗りのクロスオーバーSUVでデビュー
もうひとつの注目はガソリンエンジンだ。2.0Lと2.5Lの2機種あるが、なかでも2.5Lには気筒休止機能を盛り込んだ最新版にアップデートされている。CX-5では7割以上がディーゼルを選択しているというが、このアップデートで、Skyactiv-Gの魅力が増したと言えるだろう。
早速詳細に見てみると、気筒休止のポイントとなる技術として、従来どおり、カムシャフトは吸排気ともに、連続可変タイミングとなっているが、吸気側が電動で、排気側が油圧で制御されている。そのカムシャフトに新規のスイッチャブル油圧ラッシュアジャスター(LHA)を搭載して気筒休止をしている。
これはカムがラッシュアジャスターを叩いたときに、上下に動いてバルブを動かすが、気筒休止のタイミングでラッシュアジャスターの動きをロックピンで固定し、バルブは吸排気ともに閉じた状態にするという仕組みになっている。
また、2.0Lガソリンと共通の改良になるが、新型ピストンの採用がある。それに伴い水流制御バルブや可変容量オイルポンプで燃焼室壁温制御や噴射制御をしている。インジェクターも変更され、20Mpaから30Mpaへと噴射圧が上がり、こうしてインジェクターは高圧噴霧タイプへと変更され、高分散する新噴口を持つインジェクターになっている。それにより、多段燃焼をさせ、より高効率な燃焼へとなっているわけだ。
ピストンはエッジをカットしたタイプのデザインで、ピストントップの淵がカットしてある。これはスキッシュエリアを広げるためで、圧縮時のスキッシュエリアでの燃焼を緩慢燃焼とすることで、ノッキングが起きないような工夫だ。もちろん、燃焼そのものはタンブル流による高速燃焼であり、バルブの傘部分やエキゾーストポートにも新たな加工を加えたシリンダーヘッドに変わっている。
気筒休止では、2番、3番を稼働させ、1番、4番を休止させている。直列4気筒エンジンの気筒休止ではフォルクスワーゲンがすでに採用しているが、休止する気筒が正反対で、VWは2番と3番を休止させている。
この気筒休止技術の狙いはドライバビリティよりは、省燃費に役立つ技術だ。従って、給油する際にその恩恵を感じるだろう。ちなみに、国内仕様のレギュラーガソリンでは5%の燃費改善がみられ、ハイオクであれば9%の改善がある。さらに欧州仕様のオクタン価になると12%の燃費改善ができるという。これは耐ノック性が上がるためで、より高い効果が期待できるわけだ。
さて、気筒休止に投入されたもうひとつの技術的ポイントは、4気筒から2気筒へ切り替わるときの制御だ。ドライバーにその切替を感じさせるレベルではなく、いつ気筒休止したのか分からない、というところをゴールとして開発されている。
そのためには先ほどのスイッチャブル油圧ラッシュアジャスターの制御がポイントだったという。ちなみにVWの気筒休止方法はカムがスライドしてバルブ駆動しない仕組みで、マツダはVWをベンチマークとしながらも、そのやり方は採用しなかった。その理由としては物理的にカムがぶつかる音と、応答性の問題という2つの問題点があるとしてスライド式は採用しなかったということだ。
応答性に関し、VWはできるだけ2気筒で走行するような制御としているが、マツダは要求トルクが2気筒で賄えないときは即座に4気筒で出力することを目指しており、いわばエンジン設計ポリシーの違いがそこにはあるからなのだ。
しかしながら、油圧ラッシュアジャスターを採用したことで、エンジン冷間時と十分暖気できている状態の作動誤差が起きてはならず、正確な作動には苦労することになる。低温でも高温でも、どの状態でも正確に作動する必要があり、そのあたりの解決が成功のポイントだったと説明があった。
そして気筒休止している間、バルブは閉じた状態としポンプロスが発生しないようにもしている。吸排気ともに閉じた状態なので、単に空気が圧縮されているだけにしているのだ。また、4気筒、2気筒の切り替えでは、振動も問題になるが、トルクコンバーター内に振り子ダンパーを採用することで打ち消している。イメージとしてはイナーシャを打ち消すデュアルマスホイールやダイナミックダンパーと同様の発想のパーツだ。
■試乗レポート
さて、試乗フィールだが、気筒休止する2.5LのSkyactiv-Gエンジンは、従来タイプとの乗り比べを行なっても、気筒休止していることを感じる場面が全くない。試乗車にはテスト車両ということで気筒休止状況がわかるようにモニターで確認できるのだが、運転していてはまったく気づくことはない。まさに、開発の狙いどおりの仕上がりと言える。
では、気筒休止はどんな時に気筒休止するのかというと、要求トルクが一定になったときだ。つまり巡航状態や、アクセルの開け方をやさしく踏んでいる時に2気筒走行する。理屈としては4気筒のとき250Nmで走行するが2気筒になると125Nmになる。125Nmで間に合うようなトルク要求の踏み方であれば2気筒で走行するというわけだ。だから高速などでアクセルを抜いたとしても気筒休止はしない。あくまでも要求トルクによって決まるのだ。このあたりがMBDでなければ開発が難しい領域だ。
そして2気筒、4気筒の切り替わりの時の音だが、耳を澄まして、言われれば・・・というレベルであり、一般的に気づくとは到底思えないレベルだった。
CX-5は7対3くらいの比率でディーゼルが人気だという。しかし、今回の改良によるガソリンエンジンは、やはり滑らかさではガソリンのほうが上であり、実用燃費も向上している。ディーゼルが得意とするのは高速巡航や、一回の走行距離が多いといった場合にメリットがたくさん出てくる。反面、近所の買い物や送り迎えの短時間、短距離の使用範囲だと、かえって燃費も悪くなり、ディーゼルの優位性を存分に発揮できない。
そうした後者のような使い方をする人には、ガソリンを勧める。もちろんチョイ乗りだけでなく、CX-5は高速も得意とするわけで、今回の2時間程度の試乗でも、高速、市街地を走って13.9km/Lという数値であり、ほぼカタログデータに近い数値を記録していたのだ。
一方、CX-8に搭載していたディーゼルをCX-5に搭載したモデルでは、当然CX-8よりも車重が軽いCX-5のほうがより力強さを感じる。しかし、このディーゼルの最大の魅力はディーゼルとは思えないほどの静かさと滑らかさを持っていることだと思う。CX-5が持つ高級でしっとりとした乗り味を損なうことのない滑らかで静かなディーゼルでもある。
アイドリング時では現行型と、この新型では明らかに異なり、ガラガラ音がさらに小さくなくっている。また回転上がりのフィーリングも滑らかさが増し、気持ちよくエンジンの回転が上がっていくのだ。クルマの大きさがひと回り小さく、より軽快に感じるようになった印象だった。
結局、どちらも滑らかで静か、力強さもあるということになるが、自身の使い方を振り返り、使い方に合ったエンジンを選択すればいい。ディーゼルもガソリンも、どちらも魅力的であるのは間違いない。今回の気筒休止エンジンは、モード燃費よりも実用燃費において、はっきりと効果が出る改良だ。こうしたユーザーの実用域においての改良の考え方は、今のマツダらしい取り組みと言えるだろう。また、これだけの改良した新部品をエンジンに投入しながらも、車両価格は変更されていないことも評価したい。ガソリンはディーゼルよりも35万円ほど安い設定なので、一考の価値ありだ。