マツダのコンパクトクロスオーバーSUV「CX-3」が大幅商品改良をした。今度のCX-3における商品改良は、エンジン、サスペンション等ダイナミック性能の他、デザイン、安全装備とほぼ全領域にわたる改良で、マイナーチェンジでは取り入れないような新しい改良が加えられている。その詳細をお伝えしよう。なお、発売は5月31日から。
マツダはフルモデルチェンジする前の改良モデルを、マイナーチェンジや年次改良といった手法を取らないで、搭載できる技術ができた時点で、すぐに商品に反映するという方法を取っている。そのため、前回のCX-3の一部改良から1年を待たずに、そして発売から3年3か月で4回目となる商品改良を行なっている。
これはユーザーから賛否があるもののマツダとしては、その時点で最新・最高の技術を全ての商品に惜しみなく取り入れていく、という姿勢であり、ポルシェがいう「最新のポルシェが最良のポルシェ」だという考え方と共通の発想だと思えばわかりやすい。
そして、マツダの開発哲学の根底には、「次の時代のスタンダードを創造する」というテーマがあり、世の中のスタンダードとなるような製品とは何か?を踏まえながらユーザーへの提供価値を上げていくという考えがある。したがって今回のCX-3の商品改良にもそうしたテーマが裏側にはある。
分かりやすいところでは、最近耳にする「マツダプレミアム」という言葉だ。意味することはプレミアムモデル=高級車だ。マツダプレミアムは、単に高級車にしたい、ということではなく、ユーザーがそうした開発哲学も理解し、提供される価値観の共有ができることを、マツダプレミアムと表現していて、それはお金では買えないユーザーとの絆はプレミアムな価値があり、それがマツダの商品であるといういるわけだ。
したがって、今回のCX-3で言えば、パーソナルユースに優れたボディサイズに、スタンダードとしての静的・動的質感、安全性能、環境性能の全てを最新化した改良ということで、クルマはあくまでも量産、大衆という枠組みの中で、他車にはない価値観を持ったプレミアムな車両を提供するということになる。
さて、具体的に何がどのように改良されたのか、さっそくお伝えしよう。CX-3はBセグメントサイズに分類されるスモールコンパクトカーで全長4275mm、全幅1755mm、全高1550mm、ホイルベース2570mmというボディサイズ。立体駐車場にも入るアーバンスタイルなクロスオーバーSUVだ。
大幅改良のポイントは4つ。
1:操安性、乗り心地、静粛性の進化
2:Skyactiv ガソリン、ディーゼルエンジンの進化
3:デザインの進化
4:安全性能の進化
ということになる。
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■ダイナミック性能の進化とは
この領域のキーとなるポイントは、安心して意のままにクルマを操る楽しさであり、その対極にあるのが「乗り心地」「操縦安定性」ということになる。
乗り心地と操安性の両方に影響するパーツの改良が大幅に導入された、というのがポイントで、それらのパーツの改良により滑らかで連続的な動きの実現ができるというわけだ。
まずはダンパーの改良だ。サイズを大径化し、剛性をアップ。応答性の改善とトップマウントの減衰成分の改善ということを行ない滑らかにストロークさせることをした。ダンパーピストンスピードの低速時のフリクション感や突っ張っり感をなくし、高速時の減衰性の高さを狙ったダンパーに変更されている。
具体的なサイズは、フロントダンパーの外径が45mmから51mmへ、ピストンサイズもそれに伴い30mmから32mmにアップ。リヤダンパーの外径も38mmから45mm、ピストンは25mmから30mmへとそれぞれ大径化されている。またコイルスプリングのバネレートを下げてソフトにし、スタビライザーの小径化も行なっている。そしてサスペンションマウントは高い入力、微小な入力時でもダンパー本来の減衰性を損なわないような工夫を凝らし、特に100Hzから0.01mmの減衰以前の微小な振動を吸収するような工夫を凝らしている。
そして、ダンパー本体の改良ポイントとなるのは、減衰力を高めるとダンパー内の液圧(油圧)が上がって応答性が悪くなることが多い。いわゆる固いという状況だ。そこで、応答性を気にしてソフトにすると入力の大きい時の減衰力が不足し、コーナリングや姿勢変化などに影響するという相反する性能であり、そこを高次元でバランスさせるポイントを設定したというのがポイントになる。
また、マツダ独自に開発したGVC=G-ベクタリングコントールと電動パワーステアリングのEPS制御の刷新も同時に行なっている。より、GVCにより疲れない、まっすぐ走る、そしてステア操作が意のままになるという次元を引き上げる制御変更だ。
もっとも注目したいのが、専用タイヤの開発だ。欧州プレミアムモデルであれば当然のように存在する「専用タイヤ」だが、国産車で専用タイヤとしているのは聞かない。タイヤのサイドウォールに「M」マークや「VOL」マーク「☆」などのマークが刻まれ、専用であることを表示しているタイヤだ。
その専用タイヤをCX-3用にTOYOのプロクセスで製造している。そのタイヤには残念ながら「マツダマーク」は入らないが、特徴としてはタイヤトレッドとサイドウォールの見直しを行ない、サイドを柔らかくして路面からの入力を吸収し、サスペンションが滑らかに動くようにするというコンセプトのタイヤだ。
これにより乗り心地や操安性、燃費、ブレーキ性能、ロードノイズのブレークスルーをしたとし、マツダ独自の新開発タイヤという位置づけとしている。こうした専用タイヤへの変更はマイナーチェンジでもやらない、フルモデルチェンジの時に採用するレベルの変更だろうが、今回の一部改良で採用してきたのだ。こちらは試乗した際にレポートをしたい。
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■NVHの改善
本物志向のユーザーに相応しい上質さ、気品をプラスし、他のコンパクトカーとは一線を画する上質な室内空間を目指している。そこにはデザイン要素以外に、音や乗り心地も大きく影響していることは言うまでもない。
操安からのNVHでは、路面のざらつきをハンドルで感じる現象や、シート上で上下にゆすられる現象などを検証し、改善する工夫を行なっている。ハンドルで感じるざらつき感はおもに25~200Hzの範囲で感じ、ハンドル本体からビリビリと感じるものを減少させることで、動的質感の向上につながるとしている。数値としては18%低減できたとしている。
またシートではCX-8で採用した高減衰ウレタンへ素材変更を行ない、振幅の収まり方が速く収まるシートとしている。シートで感じる振動は3~7Hzという低周波は内蔵で感じる揺れで、胃がゆすられるなどと表現される領域の振動を低減したとしている。数値としては現行CX-3 に対して16%の低減としている。
そしてマツダらしいと感じる部分として、操舵と応答性の改善を今回のCX-3でも見直ししている。ハンドルを切ったときに外輪に荷重を乗せてから応答を発生させるというこだわりであり、ドライバーはクルマが自然に動くとか、期待値どおりの反応、などといった言葉で表現される領域だ。こちらも試乗した際にレポートする予定だ。
そして、耳で感じる音のチューニングも力を入れている。こうしたことで高級感や安心感などを高めているわけで、車内での自然な会話が楽しめる空間を提供するとしている。
そのために、発生する音を抑え、車室内に音を入れない、入った音を下げる必要がある。具体的には、内装材の吸音力を高め、音の反射の残響感をなくしている。音の入らない対策としてはリヤドアガラスの板厚を3.5mmから4.0mmにアップし、ドアパネル自体の板厚も0.05mmとわずかだがアップさせている。ちなみに、プレス用金型の修正も行なうこだわりがあり、デザインに強いこだわりのあるマツダらしいこだわりの部分だ。
そして音の侵入、吸音性能を高める部分として天井材のヘッドライナーを現行の6mmから8mmへと変更し、13%改善できたとしている。
こうしたNVHへの改良はタイヤの改良から始まり、ダンパー、スプリング、シートへとつながり、ステア応答、ロール、ヨーモーメント、そして音の改善を行なっているのが新型CX-3ということになる。
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■デザイン変更
今回の大幅改良ではエクステリアデザインにも一部変更が行なわれいてる。これまで過去3回改良モデルを投入しているが、デザイン変更は今回が初めてになる。また、デザインという言葉の領域も広くクルマをつくる上では、商品企画段階でのデザイン、その商品企画を実現するために技術と併せて取り込む製品デザインという領域があり、最後にトリムなどの意匠デザインとあるわけだが、当然、今回のデザイン変更は、意匠デザイン、つまりフィニッシュワークの範囲でのデザイン変更ということになる。
エクステリアでは、ラジエターグリルを変更し、シグネチャーウイングを一層際立たせるデザインへと変更。そしてこれまで塗装だったサイドガーニッシュをクロームとし、フロントバンパーまで延長した。さらに18インチアルミホイールのデザイン、リヤランプの変更もしている。ホイールデザインでは削り出し感を印象づけるために切削面を広げたデザインとし、また色と素材変更ではフォグランプベゼルをクロームから黒にして要素整理の意味を持たせている。印象が大きく変わるポイントとして、A、B、Cの各ピラーガーニッシュをつや消しの黒から光沢のあるタイプに変更している。
インテリアでは、フロントコンソールの変更が目を惹く。従来サイドブレーキがレバー式のため、その設置範囲が大きかったが、電動化したためにスイッチの設定だけになり、コンソールを大型化することができている。そしてユーザーから要望の大きかったアームレストの設置も可能となり、ひとクラス上の立派さのあるコンソールに変更されている。
シートは前述のように素材変更による機能向上があり、ドア内貼りの素材をシートと調和するように変更されている。そしてこのクラスでは珍しいリヤシートアームレストも新装備とし、全体に、高級、上質を狙ったインテリアとしている。
■スカイアクティブGとDの大幅変更
CX-3には2.0Lの自然吸気ガソリンエンジンと1.5L+ターボのディーゼルエンジンの2機種がラインアップしているが、どちらにも大幅改良が加えられている。改良の狙いは、実用領域での実用燃費改善。カタログ燃費ではなく、実用領域での省燃費をアピールしている。もちろん、意のままの走りに応えるというのは言うまでもないが、このBサイズセグメントの世界の常識は1.0Lから1.5Lのガソリンというのが多く、ディーゼルはほぼない。そんな中、常識破りの排気量アップで、その大幅改良の意味するものは実用燃費と環境性能の向上というわけだ。
さて、ガソリンエンジンでは実用燃費を上げることと環境性能の向上を狙う改良として、2.0L自然吸気に変更はないが、水流制御=サーマルマネージメントを採用している。こちらはディーゼルではすでに採用済みの技術だが、ガソリンにも適用した。それはエンジン始動時の冷間時に排出されるNOxの数値を削減するために、シリンダー内の早期暖気、短距離移動時(エンジンが十分温まるまえに止まる)など、主に冬場に効果的なものだ。
また、燃焼にも改善があった。燃料噴射用インジェクターの噴射圧を20Mpaから30Mpaへアップしている。噴射圧を上げると短い距離での噴射でも十分な燃焼が可能となり、シリンダー壁面まで到達する前に燃焼するため、壁面に無駄な燃料の付着を防ぎ、効率が高まるというわけだ。
パーツの変更としては、ピストンスカートの面形状の最適化、ピストンリング形状の最適化によるフリクションを低減し、ピストントップの形状変更と、先の噴射圧変更、多段噴射により、燃焼効率を上げている。また、吸気ポート形状をより精密に作りこむことで、一層の高タンブル流をつくりノッキング予防と高速燃焼を促進している。こうした改良により、微粒子物質の大幅削減、省燃費、高効率化をしている。
これらの改良の背景には欧州での排出ガス規制強化が影響している。これまでディーゼル車のPM、NOxがクローズアップされてきたが、ガソリン車の排出するPM(微粒子物質)規制への対策ということだ。したがって、高速領域での大幅な改良が見られ、PN(パティキュレートナンバー)を8割改善し、規制に適合するエンジンということだ。
スカイアクティブディーゼルでは排気量変更が行なわれた。従来の1.5Lから1.8Lへと排気量があがり、マツダではライトサイジング=適正な排気量、という考えでアップしたと説明している。これは全領域での空気容量を確保することで、EGRが可能になり、排ガスのクリーン化に結び付くことになるからだ。また、高負荷時にもEGRを採用することができ、全域でのトルクアップにもつなげている。
ディーゼルエンジンの基本的な開発思想は急速多段燃焼だ。そうすることで、高効率な燃焼となり、燃費、排ガスに好影響となるからだ。その急速多段燃焼のために超高応答マルチホールピエゾインジェクターを採用し、4段階の噴射をタイミング、噴射量を精緻にコントロールすることが可能となり、燃焼期間の短縮、ノック音の低減を実現している。
排ガスのクリーン性能を高めるというのが狙いであるが、一般的には後処理で対応している。つまり、NOxフィルター、あるいは尿素SCRという高額なパーツへコストをかけること、重量を増やすことで対応するのではなく、あくまでも燃焼そのものを改善することで、排ガスのクリーン性能を高めようというのが基本概念でもある。
そのための急速多段燃焼コンセプトだが、もう少し詳しく見ると、パイロット/プレ噴射で予混合させ、メイン噴射でクリーンな燃焼をさせ、アフター噴射で燃え残りを燃焼させる従来に対し、新しい燃焼コンセプトとしていることに注目だ。それが急速多段燃焼なのだが、最大6回の多段を近接噴射によって、上死点付近で連続した燃焼を発生させて燃焼期間を短縮。また綿密な噴射制御で、燃焼初期の熱発生を緩やかにしてノック音を低減するという方法だ。この燃焼期間とノック音の相反関係は高圧、微細噴霧、多段、などの技が入っているということになる。
こうした急速多段燃焼のために、ピストンでは2.2Lディーゼルで採用したエッグシェイプ型ピストンを採用している。こちらは断面形状が卵型の燃焼室形状のために、名付けられたもので、噴射された燃料が燃焼室壁面に付着しないように、くぼみ形状を持たせ混合気と壁面との間に空気の層をつくることで熱エネルギーロスを最小化している。
そして超高応答のマルチピエゾインジェクターは、10個の噴口を持ち、メイン噴射を多段化することができるようになった。また圧力センサーを内蔵させることで、より精度の高い噴射が可能となり燃焼効率の向上になるわけだ。特にアフター噴射をメイン噴射に近づけることができるようになり、燃焼期間の短縮ということが可能になったのだ。
排気量の増大に伴い、過給器も変更されている。タービンサイズもアップされ、排気可変ノズル機構を備えた可変ジオメトリーのシングルターボで、低回転から高回転まで幅広い領域で高効率な過給を発揮する。また、排気量アップに伴うタービンの大型化などから重量増もイメージできるが、コンロッド、ピストン、クランクシャフトなどのパーツも含め軽量化を徹底し、300gの軽量化をしエンジン重量は1.5Lと同等となっているということだ。
そしてDPFの再生機能も向上している。PMを燃やし溜めるという機能があるが、一回クリアしてから煤がいっぱいになるまでの距離が1.5倍に伸びたという。燃焼を改善したことで、煤の量が減り、こうしたことで煤の燃焼で使う燃料の削減にもつながり、実用燃費に貢献したというわけだ。
こうしたスカイアクティブガソリン、ディーゼルともに改良され、ガソリンは躍動、軽快という特徴を際立たせ、ディーゼルでは力強さが際立つキャラクターの違いもはっきりしてきた。そしていずれもカタログ燃費ではなく、実用燃費が改善されているといのが、ポイントとなる改良だ。
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■先進安全技術
マツダの先進安全技術では、「i-ACTIVSENSE」の機能充実を図っている。特に、夜間における歩行者検知機能をマツダ車としては初となるアドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポートを採用した。また、0km/hから追従が可能なレーダー・クルーズ・コントロール、そして360度ビューモニターを設置し、i-ACTIVSENSEを充実させている。