2018年5月24日、マツダは2012年11月の発売以来、最大となる大幅な商品改良を加えた「アテンザ・セダン/ワゴン」を発表し、6月21日から発売する。
マツダのフラッグシップとなる3代目のアテンザ・セダン/ワゴンは2012年にデビューし、2014年にインテリアを大幅に改良したほか、逐次商品改良を加えてきた。デビューからの年数を考えるとフルモデルチェンジも想定されて当然だが、今回は大幅に質感を向上させるなど、通常のマイナーチェンジの枠を超える改良を行なうことで、次世代のクルマとしてラインアップされる、より強固な商品競争力を備え、ブランド価値を高めるラージ商品群の基盤技術を熟成させるという手法を選択した。
■コンセプトとデザイン、質感とクラフトマンシップ
今回の大幅改良のコンセプトは、熟成されたエレガントさの追求、「エフォートレス・ドライビング」(余裕を持てるリニアでストレスのない滑らかな走り)とされている。
エクステリアのデザインでは、前後のバンパー、グリルとセダンはトランクリッドの見直しを行なっている。サイドビューでは、デビュー時からの前傾したフォルムから、水平基調の伸びやかで安定したフォルムに移行している。ヘッドライトもより薄くワイドな形状に。ちなみにアダプティブLEDヘッドライトは従来のLED発光部4セグメントから20セグメントに進化し、より精緻な光束制御が実現している。
インテリアは、2014年の商品改良の時点で質感を高め、インスツルメントパネルとセンターコンソールの一体感を作り出したが、その時点では実現できなかったインスツルメントパネルがドアに回り込み、より幅広感のあるデザインを今回で達成した。
さらに、質感の大幅な向上を目指している。特に上級のLパッケージではインスツルメントパネルやドアトリムに東レが開発したウルトラスエード・ヌー(商品名)を採用。この素材は皮革の光沢感とスエードの触感を兼備し、さらに汚れに強いハイブリッド人工皮革で、樹脂骨格に巻き付け加工をして実現。シックな質感を生み出している。
またシートも新設計され、Lパッケージはナッパレザー表皮に。加飾パネルは、樹脂ではなく、本杢(本物の木から切り出した木目)を採用するなど、プレミアム・クラスというレベルの仕上げを実現している。
こうした、プレミアム・クラスのクルマに匹敵する質感を重視した仕上げは、実験部のクラフトマンシップ開発グループが推進しており、内装の仕上げ、内装材のつながりや一体感、触感の統一性、エクステリアのパネル部とライト類のつなぎ目の仕上げなど、ディテールにこだわった、これまでにないレベルを追求している。
こうした五感で感じる不快要素を抑制し、統一感のある上質な質感の追求は徹底しており、センターコンソール部もつなぎ目をなくし、一体感のある伸びやかなデザイン、見栄えを実現している。
こうした取り組みや知見は、次世代の、よりプレミアムなラージ商品群を開発するための出発点になることはいうまでもない。
■エンジン
エンジンのラインアップはガソリンが2.0L、2.5L、2.2Lディーゼルで、従来と変更はない。2.5Lガソリン・エンジンには気筒休止システムを採用し、出力は190ps/252Nmと、従来の2.5Lエンジンよりわずかに向上している。
2.2LディーゼルもCX-5から新採用された最新スペックに進化した。このディーゼルは従来のソレノイド式インジェクターから、より高精度な制御ができるが高価なピエゾ式インジェクターを新採用。さらに圧縮比も14.0から14.4に高めている。これらを生かして本格的な多段噴射、急速燃焼を実現、その結果、パワーは175psから190psに、トルクは420Nmから450Nmへと向上し、さらにドライバビリティも向上している。
こうしたガソリン、ディーゼル・エンジンの進化は実走行での燃費低減を見据えた改良となっている。
■走りの質感の向上
新型アテンザが目指した走りは、ドライバーだけではなく同乗者も含めた安心で快適な走りである。開発のテーマは、これまでの人馬一体を進化させ、滑らかで気持ちよい応答性と滑らかで減衰感のある快適な乗り心地だという。言いかえれば、リニアでコントロールしやすく、フラットで快適な乗り心地を目指しており、デビュー時の操縦安定性、ハンドリング性能の重視から、マツダのフラッグシップに相応しい全方位でバランスの取れた走りにフォーカスしているのだ。
そのために、シャシーはもちろん、ボディ骨格にも手を入れる大幅な改良が行なわれている。サスペンションは、ジオメトリーの変更からダンパーのサイズアップ、リヤ・ダンパートップマウントの構造変更、、前後のバンプストッパーの改良、スタビライザー・ブッシュのスタビライザーとの接着による一体化、ステアリング・ラックギヤのサブフレームへの直付け化、などを実施。これに加えてタイヤも専用タイヤを採用し、サイドウォール部の柔軟性を高めている。
サスペンションはバネ上(車体側)に伝わるピーク値を抑えるという従来の手法から、車体に伝わる力を遅れなく、よりリニアに減衰コントロールするという方向に発想を転換。そのため、サスペンションをしっかり、滑らかにストロークさせ、微低速域からしっかりと減衰力を発生できるようにしている。
まず舗装路面のザラつきなどで発生するごく微小な振動はタイヤ構造やリヤのウレタン入り(従来は硬質ゴム)のアッパーマウントで吸収し、それより大きな入力はダンパーの減衰特性を微低速域でリニアに立ち上がるように改良。
そして特にフロントはダンパーの筒径を1ランク大径化し、横剛性を向上させている。さらにサスペンションのジオメトリーはよりリニアにストロークできるように改良。またスタビライザーの取り付けはスタビライザー本体とブッシュの摩擦を低減することで、スタビライザーの効きを高めている。
こうしたサスペンション系の改良に合わせ、ボディ側もサスペンション取り付け部の剛性向上、ボディそのもののねじり剛性が大幅に高められている。
また乗員が体感する走行中の車体側の上下振動、ピッチングを抑え、コーナリング時はステアリングの切り始めから滑らかに応答し、穏やかでリニアなステアリング反力を生み出すようにして、余裕のあるストレスのない走りを実現しているという。
もうひつボディ側での大きな改良のテーマは、車内の静粛性を格段に向上させることだった。特に高速走行時と、荒れた舗装路面での急激な騒音の立ち上がりを抑制することだった。従来のボディを継続使用しながら、こうした静粛性を追求することは技術的にかなり難易度が高かったという。
しかし、基本としては音源を小さくする、振動の伝達部で低減する、車室内に入る振動・騒音を抑制するという全方位での対策が採用された。まずボディ骨格では、フロア面のパネル厚さは1.7倍に、リヤのホイールハウス部とその周囲は従来の2倍のパネル厚さに増大している。またボディの各部にある穴を低減、径の縮小を行ない、さらに室内側には吸音材を大量に追加している。
フロア部は大型の一体式フロアマットを採用し、ルーフ内張りはフェルト入りの材質に変更するなども行ない、結果的に従来型より大幅な静粛性向上を実現。従来は滑らかな舗装路では静粛さがあっても、ざらついた路面に変わるとロードノイズが急激に立ちがる傾向があったが、新型は舗装路面の状態が変化した時でも音圧変化が穏やかで、違和感のないキャビンとしている。ただし、ボディパネルの厚板化や吸遮音材の追加で、車両重量は約60kg増大している。
このようにアテンザは大幅な改良を実施しているが、その出発点となっているのはDセグメントの競合車の大幅なレベルアップに対する危機感の現れであり、同時に次世代のよりプレミアム性を高めたニューモデル群のための技術的な基盤つくりと考えてよいだろう。